西暦2072年の結婚〈8〉 彼女は美しく服を脱ぐ

大きなリボンをあしらったブラウス姿で
フィッティング・ルームに入った。
テーブルに用意されたシャンパン。
乾杯して脱ぐか、脱いでから乾杯するか?
麻衣はゆっくりと、胸元のリボンを解いた。
その脱ぎ方を「美しい」と真弓は感じた。
連載 西暦2072年の結婚
第8章 彼女は美しく服を脱ぐ

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フロントで指定された部屋のキーを受け取ると、ふたりは、ふつうにホテルの部屋に入るように、フィッティング・ルームのドアを開けた。
淡いベージュで統一された室内には、やや大きめなダブルベッド。窓際には、座り心地のよさそうな応接セットがゆったりと据えられていた。
スイートとまでは言えないが、ビジネスホテルよりは数段上等な造りだ。
テーブルの上には、銀色に光るペールが置かれ、リボンを巻かれた緑色のボトルが差し込んであった。そのペールに、何かが立てかけてある。近づいて見ると、上質なミューズ紙で作られたクリーム色の封筒。表に「立花様、吉高様」と黒いインクで宛名が書いてあった。
「あら……」と、吉高麻衣が封筒を手に取った。中に入っていたのは、2つ折りのグリーティング・カード。手書きの文字で黒々としたためてあったのは、直美コンシェルジュのメッセージだった。
《おふたりが素敵な一夜を過ごされますように。
私からのささやかなプレゼントとして、
シャンパンをご用意させていただきました》
「ヘーッ」と、麻衣が感心したように声を挙げた。
「シャンパンだって。しゃれたことするようになったのね」
その言い方に、立花真弓は少し引っかかりを感じた。麻衣は以前にも、このフィッティング・ルームを利用したのだ。その相手は、現在の夫である山辺俊介であり、草川次郎であり……そして、もしかしたらその他にも何人か、この部屋で「フィッティング」に及んだ男がいるかもしれない。
そのリアルな想像が、真弓の体を熱くした。
淡いベージュで統一された室内には、やや大きめなダブルベッド。窓際には、座り心地のよさそうな応接セットがゆったりと据えられていた。
スイートとまでは言えないが、ビジネスホテルよりは数段上等な造りだ。
テーブルの上には、銀色に光るペールが置かれ、リボンを巻かれた緑色のボトルが差し込んであった。そのペールに、何かが立てかけてある。近づいて見ると、上質なミューズ紙で作られたクリーム色の封筒。表に「立花様、吉高様」と黒いインクで宛名が書いてあった。
「あら……」と、吉高麻衣が封筒を手に取った。中に入っていたのは、2つ折りのグリーティング・カード。手書きの文字で黒々としたためてあったのは、直美コンシェルジュのメッセージだった。
《おふたりが素敵な一夜を過ごされますように。
私からのささやかなプレゼントとして、
シャンパンをご用意させていただきました》
「ヘーッ」と、麻衣が感心したように声を挙げた。
「シャンパンだって。しゃれたことするようになったのね」
その言い方に、立花真弓は少し引っかかりを感じた。麻衣は以前にも、このフィッティング・ルームを利用したのだ。その相手は、現在の夫である山辺俊介であり、草川次郎であり……そして、もしかしたらその他にも何人か、この部屋で「フィッティング」に及んだ男がいるかもしれない。
そのリアルな想像が、真弓の体を熱くした。

「せっかくだから、乾杯しましょうか?」
麻衣は、シャンパンのボトルを胸に抱えるようにして、小首を傾げている。
その姿は、父親に何かをねだる娘のようで、かわいくもある。しかし、真弓はその目をじっと見たまま、ゆっくり首を振った。
エッ、飲まないの?――というふうに、眉が「八」の字に曇る。
その左肩に右手を、右肩に左手を置いて、真弓は諭すよう言った。
「その服、着たままで?」
真弓が言うと、麻衣は「ン……?」というふうに、自分の服を見回した。
胸元を大きなリボンで締めた淡いピンクのブラウスに、ボックスプリーツのスカート。それまでの2回の面会の時とは少しテイストの違う、フェミニンなコーディネートは、その日のフィッティングが、麻衣にとって特別の意味を持つことを表しているように見えた。
「乾杯してから、服を脱いでシャワーを浴びるのって、何だか間延びしませんか?」
「そうね……」と、麻衣はうなずいた。
シャンパンのボトルをペールに戻すと、麻衣は、ゆっくりと両手を胸元に上げて、リボンの両端を親指と人差し指でつかみ、それを静かに引いた。
シュルリ……と、リボンが解けた。
解けたリボンの下で、彼女の光沢のあるブラウスの胸元はしどけなくゆるんで、ほのかに紅潮した高まりを、わずかにのぞかせていた。
いますぐにその体を抱きしめたい――と、真弓は思った。しかし、そうはしなかった。
麻衣は、一瞬、ためらうそぶりを見せたあと、まるで祈りを捧げるように、両手を胸の前に合わせた。合わせた手の指先が留められたブラウスのボタンを、ひとつひとつ、慎重に、ていねいに外していく。
封印されていた彼女の秘密が、少しずつ解き明かされていく。真弓は、その様子を見ていたいと思った。
そんな真弓の視線に気づいて、麻衣は、少し体の向きを変えながら言った。
「そんなに見られてると、恥ずかしい」
「ごめんなさい。あなたのいちばん美しい姿を目に焼き付けておきたくて……」
「あら……」と、麻衣の顔がほころんだ。

すべてのボタンを外し終えると、麻衣のブラウスは肩からスルリと滑り落ちた。女にしては、肩幅が広い。その広い肩幅は、なだらかな曲線を描いて、キュッと締まった腰へと収束している。
まるで、李朝の白磁の壷を見るようだ。
真弓が見とれていると、麻衣は両手を首の後ろに回し、背を反らせるようにしながら、その手を肩甲骨の間へと滑らせていった。その手が器用にブラジャーのホックを捉えて、留め具を外す。
胸を覆っていた小さな布片が、パラリ……と、彼女の肩から落ちる。
半身に構えた背中の脇から、熟れ実った彼女の果実が描くなだらかな曲線がのぞいた。洋ナシのようなアーチの先端で、アーモンドのような種実が屹立しているのが見えた。
麻衣が足元に置いたバスタオルを手にしようと腰を屈めると、そのアーチは釣鐘の形となって胸から垂れ、なまめかしく揺れた。
しかし、それを目にできたのは、一瞬だった。彼女が手にしたバスタオルを胸に巻きつけたので、美しいふくらみは、タオル地のきつい拘束の中に封印されてしまった。
バスタオル一枚で上半身を覆った吉高麻衣は、肩の下まで伸びた髪を両手でひと束にまとめ、うなじの上でそれをゴムで縛ると、残ったテールをクルクルと捩じって縛り目に巻きつけていく。たちまち、彼女の後頭部にシニヨンができ上がる。それを片手で押さえながら、ピンで後頭部の地肌の髪に留める。
両手で形を整えると、麻衣は、両手をシニヨンに当てたままの格好で振り返り、真弓を見て、ニコリとほほ笑んだ。
アレ……と、真弓は思った。このポーズ、その表情、どこかで見たことがある。
記憶をたどって、思い出した。直美コンシェルジュに「たとえば、この人ですが……」と見せられた、吉高麻衣のプロファイルに添えられた写真。あの写真で見た、どこかアニメのキャラのようで、妖精を思わせるようにかわいいと思ったポーズは、おそらく、こんな状況で撮られたに違いない。
よほど気を許した相手でないと、そんな写真は撮れないだろう――と、あのとき、真弓は思った。もしそんな男がいるとしたら、それは……。
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【右】『『チャボのラブレター』
2014年10月発売 定価122円
中学校の美しい養護教諭とボクの、淡い恋の物語です。
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妻は、おふたり様にひとりずつ (小説)
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教師のビンタが支配する教室から、突如、姿を消した美少女。卒業から40年経って、ボクはその真実を知ります。
【右】『『チャボのラブレター』
2014年10月発売 定価122円
中学校の美しい養護教諭とボクの、淡い恋の物語です。

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