西暦2072年の結婚〈44〉 J-ALERTの鳴り響く朝

この小説には性的表現が含まれます。18歳未満の方はご退出を。
立花真弓は無事なのか? 国防省に
問い合わせても、「個別の安否については
答えられない」と素っ気ない。
そんなある日、首都圏の空に警報音が
鳴り響いた。J-ALERTの警報だった。
連載 西暦2072年の結婚
第44章 J-ALERTの鳴り響く朝

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立花真弓は無事なのか?
国防省に電話を入れてみたが、広報室の担当者の答えは、「個別の隊員の安否についてはお答えできない」と素っ気ない。
「徴集しておきながら、その安否について答えられないとは、どういうことですか?」
食い下がる吉高麻衣に、広報部の担当者が返した返事は、「お知りになりたかったら、本省HPで確認してください」だった。
恐る恐るHPにアクセスしてみると、「戦闘犠牲者」というコーナーがあった。そこをクリックすると、「これまでの死傷者」「本日の死傷者」というページが立ち上がる。
《〇月〇日 1等陸士・〇〇〇〇 爆死 〇〇省〇〇県》
《〇月〇日 2等陸曹・〇〇〇〇 被弾にて負傷 〇〇省〇〇市》
そこに並んでいるのは、何の感情も込められてないただのデータだった。
不気味なほどに冷淡で、恐ろしく事務的なデータの羅列。そこから、家族の消息を読み取れ――ということか? そう思うと、腹の底が煮えくりかえってきた。
戦死者の家族には、後日、「戦死通知書」が送られてくる。それが届いてないということだけが、吉高麻衣の救いだった。
国防省に電話を入れてみたが、広報室の担当者の答えは、「個別の隊員の安否についてはお答えできない」と素っ気ない。
「徴集しておきながら、その安否について答えられないとは、どういうことですか?」
食い下がる吉高麻衣に、広報部の担当者が返した返事は、「お知りになりたかったら、本省HPで確認してください」だった。
恐る恐るHPにアクセスしてみると、「戦闘犠牲者」というコーナーがあった。そこをクリックすると、「これまでの死傷者」「本日の死傷者」というページが立ち上がる。
《〇月〇日 1等陸士・〇〇〇〇 爆死 〇〇省〇〇県》
《〇月〇日 2等陸曹・〇〇〇〇 被弾にて負傷 〇〇省〇〇市》
そこに並んでいるのは、何の感情も込められてないただのデータだった。
不気味なほどに冷淡で、恐ろしく事務的なデータの羅列。そこから、家族の消息を読み取れ――ということか? そう思うと、腹の底が煮えくりかえってきた。
戦死者の家族には、後日、「戦死通知書」が送られてくる。それが届いてないということだけが、吉高麻衣の救いだった。

TVも新聞も、連日のように、日本部隊の被曝について現地からの情報を伝えていた。
何寧に特派員を派遣したメディアもあったが、すぐに退避命令が下された。大規模な空爆が予想されるからという理由だったが、理由はそれだけではないだろうと推測する報道もあった。
政府は何かを隠そうとしている。もしかしたら、それは、日本部隊が受けた核攻撃に関する何かではないか。それを隠そうとすることは、受けた被害が甚大なのではないか。それを報道されると、国内での反戦気分に油を注ぐことになるので、政府は情報を隠蔽しようとしているのかもしれない。
そんな憶測報道も飛び交った。
「全力で情報の収集にあたっている」と発表して以来、政府からは何の公式発表もない。核攻撃が事実かどうかの発表もない。派遣された日本部隊がどんな被害を受けたのか、負傷者がどこに収容されているのかについても、いっさい発表がない。
「情報を公開せよ!」
「派遣部隊の即時撤退を!」
国会前は、連日、数十万のデモ隊で埋め尽くされた。その性質が変わり始めていた。
最初は、「戦争反対」を訴える反戦運動的な色彩が強かったが、それに「内閣総辞職」を求める声が加わり、「倒閣運動」という性質を帯び始めていた。
「国会解散!」「岸山、辞めろ!」――人々の叫ぶ声が、国会正門前から霞ヶ関一帯までを埋め尽くし、ビルの谷間にこだまして、うねりとなった。
もはや、その動きは、警察力だけでは止めようがない。
政権与党の中からは、国防軍の治安出動を求める声も挙がったが、それをやると、国防軍の中から反乱分子が出るかもしれないとの懸念がもらされ、見送られた。
2062年に「非常時国防人員徴集法案」を強行採決させて以来10年余、ひたすら右傾化路線を歩み続けてきた長期政権・岸山内閣は、もう保たないかもしれない。そんな声がささやかれ始めたある日、首都圏の空に、突然、不気味な警報が鳴り響いた。

《ミサイルの飛来が確認されました。
地上にいる人は、地下街または建物の中に避難してください》
「J-ALERT」の緊急避難警報だった。
自宅にシェルターを備えている上流層は、あわててシェルターの中に逃げ込んだ。
地上を歩いていた人たちは、地下街や地下鉄の構内、ビルの中に逃げ込んだ。
麻衣は、走って保育園に向かおうとした。
しかし、いまから走って迎えに行っても、往復に30分はかかる。ヘタすると、路上を移動中に被曝することになるかもしれない。保育園なら、ハウスにいるよりはよほど安全ではないか。草川次郎に説得されて、思いとどまった。
家の中でもっとも安全な場所はどこか?
「階段下の納戸」
言い出したのは次郎だった。そこなら、荷物を少し整理して身を屈めれば、おとな2人と赤ん坊1人ぐらいは入れる。ふたりであわてて詰め込まれた荷物を外に出し、望海を胸に抱いた麻衣と次郎は、納戸にもぐり込んでひざを抱えた。
10分も経たないうちに、ミサイルは首都の上空に到達して、弾頭が核爆発を起こす。
爆心に近ければ、この建物など爆風で飛ばされ、みんな放射能の熱線を浴びてしまうだろう。
お願い、助けて!
祈った相手は、神なのか仏なのか、わからない。
その頭の中で「大丈夫だよ」とニッコリほほ笑んでいたのは、立花真弓の顔だった。
手を組み合わせ、震えながら祈る腕の中で、幼い命が乳房にしがみついている。
リビングに掛けた時計が、ボーン、ボーン……と、時報を告げている。
1、2、3……。
麻衣は、その数を数えた。
10数えたとき、再び、J-ALERTの警報音が鳴り響いた。
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【右】『『チャボのラブレター』
2014年10月発売 定価122円
中学校の美しい養護教諭とボクの、淡い恋の物語です。
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