さらば、ミスター・レディ

超ガラ空きの急行列車の車両を近づいてくる
ミニスカートの美女。
その足が、私の前でピタリと止まった。
私の隣にその女が腰を下ろす。しかし、その女は……
R18 このシリーズは、性的表現が中心の官能読み物です。18歳未満の方はご退出ください。
エロ 官能小説 オーガズム 不倫

それは、私が大学生になったばかりの頃の、夏休みの話。
東京から九州の郷里まで、急行列車で帰省することにした私は、ゆっくり座っていけるからという理由で、季節列車を利用することにした。
新幹線は、まだ、東京―新大阪間のみの時代。しかし、新幹線⇒在来線の乗継では高くつく。直通の特急もあったが、こちらも高くつく。飛行機なんてとんでもない。
なにしろ、貧乏学生である。急行を使えば、乗車券2300円+急行券500円だけで、郷里まで帰れる。時間は21時間ほどかかるが、それだけ時間があれば、だれにもじゃまされずに、ゆっくり本が読める。
というわけで、乗った急行列車だったが、なにしろ帰省のピークを過ぎた平日の季節便である。
車内は、ガランとしていた。一車両に乗客はひとりずつくらいしかいない。
いくら何でも空きすぎだろう――と思ったが、ま、そのぶん、座席にはゆったり座れる。
向かいのシートに足を伸ばし、列車内で読む予定の本3冊を窓際の小テーブルに乗せて、最初の一冊目を3分の1ほど読み進んだときだった。
列車は、横浜を過ぎ、小田原を過ぎて、熱海にさしかかった頃だったと思う。
ふと目を上げると、ひとつ前方の車両の通路を、フラフラと漂ってくる物体が目に留まった。
物体ではなかった。
人間だった。
黄色のミニスカートの上に、大きく胸の開いたタンクトップ、その上から黄色のジャケットを羽織った女が、前方の車両から連結部分を越えて、こちらの車両に入ってくるのが見えた。
その姿は、季節外れの急行列車の、閑散とした車内には、およそ似つかわしくない。
なんだ、このド派手な女は――と見ているうちに、女はどんどん、私のほうに近づいてくる。
チラ……と目が合った。
あわてて目を逸らしたが、女の足は、私の前まで来ると、ピタリと止まった。
東京から九州の郷里まで、急行列車で帰省することにした私は、ゆっくり座っていけるからという理由で、季節列車を利用することにした。
新幹線は、まだ、東京―新大阪間のみの時代。しかし、新幹線⇒在来線の乗継では高くつく。直通の特急もあったが、こちらも高くつく。飛行機なんてとんでもない。
なにしろ、貧乏学生である。急行を使えば、乗車券2300円+急行券500円だけで、郷里まで帰れる。時間は21時間ほどかかるが、それだけ時間があれば、だれにもじゃまされずに、ゆっくり本が読める。
というわけで、乗った急行列車だったが、なにしろ帰省のピークを過ぎた平日の季節便である。
車内は、ガランとしていた。一車両に乗客はひとりずつくらいしかいない。
いくら何でも空きすぎだろう――と思ったが、ま、そのぶん、座席にはゆったり座れる。
向かいのシートに足を伸ばし、列車内で読む予定の本3冊を窓際の小テーブルに乗せて、最初の一冊目を3分の1ほど読み進んだときだった。
列車は、横浜を過ぎ、小田原を過ぎて、熱海にさしかかった頃だったと思う。
ふと目を上げると、ひとつ前方の車両の通路を、フラフラと漂ってくる物体が目に留まった。
物体ではなかった。
人間だった。
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その姿は、季節外れの急行列車の、閑散とした車内には、およそ似つかわしくない。
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あわてて目を逸らしたが、女の足は、私の前まで来ると、ピタリと止まった。
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「あら、ここに座っちゃおうかしら」
女の口からもらされた声を聞いて、私は「ヤバい!」と思った。
口調とは裏腹の野太い声。
男だ――と思った瞬間、私は席を立とうかと思った。
その車両には、私のほかに乗客はいない。座席はいくらでもある。「他にも、席はあるでしょ」と思うのだが、だからと言って、「あっちに行け」と要求する根拠は、私にはない。
女は――というか、そのミスター・レディは、私に並んで腰を下し、右脚を左脚の上に乗せて脚を組み、つま先を私の伸ばした脚の下にもぐらせて、ブラブラさせた。ミニスカートは、ももの付け根近くまでめくれ上がっている。
見ちゃいけない、見ちゃいけない……。
念仏のように唱えながら、私は、読みかけの本に集中しようとするのだが、目にする活字が、一向に頭に入っていかない。
「ねェ……」
ミスター・レディが、鼻にかかった甘ったるい声で話しかけてくる。
ダメ! 答えちゃダメ!――と、懸命に意識の耳に栓をする。
「ねェ、何、読んでるの?」
「…………」
「むずかしそうな本なのね。だれが書いた本なの?」
カール・マルクス、エンツェンスベルガー、それにポール・ニザン。思わず答えそうになったが、答えると、「それ、どういう人なの?」と来るに決まっている。
一刻も早く、立ち去ってもらいたいので、私は無言を貫いた。
「ねェ……」
私が無言を貫いていると、今度は、体ごとすり寄せながら、なおも甘い声をかけてくる。
この人、いくつぐらいなんだろう――と、私は思った。
声の調子から言っても、目の端に飛び込んでくる脚の肌の荒れた感じから言っても、そう若いとは思えない。40とか50とか、それぐらいの歳ではないだろうか……?
もう若くはなく、こんな季節外れの急行列車の車内で、男を見つけては体をすり寄せてくるミスター・レディ。
その存在が、どうしようもなく悲しいものに感じられて、私は、ますます口がきけなくなってしまった。

このミスター・レディ、どこまで行くつもりなんだろう?
どこへ、何をしに?
もしかして、自分と同じように、郷里へ向かおうとしているのだろうか?
しかし、そんな異形の男を温かく迎え入れてくれる郷里が、はたしてあるのか?
そんなことを考えていると、冷たくあしらっていることが、なんだか、申し訳ない――という気もした。
しかし、ヘタに返事をしたら、このミスター・レディは、もっと自分にすり寄ってくるに違いない。それは、イヤだ。
結局、私は、何を言われても、口を閉ざしているしかなかった。
「あ、そう……」
名もないミスター・レディは、組んでいた脚を元に戻した。
「こんな化け物とは、口もききたくないって……?」
完全に、男の声に戻っていた。
「そんな大層な本を読んでるくせにさ、こんな薄汚いおかまとは口もききたくないって? あ~あ、こんな電車、乗るんじゃなかったわ」
急行列車は、沼津を過ぎて静岡にさしかかっていた。
急行の停車駅だ。
「あ~あ。いやだ、いやだ。世の中は差別だらけ。生きてるのがイヤになっちゃうわ……」
そう言って、ミスター・レディはゆっくり腰を上げた。
止めるならいまのうち――と思ったが、その勇気はなかった。
「じゃね、坊や」
ミスター・レディは、立ち上がると、通路を次の車両に向かって歩いて行く。
たぶん、その車両にも、この人を受け入れてくれる人はいないだろう。
グッド・ラック……。
口の中でつぶやきながら、ちょっぴり、胸の奥が痛み、そして安堵した。
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【左】 『聖少女~六年二組の神隠し』
2015年7月発売 定価/122円
教師のビンタが支配する教室から、突如、姿を消した美少女。卒業から40年経って、ボクはその真実を知ります。
【右】 『チャボのラブレター』
2014年10月発売 定価122円
美しい養護教諭と「ボク」の、淡い恋の物語です。
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美しい養護教諭と「ボク」の、淡い恋の物語です。

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