ピンちゃん〈2〉 彼女の親衛隊

しかし、彼女には親衛隊がついていた。
彼女と親しく口をきく転校生のボクは、
彼らの攻撃の標的にされて――。
連載 ピンちゃん 第2章

ここまでのあらすじ 中学3年の2学期、ボクは瀬戸内海に面した工業都市のその中学校に転校した。その中学校の校庭に忘れ去られたような平均台が1基、据えてあった。ある日の放課後、ボクは、その平均台で舞うひとりの女子生徒を目にした。「ピンちゃん」と呼ばれる同じクラスの女子。ボクは、その姿に恋をした――
ピンちゃんは、クラスの中では人気者だった。
人気者だからと言って、男子が気安く声をかけるような存在ではなかった。
いいな……と思いながらも、遠巻きに見ているしかない、そんな存在だった。
社宅街の一等地に住み、だれよりもうまくピアノを弾く。それだけで、ピンちゃんは手を出しがたい存在になっていたらしいのだが、理由はそれだけではなかった。
ピンちゃんには、親衛隊らしき存在がついていた。
といっても、本人はまったく、そのことに気づいてない――という種類の親衛隊だ。しかし、だれかが知らずにピンちゃんに近づいたりすると、この親衛隊が動き出す。
「おまえ、真鍋に気軽に声かけたりすなや」と脅しをかけ、ときには鉄拳をふるったりもする。事情を知っている男子は、自分からピンちゃんに近づこうとはしなかったが、転校生であるボクは、そんなことはまったく知らなかった。
その親衛隊の親玉が、隣のクラスの長尾というやつだった。
体はさして大きくはなかったが、目つきが鋭く、いかにもケンカ早そうな……という感じの男だった。
「秋吉クン、長尾がキミのこと、目つけとるらしいで、気ぃつけたほうがええよ」
そう教えてくれたのは、コンちゃんだった。
「なんで?」
「ピンちゃんと親しげに話したりしとったやろ。あいつ、ピンちゃんに近づく男がおると、すぐキレるらしいんよ」
「フーン、やきもちか。別に、ピンちゃんのカレ氏とかやないんやろ?」
「違うと思う。勝手にそう思い込んどるだけやないんかな。しゃあけど、気ぃつけんと。あいつ、手が早いけんの」
コンちゃんの忠告は、一応、頭の中に入れておくことにした。
頭の中に入れはしたが、それでピンちゃんを腫れ物のように扱う、ということはしなかった。
顔を合わせれば、「おはよう」「さよなら」とふつうにあいさつを交わし、用があれば、ふつうに言葉をかけた。
そんなボクの態度を、コンちゃんたちはヒヤヒヤしながら見ていたに違いない。
人気者だからと言って、男子が気安く声をかけるような存在ではなかった。
いいな……と思いながらも、遠巻きに見ているしかない、そんな存在だった。
社宅街の一等地に住み、だれよりもうまくピアノを弾く。それだけで、ピンちゃんは手を出しがたい存在になっていたらしいのだが、理由はそれだけではなかった。
ピンちゃんには、親衛隊らしき存在がついていた。
といっても、本人はまったく、そのことに気づいてない――という種類の親衛隊だ。しかし、だれかが知らずにピンちゃんに近づいたりすると、この親衛隊が動き出す。
「おまえ、真鍋に気軽に声かけたりすなや」と脅しをかけ、ときには鉄拳をふるったりもする。事情を知っている男子は、自分からピンちゃんに近づこうとはしなかったが、転校生であるボクは、そんなことはまったく知らなかった。
その親衛隊の親玉が、隣のクラスの長尾というやつだった。
体はさして大きくはなかったが、目つきが鋭く、いかにもケンカ早そうな……という感じの男だった。
「秋吉クン、長尾がキミのこと、目つけとるらしいで、気ぃつけたほうがええよ」
そう教えてくれたのは、コンちゃんだった。
「なんで?」
「ピンちゃんと親しげに話したりしとったやろ。あいつ、ピンちゃんに近づく男がおると、すぐキレるらしいんよ」
「フーン、やきもちか。別に、ピンちゃんのカレ氏とかやないんやろ?」
「違うと思う。勝手にそう思い込んどるだけやないんかな。しゃあけど、気ぃつけんと。あいつ、手が早いけんの」
コンちゃんの忠告は、一応、頭の中に入れておくことにした。
頭の中に入れはしたが、それでピンちゃんを腫れ物のように扱う、ということはしなかった。
顔を合わせれば、「おはよう」「さよなら」とふつうにあいさつを交わし、用があれば、ふつうに言葉をかけた。
そんなボクの態度を、コンちゃんたちはヒヤヒヤしながら見ていたに違いない。

転校して1ヶ月が経って、運動会の準備が始まった。
運動会の目玉は、クラス対抗のリレーだった。
リレーのメンバーは、クラス全員の互選で選ばれる。
そこに、なぜだか、ボクの名前が挙がった。
「いや、ボクは、走るのなんか苦手やし……」
懸命に辞退したのだが、「いいから走れや」と何人かが声を挙げて、結局、走らされることになった。グラウンド一周、約250メートル。それも、第4走者。アンカーにバトンを渡す、重要な役目だった。
「足、速いの?」
帰りに、ピンちゃんが声をかけてきた。
「いや、足は遅いんや」
「みんな、秋吉クンに恥かかせよう思うてるんと違う。こないだのテスト、学年で2番とったでしょ? 秋吉クン、転校生やのに目だっとぉけん、運動会で恥かかせたれと思う人がおるんよ。見返してやり」
「そうはゆうてもさ……」
「私、応援しとるけん」
ピンちゃんに「応援しとる」と言われて、何かが体の奥から湧き上がってきた。
「いやだなぁ」ではなく、「いっちょ、やってやるか」という気も湧いてきた。
それから運動会までの1週間、ボクは毎夜、ひとりで学校の敷地にもぐり込んで、だれれもいないグラウンドを走った。
そして、運動会当日がやってきた。

リレー順には、明らかな作為が感じられた。
第1走者から第3走者まで、ズラッと足の速いメンバーを並べ、アンカーにはコンちゃん。コンちゃんは、決して鈍足ではなかったが、ズバ抜けて速いというわけでもない。
つまり、こういうことだ。第3走者まででリードを作ってボクにバトンを渡し、後続のランナーに抜かせて笑い者にする気なんだ。
思ったとおり、リレーは、まず第1走者でE組がトップに立った。第2走者は、そのリードをさらに広げ、第3走者が4コーナーを回る頃には、2位以下を7~8メートルは引き離して、ブッチギリのトップに立っていた。
リレーゾーンで待っている間じゅう、ボクの心臓は、バクバクと音を立てていた。
第3走者がバトンを振り振り、近づいてくる。
心臓の鼓動が耳の奥にまで響き始め、周りの音は何も聞こえなくなった。
ボクは、左足を一歩、踏み出し、右足を踏み出し、バトンを受ける手を後方に伸ばして、リレーゾーンを駆け出した。その手に、バトンが触れた。
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