西暦2072年の結婚〈11〉 夫婦グラスに誓う愛

この小説には性的表現が含まれます。18歳未満の方はご退出を。
麻衣からはまだ返事が届かない。
彼女にはまだ、複数のオファーが
舞い込んでいるという。その男たちとも
フィッティングするの? 動揺する真弓の
顔を見てコンシェルジュはクスリと笑った。
連載 西暦2072年の結婚
第11章 夫婦グラスに誓う愛

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新しい法律が年内にも議会を通過しそうだった。
ひとつは、「土地家屋等の相続に関する特例法」という法律。
わかりやすく言うと、相続財産のうち土地や家屋については、相続税の「基礎控除」の対象から外し、別途、「固定資産相続税」を課すという法律だった。その税率は、相続人のだれかがそこに居住することが証明されれば、「固定資産税評価額」の60%、現に居住していることが証明されない場合には、「固定資産税評価額」の75%を納めるか、その不動産を国家に返納することが義務づけられた。
法律が施行されると、土地や家屋の「名義」だけを相続するということは、事実上、むずかしくなる。増え続ける「放置住宅」を防ぐと同時に、貧富の「格差」そのものが相続されていくことを防ぐ方策として考えられた法律――とも言えた。
土地の相続を通じて維持されてきた日本独特の「家」という概念は、その経済的基盤を失うことになる。「家」という概念が消えれば、すでに消滅しかかっている「〇〇家と××家の結婚」という形での婚姻形態も、完全に姿を消すことになる。墓参する者もなく放置された「無縁墓」も、相続者不在の不動産として処分されることになるだろう。
相続のあり方を革命的に変えるこの法律は、40年前の民法改正で「重婚」が解禁されたこととあいまって、この国の結婚のありようを大きく変えようとしていた。
そんな中で、立花真弓は吉高麻衣との「フィッテイング」を終えた。双方の結論が「OK」であれば、真弓は、吉高ファミリーの一員となり、麻衣の3人目の夫となる。
真弓は、すでに「OK」という返事を直美コンシェルジュに伝えていた。麻衣はどうなのか? その返事は、まだ届いていなかった。
ひとつは、「土地家屋等の相続に関する特例法」という法律。
わかりやすく言うと、相続財産のうち土地や家屋については、相続税の「基礎控除」の対象から外し、別途、「固定資産相続税」を課すという法律だった。その税率は、相続人のだれかがそこに居住することが証明されれば、「固定資産税評価額」の60%、現に居住していることが証明されない場合には、「固定資産税評価額」の75%を納めるか、その不動産を国家に返納することが義務づけられた。
法律が施行されると、土地や家屋の「名義」だけを相続するということは、事実上、むずかしくなる。増え続ける「放置住宅」を防ぐと同時に、貧富の「格差」そのものが相続されていくことを防ぐ方策として考えられた法律――とも言えた。
土地の相続を通じて維持されてきた日本独特の「家」という概念は、その経済的基盤を失うことになる。「家」という概念が消えれば、すでに消滅しかかっている「〇〇家と××家の結婚」という形での婚姻形態も、完全に姿を消すことになる。墓参する者もなく放置された「無縁墓」も、相続者不在の不動産として処分されることになるだろう。
相続のあり方を革命的に変えるこの法律は、40年前の民法改正で「重婚」が解禁されたこととあいまって、この国の結婚のありようを大きく変えようとしていた。
そんな中で、立花真弓は吉高麻衣との「フィッテイング」を終えた。双方の結論が「OK」であれば、真弓は、吉高ファミリーの一員となり、麻衣の3人目の夫となる。
真弓は、すでに「OK」という返事を直美コンシェルジュに伝えていた。麻衣はどうなのか? その返事は、まだ届いていなかった。

実は、吉高麻衣には、複数のオファーが舞い込んでいる。
そのことを知らされたのは、直美コンシェルジュを通してだった。
エッ……!?
一瞬、立花真弓は言葉を失った。
ということは、吉高麻衣は、これからも何人かの男と、あの「フィッティング」とやらに臨むのだろうか? あの豊かな胸を何人かの男にもませ、あの蜜に富んだしなやかなヴァギナに何人かの男のペニスを迎え入れ、奥へ奥へ……と取り込むような動きを見せながら、その尻に爪を立てるのだろうか?
そんなことを想像している真弓の顔を、直美コンシェルジュは「ン……?」というふうにのぞき込んで、クスリと笑みを浮かべた。
「気になりますか?」
「い、いや……」
「よかった。そんなことを気にしてたら、トリプル婚なんてできませんものね」
そうだよな……と、真弓は思った。吉高麻衣と結ばれるということは、同じ屋根の下で、山辺俊介や草川次郎が彼女の体に重なる気配を感じながら暮らす――ということでもある。
オレもまだ、「単婚主義」のエゴイズムから抜け切れてはいない、ということか。静かに首を振ると、「あ、でもね……」と直美仁美が口を開いた。
「せっかくオファーしてくれた人に、一度も会わずにお断りするのもわるいから――と、吉高さんは思っているみたいですよ。と言っても、まったくNOな人とは書類の段階でお断りしてるんですけどね」
吉高麻衣という女は、けっこう義理堅いのかもしれない。それとも、「もっといい男が現れるかもしれない」と欲をかいているのか。
「それで……その……彼女は、その人たちとも、例の……フィッティングを……」
コンシェルジュは、やれやれという顔をして、開いていたファイルをパタンと閉じた。
「さあ、どうでしょう。そういう個人情報は、お話するわけにはいかないんですよ」
そりゃそうだろうな――と、真弓は、バカな質問をした自分を恥じた。

直美コンシェルジュから連絡が入ったのは、それから5日後のことだった。
「吉高麻衣さんからお返事がありました。つきましては、今回の契約終了のお手続きをさせていただきたいので、お手数ですが、弊社までお越し願えますでしょうか?」
「エ……ということは……?」
「おめでとうございます。マッチング成立ということです」
「マッチング成立」とは、双方の意思が合致して婚姻関係が成立したということだ。
その週の週末、「I&You」を訪ねた立花真弓を出迎えたのは、例のリボン付きブラウスに身を包んだ吉高麻衣と黒のパンツ・スーツ姿のコンシェルジュ・直美仁美だった。
直美コンシェルジュが差し出した「結婚同意書」に慎重にペンを走らせてサインすると、コンシェルジュは「おめでとうございます」と頭を下げ、そして、ふたりの手元にグラスを差し出した。
ボウルがほっそりとしたフルート型のシャンパングラスで、表面には繊細な切子の装飾が施され、底の持ち手に近い部分には「Mayumi」と名前が刻まれている。麻衣のグラスには「Mai」とあった。
エッ、名前入り? まるで夫婦茶碗のようだな――と思っていると、直美コンシェルジュが、ニコリとほほ笑んで言った。
「ささやかですけど、このグラスは私どもからのささやかなプレゼントとして、おふたりに差し上げます。乾杯のあと、きれいに洗ってお包みし、箱に入れてお渡ししますので、よろしければ、かわいがってやってください。そのグラス、切子の職人に特注して作らせたんですよ」
コンシェルジュは、自分のためにもグラスをひとつ用意すると、全員のグラスにシャンパンを注いで、「それでは」とステムを持ってそれを目の高さに持ち上げた。
「おふたりが、末永く、お幸せでありますように」
彼女の声を合図にして、3人でグラスを合わせた。
「よろしくお願いします」
軽く頭を下げる真弓の真面目な顔を見て、麻衣がクスリ……と笑った。
「じゃ、お言葉に甘えて、傷だらけにしちゃいますね」
「それはもう、望むところです」
直美コンシェルジュが、ぽかんと口を開けて、ふたりのやり取りを聞いていた。
それは、ふたりだけに通じる「愛の誓い」だった。
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教師のビンタが支配する教室から、突如、姿を消した美少女。卒業から40年経って、ボクはその真実を知ります。
【右】『『チャボのラブレター』
2014年10月発売 定価122円
中学校の美しい養護教諭とボクの、淡い恋の物語です。
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2015年7月発売 定価/122円
教師のビンタが支配する教室から、突如、姿を消した美少女。卒業から40年経って、ボクはその真実を知ります。
【右】『『チャボのラブレター』
2014年10月発売 定価122円
中学校の美しい養護教諭とボクの、淡い恋の物語です。

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