西暦2072年の結婚〈59〉 立ちはだかる巨人

この小説には性的表現が含まれます。18歳未満の方はご退出を。
立花真弓が塚田岳大、草川次郎と始めた
「菜直」は、やがてトラック20台を抱える
中小企業へと成長した。
農業の集団化とともに成長していく
農産物流通の世界。しかし、その前には、
巨大な敵が立ちはだかっていた。
連載 西暦2072年の結婚
第59章 立ちはだかる巨人

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立花真弓が始めた「菜園直送便」は、塚田岳大の参加を得て、トラック2台で大分・福岡県内を走り回ることになった。
しかし、すぐに手いっぱいになった。
ふたりは、1台、また1台……とトラックを増やし、その度に仲間を増やしていった。増やすトラックは、塚田の提案でリースにした。そのほうが、事故や故障に対応しやすい。車種変更や機能の変化にもすぐに対応できるから――という理由だった。
1年後、真弓たちは、自分たちの組織を株式会社として法人登記した。草川次郎もその一員として取締役に名を連ね、ネットを使った宣伝と注文システムの構築に、WEBの世界で蓄えたノウハウを投入した。
社名は、その次郎の提案で「菜直」とした。
簡単で覚えやすいネーミングのほうがいい。それは、次郎がネットの世界でつかんだビジネス成功のための秘訣のひとつでもあった。
ネラったとおり、「サイチョク」というネーミングは、その響きともども、ネットの世界を飛び回ることになった。
そうして真弓や次郎や塚田たちの仕事が軌道に乗っていく様子を、麻衣は顔をほころばせて眺め、それをうれしそうに鷲尾いずみに報告した。
最初は、その報告を聞いては「やるねェ」と喜び、塚田の背中をバンバン叩いているだけのいずみだったが、塚田の仕事が忙しくなり、帰宅が深夜に及んだりするようになると、あることを決断した。
勤務中のホスピスが、大分県内に温泉設備付きの分院を開設することになったのをきっかけに、転属を希望し、引っ越しを決めた。
幸い、吉高家の隣には、住む者のいなくなった家付きの宅地が、ちょっと手を加えれば住める状態で空き家として残っていた。
塚田・鷲尾夫妻が引っ越してくると、吉高家と塚田家は、両家の仕切りを取り除いた。少し広くなった中庭を使って、さらに菜園を充実させ、両家が日常的に使用する野菜は、ほぼ自給できるようになった。
しかし、すぐに手いっぱいになった。
ふたりは、1台、また1台……とトラックを増やし、その度に仲間を増やしていった。増やすトラックは、塚田の提案でリースにした。そのほうが、事故や故障に対応しやすい。車種変更や機能の変化にもすぐに対応できるから――という理由だった。
1年後、真弓たちは、自分たちの組織を株式会社として法人登記した。草川次郎もその一員として取締役に名を連ね、ネットを使った宣伝と注文システムの構築に、WEBの世界で蓄えたノウハウを投入した。
社名は、その次郎の提案で「菜直」とした。
簡単で覚えやすいネーミングのほうがいい。それは、次郎がネットの世界でつかんだビジネス成功のための秘訣のひとつでもあった。
ネラったとおり、「サイチョク」というネーミングは、その響きともども、ネットの世界を飛び回ることになった。
そうして真弓や次郎や塚田たちの仕事が軌道に乗っていく様子を、麻衣は顔をほころばせて眺め、それをうれしそうに鷲尾いずみに報告した。
最初は、その報告を聞いては「やるねェ」と喜び、塚田の背中をバンバン叩いているだけのいずみだったが、塚田の仕事が忙しくなり、帰宅が深夜に及んだりするようになると、あることを決断した。
勤務中のホスピスが、大分県内に温泉設備付きの分院を開設することになったのをきっかけに、転属を希望し、引っ越しを決めた。
幸い、吉高家の隣には、住む者のいなくなった家付きの宅地が、ちょっと手を加えれば住める状態で空き家として残っていた。
塚田・鷲尾夫妻が引っ越してくると、吉高家と塚田家は、両家の仕切りを取り除いた。少し広くなった中庭を使って、さらに菜園を充実させ、両家が日常的に使用する野菜は、ほぼ自給できるようになった。

3年が経った。
真弓たちの「菜直」は、トラック20台を抱える中小企業へと成長した。
イメージ・キャラクターである月の輪グマが、胸いっぱいに野菜を抱えて走る絵がボディに描かれたトラック。それが、大分や福岡や佐賀の街々を走る姿が、人の目に留まるようにもなった。
真弓たちの「菜直」は、「菜園」と「市場」を直結するスタイルとして、北部九州の農産物の流通スタイルに新しい息吹を吹き込んだ。それは、同時に「農場」のありようにも、新たな変化をもたらした。
農地を所有する個人が営む零細農家を農協が束ねるというこれまでのスタイルでは、日本の農業はいずれ廃れてしまうだろう――と、すでに100年も前から指摘されていたことだが、それが、日本の各地で現実になりつつあった。
大分でも、福岡でも、後継者がいないがために、耕作放棄された農地が、あちらにもこちらにも、「売り地」などの札を立てたまま、無残に放置されている姿が見られるようになっていた。
それを防ぐために出てきたのが、複数の農家が共同で農業を営もうという「営農集団化」の動きだった。
「共同化」するのは、たいていの場合、まずは農機具や耕作機械だ。次に、それらの機械を使う農作業の共同化が行われるようになった。そして、最後に販売の「共同化」。その「販売」という出口を農協に牛耳られていたがために、営農の「集団化」には、何かとブレーキがかかっていた。
民自党政権時代にも、「営農の集団化」は試みられた。しかし、その「集団化」の試みには、2つの重大な欠陥があった。

オリンピックの10年後・2030年に、農業団体などの反対を押し切って成立した「農業集団化に関する営農法人化法」によって、「集団営農」を営むために国の融資などを受けようとする営農家団体等は、組織を「法人」として届け出、なおかつ、経理などを一元化することが義務づけられた。
「集団営農」そのものは、それまでも自然発生的に行われていた。特に、北陸・近畿・中国・四国・九州といった西日本一帯では、元々、「講」や「組」といった組織が発達していたこともあって、昔から、農作業を助け合ったり、農機などを共同で管理するといった部分的集団化が、ごく自然に行われていた。しかし、国の方針は「それでは援助できませんよ」だった。
問題は、「法人化」の中身だった。
国が言う「法人化」には、2つの方法があった。
ひとつは、「集落」を単位として複数の農家が理事などを選定し、「農事組合」を結成する方法。
しかし、「集落単位」とすることによって、営農家の任意性は損なわれた。多くの土地を供出した農家とそうでもない農家の間には、必然的に発言権などの差異が生まれてしまう。理事としての報酬についても「うちはこれだけ土地を提供しているのだから」などと言い出す単位農家が現れて、結果的に「法人化」が新たな「格差」を生むことにもつながった。
もうひとつは、合名会社、株式会社など、既存法人の傘下に組み入れられてしまうという方法だった。
農業そのものを営んでいなくても、農産物を販売する、農業機械などを製造・販売している、生産農家に肥料・種苗などを卸しているなど、農業に関する事業を営んでいる企業であれば、「営農法人」として農業の集団化を進めることができる。
その決定を強引に下したのは、当時、岸山内閣で「影の総理」とまで言われていた佐橋・農水大臣だった。
その佐橋大臣のバックには、旧財閥系の大手化学メーカー「S」がついていた。
「S」は、アメリカの化学肥料メーカーであり、なおかつ種苗メーカーとして世界の農業支配を目指す「モンテネグロ」と手を組んでいた。
肥料と種苗を通して世界を支配しようと企む農業メジャーの野望。
真弓たちの「菜直」は、その野望の壁に立ち向かうことになった。
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【右】『『チャボのラブレター』
2014年10月発売 定価122円
中学校の美しい養護教諭とボクの、淡い恋の物語です。
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【右】『『チャボのラブレター』
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中学校の美しい養護教諭とボクの、淡い恋の物語です。

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