西暦2072年の結婚〈57〉 再会は海峡を越えて

この小説には性的表現が含まれます。18歳未満の方はご退出を。
鷲尾いずみの夫、塚田岳大。その男なら
自分と一緒に帰国した。郷里の友人宅に
身を寄せているはずだ。真弓といずみは、
電話をかけまくり、居場所を探り当てた。
塚田は、海峡の向こうにいた——。
連載 西暦2072年の結婚
第57章 再会は海峡を越えて

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塚田岳大。
その人と自分は同じ中隊にいて、重慶南方の前線で、中国政府軍の核ミサイル攻撃を受けた。そのとき、シェルターの外にいた10人ほどが被曝した。自分も、塚田1等陸士も、そのひとりだった。もろに放射線を浴びた3人は即死した。自分たちも熱線で吹き飛ばされはしたが、シェルターの穴から出たばかりのところだったので、一命を取り留めた。
自分や塚田はベトナムの診療所に移送され、そこで診療生活を送った。ほぼ2年間に及ぶ治療を受けているうちに政権が変わり、自分たちは帰国できることになった。
自分と高田は、同じ飛行機で関空に帰って来た。出迎えた総務省の役人が、家族の所在を調べてくれた。自分は、吉高ファミーが大分に疎開していることがわかったが、残念ながら、塚田1等陸士の家族の所在は確認できなかった。
家族の元へ帰ることにためらいを見せる真弓の背中をバンバン叩いて、「何をためらってる? 飛んででも帰れ!」と励ました塚田だったが、自分の新婚の妻の行方がわからないと知らされると、肩を落として、生まれ故郷の友人を頼って帰っていった。
「あいつ、探してますよ、あなたのことを。絶対、どこかで生きてるはずだ――って」
真弓の言葉に、鷲尾いずみの顔色が変わった。
「れ、連絡先は? 携帯は?」
まるでつかみかからんばかりに、真弓の腕をつかんで揺する。
「ああ――ッ」と真弓は頭をかきむしった。
「ボクらの携帯やスマホは、南寧の司令部が略奪に遭って、全部、奪われてしまったんですよ。あいつ、落ち着き先が決まったら電話するって言うから、ここの連絡先教えといたんだけどなぁ。まだ、連絡ないし……。どこだって言ってたかなぁ、生まれ故郷」
「生まれ故郷? 生まれ故郷の友だちのところに行く――って言ってたのね?」
真弓の腕をつかんで念を押した鷲尾いずみが、何かを思い出したという顔で、バッグの中をまさぐり始めた。
「確か、四国だわ。四国の愛媛県。そうよ、おいしいみかんがいっぱい採れるとか――って言ってたもの」
「みかんなら、南予か西予だなぁ。宇和島とか、八幡浜とか……」
「それ、それ。その八幡浜よ、確か。そうだ、年賀状が来てたかもしれない」
夫宛てに届いた年賀状が、夫の消息を知る何かの手がかりになるかもしれないと思い、彼女はそれをバッグの底に忍ばせていた。2年分で200枚ぐらいはありそうだ。
真弓と鷲尾いずみは、手分けして、その中から差出人が八幡浜になっているものを選び出した。該当するハガキが全部で8通ほどあった。
その一軒、一軒に、電話をかける役目を真弓が引き受けた。
その人と自分は同じ中隊にいて、重慶南方の前線で、中国政府軍の核ミサイル攻撃を受けた。そのとき、シェルターの外にいた10人ほどが被曝した。自分も、塚田1等陸士も、そのひとりだった。もろに放射線を浴びた3人は即死した。自分たちも熱線で吹き飛ばされはしたが、シェルターの穴から出たばかりのところだったので、一命を取り留めた。
自分や塚田はベトナムの診療所に移送され、そこで診療生活を送った。ほぼ2年間に及ぶ治療を受けているうちに政権が変わり、自分たちは帰国できることになった。
自分と高田は、同じ飛行機で関空に帰って来た。出迎えた総務省の役人が、家族の所在を調べてくれた。自分は、吉高ファミーが大分に疎開していることがわかったが、残念ながら、塚田1等陸士の家族の所在は確認できなかった。
家族の元へ帰ることにためらいを見せる真弓の背中をバンバン叩いて、「何をためらってる? 飛んででも帰れ!」と励ました塚田だったが、自分の新婚の妻の行方がわからないと知らされると、肩を落として、生まれ故郷の友人を頼って帰っていった。
「あいつ、探してますよ、あなたのことを。絶対、どこかで生きてるはずだ――って」
真弓の言葉に、鷲尾いずみの顔色が変わった。
「れ、連絡先は? 携帯は?」
まるでつかみかからんばかりに、真弓の腕をつかんで揺する。
「ああ――ッ」と真弓は頭をかきむしった。
「ボクらの携帯やスマホは、南寧の司令部が略奪に遭って、全部、奪われてしまったんですよ。あいつ、落ち着き先が決まったら電話するって言うから、ここの連絡先教えといたんだけどなぁ。まだ、連絡ないし……。どこだって言ってたかなぁ、生まれ故郷」
「生まれ故郷? 生まれ故郷の友だちのところに行く――って言ってたのね?」
真弓の腕をつかんで念を押した鷲尾いずみが、何かを思い出したという顔で、バッグの中をまさぐり始めた。
「確か、四国だわ。四国の愛媛県。そうよ、おいしいみかんがいっぱい採れるとか――って言ってたもの」
「みかんなら、南予か西予だなぁ。宇和島とか、八幡浜とか……」
「それ、それ。その八幡浜よ、確か。そうだ、年賀状が来てたかもしれない」
夫宛てに届いた年賀状が、夫の消息を知る何かの手がかりになるかもしれないと思い、彼女はそれをバッグの底に忍ばせていた。2年分で200枚ぐらいはありそうだ。
真弓と鷲尾いずみは、手分けして、その中から差出人が八幡浜になっているものを選び出した。該当するハガキが全部で8通ほどあった。
その一軒、一軒に、電話をかける役目を真弓が引き受けた。

塚田岳大さんのお友だちの××さんのお宅ですか?
自分は、中国戦線で塚田さんと同じ隊にいた立花真弓と申します。
実は、塚田さんと連絡が取りたくて塚田さんの落ち着き先を探しておりまして……。
塚田さんがそちらに帰郷されると聞いておりましたので、もしかしたら、ご存じあるまいかと思って連絡させていただいたのですが……。
そうですか。ご存じありませんか。もし、何かわかりましたら……。
そういう電話を一軒、また一軒……とかけていった五軒目だった。
「おお、塚田け? いよんで、うちの離れに。呼ぼか?」
意外と思えるほどあっけなく、塚田の居場所がわかった。
ほどなく、呼ばれた塚田岳大が電話口に出るだろう。
真弓は、Vサインを作って、電話器を鷲尾いずみに渡した。
「私です。いずみです」
感情を押し殺したように、静かに名乗るいずみに、相手がどんな反応を示したのか、真弓にも、麻衣にも、わからなかった。受話器の向こうからは大きな声が響いてきたが、ふたりは聞かないようにした。
あなたの戦友である立花真弓さんの妻・吉高麻衣は、自分の親友である。
自分はいま、ここから遠くない福岡県と大分県の県境に近い街のホスピスで、看護師として働いている。
すぐにでも会いたい。
でも、ちょっと遠い……。
それを聞いた麻衣が、いずみの顔に向かって、チッチッと指を振った。
「直通の飛行機便とかはないけど、大分の佐賀関と佐田岬の三崎を結ぶフェリーだと、70分で海を渡れる。ここから佐賀関までバスで1時間20分、八幡浜から三崎まで約1時間だから、全部で3時間半あれば、おたがいに会いに行けるわよ」
それを伝えると、電話の向こうで大きく叫ぶような声が聞こえた。

「明日、来る――って」
「エッ!?」
真弓と麻衣は、声を挙げて顔を見合わせた。
「立花さんにもいるように言っといてくれですって」
人の都合も聞かずに――と思ったが、塚田1等陸士は、真弓から見ると1階級上でもある。こうと思ったら即断即決。周りの助言やアドバイスなどには耳を貸さず、人の都合も考えずに物事を決めてしまうところがあった。それで、度々、上官とぶつかったりもしたが、それはそれで塚田の人間的魅力のひとつでもあった。
幸い、翌日は日曜日で、集荷も市場への搬入も休みだった。
「何時の船だって?」
「9時半三崎発ですって」
「じゃ、10時40分佐賀関着だな。よし、迎えに行ってやるか、わが家のリムジンで」
ボディに「菜園直送便」とロゴの入ったVANトラック。バスで行くより、いくぶん早く港に着けるだろう。
鷲尾いずみと塚田岳大の再会。そのために、立花真弓は、日曜日をつぶすことにした。
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教師のビンタが支配する教室から、突如、姿を消した美少女。卒業から40年経って、ボクはその真実を知ります。
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