西暦2072年の結婚〈16〉 蜜月の夜、ふたりは……

この小説には性的表現が含まれます。18歳未満の方はご退出を。
立花真弓と吉高麻衣の蜜月が始まった。
その3日目、リビングでTVを見ていると、
麻衣がグラスとワインを手に、隣に腰を
下ろしてきた。ふたりの夜が、
少し濃密な空気に包まれた——。
連載 西暦2072年の結婚
第16章 蜜月の夜、ふたりは……

最初から読みたい方は、こちら から、前回から読みたい方は、こちら からどうぞ。
ひとつ屋根の下に、すでに2人の子どもの母親となった女と、彼女を愛する3人の男が住んでいる。その2階にひと部屋ずつを占めて住む3人の夫たちは、それぞれがそれぞれを思いやったり、気を遣ったりしながら暮らしている。
《これから1カ月間は、ふたりのハネムーンにする》
山辺俊介と草川次郎にはそう言われていたが、「ではお言葉に甘えて」と麻衣の部屋に忍んでいくのも、なんだかみんなの書いた筋書きに踊らせられているようで、恰好がつかない。
新婚1夜目は、パーティの疲れもあって、真弓は、そのまま自分の部屋で寝てしまった。
2夜目も、なんだかみんなに注視されているような気がして、気が引けた。
新婚3日目の夜になった。
みんながそれぞれの部屋に引き上げていった後、真弓は、リビングで刑事ドラマを見ていた。そこへ、麻衣がグラス2脚を左手に持ち、ワインボトルを右手でぶら下げて、ソファに座った真弓の横に腰を下ろしてきた。
「直美さんの差し入れてくれたワインが、まだ残ってるの。よかったら飲まない?」
結婚披露パーティ以来、ふたりでゆっくり話をする機会がなかった。「オッ、いいね」と真弓が応じると、麻衣は、「じゃ、開けて」とまだ封がされたままのボトルを真弓に差し出した。
手にしたワインボトルをぶらぶらさせながら、「開けて」と依頼する麻衣の姿は、立花真弓に、不思議な感動をもたらした。
ワインの封を切って、コルクを抜く。その取るに足りない「仕事」を「お願い」と頼む相手がいて、「ホイ、きた」と引き受ける自分がいる。長い間、ひとり暮らしを続けてきた真弓にとって、そういう関係が成立しているということが、新鮮に感じられた。
コルクを抜いて、2つのグラスにワインを注ぐと、麻衣は自分のグラスを手にして、体をすり寄せてきた。麻衣のゴムマリのような二の腕の肉が、真弓の腕にもたれかかってくる。ふたりの間の空気が、少しだけ濃密になった。
《これから1カ月間は、ふたりのハネムーンにする》
山辺俊介と草川次郎にはそう言われていたが、「ではお言葉に甘えて」と麻衣の部屋に忍んでいくのも、なんだかみんなの書いた筋書きに踊らせられているようで、恰好がつかない。
新婚1夜目は、パーティの疲れもあって、真弓は、そのまま自分の部屋で寝てしまった。
2夜目も、なんだかみんなに注視されているような気がして、気が引けた。
新婚3日目の夜になった。
みんながそれぞれの部屋に引き上げていった後、真弓は、リビングで刑事ドラマを見ていた。そこへ、麻衣がグラス2脚を左手に持ち、ワインボトルを右手でぶら下げて、ソファに座った真弓の横に腰を下ろしてきた。
「直美さんの差し入れてくれたワインが、まだ残ってるの。よかったら飲まない?」
結婚披露パーティ以来、ふたりでゆっくり話をする機会がなかった。「オッ、いいね」と真弓が応じると、麻衣は、「じゃ、開けて」とまだ封がされたままのボトルを真弓に差し出した。
手にしたワインボトルをぶらぶらさせながら、「開けて」と依頼する麻衣の姿は、立花真弓に、不思議な感動をもたらした。
ワインの封を切って、コルクを抜く。その取るに足りない「仕事」を「お願い」と頼む相手がいて、「ホイ、きた」と引き受ける自分がいる。長い間、ひとり暮らしを続けてきた真弓にとって、そういう関係が成立しているということが、新鮮に感じられた。
コルクを抜いて、2つのグラスにワインを注ぐと、麻衣は自分のグラスを手にして、体をすり寄せてきた。麻衣のゴムマリのような二の腕の肉が、真弓の腕にもたれかかってくる。ふたりの間の空気が、少しだけ濃密になった。

ハウスは、すでに夜の静寂の中にあった。
2階の夫たちの部屋からは、時折、どちらかが部屋の中を歩き回る足音が聞こえてきたが、階段を下りてくる気配はない。
子どもたちは、起き出しては来ないか?
真弓が奥のドアに目をやると、麻衣がゆっくり首を振った。
「もう、あの子たち、寝ちゃったから……」
耳にささやきかけてくる息に、甘い香りが含まれていた。
これから、ふたりだけのハニーなムーンの始まり。甘い息がそうささやいているように感じられた。
その甘い息を吐き出す麻衣の唇が、耳たぶから頬へ、頬から口元へと近づいてくる。
山形にめくれ上がった上唇と下唇は、ほんの少し開かれ、そこからウサギのような前歯がのぞいている。彼女の甘い息は、その前歯と前歯の間からもれ出ているのだった。
その唇に、真弓は、そっと自分の唇を近づけた。
唇と唇が、サワッ……と触れ合った。
夫と妻として交わす、最初の口づけだった。
しかし、ディープではない。ふたりの唇は触れ合った途端、どちらからともなく離された。離れる瞬間、ふたりの唇の皮膚は、くっつき合ったフィルムとフィルムがはがされるように、たがいの粘着力がかすかな抵抗を示した。
まるで「プチン」と音を立てるように離れたふたりの唇。ふたりは、その感触を惜しむように、おたがいの目を見つめ合った。
「こんな私だけど、末永くかわいがってやってください」
そう言って、麻衣はチョコンと頭を下げた。
「かわいがってやって」と、自分で言うか……?
あいさつとしてはちょっと変だと思ったが、7歳も年上の自分に甘えているのかもしれない。
「ネコかわいがりします」と答えると、麻衣は、ほんとうにネコになったように、頭を真弓の胸元にこすりつけてきた。
ふたりの唇は、再び合わされ、また離れ、離れては再び合わされた。
三度目の口づけを終えると、麻衣の目が、ゆっくり、奥の寝室へ向けられた。
真弓はうなずいて、彼女の目の誘導に乗った。

一歩、足を踏み入れた瞬間、真弓はそこを「聖なる場所」と感じた。
あのときと同じ香りだ。初めて彼女の部屋をのぞいたときに漂っていた、甘い、ミルクのような香り。その香りが、少し濃密になったような気がした。それは、ついさっきまで、麻衣がそこに母親として存在していたことの証とも言えた。
「あれ、着てみようか?」
麻衣がワードローブから取り出したのは、俊介と次郎が「オレたちから」と言ってふたりにくれた、ペアのナイトウエアだった。
七分丈のパンツにゆったりめのTシャツ。着ると、ペアのイルカのプリントが胸のあたりにくるデザインになっていた。
「けっこうかわいいね、これ」
そのデザインが気に入ったのか、麻衣は、両手を翼のように広げて、カーペットの上でターンして見せた。
薄手のTシャツの下で、彼女の形のいい乳房がプルンと揺れる。肌の色がうっすらと透けて見える。かわいいけれど、セクシーでもある。
俊介と次郎は、そんな効果を期待して、ふたりのためにそのアイテムを選んだのだろうか?
もしかしたら、麻衣の2人の夫たちは、真弓がそのナイトウエアの上から彼女の胸をもみしだくことを期待したのかもしれない。真弓がそのTシャツを脱がせ、パンツをはぎ取って、彼女の体に重なるシーンを想像したのかもしれない。
その期待どおりに行動するのも、何だか癪に障る。
しかし、真弓は、揺れる麻衣の胸に、そっと手を伸ばした。
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【右】『『チャボのラブレター』
2014年10月発売 定価122円
中学校の美しい養護教諭とボクの、淡い恋の物語です。
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教師のビンタが支配する教室から、突如、姿を消した美少女。卒業から40年経って、ボクはその真実を知ります。
【右】『『チャボのラブレター』
2014年10月発売 定価122円
中学校の美しい養護教諭とボクの、淡い恋の物語です。

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