西暦2072年の結婚〈61〉 巨象に立ち向かうアリの群れ

この小説には性的表現が含まれます。18歳未満の方はご退出を。
真弓たちの「菜直」の前にライバルとして
立ちはだかる「アグリーズ」は、世界の
「種子支配」を目論む農業メジャー
「モンテネグロ」の手先だった。
その恐るべき農家支配の手口は——。
連載 西暦2072年の結婚
第61章 巨象に立ち向かうアリの群れ

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「アグリーズ」から「無料の種子」の提供を受けた農家は、翌年の種蒔きシーズンを迎えて、初めて、その事実に気づかされることになった。
その種子から育った作物が、生長して、やがて実を付ける。しかし、その実に宿った種子をいくら農地に撒いても、そこから芽が顔を出すことはない。
「アグリーズ」が配布する種子は、実った種子が発芽しないように遺伝子を組み替えられていた。引き続きその作物を育てようと思ったら、「アグリーズ」から新しい種を手に入れるしかない。しかし、今度は、その種は「ただ」ではない。通常の市場価格よりも少し高い。
そんな高い種は買えない――と、他社から種を仕入れる農家も現れた。しかし、その種は、発芽はしても、育たなかった。そこにも、「アグリーズ」の仕掛けたワナが隠されていた。
最初に無料で配られた種子には、一緒に使ってくださいと渡された肥料がついていた。その肥料には、何かしら、土壌の性質を変えてしまう成分が含まれていたのに違いない。一度、その肥料を使って耕作した土地では、他社の種を植えても、苗が育たない。しかし、「アグリーズ」の種だけはよく育つ。
その土壌でよく育つように、遺伝子の組み替えが行われていたとしか考えられないが、肥料に混ぜ込まれていた土壌に影響を与える成分が何なのかわからないことには、対策の立てようがない。もちろん、「アグリーズ」は、肥料に加えられた土壌改良成分が何なのか、いっさい、明かしてない。もし、その土地で他社の種子で作物を育てようとしたら、土壌をごっそり入れ替えるしかない。それには、膨大な費用がかかる。
いったん、「アグリーズ」の種子を自分の耕作地に受け入れた農家は、以後、永久に「アグリーズ」から種子と肥料を買い続けるしかなくなる。
そうして、種子と肥料を通して世界の農業を支配すること。
それが、「アグリーズ」とその背後に潜む巨大農業メジャー「モンテグロ」の野望だった。
その種子から育った作物が、生長して、やがて実を付ける。しかし、その実に宿った種子をいくら農地に撒いても、そこから芽が顔を出すことはない。
「アグリーズ」が配布する種子は、実った種子が発芽しないように遺伝子を組み替えられていた。引き続きその作物を育てようと思ったら、「アグリーズ」から新しい種を手に入れるしかない。しかし、今度は、その種は「ただ」ではない。通常の市場価格よりも少し高い。
そんな高い種は買えない――と、他社から種を仕入れる農家も現れた。しかし、その種は、発芽はしても、育たなかった。そこにも、「アグリーズ」の仕掛けたワナが隠されていた。
最初に無料で配られた種子には、一緒に使ってくださいと渡された肥料がついていた。その肥料には、何かしら、土壌の性質を変えてしまう成分が含まれていたのに違いない。一度、その肥料を使って耕作した土地では、他社の種を植えても、苗が育たない。しかし、「アグリーズ」の種だけはよく育つ。
その土壌でよく育つように、遺伝子の組み替えが行われていたとしか考えられないが、肥料に混ぜ込まれていた土壌に影響を与える成分が何なのかわからないことには、対策の立てようがない。もちろん、「アグリーズ」は、肥料に加えられた土壌改良成分が何なのか、いっさい、明かしてない。もし、その土地で他社の種子で作物を育てようとしたら、土壌をごっそり入れ替えるしかない。それには、膨大な費用がかかる。
いったん、「アグリーズ」の種子を自分の耕作地に受け入れた農家は、以後、永久に「アグリーズ」から種子と肥料を買い続けるしかなくなる。
そうして、種子と肥料を通して世界の農業を支配すること。
それが、「アグリーズ」とその背後に潜む巨大農業メジャー「モンテグロ」の野望だった。

立花真弓と塚田岳大、草川次郎が始めた「菜直」は、巨大な象に立ち向かうアリの隊列のようなものだった。
「ようやられんわ。相手、強すぎよんで」と、伊予弁丸出しで弱音を吐く塚田を叱咤激励したのは、意外にも、吉高麻衣だった。
「何を弱気なこと、言ってるのかなぁ。菜園をやってる人たちの間では、アグリーズのやり方にハラを立ててる人たちも、たくさいいるのよ。負けちゃダメ」
子どもたちにあまり手がかからなくなった麻衣は、このところ、菜園の充実に情熱を燃やしている。自分たちの菜園だけでなく、他の菜園経営者たちとの交流も深め、真弓たちの「菜直」の集荷先を拡大する営業活動のようなことにも精を出すようになった。
草川次郎は、「菜直」のホームページとは別に、「みんなで農業」という「集団営農」専門のポータルサイトを立ち上げた。集団で農業を営む営農集団が、自由に参加できる仕組みにして、登録した営農集団は、サイト上で農作業従事者を募集したり、自分たちの農場の作物の出来高や収穫量、出荷できる量などを掲載したりできるようにした。
サイトには、それらの農場の作物を直販できるアウトレットやマーケット、スーパーなどの情報も載せ、さらには、その運搬を引き受ける運送・流通業者の情報も掲載できるようにした。
「菜直」一社のホームページではなく、一切、その宣伝も含ませないことによって、サイトの利用者は劇的に増え、それが、農産物の流通に新たな流れを生み出した。
真弓たちのこうした業務は、従来の「農協」の業務とバッティングする部分もあり、「全農」からの妨害もなくはなかった。
しかし、真弓たちのネットワークは、その農協組織とも対立することを避け、地域単位では、自分たちのネットワークに取り込んで、集荷や配送で協力し合う姿勢も見せた。
真弓たちにとって、闘うべき相手は、農協や同業他社ではなかった。
日本の農業を、農産物消費者を、
「モンテネグロ&アグリーズ連合」の農業支配戦略から守れ!
真弓たちが訴えたアピールは、九州全土に広がり、やがてそれが四国州にも、中国州にも広がっていく気配を見せた。

道州制が敷かれて2年後、吉高ファミリーには、仲間がひとり増えた。
鷲尾いずみと塚田岳大の間に、娘が生まれた。
いずみはすでに40歳を超えている。塚田も50の峠を越えていた。
妊娠がわかったとき、ふたりはさんざん迷った。いずみにとっては「高齢初産」となる。塚田は、自分の体がいつまで現役として肉体的労働についていけるかを心配する年齢に達していた。
「大丈夫。ここには、7人のファミリーがいるじゃないか」
そう言って迷うふたりの背中を押したのは、吉高家の主婦・麻衣であり、夫その1・山辺俊介であり、夫その2・草川次郎だった。
立花真弓も、ファミリーの一員として、そして唯一の戦友として、その背中を押した。
しかし、押しながら、真弓はその背中に向かって、「すまん」と頭を下げた。
その理由は、まだ、だれにも言えないでいた。
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【右】『『チャボのラブレター』
2014年10月発売 定価122円
中学校の美しい養護教諭とボクの、淡い恋の物語です。
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教師のビンタが支配する教室から、突如、姿を消した美少女。卒業から40年経って、ボクはその真実を知ります。
【右】『『チャボのラブレター』
2014年10月発売 定価122円
中学校の美しい養護教諭とボクの、淡い恋の物語です。

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