西暦2072年の結婚〈20〉 夫3人、言問いの夜

この小説には性的表現が含まれます。18歳未満の方はご退出を。
麻衣の部屋に通う順番をどうしようか?
男同士で話していると、麻衣が3色の紙を
3人の前に差し出した。「何、これ?」に
「クーポンよ」と言う。それを冷蔵庫の扉に
貼っておいてくれ、というのだった——。
連載 西暦2072年の結婚
第20章 夫3人、言問いの夜

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つい口にしてしまった「言問い方式」という言葉に、麻衣も、俊介も、次郎も興味を示した。
「言問いって、あの言問橋の言問い?」と、麻衣が目を輝かせた。
「そうそう。麻衣さんの言った万葉の時代から平安末期ぐらいまでっていうのは、女の家に男が通ってくる『通い婚』という形をとってたんだけど、通ってくる男は、ひとりとは限らなかったんだよね」
「ヘーッ、詳しいッすね、立花さん」と、俊介が身を乗り出してきた。
「フーン、それって、ここのハウスと似てるわねェ」と、麻衣が言う。
「でさ、男たちは、どうやって自分の想いを女に伝えたか、女はどうやって通ってくる男たちから夜伽の相手を選んだか――ってことなんだけど……」
「そこが知りたいの」と、麻衣が真弓の顔をのぞき込んだ。
「歌を詠んだらしいですよ」
「エッ、歌? あの五・七・五・七・七の?」
「君を想い カチンとなりぬ わがチンを 憐れと思え 心ある君――とか何とかさ」
「ウワッ、ヘタ!」と麻衣が声を挙げて笑い、それを見て次郎がニヤリと笑みを浮かべた。
「ま、そういう歌を詠んで、それが彼女のお気に召したら、どうぞお入りになってと、寝所に招き入れていたようですよ」
「風雅って言えば、風雅よねェ。うちもそれにしようか?」
そう言って全員の顔を見回す麻衣の目が、キラリ……と光った。その視線を浴びて、俊介は「イヤ、イヤ」というふうに手を振り、次郎はガクッと首を落とした。
「歌ごころないしなぁ……」と、真弓もため息をついた。
そういう男たちの様子を見て、麻衣がクスッと笑った。
「だろうと思った。なのでね、こんなの用意してみたの」
麻衣が取り出したのは、スカイブルー、イエローグリーン、ピンク、3色の正方形の紙片だった。それを、スカイブルーは俊介の前に、ピンクは次郎の前に、イエローグリーンは真弓の前に置いて、「よしっ」というふうに小鼻をふくらませる。
「な、何、コレ?」
3人が一斉に声を挙げて麻衣の顔を見た。
「クーポンよ」
「ク、クーポン?」
3人の夫たちは、それぞれの驚きをそれぞれの声の高さにして、コーラスを奏でた。
「言問いって、あの言問橋の言問い?」と、麻衣が目を輝かせた。
「そうそう。麻衣さんの言った万葉の時代から平安末期ぐらいまでっていうのは、女の家に男が通ってくる『通い婚』という形をとってたんだけど、通ってくる男は、ひとりとは限らなかったんだよね」
「ヘーッ、詳しいッすね、立花さん」と、俊介が身を乗り出してきた。
「フーン、それって、ここのハウスと似てるわねェ」と、麻衣が言う。
「でさ、男たちは、どうやって自分の想いを女に伝えたか、女はどうやって通ってくる男たちから夜伽の相手を選んだか――ってことなんだけど……」
「そこが知りたいの」と、麻衣が真弓の顔をのぞき込んだ。
「歌を詠んだらしいですよ」
「エッ、歌? あの五・七・五・七・七の?」
「君を想い カチンとなりぬ わがチンを 憐れと思え 心ある君――とか何とかさ」
「ウワッ、ヘタ!」と麻衣が声を挙げて笑い、それを見て次郎がニヤリと笑みを浮かべた。
「ま、そういう歌を詠んで、それが彼女のお気に召したら、どうぞお入りになってと、寝所に招き入れていたようですよ」
「風雅って言えば、風雅よねェ。うちもそれにしようか?」
そう言って全員の顔を見回す麻衣の目が、キラリ……と光った。その視線を浴びて、俊介は「イヤ、イヤ」というふうに手を振り、次郎はガクッと首を落とした。
「歌ごころないしなぁ……」と、真弓もため息をついた。
そういう男たちの様子を見て、麻衣がクスッと笑った。
「だろうと思った。なのでね、こんなの用意してみたの」
麻衣が取り出したのは、スカイブルー、イエローグリーン、ピンク、3色の正方形の紙片だった。それを、スカイブルーは俊介の前に、ピンクは次郎の前に、イエローグリーンは真弓の前に置いて、「よしっ」というふうに小鼻をふくらませる。
「な、何、コレ?」
3人が一斉に声を挙げて麻衣の顔を見た。
「クーポンよ」
「ク、クーポン?」
3人の夫たちは、それぞれの驚きをそれぞれの声の高さにして、コーラスを奏でた。

麻衣が3人の目の前に差し出した3色の紙片は、50ミリ四方ぐらいの正方形のポストイットだった。
夜、彼女の部屋に忍びたい男は、自分の色のポストイットをキッチンの冷蔵庫の扉に貼っておいてくれ。返事が「OK」であれば、その上に「スマイル」シールを貼っておく。「NO」の場合には「ごめんね」シールを貼っておく。自分が貼ったポストイットに「スマイル」シールが貼ってあれば、それで合意成立。
「これなら簡単でしょ?」と、麻衣はちょっと自慢げに胸を張った。
「違ぇねェ!」と俊介が唸った。
「なるほど。これなら、歌が詠めなくても言問いできますね」
真弓が感心してみせる横で、次郎が「でもさ……」と、力のない声でつぶやいた。
「それ、『公開・言問い』ってことになりますよね?」
「あ、そうか」と、俊介と真弓が声をそろえた。
「次郎ちゃん、また、断られてやんの。チョーかわいそう――とか思われるのが、イヤなんでしょ?」
俊介がからかうように言うと、「また……って何ですか!」と次郎がむくれて見せた。
「ま、そういうのも個人情報の一種だからねェ」
真弓が言うと、「隠しちまえばいいんじゃないですか?」と次郎が応じた。
「隠す――って、何で?」
「マグネットシートとか……」
「なるほど」と真弓が手を打ち、俊介も「ほォ」と唸った。
冷蔵庫に貼り付けられた「きょう、部屋に行きたい」というリクエストの「言問い」も、それに対する「YES」「NO」という彼女の返答も、マグネットシートで覆い隠してしまう。シートをめくって見ない限り、他人は、リクエストがあったかどうかも、知ることができない。「でも……」と、麻衣は、イタズラっぽい目で、3人の夫たちの顔を見回しながら言った。
「めくって見たいと思う人も、いるかもしれないわね」
麻衣の目線を受けた夫たちは、たがいの顔色を窺うように見合って、「おまえ見るか?」「いや、オレは見ない」というふうに、サイレントな意思を確認し合った。
「どうやらここには、そんなゲスい男はいないようですね」
真弓が言うと、俊介も次郎も黙ってうなずいた。

結局、男3人は、麻衣の提案を受け入れることになった。
だからと言って、いつでもだれでも「言問い」するということにはならなかった。「ポストイット方式の言問い」をするにしても、男同士で交わしたローテーションは守ろうじゃないか――ということになった。
「言問い」する男が重なって、だれかが「OK」でだれかが「NO」になると、麻衣も困るだろうし、言問いした男も傷つくかもしれない――という配慮からだった。
「それにさぁ」と俊介が口にした言葉は、真弓にも、次郎にも、少なからぬショックを与えた。
「ヴァギナだって、消耗品だからさ」
それは、3人の夫を抱える吉高ファミリーのリアルな問題でもあった。
「ただし」と、俊介は真弓の顔を見た。
「立花さんは、ガンバんなくちゃダメなんですよ。麻衣ちゃんにベイビーをプレゼントするまでは」
「プレゼント」という言い方には抵抗を感じたが、30代前半で子づくりを終えたいという麻衣の意思に応えるのは、3番目の夫・真弓の責務でもあった。
吉高ファミリーの「言問いの夜」が、そうして始まった。
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中学校の美しい養護教諭とボクの、淡い恋の物語です。
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教師のビンタが支配する教室から、突如、姿を消した美少女。卒業から40年経って、ボクはその真実を知ります。
【右】『『チャボのラブレター』
2014年10月発売 定価122円
中学校の美しい養護教諭とボクの、淡い恋の物語です。

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