西暦2072年の結婚〈60〉 種子を支配する者

この小説には性的表現が含まれます。18歳未満の方はご退出を。
日本に「道州制」が敷かれた2081年、
日本の農業の「集団化」は一段と進み、
真弓たちの活動範囲も広がった。しかし、
その前に強力な敵が。種子で世界を
支配しようとする種苗メジャーだった。
連載 西暦2072年の結婚
第60章 種子を支配する者

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立花真弓と塚田岳大の帰還から6年が経った。
帰国したときに2歳だった真弓と麻衣の息子・望海は、小学校に通うようになった。
山辺俊介の息子・努は、中学校に通い始め、最近は真弓たちの荷の積み込み作業などを手伝っては、バイト代をせびるようになった。
11歳になった草川次郎の娘・由夢は、「パパもママとキスするの?」などと父親をからかうような質問を繰り出して慌てさせ、「ママは3人のパパのだれがいちばん好き?」などと母親の女としての本心を問いただすような質問を浴びせて、麻衣を狼狽させるようになった。
3人の子どもたちは、それぞれに「おとなへの道」を歩み始めているように見えた。
あと10~15年もすれば、吉高家は、この子たちの若いエネルギーで切り盛りされていくことになるだろう。もしかすると、若い芽は、もっと大きな可能性を求めて、われわれの元を巣立っていくかもしれない。
そうなったらそうなったで仕方ない――と、立花真弓も、草川次郎も、そして吉高麻衣も、思っていた。
ただ、自分たちは、彼らが立ち向かうことになるかもしれない困難が、少しでもシリアスなものにならないよう、いまのうちにできることをやっておこう。
それが、吉高ファミリーと塚田&鷲尾ファミリーのおとなたちの覚悟だった。
帰国したときに2歳だった真弓と麻衣の息子・望海は、小学校に通うようになった。
山辺俊介の息子・努は、中学校に通い始め、最近は真弓たちの荷の積み込み作業などを手伝っては、バイト代をせびるようになった。
11歳になった草川次郎の娘・由夢は、「パパもママとキスするの?」などと父親をからかうような質問を繰り出して慌てさせ、「ママは3人のパパのだれがいちばん好き?」などと母親の女としての本心を問いただすような質問を浴びせて、麻衣を狼狽させるようになった。
3人の子どもたちは、それぞれに「おとなへの道」を歩み始めているように見えた。
あと10~15年もすれば、吉高家は、この子たちの若いエネルギーで切り盛りされていくことになるだろう。もしかすると、若い芽は、もっと大きな可能性を求めて、われわれの元を巣立っていくかもしれない。
そうなったらそうなったで仕方ない――と、立花真弓も、草川次郎も、そして吉高麻衣も、思っていた。
ただ、自分たちは、彼らが立ち向かうことになるかもしれない困難が、少しでもシリアスなものにならないよう、いまのうちにできることをやっておこう。
それが、吉高ファミリーと塚田&鷲尾ファミリーのおとなたちの覚悟だった。

2081年の春、真弓たちを取り巻く社会に大きな変化が起こった。
政変によって成立した臨時政府で主導的な役割を果たした民政党は、1年後に行われた選挙で議会の過半数を占める与党となると、かねてから主張していた政策を次々に立案していった。
その目玉のひとつが、「道州制」の採用だった。議会での激論を経て、日本は、「九州」「四国州」「中国州」「近畿州」「北陸州」「東海甲信州」「関東州」「東北州」「北海道」の9つの地域に分けられ、それぞれに州政府を設けて、大幅な自治が実施されることになった。
従来の都道府県は廃止されることになり、水道、配電、ガスの3事業は、州の直轄事業とされた。税金も、消費税・酒税・たばこ税・相続税・贈与税・法人税以外は、すべて地方税とされ、金の流れが「国⇒地方」から「地方⇒国」へと変えられた。
「道州制」への移行をめぐっては、各地域で猛烈な綱引きが繰り広げられた。いちばんモメたのは、「州都」をどこに置くかだった。
「九州」では、福岡市、熊本市、長崎市が、最後まで「州都」の座を争ったが、結局、「福岡市」がその座を射止めた。
「道州制」の施行は、真弓たちが手がける「菜直」の流通にも、その集荷先となる農園のあり方にも、大きな変化をもたらした。
県というボーダーが取り除かれたことで、農地の集合が容易になり、営農の「集団化」が一層進んだ。あちこちに分散した耕作放棄地などが、ひとつの農地にまとめられるようにもなり、後継者不足からくる農業の崩壊には、足止めがかかったように見えた。
集荷した農産物の搬入先も、より広範囲にわたるようになり、「菜直」にはより機動的な活動が求められるようになった。
真弓たちは、さらにトラックを増やした。
九州の全土を走り回るようになった「菜直」のトラックには、期せずして、新たな役割が生まれた。それは、孤立した農家と農家を流通を通して結びつけるという役割だった。
真弓たちから声をかけたわけではない。複数の小規模農家の出荷をまとめて受けたりするうちに、「だったら共同で営農しようか」という声が、営農家の側から湧き起こり、「菜直」は、そんな単農家の声を結びつける役目を負うことになった。
しかし、真弓たちの前には、天敵とでも呼ぶべき存在が現れた。

「あかんで、あいつら」
塚田岳大が、戻ってくるなり、手袋を机に叩きつけた。
怒りの矛先は、最近、農場経営と農産品の買付&販売に乗り出した「アグリーズ」という会社だった。
それまで、「菜直」に農産物の集荷を委託していた農家の中から、いくつか、集荷を断るところが現れた。事情を聞くと、「アグリーズというところに頼むことにしたから」と言う。
その話は、こうだった。
あるとき、「アグリーズ」の担当者がやって来て、「お宅の農産物をうちの会社で引き取らせてもらえないか」と言い出した。「いや、うちは決まった業者に頼んでいるから」と断ろうとすると、その担当者は切り出した。
「うちにまかせていただければ、来季の種は、無料で提供させていただきます」
いつも、農協などを通して種子を購入している営農家にとっては、それは、魅力的な提案でもあった。
そうして、いくつかの農家が「アグリーズ」と契約を結び、「菜直」との流通ルートから外れていった。
「アグリーズ」は、日本の財閥系化学会社「S化学」が、アメリカの肥料&種苗メジャー「モンテグロ」と業務提携して設立した、肥料・種苗販売&農場経営会社だ。前政権時代の2030年に成立した「営農法人化法」とともに、本格的に農業ビジネスに乗り出した。
最初は、主に大型農場の経営を手がけようとしたが、日本の国土で彼らが考えるような大規模農場を展開していくのは、ムリだった。そこで「アグリーズ」は、直接、農場を経営する代わりに、流通を通して既存の営農家を支配することに方針を転換した。
「種子を無料で提供」は、そのために撒いた「撒き餌」のようなものだろう。
だれもが最初はそう思った。しかし、違った。
そこには、だれも気づかない「ワナ」が仕掛けられていた。
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【右】『『チャボのラブレター』
2014年10月発売 定価122円
中学校の美しい養護教諭とボクの、淡い恋の物語です。
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中学校の美しい養護教諭とボクの、淡い恋の物語です。

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