女神の探し物〈16〉 ふたりだけの禊

ホームレスの小屋から救い出した翠さんは、
ホテルの密集する丘の上へと歩いて行く。
戸惑うオレの腕をつかんで、
「どこでもいいよ」と言う。オレは、
ドラッグストアで買った使い捨てビデを手に、
ビジネスホテルにツインを取った。
穢された翠さんの体に禊を施すために……。
連載 女神の探し物 第16章
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ここまでのあらすじ 翠さんは、ジャズクラブやライブハウスで歌っている歌姫だ。そのダンナ・浅尾龍二は、世間が「総会屋」と呼ぶ右翼の活動家だ。オレはその舎弟として使いっぱしりをやっている。翠さんが毎週、顔を出しているジャズクラブ「メモリー」に、大下博明というピアニストと玉川恵一というベーシストがいる。その3人で出したファーストアルバムが、メジャーに注目され、翠さんにTV出演の話が舞い込んだ。芽生えたメジャー・デビューのチャンス。しかし、その芽をつぶしたのは、龍二兄ィその人だった。ベースの「タマちゃん」が「だんなであるあなたが、彼女のチャンスをつぶすのか」とかみついたが、兄ィの気持ちは変わらなかった。翠さんには、熱心な固定ファンがいた。その中には、彼女に酒をすすめてくる者もいる。しかし、翠さんは酒乱だった。酒が犯させる過ち。そんな日、兄ィと翠さんの夜は修羅場となった。「おまえは血を汚してんだゾ」と声を荒げ、手を振り上げる兄ィ。翠さんは「禁酒」を宣言したが、その翠さんには変な「追っかけ」がついていた。「変なのが現れるかも」というので、しばらくその送り迎えをおおせつかったオレは、初めて翠さんのステージを見て、その姿と声にホレた。その夜、オレはママに頼まれて、ピアニストの大下博明を自宅に送っていくことになった。肝硬変に冒されて歩くこともままならない老ピアニスト。その体を支えたのは、客の児玉敦という男だった。実は、その児玉と浅尾龍二の間には、20代の頃から続く因縁があった。右翼と左翼。ふたりはぶつかり合っては血を流す、天敵同士だった。7か月後、大下博明がこの世を去った。その後も翠さんの送り迎えを続けるオレは、ある日、翠さんの奇妙な行動に気づいた。ホームレスがたむろする公園に足を踏み入れた翠さんが、ひとりひとり、彼らの顔をのぞき込み始めたのだ。翠さんが探しているのは、8歳のときに駆け落ちしたまま行方が知れないという父親だった。そんなある日、オレと兄ィは暴力団のフロント企業に脅しをかけて、追われる身となった。彼らは翠さんにも危害を加えるかもしれない。安全な場所に匿うようにと兄ィに頼まれたオレは、その日、彼女が出演する渋谷のジャズクラブに向かったが、翠さんの姿は、そこにはなかった。クルマを停めた地下駐車場の上がホームレスのたむろする公園になっていることを知ったオレは、不安に駆られて公園に足を踏み入れた。「その女なら、向こうの小屋へ行ったゾ」と、ホームレスのひとりが教えてくれた。ひと際大きなブルーシートの小屋。その前では男たちが数人で酒盛りをし、めくれたシートの端からは、白い脚がのぞいていた。男がひとり、精液のしたたるペニスをしごきながら、小屋から出てきた。「姐御~!」。オレは叫びながら小屋の中に突進した――
坂の上には、ラブホテルやビジネスホテルの密集した一帯があった。
翠さんはオレの腕につかまったまま、上腕の筋肉をチョイとつまんで言った。
「どこでもいいよ」
エッ……と振り向くオレに、翠さんは言った。
「私には安全な場所なんてないのよ。いまは、ケンちゃんのいてくれる場所が安全な場所……」
そう言われると、ちょっとナイトのような気分になる。
ほんとのナイトは、どこかに身を隠している。どこに隠れるつもりなのか、まだ、オレは聞いてない。
兄ィ、そういうとこ、きちんとしてくれよ――と、前から思っているのだが、そこらへんの大雑把さは、一向に変わらない。
だからと言って、兄ィの女をラブホに連れ込むわけにもいかない。
仕方ないので、そのあたりではもっともまともに見えるビジネスホテルに飛び込んだ。
「シングル2つ、取れますか?」
オレがフロントで掛け合っていると、横から翠さんが口を出した。
「あ、ツイン1つでいいです」
フロント係は、「エッ」という顔をして、オレと翠さんの顔を交互に見比べたが、翠さんが「いいの、いいの、それで」というふうに手を広げ、目力でフロントの迷いを抑え込んだ。
まるで、バンドに曲想を指示するときのようなしぐさ。
さすが、姐御。「付き人」であるオレは、その指示に従うしかなかった。
翠さんはオレの腕につかまったまま、上腕の筋肉をチョイとつまんで言った。
「どこでもいいよ」
エッ……と振り向くオレに、翠さんは言った。
「私には安全な場所なんてないのよ。いまは、ケンちゃんのいてくれる場所が安全な場所……」
そう言われると、ちょっとナイトのような気分になる。
ほんとのナイトは、どこかに身を隠している。どこに隠れるつもりなのか、まだ、オレは聞いてない。
兄ィ、そういうとこ、きちんとしてくれよ――と、前から思っているのだが、そこらへんの大雑把さは、一向に変わらない。
だからと言って、兄ィの女をラブホに連れ込むわけにもいかない。
仕方ないので、そのあたりではもっともまともに見えるビジネスホテルに飛び込んだ。
「シングル2つ、取れますか?」
オレがフロントで掛け合っていると、横から翠さんが口を出した。
「あ、ツイン1つでいいです」
フロント係は、「エッ」という顔をして、オレと翠さんの顔を交互に見比べたが、翠さんが「いいの、いいの、それで」というふうに手を広げ、目力でフロントの迷いを抑え込んだ。
まるで、バンドに曲想を指示するときのようなしぐさ。
さすが、姐御。「付き人」であるオレは、その指示に従うしかなかった。

「これ、使い方、わかりますよね?」
部屋に入ると、ドラッグストアで買い込んだ使い捨てビデを翠さんに渡した。
翠さんは、「何、これ?」と、パッケージをためつすがめつして首をひねる。どうやら、ほんとに知らないらしい。
「それ、使い捨てのビデですよ。あの中を洗浄するための道具ッす。見たことないんですか?」
首を振ってビデを眺めた後、翠さんは「セ・ン・ジ・ョ・ウ……?」と、力なくつぶやいた。
「あいつら、翠さんの中に体液をブチまけたでしょ?」
「ブチまけた」という言葉に、翠さんの顔が曇った。
いかん……とオレは思った。
こういうときは、言葉を選ばないと――。
「つまり、あいつらの行為で翠さんの体に……」
オレが言いかけたとき、翠さんがポツリと言った。
「禊ね……」
「ミ・ソ・ギ……?」とオレは訊き返した。
「禊。あの男たちが私の体に残した穢れを洗い清める儀式。でも、これ、どうやって使うの?」
翠さんは、オレが渡したビデを袋から出して、ああでもない、こうでもない――と、頭をかしげている。
「あ、翠さん。それ、ノズルをボトルのヘッドに着けて使うんですよ」
「エッ、この長いのを?」
「入れるのはノズルだけですよ。ノズルを入れてボトルを押すと、洗浄液が飛び出してあの中を洗ってくれるんす」
「ノズルを自分で入れるの?」
「そうですよ」
「できないよ、そんなの……」
翠さんの目が、救いを求めるようにオレの目を見た。
まさか……と思ったが、その目の色は本気だった。

「ケンちゃん」
バスルームからオレを呼ぶ声がした。
ドアを開けると、バスローブ一枚になった翠さんが、バスタブの中に立っていた。
ビデを手にしたオレの目を見ながら、翠さんは「お願い」というふうに小さくうなずき、それからゆっくり、バスローブの裾を引き上げた。
それはオレにとって、極上のストリップティーズだった。
引き上げられたバスローブの裾から、陶器のように白い翠さんの腿が暴露されていく。
その付け根に連なるなだらかな丘陵では、短めに生えそろったやや色の薄いヘアが、わずかなエアコンの風に頭をなびかせている。
絵のようだ――と、オレは思った。
美術の教科書で見たヴィーナスのヌード。翠さんの下半身は、それよりも美しい――と、オレには感じられた。
その気高いヴィーナスの丘を、あいつらは不潔なよだれで汚し、薄汚いペニスで蹂躙した。
クソーッ、許せない!
あいつらが残した精液の一滴、よだれのひとたらしまで、残らず洗い落としてやる。
そう思ってビデにノズルを装着すると、翠さんはまくり上げたバスローブの裾をベルトに挟み、左足をゆっくりと、バスタブの縁にかけた。
目の前で開かれる翠さんの脚。小ぶりなヘアの下から始まる小さなくぼみは、そのまま、彼女の渓谷の始まりとなって、肉色に濡れて光る陰部へと連なっている。
それは、オレが目にしてはいけない領域だった。
しかし、彼女を洗浄するためには、しっかり見なくてはならない。
彼女の渓谷は、ピンク色に輝く突起を頂点にして、薄っすらと血の色をたたえた粘膜の平原を広げている。その平原の収束する場所に赤く充血した彼女の入り口がある。
充血は、男たちに無理やり肉棒をねじ込まれたことによる内出血の後だろう。その赤くただれた入口から、まだ、こぼれ出てくるものがある。
オレはシャワーの湯で、外にこぼれ出てきたものを洗い流した。
もう何も流れ出てくるものがないというまで、オレは、ていねいにていねいに浅尾翠を洗った。
それからオレは、ビデのボトルにノズルを装着し、それを彼女の入り口に当てがった。
「じゃ、入れますね」
ほんのちょっとだけ、ビデを持った手に力を加えた。
ノズルが彼女の窮屈な入口をくぐり抜けていくとき、浅尾翠は「あっ……」と小さな悲鳴を挙げた。
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教師のビンタが支配する教室から、突如、姿を消した美少女。40年後、ボクが知った真実は?
【右】『『チャボのラブレター』
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美しい養護教諭とボクの、淡い恋の物語です。

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みなさんのひと押しで、喜んだり、反省したり……の日々です。
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