西暦2072年の結婚〈55〉 土に触れる喜び

この小説には性的表現が含まれます。18歳未満の方はご退出を。
真弓の帰還で、ファミリーは本来の姿を
取り戻した。しかし、問題はそこからだ。
自分はここで何をして生きていくのか?
悩む真弓にヒントを与えたのは、菜園で
土と戯れる麻衣の姿だった——。
連載 西暦2072年の結婚
第55章 土に触れる喜び

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立花真弓が帰還して、吉高麻衣と夜を共にする。
そのことによって、やっと、吉高ファミリーは、元の姿に戻った。
と言っても、正確に――ではない。
3人の夫たちにとって麻衣が共通の妻であり、3人の子どもたちにとって麻衣が唯一の母親であることに変わりはなかった。しかし、夫たちがローテーションを作って麻衣と夜を過ごすというルールは、復活しなかった。
麻衣にとっても、3人の夫たちにとっても、SEXは、ファミリーを維持するための必須アイテムではなくなっていた。
ひとつの理由は、子どもたちの成長だった。8歳になった俊介の息子・努も、5歳になった次郎の娘・由夢も、おとなたちの行為をそろそろ理解できる年齢になっている。おとなたちの性の秘密は、隠さなければならない年齢になっていた。
もうひとつ、理由があった。俊介も、次郎も、そして麻衣も、新しい土地での仕事を軌道に乗せ、ファミリーの生活を安定させることに懸命だった。
俊介は、前から勤めていた建設資材会社の県庁所在地にある事業所まで通勤して、東九州各地の建設現場に納品する建設資材の製作に当たっていたが、首都圏からの疎開組が増えたこともあって、インフラ整備のための工事などが急増し、事業所は夜を日に継ぐ増産態勢を求められていた。非正規雇用である俊介も、残業に次ぐ残業で、ときには帰宅が深夜に及ぶこともあった。
次郎がこなすWEBデザインの仕事も、これまで東京のオフィスに集中していた仕事が、テレワーク中心となって地方に分散し、日夜舞い込む仕事をこなすのに、夜を徹してパソコンに向かい合うことも多くなった。
麻衣は、3人の子どもたちの世話をしながら、何とか野菜だけでも自給自足したいと、自宅の菜園で育てる葉野菜や実野菜の手入れに精を出している。自宅でデスクワークをしている次郎や学校から帰って来た努が、そんな彼女の仕事をたまに手伝った、
そのことによって、やっと、吉高ファミリーは、元の姿に戻った。
と言っても、正確に――ではない。
3人の夫たちにとって麻衣が共通の妻であり、3人の子どもたちにとって麻衣が唯一の母親であることに変わりはなかった。しかし、夫たちがローテーションを作って麻衣と夜を過ごすというルールは、復活しなかった。
麻衣にとっても、3人の夫たちにとっても、SEXは、ファミリーを維持するための必須アイテムではなくなっていた。
ひとつの理由は、子どもたちの成長だった。8歳になった俊介の息子・努も、5歳になった次郎の娘・由夢も、おとなたちの行為をそろそろ理解できる年齢になっている。おとなたちの性の秘密は、隠さなければならない年齢になっていた。
もうひとつ、理由があった。俊介も、次郎も、そして麻衣も、新しい土地での仕事を軌道に乗せ、ファミリーの生活を安定させることに懸命だった。
俊介は、前から勤めていた建設資材会社の県庁所在地にある事業所まで通勤して、東九州各地の建設現場に納品する建設資材の製作に当たっていたが、首都圏からの疎開組が増えたこともあって、インフラ整備のための工事などが急増し、事業所は夜を日に継ぐ増産態勢を求められていた。非正規雇用である俊介も、残業に次ぐ残業で、ときには帰宅が深夜に及ぶこともあった。
次郎がこなすWEBデザインの仕事も、これまで東京のオフィスに集中していた仕事が、テレワーク中心となって地方に分散し、日夜舞い込む仕事をこなすのに、夜を徹してパソコンに向かい合うことも多くなった。
麻衣は、3人の子どもたちの世話をしながら、何とか野菜だけでも自給自足したいと、自宅の菜園で育てる葉野菜や実野菜の手入れに精を出している。自宅でデスクワークをしている次郎や学校から帰って来た努が、そんな彼女の仕事をたまに手伝った、

自分はここで何をするのか?
帰還して家族の元に戻ったものの、真弓は、この見知らぬ土地で何をして生きていくのか、その見当がついていなかった。
当分は、出兵によって負傷した者に対する傷病手当が支給されるので、生活には困らない。しかし、いつまでもそれに頼って生きるという選択は、真弓はしたくなかった。
とりあえず、麻衣とともに自宅の菜園作りを手伝ってみるか。
そうして農作業の真似事をやっているうちに、真弓は、自分の体の中に、何かしら得体の知れない力がみなぎってくるのを感じた。
その力は、大地から直接伝わってくる何か。人が人であるために、本来、身に着けて生まれてくる何か……のような気がした。
麻衣にその話をすると、土で汚れた手をパンパンと払い、両手を腰に当てて、「ウン」というふうにうなずいた。
まるで、「やっとわかったか? それでいいのよ」と言っているように感じられて、真弓は指で鼻の下をこすった。
それを見て、麻衣がクスッと笑った。
エッ、何……?
その手が、真弓の鼻の下を指さして、ハンカチで拭けというしぐさを見せている。
あわてて拭くと、土の匂いが鼻腔の中に飛び込んで来た。指についた土が、鼻の下にこびりついていたのだった。

麻衣によると、疎開先にこの土地を選んでやって来る若い家族の多くが、農業や漁業という第一次産業への従事を希望すると言う。農場を手に入れて、本格的に農場経営に乗り出す者も少なくない。それらの家族の半分が自分たちと同じ複婚家族で、そういう家族の場合、農業は一家総出の家業となる。
彼らは生産した農産物を、自ら幹線道路沿いの直売場に持ち込んだりしている。問題は人手だ。農作業も、収穫した農産品の包装や梱包も、直売場への搬入も、すべて自分たちで――となると、どうしても、人手が必要になる。
その話を聞いた真弓に、ふと、ある考えがひらめいた。
もし、その流通を安く引き受ける業者がいれば、彼らの仕事は、もう少し効率よくなるのではないか。
その話を夕食の席で口にすると、草川次郎が「いいすね、それ」とヒザを打った。
「本格的にやるんだったら、ボク、サイトを立ち上げますよ」と言う。
サイトを立ち上げる目的は、市場への搬入を依頼する農場経営者を募ることだというのだが、それを聞いた麻衣が、「それだったら……」と言い出した。
「搬入先を市場だけに絞らずに、宅配も手がけたほうがいいんじゃない? この地域にも、市場まで買い物に来られない買い物困難者がけっこういたりするから」
ナルホド……と、真弓は思った。
その程度の業務をこなすのだったら、中古のバン型のトラックが1台あれば、十分に間に合う。探せば、おそらく50万円を切る価格で購入できるだろう。
幸い、いまだったら、負傷帰還兵に支給された一律100万円の「傷病帰還兵生活支援金」が、手つかずで残っている。
セールスドライバーとして鍛えた技能を活かす仕事として、それならすぐにでも始められる。
名前は、「菜園直送便」とでもするか?
集荷は、本格的農場だけでなく、小規模な家庭菜園からも行い、真弓は、その売り上げの10%を運送料として収入に充てる。最初は苦しいかもしれないが、一日の売り上げが20万円を超えれば、何とかやっていけなくはない。
吉高ファミリーに、ひとつの希望の灯が灯った。
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【右】『『チャボのラブレター』
2014年10月発売 定価122円
中学校の美しい養護教諭とボクの、淡い恋の物語です。
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教師のビンタが支配する教室から、突如、姿を消した美少女。卒業から40年経って、ボクはその真実を知ります。
【右】『『チャボのラブレター』
2014年10月発売 定価122円
中学校の美しい養護教諭とボクの、淡い恋の物語です。

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