西暦2072年の結婚〈25〉 「家政夫」の条件

この小説には性的表現が含まれます。18歳未満の方はご退出を。
一緒に暮らしている父親が
「生物学的父親」である吉高ファミリーと、
「生物学的」な父親はバラバラである
日暮ファミリー。2つのファミリーの間には、
共通点もあったが、相違点もあった——。
連載 西暦2072年の結婚
第25章 「家政夫」の条件

最初から読みたい方は、こちら から、前回から読みたい方は、こちら からどうぞ。
複数の男が稼ぎを持ち寄って、妻であり母となるひとりの伴侶を養う「一妻多夫型」の複婚ファミリー、吉高ファミリー。その向かいに越してきたのは、すでに母となっている複数の女たちが、共同でひとりの「主夫」を雇用する「一夫多妻型」の複婚ファミリーだった。
共通しているのは、男女が資金を持ち寄ってひとりの伴侶を共有するという形だ。
それを、日暮ファミリーでは「雇用」と呼んでいる。
「雇用かぁ……」と、山辺俊介がため息をついた。
「じゃ、うちの場合は、オレたちが麻衣さんを雇用しているということになるんですかねェ」と、草川次郎が感慨深そうに言う。
「どっちかって言うと、オレたちは徴収されてるような気がするけどなぁ」
「あら……」と、麻衣が不服そうな声をもらした。
「私は、徴収なんかしてる覚えはないけど……」
「夫」を雇用しているという日暮家と、「妻」を共同扶養している吉高家。男女の違いはあるものの、それを経済活動として見ると、雇用と被雇用という関係が成立しているとも考えられる。
日暮家は、複数の妻たちがひとりの「夫」を雇用しているのだし、吉高家は、複数の夫たちがひとりの「妻」を雇用しているのだ――とも言える。
「でも、ひとつだけ、違っているところがあるよね」
真弓が言うと、「そうね。大きな違いだわ」と麻衣が口を添えた。
「エッ、何?」と、俊介と次郎が顔を見合わせた。
「子どもたちの生物学的親」
真弓がボソッとつぶやくと、「あ、そうか」と俊介がうなずいた。
共通しているのは、男女が資金を持ち寄ってひとりの伴侶を共有するという形だ。
それを、日暮ファミリーでは「雇用」と呼んでいる。
「雇用かぁ……」と、山辺俊介がため息をついた。
「じゃ、うちの場合は、オレたちが麻衣さんを雇用しているということになるんですかねェ」と、草川次郎が感慨深そうに言う。
「どっちかって言うと、オレたちは徴収されてるような気がするけどなぁ」
「あら……」と、麻衣が不服そうな声をもらした。
「私は、徴収なんかしてる覚えはないけど……」
「夫」を雇用しているという日暮家と、「妻」を共同扶養している吉高家。男女の違いはあるものの、それを経済活動として見ると、雇用と被雇用という関係が成立しているとも考えられる。
日暮家は、複数の妻たちがひとりの「夫」を雇用しているのだし、吉高家は、複数の夫たちがひとりの「妻」を雇用しているのだ――とも言える。
「でも、ひとつだけ、違っているところがあるよね」
真弓が言うと、「そうね。大きな違いだわ」と麻衣が口を添えた。
「エッ、何?」と、俊介と次郎が顔を見合わせた。
「子どもたちの生物学的親」
真弓がボソッとつぶやくと、「あ、そうか」と俊介がうなずいた。

吉高家の場合、子どもたちにとっては、一緒に暮らしている父親と母親が、生物学的にも父親であり、母親である――という関係が成立している。これから、真弓と麻衣の間に子どもが生まれても、その関係は壊れない。
しかし、日暮家ではそうはならない。子どもたちの母親は、それぞれ生物学的にも母親だが、一緒に暮らす父親が生物学的にも父親であるとは限らない。
「そうかぁ……」と、次郎がいまさら気づいた――という感じで声を挙げた。
「AISM」の鈴木氏の話によれば、日暮家成立のきっかけは、元々は、シングルマザーであった女たちが「一緒に暮らそうか」と言い出したことにあった。つまり、そのときにはすでに、それぞれの子どもたちには、「生物学的父親」がいたということになる。
彼女たちに「家政夫」として雇用された日暮修一は、その事実を受け入れ、彼女たちの夫になると共に、血のつながらないその子どもたちの「父親」になることを決意した。
その寛容さとやさしさが、家政夫・日暮修一を成立させている、もっとも重要な条件と言っていいのかもしれない。
「しかしさぁ……」と、次郎が素朴な疑問を口にした。
「日暮家には、日暮さんのリアルな子どもはいないのかなぁ?」
それは、真弓も知りたいことだった。
日暮家の4人の妻と日暮氏が一緒に暮らし始めて3年が経つという。妻・1号のなつみの4歳の娘・楓、妻・2号のさやかの6歳の息子・健斗、妻・3号の朋美の5歳の息子・聡が、それぞれの連れ子であったことは、年齢から言っても想像がつく。
しかし、妻・4号の静香については微妙だ。その娘・菊香は、まだ2歳。時間的に言うと、子どもが生まれたのは、5人が一緒に暮らし始めてから――ということになる。
では、その父親は……?
「もしも……」と、次郎が、またも核心に触れる疑問を口にした。
「菊香ちゃんだけが、日暮さんのほんとうの子どもだとしたら、菊香ちゃんとその他の子どもを、日暮さんは、父親として平等に愛せるんですかね?」
なるほど、その問題はある。
しかし、もしそれができなければ、日暮氏は、ファミリーの父親にはなれないはずだ。
ほんとうのところはどうなのか?
真弓も、麻衣も、俊介も、それを知りたい――と思った。

ファミリーとファミリーが仲よくなっていくのに、決まった手順があるわけではない。
まず、子どもたち同士が仲よくなっていく。それに引っ張られて、親同士が仲よくなっていく。
きっかけは、サッカーだった。
俊介の5歳になる息子・努クンにせがまれて、真弓がハウスの前の空き地でボール蹴りの相手をしていると、音につられて向かいの家から2人の男の子が、様子をうかがうように出てきた。6歳の健斗クンと5歳の聡クンだった。
自分たちもやりたい――という顔をしているので、「やるかい?」と声をかけたると、「ウン」とうなずいて、ふたりがゲームに加わってきた。
真弓と努がやりとりするパスを、健斗クンと聡クンが奪いにくる。そんな形でゲームをしていると、そこへ日暮修一氏が顔をのぞかせた。
「私も加わっていいですか?」と言うので、「どうぞ」と勧めた。
最初は、日暮チームvs吉高チームのミニ・サッカーという形でゲームを進めたが、それだと3対2になって、バランスがとれない。結局、おとな2人対子ども3人でボールを奪い合うというゲームになった。
日暮修一は、どちらかと言うと華奢な体つきをしていたが、けっこう俊敏な動きを見せる。
「何かやってたんですか?」と訊くと、高校まではサッカーをやっていたと言う。「私も」と答えて、真弓と日暮修一の間には、サッカーという共通項が見つかった。
ボールを奪おうと必死に向かってくる子どもたちを相手に、遊び半分にボールを回して適当にあしらうぐらいの余裕は、まだ、真弓にも、日暮修一にもあった。
そうして、日が暮れるまでボール遊びに興じて、真弓と修一、3人の男の子たちの間には、男同士の世界ができ上がっていった。
「おまえの父ちゃん、やるじゃん」と健斗クンが努クンに言う。
「このおじさんは、ボクの父ちゃんじゃないよ。おじさんだよ」
「じゃ、おまえの父ちゃんは?」
「仕事に行ってるよ。もうすぐ帰って来るけど……」
「いいなぁ」と健斗クンが言う。
健斗クンの「いいなぁ」を聞いて、修一氏がちょっと顔をしかめて見せたのを、真弓は見逃さなかった。
⇒続きを読む
筆者の最新小説、キンドル(アマゾン)から発売中です。絶賛在庫中!

一生に一度も結婚できない「生涯未婚」の率が、男性で30%に達するであろう――と予測されている「格差社会」。その片隅で「貧困」と闘う2人の男と1人の女が出会い、シェアハウスでの共同生活を始めます。新しい仲間も加わって、築き上げていく、新しい家族の形。ハートウォーミングな愛の物語です。
「Kindle」は、「Amazon.com」が世界中で展開している電子本の出版・販売システム。「Kindle専用端末」があればベストですが、なくても、専用のビューアーをダウンロード(無料)すれば、スマホでも、タブレットでも、PCでも読むことができます。
下記タイトルまたは写真をクリックして、ダウンロードしてください。
2016年3月発売 定価:342円 発行/虹BOOKS
妻は、おふたり様にひとりずつ (小説)
既刊本もどうぞよろしく タイトルまたは写真をクリックしてください。



【左】『聖少女~六年二組の神隠し』
2015年7月発売 定価/122円
教師のビンタが支配する教室から、突如、姿を消した美少女。卒業から40年経って、ボクはその真実を知ります。
【右】『『チャボのラブレター』
2014年10月発売 定価122円
中学校の美しい養護教諭とボクの、淡い恋の物語です。
「Kindle」は、「Amazon.com」が世界中で展開している電子本の出版・販売システム。「Kindle専用端末」があればベストですが、なくても、専用のビューアーをダウンロード(無料)すれば、スマホでも、タブレットでも、PCでも読むことができます。
下記タイトルまたは写真をクリックして、ダウンロードしてください。
2016年3月発売 定価:342円 発行/虹BOOKS
妻は、おふたり様にひとりずつ (小説)
既刊本もどうぞよろしく タイトルまたは写真をクリックしてください。
2015年7月発売 定価/122円
教師のビンタが支配する教室から、突如、姿を消した美少女。卒業から40年経って、ボクはその真実を知ります。
【右】『『チャボのラブレター』
2014年10月発売 定価122円
中学校の美しい養護教諭とボクの、淡い恋の物語です。

管理人は、常に、フルマークがつくようにと、工夫して記事を作っています。
みなさんのひと押しで、喜んだり、反省したり……の日々です。
どうぞ正直な、しかしちょっぴり愛のこもった感想ポチをお願いいたします。



→この小説の目次に戻る トップメニューに戻る
- 関連記事
-
- 西暦2072年の結婚〈26〉シングルマザーになった理由 (2018/01/22)
- 西暦2072年の結婚〈25〉 「家政夫」の条件 (2018/01/16)
- 西暦2072年の結婚〈24〉 家政夫と4人の雇用主 (2018/01/10)