ピンちゃん〈3〉 黄色い声援の主

横を、次々に後続のランナーが追い抜いて
行く。「ガンバって!」と黄色い声が飛んで
くる。声の主は、ピンちゃんだった。
連載 ピンちゃん 第3章

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ここまでのあらすじ 中学3年の2学期、ボクは瀬戸内海に面した工業都市のその中学校に転校した。その中学校の校庭に忘れ去られたような平均台が1基、据えてあった。ある日の放課後、ボクは、その平均台で舞うひとりの女子生徒を目にした。「ピンちゃん」と呼ばれる同じクラスの女子。その姿に恋をしたボクだったが、彼女には親衛隊がついていた。ピンちゃんと親しく口をきく転校生のボクは、その標的になっていた。そんな中、クラス対抗のリレーが行われ、なぜか、転校生のボクがメンバーに選ばれた。それは、転校生に恥をかかせてやれ、というクラスの連中の意地悪でもあった――
もう、逃げられない。
バトンを握り締めると、1コーナーを目指して全力で駆け出した。
いつもより、足は前へ出ているような気がした。
そのまま1コーナーを回り、2コーナーを回って、バックストレートに入るところまでは、何とか1位をキープしていた。
いけるかもしれない……。
そう思ったとき、後ろから聞こえる足音が大きくなった。
いかん。後ろが近づいてきとる……。
3コーナーにさしかかる頃には、目の端に、並びかけようとする後続ランナーの姿が飛び込んできた。続いて、そいつが口から吐き出す「ハッ、ハッ」という息の音が聞こえるようになった。
そのときだった。
だれかが走路に身を乗り出し、手を口に当てて叫ぶ姿が見えた。
「秋吉ク~ン。ガンバって! あと少し、ガンバれ~!」
声の主がわかった。ピンちゃんだった。
クソーッ、抜かせてたまるか!
体を前に倒し、懸命に手を振り、全部の血を足に集めて最後の力を振り絞った。
しかし、3コーナーに入ったとたん、後ろから近づいてきた影はボクの真横に並び、そして、その体は、あっという間にボクの前に出た。
赤い鉢巻。A組だった。
なんとか離されまいと、その姿を追っているときに、もうひとつの影が横に並びかけてきた。
今度は、紫の鉢巻。F組だった。
紫は、ボクを追い抜くと、その前の赤鉢巻も追い抜いて先頭に立った。
競り合う赤と紫は、どんどんボクから遠ざかっていく。
アンカーにバトンを渡すときには、E組は1、2位に5メートルほど差をつけられた3位に落ちていた。
バトンを握り締めると、1コーナーを目指して全力で駆け出した。
いつもより、足は前へ出ているような気がした。
そのまま1コーナーを回り、2コーナーを回って、バックストレートに入るところまでは、何とか1位をキープしていた。
いけるかもしれない……。
そう思ったとき、後ろから聞こえる足音が大きくなった。
いかん。後ろが近づいてきとる……。
3コーナーにさしかかる頃には、目の端に、並びかけようとする後続ランナーの姿が飛び込んできた。続いて、そいつが口から吐き出す「ハッ、ハッ」という息の音が聞こえるようになった。
そのときだった。
だれかが走路に身を乗り出し、手を口に当てて叫ぶ姿が見えた。
「秋吉ク~ン。ガンバって! あと少し、ガンバれ~!」
声の主がわかった。ピンちゃんだった。
クソーッ、抜かせてたまるか!
体を前に倒し、懸命に手を振り、全部の血を足に集めて最後の力を振り絞った。
しかし、3コーナーに入ったとたん、後ろから近づいてきた影はボクの真横に並び、そして、その体は、あっという間にボクの前に出た。
赤い鉢巻。A組だった。
なんとか離されまいと、その姿を追っているときに、もうひとつの影が横に並びかけてきた。
今度は、紫の鉢巻。F組だった。
紫は、ボクを追い抜くと、その前の赤鉢巻も追い抜いて先頭に立った。
競り合う赤と紫は、どんどんボクから遠ざかっていく。
アンカーにバトンを渡すときには、E組は1、2位に5メートルほど差をつけられた3位に落ちていた。

みじめな気持ちで閉会式を迎えた。
コンちゃんも、ガックリ肩を落としていた。
ボクから3位で受け継いだバトンを、コンちゃんはさらにひとつ落としてしまった。
暗い顔を寄せ合っているボクたちに「お疲れさん」と声をかけてきたのは、ピンちゃんと幸恵だった。
「3コーナーで応援しよったんよ。わかった?」
「ウン、わかった。ゴメンね、ガンバれんで」
「ああ、そんなん、気にせんでええが。それよか、秋吉クン、おかしかった」
「エッ!? 何が……?」
「真っ赤な顔して走りよったよ」
「そうそう。ほんと、真っ赤な顔しとった」
横から幸恵にも言われて、ボクは、「ホント?」という顔でコンちゃんを見た。
コンちゃんも、「そう言えば、ゆでダコが走りよるんか思うた」と、笑った。
走ると顔が赤くなるんだ――ということを、ボクはそのとき、初めて知った。
ピンちゃんは、その日、体にピチッと張り付くショートパンツ型の体操着を着用していた。
他の女の子たちは、ほとんどが、ブルーマー姿だったが、ピンちゃんのように体育系の部活をしている女子の中には、短パン姿の女子もいた。
ピンちゃんの短パンは、特に丈が短く、腰に向けて切れ込んだ形だったので、その裾からは、お尻の肉がはみ出して見えた。
それを目にしたとき、ボクはちょっとドキッ……となったが、それを悟られたくないので、すぐに目を逸らした。
しかし、ピンちゃんの短パン姿は、教室でピンちゃんの姿を見るたびに、ボクの脳の中によみがえって、その姿を想像するたびに、ボクの体は少し熱くなった。

秋の陽が校舎をセピア色に染める頃になると、学校は各種の文化行事に忙しくなった。
ボクは、担任の教師に呼び出されて、市内の弁論大会に出てみないか――と、打診を受けた。
前の学校でのボクの活動歴を見た教師が、「弁論大会3位入賞」の記録に目を留め、「やってみいや」と言い出したのだった。
「弁論」は、あんまり好きな種目(?)ではなかったが、「この学校、これまでそういうので活躍するやつがおらんかったんじゃ。やってくれんか」と、半分は命令するような口調で言われて、引き受けることになった。
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