西暦2072年の結婚〈54〉 武勇伝とエッチ絶ち

この小説には性的表現が含まれます。18歳未満の方はご退出を。
久しぶりの吉高家の食卓。家族は、
真弓の武勇伝を聞きたがった。
その夜、3人で川の字になって寝た
麻衣と真弓と息子・望海。麻衣が
明かした秘密とは——。
連載 西暦2072年の結婚
第54章 武勇伝とエッチ絶ち

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久しぶりにファミリーが全員そろった吉高家の食卓は、立場真弓の戦地での話で持ち切りになった。
山辺俊介や息子の努は、真弓の武勇伝を聞きたがった。それを語ることは、真弓にとって、ある意味、苦痛でもあった。
特に、被曝の瞬間の話をすることには、心理的にも、肉体的にも抵抗があった。しかし、この真実は話しておかなければならない――とも思った。
そのとき、自分たちは重慶南方で基地の設営に当たっていた。
数日前に、米軍が中国政府軍の基地に戦術核を撃ち込んだため、前線から多くの友軍負傷者や避難民が逃れてきた。その負傷者や避難民を基地内の仮施設に収容しながら、敵軍の攻撃を防ぐというのが、自分たちに与えられた任務だった。政府軍の報復核攻撃も予想されたので、急遽、シェルターの建設にもとりかかっていた。
そのシェルター建設が、ほぼ8割がた出来上がったとき、突然、警報が鳴り響いた。
「ミサイル飛来、全員退避!」
その号令に、みんながわれ先にシェルターに逃げ込もうとした。その混乱の中、「負傷者の救出が先だろう」と叫んだ男がいた。
その声に、何人かの隊員が足を止めた。その中に、自分も含まれていた。
足を止めた隊員たちは、負傷者や難民が収容されているプレハブ小屋に向かい、歩ける者には肩を貸し、歩けない負傷者は担架に乗せたり背負ったりして、シェルターに運び込んだ。それを一往復、二往復……ほとんどの負傷者を運び終えたとき、「あと、5人ほど残ってます」とだれかが叫んだ。
「よし、オレが行く。2、3人、手を貸してくれ」
最初に「負傷者の救出を」と叫んだ飯尾1等陸曹が駆け出し、真弓たち3人の隊員がその後に従った。
その瞬間、頭上で白い閃光が光った。光を感じると同時に、自分たちの体は何メートルも吹き飛ばされた。
気がついたときには、顔も、腕も、背中も、包帯でグルグルに巻かれて、病院に横たわっていた。
山辺俊介や息子の努は、真弓の武勇伝を聞きたがった。それを語ることは、真弓にとって、ある意味、苦痛でもあった。
特に、被曝の瞬間の話をすることには、心理的にも、肉体的にも抵抗があった。しかし、この真実は話しておかなければならない――とも思った。
そのとき、自分たちは重慶南方で基地の設営に当たっていた。
数日前に、米軍が中国政府軍の基地に戦術核を撃ち込んだため、前線から多くの友軍負傷者や避難民が逃れてきた。その負傷者や避難民を基地内の仮施設に収容しながら、敵軍の攻撃を防ぐというのが、自分たちに与えられた任務だった。政府軍の報復核攻撃も予想されたので、急遽、シェルターの建設にもとりかかっていた。
そのシェルター建設が、ほぼ8割がた出来上がったとき、突然、警報が鳴り響いた。
「ミサイル飛来、全員退避!」
その号令に、みんながわれ先にシェルターに逃げ込もうとした。その混乱の中、「負傷者の救出が先だろう」と叫んだ男がいた。
その声に、何人かの隊員が足を止めた。その中に、自分も含まれていた。
足を止めた隊員たちは、負傷者や難民が収容されているプレハブ小屋に向かい、歩ける者には肩を貸し、歩けない負傷者は担架に乗せたり背負ったりして、シェルターに運び込んだ。それを一往復、二往復……ほとんどの負傷者を運び終えたとき、「あと、5人ほど残ってます」とだれかが叫んだ。
「よし、オレが行く。2、3人、手を貸してくれ」
最初に「負傷者の救出を」と叫んだ飯尾1等陸曹が駆け出し、真弓たち3人の隊員がその後に従った。
その瞬間、頭上で白い閃光が光った。光を感じると同時に、自分たちの体は何メートルも吹き飛ばされた。
気がついたときには、顔も、腕も、背中も、包帯でグルグルに巻かれて、病院に横たわっていた。

「かっけぇ!」
真弓が話し終えると、努が声を挙げた。
それを俊介が「コラッ!」と戒めた。
「バトル・ゲームをやりに行ったわけじゃないんだゾ。真弓おじちゃんだって、こんなケガを負って、ヘタしたら命を落としてたんだからな」
そう言って息子の暴走を止めにかかった父親だったが、興味の持ち方は、似たようなものだった。
「そのときの4人で助かったのは?」
「そのとき、地上には、全部で10人ほどの隊員がいた。最後に救護に向かった4人の他に、警護についていたのが6人か7人。そのうち3人が即死した。後から飛び出した3人は、シェルターのために掘った穴から飛び出そうとしたときに閃光を浴びたので、上半身だけの被曝ですんだんだけど、先頭で飛び出していった飯尾1等陸曹は、全身にモロに放射線を浴びて……」
「死んじゃったの?」と、努が顔を曇らせた。真弓が「ウン」とうなずくと、努は、半分、泣きそうな顔になりながら言うのだった。
「でも、そのおじちゃん、カッコいいよね。先頭に立って走って行ったんでしょ? オレについて来い――って。かっけェよ、やっぱ」
「そうだね」と努の頭を撫でながら、真弓は、しっかりとその目を見つめた。
「でもな、努クン、これだけは覚えとくんだよ。戦争で死ぬのをカッコいいなんて、絶対に思っちゃいけない。爆弾に吹き飛ばされた人間なんて、肉は飛び散ってしまうし、骨はむき出しになってるし、目の玉は飛び出して、脳みそだってはみ出してしまってる。戦場に『美しい死』なんてないんだよ。それにね、これがいちばん大事なこと。戦場で死ぬってことはね、その人の帰りを待っているすべての人の心を悲しませ、苦しませることになる。飯尾1等陸曹にも、ひたすら帰りを待っている病気のお母さんがいた。あと半年で結婚する予定だった恋人もいた。そして、一緒に仕事をしていた仲間も、いつも肩を組んでは遊んでいた友だちもいた。そういう人たちのすべてが、どれだけその死を悲しむか、それを忘れちゃいけないゾ」
横から俊介が「そうだゾ、努」と言って頭を小突いた。
「おまえが将来、もしも戦争に行って、死んだりしたら、いちばん悲しむのは、ここにいる父さんや母さんなんだからな」
コクリとうなずいた努の目からは、大粒の涙がこぼれた。

その夜、真弓は、望海を真ん中に、麻衣と3人並んで床に入った。
久しぶりに嗅ぐ麻衣の部屋の匂いだった。
「ショージキ、どう思ってた?」と、真弓は麻衣の顔をのぞき込んだ。
「何を?」
「ボクは死んだと思ってた?」
「あなたのスマホから無言電話がかかってきたときには、ヤバイって思った。80%くらい、もうダメかも……って思ったわ」
「ボクも、もうダメかと思ってた。ボクたちはこのまま、その存在を消されてしまうんじゃないか――と思ったりもした」
「政府も発表しないし、ニュースも伝えないし、被曝者がいるのか、どこでどうしているのか、私たちには知る方法がなかったわ。でも、私は、絶対、生きて帰って来ると信じてた」
「キミが信じて、祈り続けてくれたおかげで、帰って来ることができたんだね。それで……何をしたんだって?」
「エッ、何……?」
「さっき、次郎クンが言いかけたこと。それ、言わないで――って、キミが止めたこと」
「ああ、あれはね……」と言いながら、麻衣は、望海の上から顔を耳もとに近づけてきた。
「エ・ッ・チ・断・ち……」
「エッ!?」と驚く真弓の耳に、麻衣は熱い息でささやいてきた。
「あなたが無事に帰って来るまで、だれともエッチしないって宣言したの」
「2年間も?」
「そう、2年間も。私のあそこは、もう、塞がっちゃったかもしれない」
「ウソだろ?」
「試してみる?」
そう言って、麻衣は、望海が寝ていることを確かめ、「シッ」と唇に指を当てて望海の体をまたぎ、真弓の体に自分の体を重ねてきた。
少し、脂肪がついたか――と感じながら、真弓はその体を抱き締めた。
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【右】『『チャボのラブレター』
2014年10月発売 定価122円
中学校の美しい養護教諭とボクの、淡い恋の物語です。
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教師のビンタが支配する教室から、突如、姿を消した美少女。卒業から40年経って、ボクはその真実を知ります。
【右】『『チャボのラブレター』
2014年10月発売 定価122円
中学校の美しい養護教諭とボクの、淡い恋の物語です。

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