女神の探し物〈13〉 父を求めて彷徨うY字

ギターと女

翠さんは、公園にホームレスの姿を見かけると、
一枚の写真を手に、ひとりひとり、
その顔をのぞいて歩く。古ぼけたその写真は、
駆け落ちしたまま行方が知れなくなっている、
彼女の父親だった。その面影を求めて彷徨う、
彼女のY字。オレはそれを想像しては、
股間に右手を伸ばした——。


 連載   女神の探し物   第13章 

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ここまでのあらすじ 翠さんは、ジャズクラブやライブハウスで歌っている歌姫だ。そのダンナ・浅尾龍二は、世間が「総会屋」と呼ぶ右翼の活動家だ。オレはその舎弟として使いっぱしりをやっている。翠さんが毎週、顔を出しているジャズクラブ「メモリー」に、大下博明というピアニストと玉川恵一というベーシストがいる。その3人で出したファーストアルバムが、メジャーに注目され、翠さんにTV出演の話が舞い込んだ。芽生えたメジャー・デビューのチャンス。しかし、その芽をつぶしたのは、龍二兄ィその人だった。ベースの「タマちゃん」が「だんなであるあなたが、彼女のチャンスをつぶすのか」とかみついたが、兄ィの気持ちは変わらなかった。翠さんには、熱心な固定ファンがいた。その中には、彼女に酒をすすめてくる者もいる。しかし、翠さんは酒乱だった。酒が犯させる過ち。そんな日、兄ィと翠さんの夜は修羅場となった。「おまえは血を汚してんだゾ」と声を荒げ、手を振り上げる兄ィ。翠さんは「禁酒」を宣言したが、その翠さんには変な「追っかけ」がついていた。「変なのが現れるかも」というので、しばらくその送り迎えをおおせつかったオレは、初めて翠さんのステージを見て、その姿と声にホレた。その夜、オレはママに頼まれて、ピアニストの大下博明を自宅に送っていくことになった。肝硬変に冒されて歩くこともままならない老ピアニスト。その体を支えたのは、客の児玉敦という男だった。実は、その児玉と浅尾龍二の間には、20代の頃から続く因縁があった。右翼と左翼。ふたりはぶつかり合っては血を流す、天敵同士だった。7か月後、大下博明がこの世を去った。その後も翠さんの送り迎えを続けるオレは、ある日、翠さんの奇妙な行動に気づいた。ホームレスがたむろする公園に足を踏み入れた翠さんが、ひとりひとり、彼らの顔をのぞき込み始めたのだ――




 「何、見せてたんですか、さっき?」
 オレが訊くと、翠さんは、「ああ、あれ?」と言って、バッグから一枚の紙片を取り出した。
 かなり擦り切れて、端がボロボロにめくれ上がってはいるが、それは一枚の写真だった。「もう20年は経っているから」という印画紙は、感光面がセピア色に変色している。そこに写っているのは、ひとりの体格のいい男だった。
 「だれすか、この人?」
 「お父さん……」
 「エッ」と思って目を近づけると、どことなく翠さんに似てなくもない、スラリとした長身の男が、作務衣に前掛けという姿で、ギョロリと目をむいて立っている。
 「いい男でしょ? 探してるんだ、その人を」
 「探してる……ってことは、いなくなっちゃったんすか?」
 「私が8歳のときにね」
 その頃、翠さんの父親は、九州の大きな青果店で番頭として働いていたという。しかし、翠さんが8歳になったとき、父親は、その店の女将さんと道ならぬ恋に落ちた。そして、駆け落ち。
 母親と幼い翠さんを残したまま、ぶらりと家を出た父親は、それっきり姿を消して、杳として行方が知れない。生きているのか、死んでいるのかさえわからない。「だから……」と翠さんは言う。
 「ああいう人たちを見ると、つい、顔をのぞき込んでしまうんだよね。もしかして、お父さんじゃないか――ってさ。バカみたいでしょ?」
 オレはそれを笑えない。気の利いた言葉のひとつもかけられない。
 「見つかるといいすね」
 われながら、間抜けな反応を返すしかなかった。

            

 そう言えば、浅尾龍二は、写真で見た翠さんの父親に似ていなくもない。
 児玉敦にも、その体格や風貌が、どこか写真で見た男を思わせるところがある。
 翠さんは、父親を追い求めるように恋をしているのだ――と、オレは確信した。
 そして、もうひとつ確信したことがあった。
 オレはその対象になど、絶対になりっこない――だった。
 それでもオレは、児玉敦言うところの翠さんの「付き人」の仕事を、可能な限り、続けた。
 なぜか――と訊かれたら、「ファンだから」としか答えようがない。しかし、「ファン」というほど、オレは翠さんの歌を理解しているわけじゃない。ジャズの知識も深まったわけじゃない。
 ただ、一度ステージを聴く度に、歌った曲が何という曲で、いつ頃作られ、どんな内容を歌っているかを、翠さんが解説してくれるので、オレは少しずつ、翠さんの歌うジャズの世界が理解できるようになった。
 そんなオレを、「親衛隊みたいだ」と評する声もあった。声の主は、ベースの玉川恵一や児玉敦など、かつて「メモリー」の常連だった連中だった。
 オレは気にしなかった。「親衛隊」と言われることは、むしろ、誇らしいとさえ思えた。それだけ翠さんの中に占める自分の地位が上がったような気がしたからでもあった。
 時が経てば、翠さんは自分を「男」として受け入れてくれるかもしれない。
 そして、時が来れば、彼女は、ステージ用のローズ色のドレスから浮き上がらせたあの「Y字」を、オレの目に解放してくれるかもしれない。
 「ケンさん、いつもありがとう」と言ってドレスをたくし上げた翠さんが、ふくよかな「Y字」をオレの目にさらけ出す日が、いつかやってくるかもしれない。
 驚き、歓喜するオレの目を蠱惑の眼差しで見つめながら、美しき歌姫・浅尾翠は言うのだ。
 「好きにしてもいいわよ」
 オレはその言葉に誘われ、いきり立ったやつを彼女のY字の先端でぷっくらとふくらんだ肉の下へと忍ばせ、そこで露をしたたらせる入口へズブリと突き立てる。
 怒張の先端が彼女の窮屈な肉を押し分けて入って行く瞬間の、ニュルリとした感触を脳裏に浮かべ、その瞬間に彼女が発する甘い息を想像して、オレはアレをふくらませる。
 兄ィ、すまねェ……。
 胸の中で許しを乞いながら、オレは右手をドクドクと息づく海綿体に添える。
 兄ィのヨメさんであり、美しい歌姫である浅尾翠。
 妄想の中に浮かんだ許されざる存在は、白い肌を薄っすらとピンクに染め、乳首をコリンと屹立させ、両脚をVの字に開いて、「もっと突いて」というふうに、自分から腰を突き上げてくる。
 「姐さん……」
 翠さんが嫌うので、それまで一度も口にしたことがなかった呼び名を口にして、オレは彼女の髪をつかみ、顔を上向かせて、腰に貯めたエネルギーのすべてを彼女のやわ肌の中にぶち込む。
 スペルマが勢いよく、尿道を駆け上がっていく――。
 そんな夜が何夜か続いたある日、それは起こった。

            

 オレと龍二兄ィは、その日、ある会社の会議室を訪れ、総務担当者と向き合っていた。
 その会社は、韓国との間で電子部品の輸出や完成品の輸入を手がけていたが、その取り扱い品目の中に、「輸出禁止品目」が含まれていることが週刊誌の記事ですっぱ抜かれ、問題になっていた。
 オレたちはその会社を「売国企業」と非難する街宣活動を展開していたが、その目的は、街宣を止めることと引き換えに協賛金を出させることだった。
 しかし、相手がわるかった。
 その会社は暴力団のフロント企業だった。「総務担当」を名乗ってオレたちと向き合った男も、やたら目つきの鋭い男で、話しているうちにいまにも飛びかかってきそうな身の構えを見せる、素性の知れない男だった。
 「プロだぜ、あいつ」
 会社を後にすると、龍二兄ィはそうつぶやいて、それからオレにあることを命じた。
 あいつらは襲撃してくるかもしれない。自分は、どこかに身を隠すから、おまえは翠を守ってやってくれ。安全な場所に匿ったら、その居場所を連絡してくれ――だった。
 ヤバイ……と、オレは思った。
 彼らがどこまで龍二兄ィの個人的な情報を把握しているかはわからなかったが、何しろ、「裏の道」のプロだ。調べる気になれば、兄ィがどこに住んでいて、その身内がどこで何をしているかぐらいは、いとも簡単に突き止めてしまうだろう。
 浅尾龍二にはジャズを歌っている美人のカミさんがいて、あちこちの店に出演しているらしい――と知ったら、あいつら、翠さんにネライをつけるかもしれない。
 翠さんは、確かきょうは、渋谷のジャズクラブに出ているはずだ。
 渋谷……。
 まずいな……と思った。
 オレはクルマを走らせ、彼女が出ているはずの『カッサンドラ・ハウス』に急いだ。
 しかし、間に合わなかった。
 「浅尾さんなら、さっき帰りましたよ。きょうはヒマなんで、10時半で演奏終了しちゃったんですよ。だれかと一緒……? 30代ぐらいのお客さんが一緒に出て行かれましたけど、一緒に帰ったかどうかまでは、ちょっとわからないですね」
 胸の中を言いようのない不安が走った。
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