愛に陰謀あり? 仕組まれたガス欠

恋愛では、ときに策略がモノを言うこともあります。
中には「陰謀」と思われるような策略も登場します。
その男、Yが彼女を手に入れるために用いたのも、
陰謀。筆者が経験した実話です――。
あれはまだ、携帯電話なんてものがこの世に登場していなかった時代。
したがって、電話一本でJAFがスッ飛んできてくれるなんてことも、まったく期待できない時代の話なので、この話は、いまの時代の恋人たちには、役に立たないかもしれません。
しかし、見事にこの作戦に利用されてしまった私としては、いまだに腹立たしく、忘れることのできない出来事なので、あえてみなさんの前に公表する次第です。
ハイ。これは、筆者・長住自身の苦い、苦い、実体験です。
F女のマドンナを巡る、ふたりの男
それは、御殿場のさる合宿施設で行われた、合同合宿での話。関東地区のいくつかの大学が集まって、某研究サークルの合同合宿が行われた夜のことでした。
参加大学の中には、お嬢様が集まることで有名な、横浜のF女子短大も含まれていて、実は、その短大の研究会にいるIという女子に、私は以前から心を奪われていました。
もうひとり、彼女に目をつけた男がいました。山梨から来ていたY大学のTです。
Tは、積極的な男です。早速にもIの自宅の電話を聞き出し、「合宿の件で詰めておきたいことがあるから」とかなんとか理屈をつけて、何度か、クルマを飛ばして横浜まで出てくるようになりました。
私の大学はF女と同じ横浜のY大学で、私は、関東地区連合会の委員長でしたから、Tが横浜を訪ねてくるのには、表向き、正当性があったわけです。しかし、Tは、そのたびに、「F女の意向も聞いておきたい」と、Iも呼び出すのです。そして、帰りは決まって「クルマで送るよ」と言い出します。意図はミエミエ。しかし、Iは、そんなTの申し出を、いつも、「ちょっと友だちと会うので」などと断っていました。
私は、内心「ざまぁみろ」と思っていました。しかし、IをめぐるY&Y対決は、その頃から火花を散らし始めていたのです。
さて、いよいよ始まった春の合同合宿。総勢70~80名に及ぶ参加者の中で、私とTは、あるテーマをめぐってカンカンガクガクの論争を繰り広げていました。
2派に分かれて、連日、繰り広げられる熱い論争。さすがに3日目ぐらいになると、みんなクタクタになってきました。
その3日目の夜。合宿は翌日の昼で解散、という最後の夜です。
夜更けまでの議論に疲れて、私が食堂でお茶を飲んでいると、そこへIがやって来ました。
「委員長、3日間、お疲れ様でした。よかったら、これ、食べてください」
テーブルの上にパラパラと広げてくれたのは、たぶん、彼女が合宿でのおやつにと持ってきたのであろうフィナンシェでした。
「ありがとう。甘いものが欲しかったんだ」
私とIは、フィナンシェを食べながら、しばしのコーヒー・タイム。3日間の議論の感想などを語り合っていました。
と、そこへ、Tが現れたのです。手には、なにやらキラキラ光るものをぶら下げて……。
「気分転換にさぁ、3人でちょっと抜けて、ドライブでもしない? もう、なんか、息が詰まりそうなんだ。あと2~3時間で、朝焼けに輝く富士山が見られるよ」
缶詰状態で議論、議論……の繰り返しだった私たちには、ちょっと魅力的な提案でした。Iも、「3人で」の言葉に安心したのでしょう。「いいわね、息抜きしましょうよ」と、私に同意を求める視線を送ってきます。
「よし、行こうか」
3人でTのクルマに乗り込んだのですが、後部座席の半分には荷物が積んであって2人並んで乗るのはムリ。結局、私が後部座席、Iが助手席、という配置になりました。
クルマは漆黒の山道を、いくつもの峠を越えて走り、やがて夜の闇の中に富士山のシルエットが浮かび上がるところまでやって来ました。と、そのときです。
したがって、電話一本でJAFがスッ飛んできてくれるなんてことも、まったく期待できない時代の話なので、この話は、いまの時代の恋人たちには、役に立たないかもしれません。
しかし、見事にこの作戦に利用されてしまった私としては、いまだに腹立たしく、忘れることのできない出来事なので、あえてみなさんの前に公表する次第です。
ハイ。これは、筆者・長住自身の苦い、苦い、実体験です。

それは、御殿場のさる合宿施設で行われた、合同合宿での話。関東地区のいくつかの大学が集まって、某研究サークルの合同合宿が行われた夜のことでした。
参加大学の中には、お嬢様が集まることで有名な、横浜のF女子短大も含まれていて、実は、その短大の研究会にいるIという女子に、私は以前から心を奪われていました。
もうひとり、彼女に目をつけた男がいました。山梨から来ていたY大学のTです。
Tは、積極的な男です。早速にもIの自宅の電話を聞き出し、「合宿の件で詰めておきたいことがあるから」とかなんとか理屈をつけて、何度か、クルマを飛ばして横浜まで出てくるようになりました。
私の大学はF女と同じ横浜のY大学で、私は、関東地区連合会の委員長でしたから、Tが横浜を訪ねてくるのには、表向き、正当性があったわけです。しかし、Tは、そのたびに、「F女の意向も聞いておきたい」と、Iも呼び出すのです。そして、帰りは決まって「クルマで送るよ」と言い出します。意図はミエミエ。しかし、Iは、そんなTの申し出を、いつも、「ちょっと友だちと会うので」などと断っていました。
私は、内心「ざまぁみろ」と思っていました。しかし、IをめぐるY&Y対決は、その頃から火花を散らし始めていたのです。
さて、いよいよ始まった春の合同合宿。総勢70~80名に及ぶ参加者の中で、私とTは、あるテーマをめぐってカンカンガクガクの論争を繰り広げていました。
2派に分かれて、連日、繰り広げられる熱い論争。さすがに3日目ぐらいになると、みんなクタクタになってきました。
その3日目の夜。合宿は翌日の昼で解散、という最後の夜です。
夜更けまでの議論に疲れて、私が食堂でお茶を飲んでいると、そこへIがやって来ました。
「委員長、3日間、お疲れ様でした。よかったら、これ、食べてください」
テーブルの上にパラパラと広げてくれたのは、たぶん、彼女が合宿でのおやつにと持ってきたのであろうフィナンシェでした。
「ありがとう。甘いものが欲しかったんだ」
私とIは、フィナンシェを食べながら、しばしのコーヒー・タイム。3日間の議論の感想などを語り合っていました。
と、そこへ、Tが現れたのです。手には、なにやらキラキラ光るものをぶら下げて……。
「気分転換にさぁ、3人でちょっと抜けて、ドライブでもしない? もう、なんか、息が詰まりそうなんだ。あと2~3時間で、朝焼けに輝く富士山が見られるよ」
缶詰状態で議論、議論……の繰り返しだった私たちには、ちょっと魅力的な提案でした。Iも、「3人で」の言葉に安心したのでしょう。「いいわね、息抜きしましょうよ」と、私に同意を求める視線を送ってきます。
「よし、行こうか」
3人でTのクルマに乗り込んだのですが、後部座席の半分には荷物が積んであって2人並んで乗るのはムリ。結局、私が後部座席、Iが助手席、という配置になりました。
クルマは漆黒の山道を、いくつもの峠を越えて走り、やがて夜の闇の中に富士山のシルエットが浮かび上がるところまでやって来ました。と、そのときです。

「あれっ……!?」
Tが、ヘンな声を挙げました。
クルマは急激にスピードを落とし始め、やがて、路肩に停止してしまいました。
「まいったなぁ……」
「どうしたの?」
「ゴメン。ガス欠だ」
「エーッ!?」
Iが不安そうな声を挙げます。私も「オイオイ」と困った声。
「ダイジョーブ。そのうち、クルマが走って来るだろうから、ガソリン分けてもらうよ。ちょっとの間、ガマンしててくれる?」
しかし、ダイジョーブじゃありませんでした。10分、20分、30分待っても、クルマ1台通らないのです。そりゃそうでしょ。時間は午前3時。幹線道路でもない山道を、そんな時間にクルマが走ってくると期待するほうが間違っています。
春とはいえ、まだ3月の末。しかも標高の高い山の中です。ヒーターの切れたクルマの中は、しんしんと冷えてきます。Tはトランクから毛布を2枚持ち出して、1枚を私に渡し、もう1枚を自分とIの腰にかけました。
「毛布、2枚しかないんだ。わるいけど、これ、ボクとあなたで兼用ね」
なんだか、すべてがTの思惑通りに運んでいるような……変な気分でした。
それから、さらに30分が過ぎました。

「寒い……」
Iさんがもらしたひと言が、事態を動かすきっかけになりました。
「このままじゃ、凍えちまうよ。あのさ、この山道を登り始めるとき、国道との分岐点にGSがあったでしょ。あそこ、確か24時間営業だったと思うんだ。Sクン、申し訳ないんだけど、あそこまで歩いて降りて、店員に事情話して、ガソリン運んでくれって、頼んできてくれないかなぁ。ボク、運転席離れるわけにいかないし……」
「そうだね、それしかないね」
確か、そこまでは7~8キロ。急ぎ足で歩いても1時間はかかりそうな距離でしたが、他に方法も見当たりません。「ここは一発、走れメロス! の気分で」と、委員長気質を発揮して、クルマを降りました。
「Sさん、気をつけて。早く帰ってきてね」
Iが、祈るような顔で私を見送ったのを、いまでもハッキリ覚えています。
私は山道を急ぎ足で下りながら、何度か振り返って、遠くなっていくクルマの影を見ました。一度、二度、そしてクルマが見える最後のカーブを曲がる前に、もう一度。
月明かりの中に浮かぶクルマの後部ウインドウから、座席に座ったふたりの頭部のシルエットがかろうじて見えました。
そのシルエットが、かすかに動いたように見えました。2つのシルエットの間から見えているクルマ前方の月明かりの空が、まるでシャッターでも切っているように、何度か閉ざされるのです。そして、クルマの影が、気のせいか、左に傾いては戻り、また傾いては戻り……と、揺れているように見えました。
胸の中にどんどん黒い雲が広がっていきます。しかし、いまさら引き返すわけにはいきません。
私は、自分に課された任務を果たすことでしか、この現状を救うことができない。
思いきってカーブを曲がると、ふたりのクルマは切り立った山肌の陰に隠れてしまいました。私は、メロスになった気分で、歩を速め、最後は小走りに山道を駆け下りていきました。

幸いにも開いていたGSの店員に頼み込み、ガソリンを積んでもらったクルマで現場に戻ったのは、それから1時間半後のことでした。
東の空は、すでにパープル色に染まり始めていました。Iが「いちばん好き」と言っていた空の色です。
TとIは、毛布を肩までかぶせて、Tはクルマのハンドルに頭をのせ、Iはクルマのウインドウに額を押し当てるようにして、半分、眠っているようでした。
「ゴメン。遅くなって。お待ちかねのガソリンだよ」
Tは「わるかったなぁ。ほんと、恩に着る」なんて言いながら、クルマを降りてきて、GSの店員に頭を下げています。
Iは、ウインドウに頭をつけたままでしたが、といって、眠っているわけでもありませんでした。
「もう、ダイジョーブだよ。寒かったでしょ?」
かすかに、後ろへ向けた顔で「ウン」とうなずいて見せただけでした。その横顔を見て、ハッとなりました。
月明かりに照らされたIの横顔が、氷のように冷たかったのです。そして、その目の縁には、ほんのいっとき前まで水分であふれていたであろう痕跡が見てとれました。
「どうした? ダイジョーブ?」
Iはまた、コクリとうなずいただけ。それからも、Iはクルマの窓に頭をつけたまま、ひと言も発しませんでした。

そんな合宿が終わって、新年度に切り替わってから、Iは、私たちの定期的な会合にいっさい姿を見せなくなりました。F女のメンバーに訊くと、「I先輩は、もう退部しましたよ」という返事でした。
あの箱根山中での一夜に何かが起こり、彼女を変えてしまったのだ――としか、私には思えませんでした。
大学を卒業して1年後、私の手元に一通の絵葉書が届きました。Tからのものでした。
《私たち、結婚しました》
見た瞬間、私は手が震えました。Tの横で純白のウエディング・ドレスに身を包んで微笑んでいるのは、あのIだったからです。

愛のためにめぐらす陰謀は「罪」なのか?
いまでも私は、疑いの心を捨てきれないでいます。
あの「ガス欠」は、意図されたものだったのではないか?
しかし、いまとなっては、確かめようがありません。
仮に、それが故意であったとして、それは、許しがたい行為なのか? どうしても欲しい「愛」を手に入れるために、陰謀をめぐらすことは罪なのか?
残念ながら、私はいまだに、結論を出せずにいます。
ひとつだけ言えることは、私だったらやらない――です。
しかし、そう言うと、おそらく反論を受けるであろうことも、想像できます。おまえ、ほんとうにその人の愛を手に入れたかったの? おまえは、「愛」より「正義」を選んだだけなんじゃないの?
これにも、いまだに答えが見つかっていません。
愛ってやつは、愛ってやつは……ですね。
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