西暦2072年の結婚〈14〉 招かれざる婚礼の客

この小説には性的表現が含まれます。18歳未満の方はご退出を。
婚礼パーティにやって来た招かれざる客。
それは、ふたりの結婚に猛反対している
真弓の両親だった。まさか怒鳴り込みに
来たのでは…? 恐れる真弓の背中を
押したのは、麻衣だった……。
連載 西暦2072年の結婚
第14章 招かれざる婚礼の客

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「オレが見てくる」と、山辺俊介がみんなを制した。
玄関の外から、何人かの人間が押し問答を繰り広げているような声が聞こえてきた。
「せっかく来て……」と、野太い山辺の声が聞こえる。
「いや、私たちは……」と、少ししわがれた男の声がする。
しばらくあって、ガチャリと玄関の開く音がした。
「そんなところでは何ですから、どうぞお上がりになってください。どうぞ、どうぞ」
だれだかわからない客を、俊介が招き入れようとしている。
「ほんとうに、私たちはここでけっこうですから。様子を見たらすぐにおいとましますので……」
今度は、けっして若くはない婦人の声。その声を聞いた新郎が、「エッ!」と声を挙げた。
「お、おふくろ……?」
真弓からの結婚の報告に、「そんな結婚は認めない」と怒り出し、麻衣に会わせると言ってもガンとして会おうとしなかった。そんな父親と母親が、ふたりそろってここへやって来た?
まさか、怒鳴り込みに来たんじゃあるまいな……。
そんな恐れを感じて、一瞬、足が迷った。その背中を「ポン」と押したのは、麻衣だった。
「何してるの? お義父さまとお義母さまがいらっしゃってるのよ」
言うより早く、その足が動き始めた。まるで小走りのような足取りで玄関へ向かう。真弓は、あわててその後を追った。
「真弓さんのお父さまとお母さまですよね。お待ちしてました。私、真弓さんと結婚することになった吉高麻衣と申します。来てくださって、うれしいですッ! ありがとうございます!」
真弓が紹介するのも待たず、麻衣は自分から名乗り出ると、飛びつくようにふたりの手を両手で取って、「ありがとうございます」を繰り返した。
あと2カ月で古希を迎える真弓の父・信孝は、あまりに無邪気に喜びを伝えてくる麻衣の手に驚き、戸惑い、そしてその顔からは、怒りと不信のこわばりがポロリ……とはげ落ちた。
「そんなふしだらな女……」と、吉高麻衣を敵視していたはずの母親・ゆりは、自分のシワだらけの手を強く握り締めてきた女の手に、「どんな悪意が込められているか」といぶかる素振りを見せたあと、その手を受け入れていいものかどうか……とためらった。そして、恐る恐るというふうに、その手を握り返した。
玄関の外から、何人かの人間が押し問答を繰り広げているような声が聞こえてきた。
「せっかく来て……」と、野太い山辺の声が聞こえる。
「いや、私たちは……」と、少ししわがれた男の声がする。
しばらくあって、ガチャリと玄関の開く音がした。
「そんなところでは何ですから、どうぞお上がりになってください。どうぞ、どうぞ」
だれだかわからない客を、俊介が招き入れようとしている。
「ほんとうに、私たちはここでけっこうですから。様子を見たらすぐにおいとましますので……」
今度は、けっして若くはない婦人の声。その声を聞いた新郎が、「エッ!」と声を挙げた。
「お、おふくろ……?」
真弓からの結婚の報告に、「そんな結婚は認めない」と怒り出し、麻衣に会わせると言ってもガンとして会おうとしなかった。そんな父親と母親が、ふたりそろってここへやって来た?
まさか、怒鳴り込みに来たんじゃあるまいな……。
そんな恐れを感じて、一瞬、足が迷った。その背中を「ポン」と押したのは、麻衣だった。
「何してるの? お義父さまとお義母さまがいらっしゃってるのよ」
言うより早く、その足が動き始めた。まるで小走りのような足取りで玄関へ向かう。真弓は、あわててその後を追った。
「真弓さんのお父さまとお母さまですよね。お待ちしてました。私、真弓さんと結婚することになった吉高麻衣と申します。来てくださって、うれしいですッ! ありがとうございます!」
真弓が紹介するのも待たず、麻衣は自分から名乗り出ると、飛びつくようにふたりの手を両手で取って、「ありがとうございます」を繰り返した。
あと2カ月で古希を迎える真弓の父・信孝は、あまりに無邪気に喜びを伝えてくる麻衣の手に驚き、戸惑い、そしてその顔からは、怒りと不信のこわばりがポロリ……とはげ落ちた。
「そんなふしだらな女……」と、吉高麻衣を敵視していたはずの母親・ゆりは、自分のシワだらけの手を強く握り締めてきた女の手に、「どんな悪意が込められているか」といぶかる素振りを見せたあと、その手を受け入れていいものかどうか……とためらった。そして、恐る恐るというふうに、その手を握り返した。

「お父さまとお母さま。遠いところからお足をお運びいただき、ありがとうございます。もうすぐ乾杯ですので、せめて、門出の祝杯だけでもご一緒に挙げてやっていただけませんか? わたくしからもお願い申し上げます」
後から顔を出した直美コンシェルジュが、「ふたりを結びつけたのは自分である」と名乗り、深々と頭を下げた。ためらう背中に手を添えて「さ、どうぞ」とエスコートしたので、やっと、ふたりの足が動き出した。
祝宴の会場となっているLDKに足を踏み入れた真弓の父と母は、そこが草川次郎たちの手で華やかにデコレーションされ、そこに麻衣とその母親の手で用意された料理が並べられ、山辺俊介の手で白い布で覆われた椅子とテーブルが用意されているのを見て、目を丸くした。
「まぁ、まるで子どもの学芸会みたい……」
正直すぎる感想を口にするゆりを、横に立つ父親・信孝が「オイ」と制した。
「みなさん、ただいま、立花真弓さんのお父さまとお母さまが、お祝いに駆けつけてくださいました」
直美コンシェルジュの紹介に、全員が「オーッ」と声を挙げ、拍手が巻き起こった。
真弓の両親は、自分たちの息子の結婚が想像したものとは違うことに戸惑いの表情を浮かべたまま、油の切れたロボットのようなお辞儀を返した。
そこへ、麻衣の両親が駆け寄った。
「麻衣の父親の吉高紘一でございます。こういう形での結婚で、さぞかし驚かれたことでしょう? しかし、よくおいでくださいました。お目にかかれて安心しました」
吉高紘一は、真弓の父・信孝より8つほど年下だ。その年下の信孝に、自分よりはよほど分別のあると思われるあいさつをされて、信孝は「あ、ど、どうも……」としか返せなかった。
「母親の吉高美幸です。この度は、おめでとうございます。ふつつかな娘ですけれども、どうぞよろしくお願い申し上げます。本日は、大したおもてなしはできませんけれども、料理は麻衣とふたりで、一生懸命、準備いたしましたの。どうぞ、ごゆっくりなさってくださいね」
「え、これを全部、おふたりで?」
ゆりは、メインテーブルに並べられた大皿に盛られた料理を見て、目を白黒させた。
そこへ山辺俊介が5歳の努の手を引いて、草川次郎が2歳の娘・由夢を抱いて現れた。
「申し遅れました。麻衣の最初の夫、山辺俊介です。そして、こいつが息子の努」
「2番目の夫、草川次郎です。この子が娘の由夢です」
白黒させていたゆりの目がグルグルと回転し始めた。信孝は、まだすべての事態を受け入れ難いという様子で、口をポカンと開け、一時的な痴呆状態に陥っているように見えた。
年老いた両親に、この状況をすべて理解せよ、すべて受け入れよ――というのは、ムリな話かもしれない。いささか刺激が強すぎたかと思って、真弓は、「あのさ、オヤジ、オフクロ……」と、声を出した。

「オレは、これから、この人たちと家族として暮らすことになるんだ。ここにいる5人が、これからオレの家族になる。そこにオレが加わり、オレの子どもが加わって、全部で7人の家族になる。それが、オレの目標なんだ。オレの結婚はね、オヤジ、オフクロ、吉高麻衣という女性と結ばれるっていうだけのことじゃないんだよ。この人たちと家族になって、大きな家族を作る。それこそが目標だし、オレがこの結婚を選んだ理由なんだ」
「大きな家族……?」と母・ゆりが、呪文のように復唱し、父・信孝は「ウーン……」と唸って腕を組んだ。
「日本の少子化が、もう看過できないレベルにまで達しているってことは、オヤジたちも、ニュースとかで聞いて知ってるだろう? 生涯、結婚しないっていう男や女が半数にも上っているってことも、知ってるだろう?」
ウン、まぁ……というふうに、ふたりがうなずくのを見て、真弓は続けた。
「それはさ、ひとつには、オヤジたちの世代とそのひとつ上の世代が、戦後、進めてきた核家族化の結果でもあるんだけどさ、もっと大きな理由は、格差が広がったことにあるって、オレは思ってる。オレたちは、世間の分類に従うと、《下流》 なんだよね。オレたちみたいに労働を提供したり、オフィスに縛り付けられて来る日も来る日も単純な作業に従事させられたりしてる人間は、みんな 《下流》 ってことになるらしいんだ。そういう下流な人間たちはさ、オレの周りにいるやつらも、みんな、こう言ってる。結婚? そんな金ないよ。子ども? 育てる金、どこにあるのよ――ってさ」
山辺俊介も、草川次郎も、そして吉高麻衣も、直美仁美も、「そうだよな」「そうよね」というふうにうなずいた。
「昔、オヤジやオフクロたちの世代が 《華燭の典》 とか呼んだ結婚式を挙げて、郊外に一戸建ての住宅なんか購入して、『一家で幸せに暮らしてま~す』なんて、写真付きの年賀状をバラ撒いたり……なんてことができるのは、ほんのひと握りの 《上流》 に属する人間だけになっちゃったんだよね。ごめんよ、オヤジ、オフクロ。オレ、そんな上流にはなれなかった。なる気もなかったしさ……」
真弓は、頭を下げた。
その姿を見て、父親も母親も、「そんな……」というふうに首を振った。
「でもね……」と、真弓は父と母の肩に手を置いて、言い含めるように言葉を継いだ。
「1対1の核家族は作れなくても、複数の男と女が寄り添ってだったら、生きていける。家族も作れるし、子どもも育てられる。オレたちは、下流という森に棲む7人の小人になる。そう決めたから、オレは、この結婚を選んだんだよ」
どこからともなく、パチパチと手を叩く音がした。最初に手を叩いたのは、直美コンシェルジュだった。その拍手に、山辺俊介が、草川次郎が続き、やがて、会場全体に広がっていった。
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