女神の探し物〈14〉 ブルーシートの屈辱

暴力団に恫喝をかけたオレたちは、
襲撃を受けるかもしれない――というので、
身を隠すことにした。「翠も安全な場所に」
と指令を受けたオレは、彼女の出演先に
向かったが、彼女の姿はすでに店にはなかった。
駅に向かうオレが目にしたのは、ホームレスが
たむろする公園。イヤな予感がした——。
連載 女神の探し物 第14章
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ここまでのあらすじ 翠さんは、ジャズクラブやライブハウスで歌っている歌姫だ。そのダンナ・浅尾龍二は、世間が「総会屋」と呼ぶ右翼の活動家だ。オレはその舎弟として使いっぱしりをやっている。翠さんが毎週、顔を出しているジャズクラブ「メモリー」に、大下博明というピアニストと玉川恵一というベーシストがいる。その3人で出したファーストアルバムが、メジャーに注目され、翠さんにTV出演の話が舞い込んだ。芽生えたメジャー・デビューのチャンス。しかし、その芽をつぶしたのは、龍二兄ィその人だった。ベースの「タマちゃん」が「だんなであるあなたが、彼女のチャンスをつぶすのか」とかみついたが、兄ィの気持ちは変わらなかった。翠さんには、熱心な固定ファンがいた。その中には、彼女に酒をすすめてくる者もいる。しかし、翠さんは酒乱だった。酒が犯させる過ち。そんな日、兄ィと翠さんの夜は修羅場となった。「おまえは血を汚してんだゾ」と声を荒げ、手を振り上げる兄ィ。翠さんは「禁酒」を宣言したが、その翠さんには変な「追っかけ」がついていた。「変なのが現れるかも」というので、しばらくその送り迎えをおおせつかったオレは、初めて翠さんのステージを見て、その姿と声にホレた。その夜、オレはママに頼まれて、ピアニストの大下博明を自宅に送っていくことになった。肝硬変に冒されて歩くこともままならない老ピアニスト。その体を支えたのは、客の児玉敦という男だった。実は、その児玉と浅尾龍二の間には、20代の頃から続く因縁があった。右翼と左翼。ふたりはぶつかり合っては血を流す、天敵同士だった。7か月後、大下博明がこの世を去った。その後も翠さんの送り迎えを続けるオレは、ある日、翠さんの奇妙な行動に気づいた。ホームレスがたむろする公園に足を踏み入れた翠さんが、ひとりひとり、彼らの顔をのぞき込み始めたのだ。翠さんが探しているのは、8歳のときに駆け落ちしたまま行方が知れないという父親だった。そんなある日、オレと兄ィは暴力団のフロント企業に脅しをかけて、追われる身となった。彼らは翠さんにも危害を加えるかもしれない。安全な場所に匿うようにと兄ィに頼まれたオレは、その日、彼女が出演する渋谷のジャズクラブに向かったが、翠さんの姿は、そこにはなかった――
もしかしたら、翠さんは、まっすぐ家に帰ろうとしているのではないか?
それは、まずいゾ。
オレは、クルマを停めた地下駐車場へ急いだ。
その駐車場の上は公園になっている。地下へ下りようとしたオレの目に、公園の植栽に沿って並んだブルーシートが飛び込んできた。
ここも増えたなぁ……。
そう思って階段を下りかかったオレの足が、そのとき、ツッと止まった。
このブルーシートを見たら、翠さんはどうしただろう?
もしかしたら、こないだのように公園に足を踏み入れて、ひとりひとり顔をのぞいて歩くのじゃないか?
その考えが頭に浮かんだとき、オレの背中を「まさか……」という不安が這い上った。
地下へ下りかかった足を反転させて、階段を駆け上がった。

公園のホームレスたちは、その日の稼業を終えて、ねぐらに帰って来ているようだった。
すでに寝袋にくるまって寝息を立てている者もいる。どこで手に入れたのか、カップ酒をちびちびとなめている者もいる。拾い集めたくず野菜や何かを、携帯コンロで煮ている者もいる。
そんな連中の様子を横目で見ながら、オレはキョロキョロと周囲を見回し、そこにいるかもしれない翠さんの姿を探した。
そんなオレの姿を不審に感じたのかもしれない。目が合った男たちの何人かは、「何だよ、おまえは?」という目でオレをニラみつけてきた。
そんなやつらを相手にしても仕方がない。オレは「何でもないよ」と手を振って、公園をさらに奥へと進んでいった。
男たちの中には、「何か探してんのかい?」という目を向けてくる者もいた。
そういう男には、オレは手で「これくらいの」と高さを示しながら、「背の高い女が、人を探して来なかったかい?」と尋ねた。
「知らねェな」と素っ気なく答える男。声には出さず左右に手を振るだけの男。ただ首を振るだけの男……。そうして尋ねた何人目かが、反応を見せた。
それは、まずいゾ。
オレは、クルマを停めた地下駐車場へ急いだ。
その駐車場の上は公園になっている。地下へ下りようとしたオレの目に、公園の植栽に沿って並んだブルーシートが飛び込んできた。
ここも増えたなぁ……。
そう思って階段を下りかかったオレの足が、そのとき、ツッと止まった。
このブルーシートを見たら、翠さんはどうしただろう?
もしかしたら、こないだのように公園に足を踏み入れて、ひとりひとり顔をのぞいて歩くのじゃないか?
その考えが頭に浮かんだとき、オレの背中を「まさか……」という不安が這い上った。
地下へ下りかかった足を反転させて、階段を駆け上がった。

公園のホームレスたちは、その日の稼業を終えて、ねぐらに帰って来ているようだった。
すでに寝袋にくるまって寝息を立てている者もいる。どこで手に入れたのか、カップ酒をちびちびとなめている者もいる。拾い集めたくず野菜や何かを、携帯コンロで煮ている者もいる。
そんな連中の様子を横目で見ながら、オレはキョロキョロと周囲を見回し、そこにいるかもしれない翠さんの姿を探した。
そんなオレの姿を不審に感じたのかもしれない。目が合った男たちの何人かは、「何だよ、おまえは?」という目でオレをニラみつけてきた。
そんなやつらを相手にしても仕方がない。オレは「何でもないよ」と手を振って、公園をさらに奥へと進んでいった。
男たちの中には、「何か探してんのかい?」という目を向けてくる者もいた。
そういう男には、オレは手で「これくらいの」と高さを示しながら、「背の高い女が、人を探して来なかったかい?」と尋ねた。
「知らねェな」と素っ気なく答える男。声には出さず左右に手を振るだけの男。ただ首を振るだけの男……。そうして尋ねた何人目かが、反応を見せた。
「ああ、あの子か」と言う。
「なんか、重そうな荷物を……あれ、なんつーんだ、買い物袋みたいな袋に詰めたネェちゃんが、こういう人、見たことないか――ってよ、えらい古い写真を見せてきたけどなぁ。知らねェつったら、向こうのほうへ歩いてったなぁ」
男があごでしゃくって見せたのは、比較的大きな木が何本か密集した公園の奥だった。そこに、木と木の間にビニールシートを張って設営した比較的大きなハウスが見えた。
「すまんな、おっちゃん」
礼を言って行こうとするオレの背中に、男の声が飛んだ。
「気をつけな、兄ちゃん。あそこの住人、ちいと気が荒いからよ」
その声が、不安の炎に油を注いだ。

ハウスの前には、4、5人の男たちがたむろしていた。
そのうちの2人は、ハウスの前に石を積み上げて作った即席のバーベキュー・コンロで何かを焼きながら、酒を飲んでいる。
残りのうち2人は、入り口のシートをめくり上げて、ハウスの中をのぞき込んでいる。そのうちのひとりは、のぞきながら、右手でしきりに自分の腰を叩いている。
何してるんだ、あいつ……?
そう思いながら近づいたオレは、ゾッとなった。
男は、右手で何かを握っているのだった。その手に握られていたのは、男のペニス。男は腰を叩いているのではなく、握ったそれを激しくしごいていたのだ。
ということは――と、オレは懸命に頭をはたらかせた。
あの小屋の中では、男がマスをかきたくなるような、何かが行われているということだ。
何が……?
そのとき、「ウオッ、ウオッ、ウオーッ!」という男の雄たけびのような声が聞こえた。それに続いて、「ヒッ、ヒ―ッ」という女の悲鳴のような声がして、一瞬、シートの端がめくれた。
めくれた端から白いものが飛び出した。
目を凝らすと、それは足だった。
マネキンなんかじゃない。人間の足だ。それも女の……。
その足の指が内側にキュッと折り曲げられ、それからパッと広げられ、そして……力なく下ろされた。

ほどなく、入り口のシートが開けられた。
男がひとり、のっそりと出てくる。
ぼうぼうに伸ばした髪と髭。やたら鋭い眼光を飛ばす大きな目。その顔をニヤッと崩しながら、頭をボリボリと掻き、まだ湯気を立てているようなイチモツをプルンとひと振りふた振りしてパンツの中にしまうと、男は、外でイチモツを握っていた男に言った。
「たっぷり濡らしといてやったからよ、おまえのデカいので悦ばしてやれや」
言われた男が、「じゃ、楽しませてもらうわ」と小屋の中に入って行く。
「あっ……」と女が声を挙げ、ドスン、バタン……と、ベニヤの床を体が転がる音がして、やがて「ウグッ……」とうめくような声が聞こえてきた。
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