西暦2072年の結婚〈4〉 「ロボット力」vs「天然力」

31歳の職業的主婦。「I&You」の
オフィスで会った吉高麻衣は、頭のいい
天然系キャラだった。その彼女が、突然、
言い出した。「一度、家に来て、みんなと
会ってみませんか?」。自分との相性より、
家族との相性が重要だ——と言うのだ。
連載 西暦2072年の結婚
第4章 「ロボット力」vs「天然力」

最初から読みたい方は、こちら から、前回から読みたい方は、こちら からどうぞ。
2人の夫を持ち、子ども2人を育てる、31歳の職業的主婦・吉高麻衣。
プロファイルに添えられた写真は、どこかアニメのキャラのようでかわいかった。しかし、それは、あくまでメイクされた写真のイメージ。実際に会うと、生活の疲れを漂わせるふつうのおばさんなのかもしれない――と、立花真弓は思っていた。
しかし、違った。
「ご紹介します。こちら、吉高麻衣さん。そして、こちらが立花真弓さんです」
コンシェルジュ・直美に紹介された吉高麻衣は、いきなり、「ワァーツ!」と声を挙げて口元を両手で覆った。
何、ナニ? どうした?
立花も直美も呆気に取られて、顔を見合わせた。
「あ、ごめんなさい。写真のイメージと違ったもんで、ちょっと驚いちゃって……。わたしね、驚くとビックリするタイプなんですよ」
そのままやりすごそうかとも思ったが、それだと、話が途切れてしまう。立花は、咄嗟に切り返した。
「じゃ、ボクとは逆ですね?」
「エッ、逆……?」
「ボクはね、ビックリすると驚いてしまうほうなんですよ」
「ホントだ、まるっきり正反対!」
そう言って、クスッと笑った顔が、まるっきり天然だった。その天然ぶりには、どこにも、生活にくすんだという陰がない。もちろん、派遣労働などですさんだという翳りもない。それに、頭もわるくなさそうだ。
夫2人、子ども2人を抱えて一家を切り盛りできている職業的専業主婦を支えているのは、その天然の力と頭のよさなのかもしれない――と、立花は思った。
プロファイルに添えられた写真は、どこかアニメのキャラのようでかわいかった。しかし、それは、あくまでメイクされた写真のイメージ。実際に会うと、生活の疲れを漂わせるふつうのおばさんなのかもしれない――と、立花真弓は思っていた。
しかし、違った。
「ご紹介します。こちら、吉高麻衣さん。そして、こちらが立花真弓さんです」
コンシェルジュ・直美に紹介された吉高麻衣は、いきなり、「ワァーツ!」と声を挙げて口元を両手で覆った。
何、ナニ? どうした?
立花も直美も呆気に取られて、顔を見合わせた。
「あ、ごめんなさい。写真のイメージと違ったもんで、ちょっと驚いちゃって……。わたしね、驚くとビックリするタイプなんですよ」
そのままやりすごそうかとも思ったが、それだと、話が途切れてしまう。立花は、咄嗟に切り返した。
「じゃ、ボクとは逆ですね?」
「エッ、逆……?」
「ボクはね、ビックリすると驚いてしまうほうなんですよ」
「ホントだ、まるっきり正反対!」
そう言って、クスッと笑った顔が、まるっきり天然だった。その天然ぶりには、どこにも、生活にくすんだという陰がない。もちろん、派遣労働などですさんだという翳りもない。それに、頭もわるくなさそうだ。
夫2人、子ども2人を抱えて一家を切り盛りできている職業的専業主婦を支えているのは、その天然の力と頭のよさなのかもしれない――と、立花は思った。

吉高麻衣は、最初から「主婦」を職業に選んでいたわけではない、と言う。
専門学校を卒業した後、一度は、大手流通会社のテレオペとしてオフィス務めを経験したこともある。しかし、長くは続かなかった。
頭にヘッドセットを装着し、顔も見えない相手に向かって、来る日も来る日も、マニュアルに沿った説明を繰り返すばかりの生活に、たちまち、精神が悲鳴を上げ始めた。
それを癒すべき場所も、人間関係も、職場の中では見出せなかった。あるのは、女同士の派閥のような仲よしグループで集まっては、人のわる口やウワサ話という「負の話題」でうなずき合うだけの、「女子会」という名の飲み会ぐらい。それにも参加しない人たちは、仕事が終わると同時にスマホの画面に見入って、ひとりの世界に閉じこもってしまう。
「何も作ってない、だれにも会ってない。仕事の仲間という関係も作らない。そんなの、ちっとも生産的じゃないって思っちゃって……。ヘンですか、わたしって?」
「いや」と立花は首を振った。
「人間として、ごくまともな感じ方だと思います。でもね、じゃ、人間らしくはたらける仕事が、いまの世の中にあるかっていうと……」
その答えは、立花にも見つかっていない。
「立花さんの仕事はどうです? いまは、どんな荷物を運ばれてるんですか?」
「主に、工場に運び込む原材料とかですかね。昔は、通販の荷物とかも扱っていたのですが、いまは、どの通販会社も宅配を止めて、各地域の集中宅配ボックスへドローンで運び込むようになりましたから」
「そう言えば、ドローン飛び回ってますよね」
「荷物の積み下ろしも、各ボックスへの仕分けも、全部ロボット化されて、ボクたちドライバーの出番は、ほとんどなくなりました」
「ロボット、わたしたちからいろんな仕事を奪っていきますね」
それは、吉高麻衣がやっていたテレオペの世界でも同じだと言う。
特に、アウトバウンド(企業側からユーザーへ情報を流す仕事)では、AI(人工知能)を備えたロボットが、原稿を直接、音声に変えて流すように変わりつつあり、そのうち、コールセンターからは、出力系の女性オペレーターは消えてしまうだろう――とも言われている。
「そのうち、家事も……」と立花が言いかけると、彼女は「ハァ……」と深いため息をついた。
「中流の上以上のクラスでは、どんどん家事ロボットが導入されて、人の手が離れていますよね。残っているのは、趣味として楽しめる料理ぐらいかな。わたしたち下流クラスには、家事にロボットを導入する余裕なんて、とてもありませんけど、でもね……」
そこで、吉高麻衣は、慎重に言葉を選んでいるように見えた。
「わたしは、そのほうが、人としては幸せな気がするんです」
「ですね」と、立花も同意した。

はたらくことに、人としての悦びを感じていたい。
吉高麻衣の言葉からは、そんな彼女の意思が感じられた。立花の世界観とも、そんなに大きくはズレていない。もし、共同生活を送ることになったとしても、価値観がぶつかり合って――ということには、おそらくならないだろう。
問題は、そんなことではない。
吉高麻衣は、肉感的な女だ。彼女の天然と思われる性格は、その肉体的魅力を隠そうともしない。
「あのね……」と身を乗り出すときなど、彼女は、そこそこ豊満と思える乳房をテーブルの縁に押し付けるようにして話をする。ざっくりと着込んだセーターブラウスの、少し深めのオーバル・ネックの胸元から、圧迫されたふくらみの一端が、こぼれ落ちそうにのぞいて見えたりする。
一緒に暮らすことになれば、立花は、朝に、夜に、彼女のそんな肉体のささやきに胸をときめかせながら過ごすことになるのだろう。他の2人の夫たちとともに……。
はたして、男同士は、うまくやっていけるのか? いちばんの問題は、そこにある。
「あの……」と、立花は恐る恐る口を開いた。
「何でしょう?」と、吉高麻衣は身を乗り出して立花の顔をのぞき込んだ。
「いま夫になっていらっしゃる2人の男性は、仲いいですか?」
他に尋ねようがなかった。しかし、彼女の返事は、予想もしていないものだった。
「知らな~い!」
「ハッ……?」
立花は思わず、大きな声で訊き直した。
「だって、私は夫じゃありませんから。あ、でもね、私の前ではケンカしたりはしませんよ」
「フーン……」
感心したような、ちょっと安心したような声をもらすと、吉高麻衣は、いきなり切り出した。
「それ、わたしの夫たちに、直接、訊いてみてください。一度、わが家にご招待して、みんなに紹介しますから」
エッ、いきなりかよ?
立花が動揺しているのを見てとると、会員ナンバー35703201は言うのだった。
「そのほうが話が早いでしょう? わたしたちふたりがどんなに気が合っても、後の家族と合わないっていうんじゃ、そもそも、このスタイルの結婚そのものが考えられなくなりますから」
横で黙って聞いていたコンシェルジュ・直美が、「ウン」というふうにうなずいて言った。
「それじゃ、吉高さんご自身のレベルでは、立花さんは、家族に会わせてもいいという結論なんですね?」
「ていうか、そこがスタートですから」
彼女の返事に、立花と直美は、たがいの顔を見合わせた。
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2014年10月発売 定価122円
中学校の美しい養護教諭とボクの、淡い恋の物語です。
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教師のビンタが支配する教室から、突如、姿を消した美少女。卒業から40年経って、ボクはその真実を知ります。
【右】『『チャボのラブレター』
2014年10月発売 定価122円
中学校の美しい養護教諭とボクの、淡い恋の物語です。

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