シランケンの不純愛講座　西暦2072年の結婚〈28〉「自分の子」を産ませたいですか？

西暦2072年の結婚〈28〉「自分の子」を産ませたいですか？

　Ｒ18　
この小説には性的表現が含まれます。18歳未満の方はご退出を。

「お助け主夫コース」。そのネーミングに
惹かれて「Ｉ＆Ｙｏｕ」のマッチングを
受けたさやかと朋美は、主夫候補・修一が
発した最初の質問に驚愕し、感動した。
「好き嫌いはあるか？」と男は尋ねたのだ。

　連載　　西暦2072年の結婚　
　第28章　「自分の子」を産ませたいですか？

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この話は、連載28回目です。この小説を
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　「実は、いま、主夫を希望される男性が増えているんですよ」
　カウンセリングに訪れた三上さやかと園田朋美に直美コンシェルジュが語ったのは、意外な事実だった。
　「いまから50年以上も前に、１億総活躍とか言って、男だけでなく、女も外に出て働きなさい――っていう政策を進めた総理大臣がいたらしいのですが、それ以来、外に出て働く女性が増え、外に出て働く女性が増えるにしたがって、じゃ、自分は家にいて家事に専念するほうがいい、そっちのほうがラクだ――と考える男性も、増え始めたと言われてるんですよね」
　直美コンシェルジュによると、「一夫多妻」型の夫婦は、大きく２つに分かれる。ひとつは、財力に余裕のある男性が複数の女性を一緒に住ませて扶養する「ハーレム」型。もうひとつは、複数の女性がひとりの「主夫」を扶養して育児や家事をまかせるという「共同主夫」型。「ハーレム」型は減少する一方だが、「共同主夫」型はここへ来て増えている。「Ｉ＆Ｙｏｕ」が企画した「お助け主夫コース」も、その「共同主夫」型のひとつのパターンだった。
　「主夫希望」として登録している男性の多くは、すでに、１人以上の妻と結婚している。求めているのは、２人目や３人目、４人目の妻だった。
　「主夫」として生計を立てていくには、妻１人だけでは厳しい。最低でも３人はいないと、自分の収入が確保できない。運営方法はファミリーによって異なるが、たいていの場合は、妻たちが収入の６～７割を家計費として主夫に渡し、それで家賃、水道光熱費、食費、衛生費、雑費などをまかない、衣服費や化粧品代、娯楽費、外食費、交際費、通信費などは、妻たちが自分の手元に残した３～４割の持ち分でまかなう――というスタイルをとっているところが多い。
　「一妻多夫型」の場合は、「一妻」が夫たちの収入を、いったんすべて家計費に入れさせ、そこから10～20％程度を小遣いとして夫に渡すというスタイルをとるファミリーが多いが、「一夫多妻型」の場合は、「多妻」たちが収入のうちの一定額＝定額または一定の割合＝定率を、家計費として夫に渡すスタイルをとるところが多い。
　その違いを生じる理由を、直美コンシェルジュは解説してみせた。
　「お金の管理に関しては、女性のほうがしっかりしてますからね。みなさんもそうでしょ？」
　そりゃそうよね――と、ふたりの妻候補たちはうなずいた。

　「おふたりにピッタリかもしれません」と、直美コンシェルジュがリストの中から選び出したのが、日暮修一だった。
　「面白いんですよ。この方、大手の証券会社にお勤めだったんですが、人のお金を右から左へと動かしているだけの仕事に、自分は何も作り出してない、人の欲をむなしく刺激しては利ザヤをかすめるだけの仕事なんて、人間のやる仕事じゃないっておっしゃって、会社を飛び出してしまったんです」
　「ヘーッ」と、三上さやかも園田朋美も目を丸くした。日暮修一が所属していた「ＳＹ証券」と言えば、大手中の大手。そこで顧客の資金を動かすエリート部署に所属しながら、その職を棒に振って、「主夫」の道を選んだという男に、ふたりとも興味を抱いた。
　そして、マッチングに臨んでみようということになった。

　　　　　　　　　　　　

　立花真弓と吉高麻衣も受けた「Ｉ＆Ｙｏｕ」のマッチング・ルームでのマッチング。
　そこで会った日暮修一という男は、一見、頼りなさそうに見えた。世間では「草食系」と呼ばれるようなしょうゆ顔で、とても３人も４人もの妻を男として牛耳ろうというタイプには見えない。そのことに、むしろ、ふたりは安堵した。
　マッチングの席で、男がまずふたりに尋ねたことも意外だった。
　「好き嫌いありますか？」
　「趣味は？」とか「男性に望むことは？」とかではなく、まず、「食事の好き嫌い」を問われた。戸惑うふたりに、男は言うのだった。
　「あ、いきなりごめんなさい。でもね、主夫としてみなさんの生活をサポートしようとするときに、いちばん問題になるのは、そこですから」
　男によれば、「食」は、複数の人間が共同生活を送るときの、もっとも重要なジョイント要素だと言う。そこが合わないと、共同生活そのものが成り立たない。実践的で、説得力ある、日暮修一の説明に、さやかも朋美もうなずいた。
　「ひとつだけ、確認しておきたいことがあるんですが……」
　慎重に口を開いたのは、三上さやかだった。
　「私たちは、どちらもシングルマザーで、すでにひとりずつ子どもがいるんですが、日暮さんは、私たちとの間にご自分の子どもを設けることを望まれますか？」
　ふたりにとって、それはとても切実な問題だった。三上さやかは「もうひとりぐらい産んでもいい」と思っていたが、園田朋美は「ひとりでたくさん」と思っていた。
　「そうですね……」
　腕を組んで考えるしぐさを見せた日暮修一が、その口から紡ぎ出した言葉は、ふたりを驚かせ、そして、感動させた。
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