第7夜~愛せるのは、愛が発明されたから?
哲雄 人の脳は、A:B=C:Dという隠喩(いんゆ)的な関係を発見する能力を獲得することで、「愛」という概念を発明した。前回、そんな話をしたと思うけど……。
AKI ウン。頭痛くなっちゃったけどね。
哲雄 この発明が、どんなに偉大だったか。実はね、これがないと、AKIクンのお仕事も成立しないんだ。
AKI エーッ、そ、そんなこと……。
哲雄 キミは、知らない人の体をマッサージして、その疲れを癒してあげて、それだけじゃなくて……。
AKI ス、ストップ! そこから先は言わないで!
哲雄 わ、わかった。こういうの、動物学的に言うと、グルーミングってことになるんだろうと思うんだけど……。
AKI 動物がおたがいの毛をなでてあげたり、虫を取ってあげたりするやつだよね。そうかぁ、私の仕事もグルーミングなのかぁ。
哲雄 ま、一種のグルーミングだね。動物の場合、グルーミングする対象は、かなり限られてる。エッチしたい相手か、エサを分けてもらおうとする相手か、群れのリーダーか、自分を攻撃するかもしれない相手か……だいたい、そういうところだろうと思う(詳しくは、フランス・ドゥ・ヴァール『利己的なサル、他人を思いやるサル』など参照)。つまりは、なんらかの利益を得るための行為なんだよね。
AKI 人間だって、似たようなものじゃないすか?
哲雄 そうだろうか? たとえばキミは、「こいつ、イヤだ」と思うお客さんの体だって、一生懸命、マッサージしてあげるでしょ?
AKI そりゃあ、仕事ですから……。ちゃんと、お金いただいてますし……。
哲雄 ほんとにそれだけ? それだけで、男を最後まで導いてあげたりできる?
AKI だから、それは言わないで……って、言ってるでしょ。
哲雄 いや、実は、そこがきわめて重要なのでね……。
AKI どう重要だっていうの?
哲雄 キミは、仕事のためだし、お金もらってるから……って言ったけど、はたしてそれだけで、男は気持ちよくなれるか? しかも、手だけで?
AKI なれますとも。技術があれば……。こう見えても、私、「第1種手ヌキ技術士」の資格、持ってるんだから。
哲雄 エッ!? そんな資格、あるの?
AKI ウソだよ~ん。でも、あれは断じて、テクニックの問題ですゥ。
哲雄 いや、違うな。どんなにテクニックを駆使されても、そこに気持ちがこもってなくて、「ホラ、私のテク、すごいでしょ。早くイッてよ」みたいな調子でやられたら、テクを使われれば使われるほど、気持ちが冷めて、ダメになっていくものなんだって、男は……。
AKI ちょ、ちょっと待って。それ、いつの話? どこの女の話?
哲雄 な、何ですか? 私だって、癒されたいと思うことぐらい、ありますよ。
AKI 不潔! このエロジジイ! スケベ菩薩! 薄毛大王!
哲雄 思いっきし、言ってくれたね。もしかして、それ、ヤキモチ?
AKI とんでも8分、歩いて5分! そんなんじゃ、ありませんよ~だ。
哲雄 じゃ、ほっといてもらいましょうか。私だって、グルーミングは必要なんだから。
AKI そんなときは……イヤ、なんでもないッ!
哲雄 もしかして、そんなときは私に……って、言おうとした?
AKI しませんッ! 死んでもしません。
哲雄 じゃ、話を元に戻そう。つまり、AKIちゃんが、男性の体を癒してあげるときにも、「この人にほんとに気持ちよくなってもらいたい」と願う気持ちが、どこかにあるでしょう、ってことを言いたかったわけですよ、このエロジジイは。それは、AKIちゃんが「愛」という言葉、つまり概念を知っているからだ……とね。
AKI さぁ、どうでしょう?
哲雄 じゃ、別の例で言おう。保育園の保母さんが子どもたちの相手をするとき、「これは仕事だから」って気持ちだけでできるか、ってこと。どこかに「子どもが好き」「この子たちに幸せになってほしい」と願う気持ちがないと、できないでしょ、ってこと。
AKI そりゃ、そうかもね。
哲雄 もっと言うなら、世の中には、無償の行為ってものもある。何の見返りも期待できないのに、たとえば、AKIクンだって、電車で脚の不自由な人を見かけたりしたら、サッと席を譲ってあげるでしょ? もしかしたら、震災を受けた町にボランティアで駆けつけたりするかもしれない。何の報酬も得られなくてもね。
AKI その代わり、「自分の気持ちの満足」という報酬を得られるよ。
哲雄 さすが、わが相棒! よく気がつきました。そういうところが好きなんだよね。
AKI いいから、いいから。
哲雄 では、お尋ねします。なぜ、そういうことをすると、キミは心の満足が得られるのでしょうか?
AKI それは……人の役に立てた、と思うからかな。それか、人が喜ぶと自分もうれしくなるから……。
哲雄 なぜ、人のお役に立てたり、人が喜んでくれると、心が満足するのでしょうか?
AKI んー、なぜだろう……。
哲雄 つまり、こうではないか、と思うんだ。キミは、あらかじめ、「愛」とはどういうものであるかを知っている。それを概念として(言葉として)脳の中にキープしてるから、それが少しでも実現できたことをうれしく感じ、「満足」とか「達成感」という報酬を得ることができるんじゃないか……とね。
AKI なるほどねェ。
哲雄 もし、「愛」が発明されてなかったら、キミはそんな感じ方ができなかったはずだ。だから、この仕事もできなかった……ってわけ。
AKI よくぞ、発明してくださいました。
哲雄 でしょ。しかも、この「愛」という概念は、時間とともに、つまり人間の歴史とともに、どんどん進化して、ついには人類に壮大な夢を実現させるまでになった。
AKI 話は大きくなりますねぇ。
哲雄 ウン。あまりに大きくなるので、この話はまた、この次に。
AKI 動物がおたがいの毛をなでてあげたり、虫を取ってあげたりするやつだよね。そうかぁ、私の仕事もグルーミングなのかぁ。
哲雄 ま、一種のグルーミングだね。動物の場合、グルーミングする対象は、かなり限られてる。エッチしたい相手か、エサを分けてもらおうとする相手か、群れのリーダーか、自分を攻撃するかもしれない相手か……だいたい、そういうところだろうと思う(詳しくは、フランス・ドゥ・ヴァール『利己的なサル、他人を思いやるサル』など参照)。つまりは、なんらかの利益を得るための行為なんだよね。
AKI 人間だって、似たようなものじゃないすか?
哲雄 そうだろうか? たとえばキミは、「こいつ、イヤだ」と思うお客さんの体だって、一生懸命、マッサージしてあげるでしょ?
AKI そりゃあ、仕事ですから……。ちゃんと、お金いただいてますし……。
哲雄 ほんとにそれだけ? それだけで、男を最後まで導いてあげたりできる?
AKI だから、それは言わないで……って、言ってるでしょ。
哲雄 いや、実は、そこがきわめて重要なのでね……。
AKI どう重要だっていうの?
哲雄 キミは、仕事のためだし、お金もらってるから……って言ったけど、はたしてそれだけで、男は気持ちよくなれるか? しかも、手だけで?
AKI なれますとも。技術があれば……。こう見えても、私、「第1種手ヌキ技術士」の資格、持ってるんだから。
哲雄 エッ!? そんな資格、あるの?
AKI ウソだよ~ん。でも、あれは断じて、テクニックの問題ですゥ。
哲雄 いや、違うな。どんなにテクニックを駆使されても、そこに気持ちがこもってなくて、「ホラ、私のテク、すごいでしょ。早くイッてよ」みたいな調子でやられたら、テクを使われれば使われるほど、気持ちが冷めて、ダメになっていくものなんだって、男は……。
AKI ちょ、ちょっと待って。それ、いつの話? どこの女の話?
哲雄 な、何ですか? 私だって、癒されたいと思うことぐらい、ありますよ。
AKI 不潔! このエロジジイ! スケベ菩薩! 薄毛大王!
哲雄 思いっきし、言ってくれたね。もしかして、それ、ヤキモチ?
AKI とんでも8分、歩いて5分! そんなんじゃ、ありませんよ~だ。
哲雄 じゃ、ほっといてもらいましょうか。私だって、グルーミングは必要なんだから。
AKI そんなときは……イヤ、なんでもないッ!
哲雄 もしかして、そんなときは私に……って、言おうとした?
AKI しませんッ! 死んでもしません。
哲雄 じゃ、話を元に戻そう。つまり、AKIちゃんが、男性の体を癒してあげるときにも、「この人にほんとに気持ちよくなってもらいたい」と願う気持ちが、どこかにあるでしょう、ってことを言いたかったわけですよ、このエロジジイは。それは、AKIちゃんが「愛」という言葉、つまり概念を知っているからだ……とね。
AKI さぁ、どうでしょう?
哲雄 じゃ、別の例で言おう。保育園の保母さんが子どもたちの相手をするとき、「これは仕事だから」って気持ちだけでできるか、ってこと。どこかに「子どもが好き」「この子たちに幸せになってほしい」と願う気持ちがないと、できないでしょ、ってこと。
AKI そりゃ、そうかもね。
哲雄 もっと言うなら、世の中には、無償の行為ってものもある。何の見返りも期待できないのに、たとえば、AKIクンだって、電車で脚の不自由な人を見かけたりしたら、サッと席を譲ってあげるでしょ? もしかしたら、震災を受けた町にボランティアで駆けつけたりするかもしれない。何の報酬も得られなくてもね。
AKI その代わり、「自分の気持ちの満足」という報酬を得られるよ。
哲雄 さすが、わが相棒! よく気がつきました。そういうところが好きなんだよね。
AKI いいから、いいから。
哲雄 では、お尋ねします。なぜ、そういうことをすると、キミは心の満足が得られるのでしょうか?
AKI それは……人の役に立てた、と思うからかな。それか、人が喜ぶと自分もうれしくなるから……。
哲雄 なぜ、人のお役に立てたり、人が喜んでくれると、心が満足するのでしょうか?
AKI んー、なぜだろう……。
哲雄 つまり、こうではないか、と思うんだ。キミは、あらかじめ、「愛」とはどういうものであるかを知っている。それを概念として(言葉として)脳の中にキープしてるから、それが少しでも実現できたことをうれしく感じ、「満足」とか「達成感」という報酬を得ることができるんじゃないか……とね。
AKI なるほどねェ。
哲雄 もし、「愛」が発明されてなかったら、キミはそんな感じ方ができなかったはずだ。だから、この仕事もできなかった……ってわけ。
AKI よくぞ、発明してくださいました。
哲雄 でしょ。しかも、この「愛」という概念は、時間とともに、つまり人間の歴史とともに、どんどん進化して、ついには人類に壮大な夢を実現させるまでになった。
AKI 話は大きくなりますねぇ。
哲雄 ウン。あまりに大きくなるので、この話はまた、この次に。
- 関連記事
-
- 第8夜☆大きな愛は小さな愛を奪う? (2009/02/19)
- 第7夜~愛せるのは、愛が発明されたから? (2009/02/16)
- 第6夜 愛はいかに発明されたか? (2009/02/13)