西暦2072年の結婚〈12〉 清貧の祝宴

この小説には性的表現が含まれます。18歳未満の方はご退出を。
結婚式を挙げる予定も披露宴の予定も
なかった。しかし、真弓が吉高家に荷物を
運び込むと、山辺たちが言い出した。
「結婚祝いのパーティ」をやろうと——。
連載 西暦2072年の結婚
第12章 清貧の祝宴

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「華燭の典」なんぞというものを挙げる予定は、端からなかった。
そんなものは、中流の上クラス以上に勝手にやらせておけばいい。
自分の居室に運び込む荷物をまとめて、吉高ファミリーの住む「愛クラウド住宅」とやらに運び込む。それだけで、新しい愛の生活がスタートする。
吉高麻衣のリクエストは「でるだけ早く」だったが、荷物の整理にてこずった。何を持っていくかではなく、何を捨てていくかに手間どった。
ファミリーと一緒に暮らすとなると、真弓が使っている冷蔵庫や洗濯機などの生活耐久財は、ほとんどが不要になる。自分の部屋で使う机とパソコンと本。それに、夜具と衣類。それだけあればいい、というより、6畳ひと間の自分の部屋に運び込めるのは、それで精いっぱいだった。
本棚やラックなど、みんなで使えるかもしれないものについては、麻衣と相談した上で、廃棄するかどうかを決めた。
そうして整理すると、驚くほど身軽になった。自分がそれまで、いかにムダなものに囲まれて生きていたかを思い知って、真弓は愕然となった。
もし、このままひとり暮らしを続けていたら、自分は、膨大なムダを抱え、なおかつそれを増やしながら、身動きならない「生涯独身男」という生活を続けることになっていただろう。ヘタすると、ゴミ屋敷に住む独居老人として、生涯を終えることになったかもしれない。
しかし、吉高ファミリーと暮らすことになれば、その生活は一変するに違いない。
そんな淡い期待を胸に抱いて、立花真弓は、1972年の9月、それまで暮らしていたアパートを引き払った。
そんなものは、中流の上クラス以上に勝手にやらせておけばいい。
自分の居室に運び込む荷物をまとめて、吉高ファミリーの住む「愛クラウド住宅」とやらに運び込む。それだけで、新しい愛の生活がスタートする。
吉高麻衣のリクエストは「でるだけ早く」だったが、荷物の整理にてこずった。何を持っていくかではなく、何を捨てていくかに手間どった。
ファミリーと一緒に暮らすとなると、真弓が使っている冷蔵庫や洗濯機などの生活耐久財は、ほとんどが不要になる。自分の部屋で使う机とパソコンと本。それに、夜具と衣類。それだけあればいい、というより、6畳ひと間の自分の部屋に運び込めるのは、それで精いっぱいだった。
本棚やラックなど、みんなで使えるかもしれないものについては、麻衣と相談した上で、廃棄するかどうかを決めた。
そうして整理すると、驚くほど身軽になった。自分がそれまで、いかにムダなものに囲まれて生きていたかを思い知って、真弓は愕然となった。
もし、このままひとり暮らしを続けていたら、自分は、膨大なムダを抱え、なおかつそれを増やしながら、身動きならない「生涯独身男」という生活を続けることになっていただろう。ヘタすると、ゴミ屋敷に住む独居老人として、生涯を終えることになったかもしれない。
しかし、吉高ファミリーと暮らすことになれば、その生活は一変するに違いない。
そんな淡い期待を胸に抱いて、立花真弓は、1972年の9月、それまで暮らしていたアパートを引き払った。

吉高家での最初の夕食には、ファミリーの全員が顔をそろえることになった。
その夕食の席を立花真弓の歓迎会にしよう――と言い出したのは、吉高麻衣だった。
しかし、たちまち話がふくらんだ。言い出しっぺは山辺俊介だった。
「麻衣ちゃんたち、結婚式とかやったの?」
麻衣が「その予定はない」と言うと、「だったらさぁ」と山辺が切り出した。
「最初の夕食は、簡単に顔合わせってことにしてさ、歓迎会は日を改めて、ふたりの結婚披露パーティをかねてやるってことにしないか?」
「いいっスね」と応じた草川次郎が、「だったら……」と言い出した。
「親とか友だちとかも呼んじゃえばいいんじゃないの?」
12畳ひと間のLDKだが、立食形式にすれば、20人ぐらいは収容できる。それぞれの両親と親しい友人2~3人ずつぐらいは呼べるんじゃないか――という話になった。
「私の友人は、もういいわ」と、麻衣が言った。
「もう2回も来てもらってるし、さすがに3回目ってなるとねェ。でも、両親にだけは紹介しとかないといけないから」
吉高麻衣の両親は、麻衣が「複婚」を選んだことを理解していて、3人目の夫を迎えることについても、「孫が増える」と、むしろ喜んでくれているという。
しかし、真弓の両親は、そうはいかなかった。平成生まれの両親は、真弓が麻衣の3人目の夫になると知らされると、父親は「頭は確かか!」と怒り出し、母親は「そんなふしだらな女と……」と、オロオロと泣き出した。「結婚披露パーティやるから」と言っても、「そんな結婚は認めないから」と、出席を拒まれた。
結局、立花真弓の招待客は、学生時代からの友人3人だけということになった。

パーティの準備は、麻衣と麻衣の母親が中心になって進められた。
ふたりが立食用の料理を仕込む間、グラフィックデザイナーが本職の草川次郎が、パソコンを使って、《おめでとう! 真弓&麻衣》 というパネルを制作し、ラメのモールを天井に張り巡らして、LDKをパーティ会場らしく飾りつけた。
山辺俊介は、会社から竣工式などで使う折り畳み式のパイプ椅子とパイプテーブルを借り出してきて、それに白い布を被せて、出席者用の小テーブルを配置した。
元々あったダイニングテーブルは、オープンキッチンの脇に寄せて、大皿に盛った料理を並べるメインテーブルとして使用することにした。
いつものLDKが何やら楽しそうなパーティ会場に変貌していく様子を、山辺俊介の6歳の男の子と草川次郎の2歳の娘が、不思議そうな顔で、しかし、どこかワクワクする表情で眺めては、キャッキャッとはしゃぎ回った。
「華燭の典」は挙げられないが、それは、「清貧の祝宴」と言えた。
そこに、ひとりだけ来賓が招かれることになった。
「I&You」の直美コンシェルジュだった。
「呼ぼう」と言い出したのは、麻衣だった。
「私たちの出会いを導いてくれた人だし、それに、あの人の考え方には共鳴できる部分もあるし……」
真弓も、「それはいい」と賛同した。山辺俊介も、草川次郎も、「いいね」と応じた。実は、ふたりと麻衣をマッチングさせたのも、コンシェルジュ・直美仁美だった――と聞かされて、真弓は改めて、直美の慧眼に感服した。
パーティに招待したいのだが――と伝えると、コンシェルジュは「うれしい!」と声をはずませた。
自分がマッチングしたカップルが幸せになっていく姿を見ることは、自分の喜びでもあるから――というのだ。
直美コンシェルジュからはうれしい申し出があった。お祝いとして、「I&You」からビールを1ケースとワインを6本、プレゼントしたい。「その代わり」と彼女が提示したのは、ある条件だった。
「みなさんのパーティの様子を写真と動画で撮らせてほしい。それを、会社の広報誌とPR用動画で使わせてほしい」というものだった。
それを話すと、全員が「いいね」と賛同した。「トリプル婚」の普及の一助になるなら――というのもあったが、それよりも、ビール1ケースにワイン6本という「差し入れ」が魅力だった。
吉高ファミリーは、豊かなファミリーではない。
「背に腹は代えられない」と草川次郎は変な慣例句を口にしたが、「それ、違うでしょ」と麻衣にたしなめられて、頭をかいた。
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