「最初で最後」マニア〈上〉 初めてのお願い

そのミュージックパブに「あゆみ」という女がいた。
「もう、この店、上がるんだ」と告白した彼女が、
「きょうは送ってもらおうかな」と言う。クルマの中で
彼女がもらした最後のリクエストは——。
R18 このシリーズは、性的表現が中心の官能読み物です。18歳未満の方はご退出ください。
エロ 官能小説 オーガズム 不倫

ミュージック・パブ「銀河」。
新宿・区役所通りに面したその店は、当時、私たちが足繁く通う「編集者ご用達の店」だった。
というのも、そこには、しばしば芸能人たちもブラリと顔を出し、そこから思わぬスキャンダルが発覚することもあったからだ。もちろん、私たちは、店にも、席に着く女の子たちにも、自分が週刊誌の編集者である――などということは伏せていた。
「ミュージック・パブ」というのは、ギターの弾き語りなどの生演奏が入り、客の席には、女の子が着いて飲み物などをサービスする、というスタイルの店だ。女の子たちは、ホステスほど客に寄り添うわけではなく、もちろん、売り上げ制でもない。
一応、彼女たちの身分は「時給制のウエートレス」ということになっていたが、どの女の子をどの客に着けるかは、客の態度を見て、店の支配人などが差配しているらしかった。
私の席によく着いたのは、「あゆみ」という女の子だった。
身長155センチ-ほどの小柄な体ながら、ツンと胸が突き出たキュートな体形をしている。髪は肩甲骨の下あたりまであるロングで、話をするときには、彼女はその長い髪を耳の後ろに掻き上げながら、目をキラッと輝かせて人の顔をのぞき込む。
その様子は、妖艶……というより、小悪魔的といったほうが似つかわしい。
その「小悪魔性」を好む客もいたが、男の気持ちをもてあそぶような言葉や態度を嫌う客もいた。
私は――と言うと、特に好んだわけでもなく、だからと言って嫌ったわけでもない。ただ、「面白い女」だと思って、席に着けば、彼女の「小悪魔性」を引き出すような話を仕掛けては、その反応を楽しんでいた。
いつか、機会があれば、その体を抱いてみたい――という気も、ないわけではなかった。
新宿・区役所通りに面したその店は、当時、私たちが足繁く通う「編集者ご用達の店」だった。
というのも、そこには、しばしば芸能人たちもブラリと顔を出し、そこから思わぬスキャンダルが発覚することもあったからだ。もちろん、私たちは、店にも、席に着く女の子たちにも、自分が週刊誌の編集者である――などということは伏せていた。
「ミュージック・パブ」というのは、ギターの弾き語りなどの生演奏が入り、客の席には、女の子が着いて飲み物などをサービスする、というスタイルの店だ。女の子たちは、ホステスほど客に寄り添うわけではなく、もちろん、売り上げ制でもない。
一応、彼女たちの身分は「時給制のウエートレス」ということになっていたが、どの女の子をどの客に着けるかは、客の態度を見て、店の支配人などが差配しているらしかった。
私の席によく着いたのは、「あゆみ」という女の子だった。
身長155センチ-ほどの小柄な体ながら、ツンと胸が突き出たキュートな体形をしている。髪は肩甲骨の下あたりまであるロングで、話をするときには、彼女はその長い髪を耳の後ろに掻き上げながら、目をキラッと輝かせて人の顔をのぞき込む。
その様子は、妖艶……というより、小悪魔的といったほうが似つかわしい。
その「小悪魔性」を好む客もいたが、男の気持ちをもてあそぶような言葉や態度を嫌う客もいた。
私は――と言うと、特に好んだわけでもなく、だからと言って嫌ったわけでもない。ただ、「面白い女」だと思って、席に着けば、彼女の「小悪魔性」を引き出すような話を仕掛けては、その反応を楽しんでいた。
いつか、機会があれば、その体を抱いてみたい――という気も、ないわけではなかった。

その「あゆみ」が、あるとき、私に耳打ちしたのである。
「きょうは、長住さんに送ってもらおうかな……」
始発が動き始めるには、まだ少し、時間がある。電車を待てない女の子を、同じ方向に帰る客が送っていくというのは、そういう店ではよくある話だった。
女の子たちは、交通費としては電車賃しか支給されてない。「送ってあげるよ」という客がいれば、女の子たちとしては助かる。「この人なら安心」と思えば、喜んで、客のタクシーに同乗させてもらう。しかし、「あゆみ」は、あまりそういうことをしない女だった。
もしかして……という期待も、ないわけではなかったが、通りに出ると、走って来た空車にさっと手を挙げた。
後部座席に乗り込むと、彼女はさっさと運転手に行先を告げ、そのまま、私の肩に体を預けてきた。私は、そっとその体を抱き寄せた。
しばらく走ると、「私ね……」と、彼女が神妙な声で口を開いた。
「あの店、もう……上がるんだ」
「エッ!? 辞めるの?」
「迷ってたんだけど、結婚することにしたの。あ……運転手さん、2つめの信号を右にお願いします」
「結婚……て、相手は、まさか……」
「あゆみ」には、いくつか、男関係のウワサがあった。「生演奏で入っているギターの男とデキてるらしい」とか、「いや、どうもマネジャーの彼女らしい」とか、「常連の不動産業のオヤジの愛人になってるらしい」とか、その種のウワサだった。しかし、どれも、信ぴょう性に欠ける。私も、その世界でささやかれるウワサを信じ込むほど、ウブではなかった。
「ウワサになってるような人じゃないよ。ふつうのサラリーマン。昼間の仕事で、一緒の人」
「そう。そりゃよかった。やっと堅気になれるじゃない」
「ウン、そうだね。あ、運転手さん、その先のコンビニの角で止めてください」
「じゃ、何だな。あゆみちゃんも幸せになるんだね」と、惜別の言葉のひとつも――と思っている私に、「あゆみ」が言うのだった。
「私のアパート、その裏なの。ちょっと寄っていきます?」
エッ!? エーッ? いま、結婚するって言ったばかりじゃないか。
驚く私の手に、「あゆみ」はそっと自分の手を重ねた。その手が、「ね、来て」というふうに、私の手を握り締めてきた。

諸兄姉にお断りしておきたい。
私は、夜の街をほっつき歩く者の矜持として、札びらをちらつかせて女をモノにする――なんてことは、一度もしたことがない。そういうニーズが抑えがたいほどに込み上げてきたときには、フーゾクに行く。
と言って、魚心に応えるに水心をもってせず、せっかくの心を干からびさせてしまうほど、野暮でもない。
「寄っていきます?」と言われてビビってしまうほど、小心でもないつもりだ。
もしかして、これは、「カレに紹介するから」というお誘いか――とも思ったが、それにしては、この時間である。
もうすぐ夜が明けようか――というこんな時間に、彼女の客にあいさつさせられる男がいるとしたら、それは、よほどの間抜けか、そうでなければ「美人局」だ。
後者である可能性は、限りなくゼロに近い。もし、それを見抜けなかったとすれば、その不明を恥じて、喜んで身ぐるみはがれてやろう。
よし、行くか!
決意を固めて、私はタクシーを降りた。
彼女は、私の手を引いて、コンビニ裏の路地に入り、そこにひっそりと建った木造の一軒家の前で、バッグからキーホルダーを取り出した。
「エッ、ここ……?」
それは、とても、若い女の子がひとりで住むような家には見えなかった。
一見、廃屋かとも見える古ぼけた家屋は、他に借り手もいず、おそろしく安い家賃で入居できたのだと言う。
しかし、「あゆみ」が玄関のカギを開け、「どうぞ」と言われて足を踏み入れると、部屋の中からは、甘酸っぱい「女の子の香り」が漂ってきた。
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【右】 『チャボのラブレター』
2014年10月発売 定価122円
美しい養護教諭と「ボク」の、淡い恋の物語です。
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【右】 『チャボのラブレター』
2014年10月発売 定価122円
美しい養護教諭と「ボク」の、淡い恋の物語です。

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