西暦2072年の結婚〈47〉 首都炎上

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吉高ファミリーが九州に疎開した2週間後、
東京湾外に侵入した中国の潜水艦から
3発のミサイルが発射された。
そのうち1発が、東京上空で炸裂した。
首都は、核攻撃に炎上した——。
連載 西暦2072年の結婚
第47章 首都炎上

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小高い丘陵が大部分を占める九州東部に突き出た半島。その付け根に開けた、人口2万2千人ほどの小さな街。
人口減少に頭を抱える市は、転入者を増やす施策のひとつとして、中古住宅をリフォームして格安に貸し出していた。その中に、5LDKで家賃4万円という戸建て住宅があった。
立花真弓が中国に出兵して2カ月後の11月5日、吉高ファミリーは、その戸建て住宅に入居した。
東北地方の海沿いの街に疎開した日暮ファミリーとは、離れ離れになったが、ときどき連絡は取り合った。その電話で日暮修一がいつも口にするのは、立花真弓のことだった。
「あの人、ボクらみんなの代わりに、中国に行っちゃったような気がするんです」
徴集されるのは自分でもよかったし、山辺俊介でも草川次郎でもよかった。なのに、立花真弓に白羽の矢が当たってしまった。その真弓が無事に帰って来てくれないと、自分の心は、いつまでも、十字架を背負い続けることになる……という。
その思いは、吉高麻衣も同じだった。
しかし、麻衣が背負うのは十字架だけではない。真弓との間に生まれた希望の星もまた、守り続けなければならない。
「十字架を背負うということは、私にとって、目の前の小さな命を必死で守り抜くということでもあると思う。だからあなたも……」
麻衣の言葉に、修一も「そうだね」と、電話の向こうから力強い返事を返してきた。
南向きのリビングの窓を開けると、すでに色づき始めた木々で彩られた丘陵の台地が、台形の広がりを見せている。その奥には、奇岩を突き出して聳える小高い山々の起伏。どこからか、「キーツ、キキーッ」というモズの鳴き声が聞こえてくる。
のどかで平和な……と見える風景。こんなのどかな街で子どもたちを遊ばせながら、真弓の帰還を待つというのもわるくない。
もし、真弓が帰ってきたら、私は真っ先にその体を抱き締め、キスの雨を降らせるだろう。そして、彼の腕に望海を抱かせ、「これがあなたのパパよ」と何度も何度も、言ってきかせよう。
「いいところじゃないか」と彼が言ったら、この街で仕事を見つけ、定住することをすすめてみよう。そして、私たちは、この小さな街で、平和で穏やかな7人の生活を送る。
それもわるくない。しかし、もし、彼が「NO」と言ったら、みんなと相談して疎開生活を切り上げ、また、東京に戻るという選択もある。
だが、その「もし」は、あり得ない選択となった。
人口減少に頭を抱える市は、転入者を増やす施策のひとつとして、中古住宅をリフォームして格安に貸し出していた。その中に、5LDKで家賃4万円という戸建て住宅があった。
立花真弓が中国に出兵して2カ月後の11月5日、吉高ファミリーは、その戸建て住宅に入居した。
東北地方の海沿いの街に疎開した日暮ファミリーとは、離れ離れになったが、ときどき連絡は取り合った。その電話で日暮修一がいつも口にするのは、立花真弓のことだった。
「あの人、ボクらみんなの代わりに、中国に行っちゃったような気がするんです」
徴集されるのは自分でもよかったし、山辺俊介でも草川次郎でもよかった。なのに、立花真弓に白羽の矢が当たってしまった。その真弓が無事に帰って来てくれないと、自分の心は、いつまでも、十字架を背負い続けることになる……という。
その思いは、吉高麻衣も同じだった。
しかし、麻衣が背負うのは十字架だけではない。真弓との間に生まれた希望の星もまた、守り続けなければならない。
「十字架を背負うということは、私にとって、目の前の小さな命を必死で守り抜くということでもあると思う。だからあなたも……」
麻衣の言葉に、修一も「そうだね」と、電話の向こうから力強い返事を返してきた。
南向きのリビングの窓を開けると、すでに色づき始めた木々で彩られた丘陵の台地が、台形の広がりを見せている。その奥には、奇岩を突き出して聳える小高い山々の起伏。どこからか、「キーツ、キキーッ」というモズの鳴き声が聞こえてくる。
のどかで平和な……と見える風景。こんなのどかな街で子どもたちを遊ばせながら、真弓の帰還を待つというのもわるくない。
もし、真弓が帰ってきたら、私は真っ先にその体を抱き締め、キスの雨を降らせるだろう。そして、彼の腕に望海を抱かせ、「これがあなたのパパよ」と何度も何度も、言ってきかせよう。
「いいところじゃないか」と彼が言ったら、この街で仕事を見つけ、定住することをすすめてみよう。そして、私たちは、この小さな街で、平和で穏やかな7人の生活を送る。
それもわるくない。しかし、もし、彼が「NO」と言ったら、みんなと相談して疎開生活を切り上げ、また、東京に戻るという選択もある。
だが、その「もし」は、あり得ない選択となった。

吉高ファミリーが疎開して九州東部の街で暮らし始めた2週間後、東京湾沖に侵入した中国政府軍の潜水艦から、3発のミサイルが発射された。
その弾頭には、戦術核が装着されていた。1発は、国防軍の迎撃ミサイルで撃ち落とされ、1発は米軍の迎撃ミサイルで破壊された。しかし、1発が、日米の防空網をかいくぐった。
それが首都の上空に到達し、そして、核弾頭が破裂した。狙われたのは、横田の基地だった。爆心から半径1キロの範囲が完全に破壊され、その範囲内にいた人間は、シェルターに避難した人間以外、ほぼ即死した。さらにその外側、半径3・5キロ内の建物が倒壊または炎上して、その範囲内にいた人間は、火傷や外傷を負い、深刻な放射線被害を被った。
死者は10万人を超え、負傷者数は50万人を超えるだろう――というのが、メディアの報道だった。
米軍は、報復弾を北京に撃ち込み、その報復弾が、今度は、香港に撃ち込まれた。
このままでは、戦術核は戦略核へとエスカレートし、世界は破滅の縁へと突き進んでしまう。
危機感を募らせた世界が動いた。独仏露の3カ国が米中両国の仲裁に乗り出し、ただちに戦術核の使用を中止するよう、両国に申し入れた。
すでに多大な犠牲者を出していた両国は、その申し入れを受け入れ、とりあえず30日間の停戦協定が結ばれた。その停戦の間に、両国に独仏ロも加わって、本格的な休戦へ向けて条件をすり合わせようということにまとまった。
その協議には、「自由中国軍」の代表も加わったが、米国とともに戦闘に参加していた日・英・豪の3カ国は、ただの米国追従者であるという理由で、協議から除外された。
それに抗議する力は、もう、日本政府には残っていなかった。
国内は、ほとんど無政府状態に陥っていた。首都が核攻撃を受けたのは、政府が安易に対米追随外交を貫いた挙句、中国に出兵までしてしまったからだ。しかも、頼みの米軍は、友軍に知らせもせずに、前線で戦術核を使用し、前線で敵軍と対峙していた英軍部隊や豪軍部隊にも、放射線被害をもたらした。
そのことに抗議する反米運動が、イギリスやオーストラリア国内でも起こっていた。
そして、日本でも……。

「ニッポンのトーキョーに、A-bomb落ちた。たくさん、ヒト、死んだ」
立花真弓は、そのニュースをベトナム人の看護師から聞いた。
「エッ、東京に? 東京のどこ?」
「TVは、ヨコタ、言ってる。あなた、ファミリーいるか?」
「いる。5人、いや、たぶん……6人いる」
「ビッグ・ファミリーね。それ、ダイジョーブか?」
「わからない。日本の新聞、あるか?」
しかし、ベトナムの診療所に日本語の新聞など置いてあるはずがない。病室には、TVも置いてない。
「でも、日本のこと、少し書いてあるよ。読むか?」
看護師が持ってきてくれたのは、ベトナムで発行されている英字新聞だった。
その一面に掲載された写真を見て、真弓は目を疑った。
真弓も出かけたことのある国会を取り巻くデモ隊。
しかし、その人数のケタが違う。
100万人のデモ隊、日本の国会を占拠!
見出しには、そう記されていた。
得意とは言えない英語だが、何とか大意はつかめた。
デモには国防軍の不満分子も加わって、国会を占拠。日本の警察は鎮圧をあきらめて、事態を傍観。日本の内閣は総辞職し、事実上、日本国は一時的に無政府状態となったが、すぐに、野党と国防軍反乱分子の一部が手を組んで、臨時政府を樹立した。
記事には、そう記してあった。
その国会写真の脇に、焼け野原となった東京西部の爆心地近くの写真が掲載されていた。
「広島・長崎と同じだ」と真弓は感じた。
自分が生きているうちに、再び、こんな惨劇が実際に起こってしまうとは。
立花真弓は言葉を失い、目の奥からは止めようもなく、熱い物があふれ出た。
「I offer my respect and sorrow to you and people of your country,from my heart.(あなたとあなたの国の人たちに、心からお悔やみ申し上げるわ)」
そう言って頭を抱き締めてくれた看護師の胸に顔を埋めて、真弓は嗚咽した。
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教師のビンタが支配する教室から、突如、姿を消した美少女。卒業から40年経って、ボクはその真実を知ります。
【右】『『チャボのラブレター』
2014年10月発売 定価122円
中学校の美しい養護教諭とボクの、淡い恋の物語です。

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