人から「リアル」を奪い続けた「経済のしくみ」

19世紀以降、100年以上にわたって、「リアル」を失い続けてきた近代人。その喪失を促したのは「経済のしくみ」でした。「第一次リアル喪失」で生産手段のリアルを、「第二次リアル喪失」で「労働の意味」というリアルを失った人間は、いま、「第三のリアル」を失いかけています――。
Talker
哲雄 自ら著作を手がけるエッセイスト。当ブログの管理人です。
AKI 出張エステ嬢として働きながら、作家を目指すアラサーの美女。
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AKI なぜ、人は「リアル」に魅力を感じなくなってしまうのか? 実は、それには、「経済のしくみ」が関わっているのではないか? 前回、哲ジイは、そんな思わせぶりなことをおっしゃいましたよね?
哲雄 思わせぶっちゃいましたか? それは失礼。しかしね、AKIクン、実は、「経済のしくみ」と「リアルの喪失」の間には、切っても切れない関係がある。19世紀末以降、人類は100年ちょっとをかけて、「リアル」を失い続けてきたのです。
AKI エーッ、100年もかけて? きっかけは何だったんです?
哲雄 ズバリ、申し上げましょう。それは、「生産手段の喪失」です。
AKI エッ、生産手段? 何ですか、それ?
哲雄 生産するために必要な、土地や建物、機械・道具などの総称です。
AKI それを喪失しちゃったんですか?
哲雄 場合によっては、奪われた――という言い方もできるかもしれません。ヨーロッパでいち早く産業革命に着手したイギリスの場合は、まず、
農民を農地という生産手段から引きはがしました。
AKI 引きはがした――って、どうやって?
哲雄 囲い込んだんです、農地を。羊の牧場にするために。
AKI 羊のためにですか?
哲雄 ハイ、羊たちのために――です。というのも、当時のイギリスの産業革命は、羊毛業から始まりましたからね。そのためには、原料である羊毛が大量に必要になる。作付けのわるい農地は、どんどん柵で囲い込んで、牧羊地へと変えていきました。
AKI 囲い込まれた農民たちはどうなったんですか?
哲雄 《第一次リアル難民》となりました。
AKI 「リアル難民」? そんな難民、あったんですか?
哲雄 ハイ、いま命名しました。自分たちがそこに種を撒き、育て、作物を収穫する「農地」とか、あるいはそこで苗木から育てて何年もかけて木材を収穫する「森林」とか、さらには、「川」や「海」という漁場。直接、ものを栽培して収穫したり、採取したりするそういう生産手段から引き離されることを、私は《第一次リアル喪失》と呼びたいと思うのですが、そういう「リアル」を失った農民や漁民たちは、どうなったでしょう?
AKI もう、この村じゃ生きていけねっす。オラ、都会さ、出ていくだ――ってなったんじゃないですか?
哲雄 何だか見てきたようですね。でも、そのとおりだと思います。生産手段から切り離された農民などは、都市へと流れ込んでいきます。何も「生産手段」を持たない、「ただの流動的な労働力」として。
AKI 「ただの労働力」ですか?
哲雄 ハイ、「ただの」です。その「ただの労働力」は、都市部の産業の新しい担い手として台頭し、「市民」と呼ばれるようになった産業資本家たちのマニュファクチュア(工場というスタイルをとった手工業)などに、「労働者」として吸収されていきます。こうして「労働者階級」が成立していくのですが、それはまた《第二次リアル喪失》の始まりでもありました。
哲雄 思わせぶっちゃいましたか? それは失礼。しかしね、AKIクン、実は、「経済のしくみ」と「リアルの喪失」の間には、切っても切れない関係がある。19世紀末以降、人類は100年ちょっとをかけて、「リアル」を失い続けてきたのです。
AKI エーッ、100年もかけて? きっかけは何だったんです?
哲雄 ズバリ、申し上げましょう。それは、「生産手段の喪失」です。
AKI エッ、生産手段? 何ですか、それ?
哲雄 生産するために必要な、土地や建物、機械・道具などの総称です。
AKI それを喪失しちゃったんですか?
哲雄 場合によっては、奪われた――という言い方もできるかもしれません。ヨーロッパでいち早く産業革命に着手したイギリスの場合は、まず、
農民を農地という生産手段から引きはがしました。
AKI 引きはがした――って、どうやって?
哲雄 囲い込んだんです、農地を。羊の牧場にするために。
AKI 羊のためにですか?
哲雄 ハイ、羊たちのために――です。というのも、当時のイギリスの産業革命は、羊毛業から始まりましたからね。そのためには、原料である羊毛が大量に必要になる。作付けのわるい農地は、どんどん柵で囲い込んで、牧羊地へと変えていきました。
AKI 囲い込まれた農民たちはどうなったんですか?
哲雄 《第一次リアル難民》となりました。
AKI 「リアル難民」? そんな難民、あったんですか?
哲雄 ハイ、いま命名しました。自分たちがそこに種を撒き、育て、作物を収穫する「農地」とか、あるいはそこで苗木から育てて何年もかけて木材を収穫する「森林」とか、さらには、「川」や「海」という漁場。直接、ものを栽培して収穫したり、採取したりするそういう生産手段から引き離されることを、私は《第一次リアル喪失》と呼びたいと思うのですが、そういう「リアル」を失った農民や漁民たちは、どうなったでしょう?
AKI もう、この村じゃ生きていけねっす。オラ、都会さ、出ていくだ――ってなったんじゃないですか?
哲雄 何だか見てきたようですね。でも、そのとおりだと思います。生産手段から切り離された農民などは、都市へと流れ込んでいきます。何も「生産手段」を持たない、「ただの流動的な労働力」として。
AKI 「ただの労働力」ですか?
哲雄 ハイ、「ただの」です。その「ただの労働力」は、都市部の産業の新しい担い手として台頭し、「市民」と呼ばれるようになった産業資本家たちのマニュファクチュア(工場というスタイルをとった手工業)などに、「労働者」として吸収されていきます。こうして「労働者階級」が成立していくのですが、それはまた《第二次リアル喪失》の始まりでもありました。
AKI 「第二次」では、何を喪失したんですか?
哲雄 まずは、「自分は、何を作っているのか?」という「全体像」を喪失します。
AKI 全体像……?
哲雄 手工業とはいえ「工場制」ですからね。作業はかなり「分業化」されています。自分はいったい何を作らされているのか、商品として作り上げたものの中に自分の「労働」がどう生かされているのか、それを知ることもできないまま、「労働者」はただ、自分に与えられた部分作業だけをこなしていくわけです。
「商品の生産に携わる人間」=「労働者」と
「作られる商品」との間の「リアル」は、
こうして失われていきます。
AKI 再び《リアル難民》が生み出されるわけですね?
哲雄 ハイ、今度は大量に。しかも、ここに蒸気機関が登場し、さらには電力が登場してモーターが使われたりするようになると、分業化はさらに進みます。分業化が進むと、「リアル」の喪失の度合もいっそう深刻になります。AKIクンは、チャップリンの『モダン・タイムス』という映画を観たことありますか?
AKI いいえ、ございませんわ。それ、サイレントですか?
哲雄 チャップリン最後のサイレント映画です。工場労働者として鉄鋼工場に就職したチャップリンが、ベルトコンベアで流されてくるナットを来る日も来る日も締め続けているうちに、何を見ても「締める」という精神症状を病んでいく話です。ナットを締め続けるだけの自分という「存在」は、もはや「ものを作る」という「意義」からも、その「計画」からも遠ざけられ、仕上がった製造物がどんなふうに人を喜ばせ、どんなふうに社会の役に立っているかという「使用価値」も実感できなくなってしまいます。
AKI それじゃ、生きがいなんて感じることはできませんよね?
哲雄 ハイ、感じられません。《第一次リアル喪失》で「生産手段」を奪われた《リアル難民》は、今度は、自分の生産物との有機的な関係を失っていくんですね。経済学者であり、唯物論を唱えた哲学者であり、社会主義思想家であったマルクスが「疎外」と呼んだこの喪失現象を、私は、《第二次リアル喪失》と呼びたいと思います。
AKI そうして誕生したのが、《第二次リアル難民》ですか。年代的に言うと、哲ジイもそこですわね。
哲雄 世代的にはそうなんですけどね、ただ、《第二次リアル喪失》は、主に製造業に従事する人たちの間で起こったことだったので、流通業界とか金融業界、美容・服飾業界、外食産業、私がいたマスコミ業界などに従事している人間には、その影響はあまり及ばなかった。というか、及ばないだろう――と思っていたんですね、だれもが。
AKI でも……及んじゃったんですね?
哲雄 及んだ――というより、来ちゃったんです、第三の波が。
AKI エッ、てことは……《第三次リアル喪失》?
哲雄 ファイ、しかもこの波は、単に産業の中にやって来て雇用や就業の仕組みを変えたというだけではありません。私たちの生活の中にまで浸透してきて、私たちの生活のあらゆるステージから、「リアル」を奪っていこうとしています。
AKI あら、大変。
哲雄 そう、大変なんです。いったい、この第三の波は、われわれからどんなリアルを奪っていこうとしているのか? ここについては、じっくり考えないと、AKIクンの結婚の未来も見えてきません。
AKI ど、どうしてそういう話になるの?
哲雄 それについては、次回、じっくりお話しましょう。
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美しい養護教諭と「ボク」の、淡い恋の物語です。

管理人は常に、下記3つの要素を満たせるように、脳みそに汗をかきながら、記事をしたためています。
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