女神の探し物〈1〉 右翼とジャズ

翠さんは、ジャズクラブなどで
ジャズを歌っている歌手だ。
オレはそのダンナである龍二兄ィにくっついて
企業などを脅して回り、
協賛金をせしめる仕事をしている。
世間ではオレたちの稼業を「総会屋」と呼ぶ。
右翼とジャズ歌手、ふたりは、
ちょっと奇妙な取り合わせの夫婦だった…。
連載 女神の探し物 第1章
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「フーン、MAYA……か」
ヘッドホンで聴いていた曲の音が、外にもれていたらしい。
「つまんないのを聴いてるね」とでも言われるのかと思ったので、慌ててヘッドホンを外した。
「いいでしょ、その子?」
意外なことを言われた。
「そ……そうすか?」と慌てるオレを見て、翠さんがクスッと笑った。
「そうすか――って、いいと思ったから聴いてたんじゃないの?」
翠さんのツッコミは、わりと正論っぽい。正論っぽいけれども、いい加減に答えていると、ほんとに呆れたような顔をされるので、オレは、けっこう、真剣に答えを返す。
「こういうJポップみたいの、翠さんはあまり興味がないのかと思ってました」
「そんなことないよ。いい音楽は、いい音楽。私は、カテゴリーで聴く音を選んだりはしないから」
やっぱり、正論だ。
「有線で『おかえり』って曲聴いて、一発で好きになっちゃったんす」
「元唄もいいからね」
エッ、あれ、元唄があったんすか?
驚いて尋ねようとしているところへ、浅尾さんがドアを開けて階段を下りてくるのが見えた。
黒い上下のスーツを着て、胸にはシルバーのネクタイを締めている。
気合が入っている。
きょうは、どこかデカい会社に乗り込む気らしい。
「オイ、行くぞ!」
声をかけられて、体がブルッと震えた。
ヘッドホンで聴いていた曲の音が、外にもれていたらしい。
「つまんないのを聴いてるね」とでも言われるのかと思ったので、慌ててヘッドホンを外した。
「いいでしょ、その子?」
意外なことを言われた。
「そ……そうすか?」と慌てるオレを見て、翠さんがクスッと笑った。
「そうすか――って、いいと思ったから聴いてたんじゃないの?」
翠さんのツッコミは、わりと正論っぽい。正論っぽいけれども、いい加減に答えていると、ほんとに呆れたような顔をされるので、オレは、けっこう、真剣に答えを返す。
「こういうJポップみたいの、翠さんはあまり興味がないのかと思ってました」
「そんなことないよ。いい音楽は、いい音楽。私は、カテゴリーで聴く音を選んだりはしないから」
やっぱり、正論だ。
「有線で『おかえり』って曲聴いて、一発で好きになっちゃったんす」
「元唄もいいからね」
エッ、あれ、元唄があったんすか?
驚いて尋ねようとしているところへ、浅尾さんがドアを開けて階段を下りてくるのが見えた。
黒い上下のスーツを着て、胸にはシルバーのネクタイを締めている。
気合が入っている。
きょうは、どこかデカい会社に乗り込む気らしい。
「オイ、行くぞ!」
声をかけられて、体がブルッと震えた。

浅尾龍二は、極道ではない。
極道ではないが、やっていることは、それと大して変わりない。
企業や団体にいちゃもんをつけては、「協賛金」名目で資金を出させたり、新聞や月刊誌の購読料をせしめたりする。ときには街宣車で会社に乗り付けて、大音声で企業を批判する演説やシュプレヒコールを繰り返すこともある。
オレは、その龍二兄ィの運転手をやる一方で、会社に乗り込むときなどにはその後に従いていって、相手を睨み回しながら体を揺らし、「何をするかわからない若いもん」を演じたりもする。それが仕事だった。
世間ではオレたちのことを「総会屋」と呼んだり、「経済右翼」と呼んだりする。
浅尾龍二は、その世界では名前を知られた男だった。
しばしば、その身辺を公安の刑事が探りに来たりする。新聞や雑誌の記者が周辺をウロつき回ることもあった。
兄ィと過ごす日々は、そんなわけで、平々凡々というわけにはいかない。
スリルもあれば、緊張も求められる。そういう日々が、オレは嫌いではなかった。というより、それに魅力を感じて、オレは兄ィと行動を共にすることになったのだった。
翠さんは、その龍二兄ィの彼女。というか、ふたりはどうやら結婚しているらしい。
極道の世界だと「姐さん」ということになるんだろうけど、そう言うと、「私は極妻じゃないんだから」とイヤな顔をされるので、オレはふつうに「翠さん」と呼んでいる。

翠さんは、歌を歌っている人だ。
「ヘーッ、歌手なんすか、すごいッすね」
そういう言い方をすると、翠さんは、ちょっとイヤな顔をする。
「別に……すごくなんかないよ」
意外と謙虚な人なのかもしれない。しかし、「イヤ」の理由は、別のところにあった。
「こいつよ、歌手とか言われるのが、好きじゃないらしいんだ」
「歌を歌ってるのに……ですか?」
「歌うんじゃなくて、声という楽器を操るアーティストだつうんだよな。あれ、なんつったよ、翠?」
「ボーカル……」
「そうそう、そのボーカル。こいつは、そのボーカルとして、例の……なんだっけ……」
「ライブ・ハウス」
「そう、そのライブ・ハウスとかに出かけて歌ってるんだよ」
「ライブ・ハウスっすか? じゃ……ロックとか?」
「ジャズ!」
翠さんが、ちょっとウンザリという調子で答えた。
ライブハウスでジャズを歌っているという「ボーカリスト」を名乗る翠さんと、世間からは「右翼」と呼ばれている龍二兄ィ。
その組み合わせは、世間には、ちょっと奇妙に映るかもしれない。
オレがそのワケを知ったのは、ずっと後になってからだった。
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