シランケンの不純愛講座　西暦2072年の結婚〈3〉「夫業」に「就職」する…!?

西暦2072年の結婚〈3〉「夫業」に「就職」する…!?

時給1000円そこそこのパートのために、
家庭と育児を犠牲にする生活よりも、
自分はプロとして「専業主婦」になる。
そのためには、夫が複数必要だ。
そう考えて、吉高麻衣は「複婚」コースを
選んだという。「会ってみたい」と、
立花真弓は思った。そして——。

　連載　　西暦2072年の結婚　
　第３章　「夫業」に「就職」する…!?

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この話は、連載３回目です。この小説を
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　直美コンシェルジュが「会ってみないか？」とすすめた吉高麻衣という女性は、「専業主婦」であることにこだわっていると言う。
　その理由は、明快だった。
　結婚した女性が働きに出るとしたら、時給1000円になるかならないかのパート労働しかない。1日５時間、月に20日間、パートに出たとしても、それで得られる収入は、月10万になればいいほうだろう。通勤に１時間、睡眠とその前後の準備に８時間、食事・入浴・用便・身づくろいなどに３～４時間費やすとして、残る６～７時間で、夫２人と子ども２人のための育児・家事などをこなさなくてはならない。
　これでは、本や新聞を読んだり、ＴＶを見たりする時間なんて取れない。散歩もできない、ショッピングもできない。趣味の時間なんて、どこのヒマ人の話よ――ということになる。

　自分たちが生まれるずっと前、何とかという総理大臣が「１億総活躍」なんてぶち上げて、それ以来、女は、結婚しても働きに出るのが当たり前になったそうだけど、何が「活躍！」だ。足りない労働力を補うために、家庭に眠っている労働力を狩り出しただけじゃないか。
　自分は、そんな生活はゴメンだ。
　だったら自分は、「プロの主婦」となって、夫と子どものために人生の時間を費やす生活を送りたい。

　それが、吉高麻衣という女が、「複婚」を選んだ理由だった。
　スジが通っている――と、立花真弓は思った。
　「会ってみたいですね」
　立花が言うと、コンシェルジュはウンウン……とうなずいた。

　「Ｉ＆Ｙｏｕ」のマッチングは、まず、書類上で行われる。
　立花真弓のデータを希望する相手に送り、ＯＫの返事が返ってくれば、そこで初めて、当人同士の面会が行われる。場所は、「Ｉ＆Ｙｏｕ」の社内に設けられたマッチング・ルーム。その席には、コンシェルジュの直美も同席する。
　気が合えば、当人同士でデートを重ね、そこでプロポーズし合って婚約が成立すれば、どちらも退会してマッチング終了――というのが、男女１対１の「シングル・コース」のマッチングの手順だ。
　しかし、ダブルやトリプルのコースの場合は、もうひとつマッチングすべき事項がある。相手にすでに夫がいたり、妻がいたりすると、その夫や妻に受け入れてもらえるかも検討しなければならない。
　「立花さんが、この吉高さんをすごく気に入って、吉高さんがこの人なら大丈夫と判断したとしても、彼女の２人の夫のどちらかひとりでも、こいつとは一緒に暮らせないと判断してしまうと、共同生活は成り立たなくなるでしょ？　実は、こっちのマッチングのほうがむずかしかったりするんですよね」
　そりゃ、そうだろうな。立花が少し顔を曇らせていると、直美コンシェルジュは、パッと顔を輝かせて言った。
　「でもね、立花さんだったら、たぶん大丈夫です。どんな人とも、きっとうまくやっていけます。妻を共有するというスタイルを選んだ方たちですから、偏屈だったり、わがままだったりする人たちはいませんから」
　なおも不安げな顔をしている立花に、「愛のセールスレディ」と化した直美仁美は言うのだった。
　「新しい会社に就職すると思えばいいんですよ」
　「カ、カイシャ……ですか？」
　「《吉高麻衣・愛のカンパニー》という会社に、新しい夫として就職する。そう考えれば、少し気が楽になるんじゃありませんか？」
　ナルホドね……とうなずいてしまう自分が、立花真弓にはちょっと意外だった。

　　　　　　　　　　　　

　コンシェルジュである直美仁美には、どうしても立花真弓と吉高麻衣のマッチングを成功させたい理由があった。
　止まらない人口減少と例年減り続ける結婚率の低下を受けて、結婚紹介業を営む会社はどこも経営に苦しみ、2020年以降、老舗の多くがバタバタと倒産していった。
　そんな中、かろうじて生き残ったのは、「上流クラス」に的を絞って、「セレブ婚」「医師婚」「起業家婚」などに特化したいくつかの会社と、「Ｉ＆Ｙｏｕ」のように中下流向けの「ダブル婚」や「トリプル婚」を売り出した数社だけだった。
　しかし、どこも経営はラクではない。「Ｉ＆Ｙｏｕ」も、何度か、倒産の危機がささやかれた。その度に、直美たちコンシェルジュには、厳しいノルマが課された。
　１カ月に10人をコース契約させ、そのうち３組を成婚に導く。それが直美たちに課せられたノルマだった。
　今月は、まだ５人しか契約にこぎつけておらず、成婚に導けたのは１組だけだ。
　立花真弓は、何としても逃してはいけない客だったし、何とか成婚にこぎつけたいマッチングでもあった。
　《吉高さま。本日は、吉高さまにたいへん耳寄りな候補者のニュースをお届けします。立花真弓さんとおっしゃる38歳の男性で……》
　まず、メールでエントリー情報を送った。
　数日後、相手がそれを読んで検討し終えただろうというタイミングを見計らって、電話をかけた。
　「この前、資料をお送りさせていただいた立花さんという男性のことなんですが……」
　直美が全部話し終える前に、明るい声が返ってきた。
　「あ、立花さんという方の件ですよね？　ありがとうございます、ぜひ、お会いしてみたいです」
　決まりだ！
　直美は、立花が挙げた面会可能な日にちの候補をいくつか挙げ、日程を調整した。
　立花真弓・38歳と吉高麻衣・31歳の、１回目の面会日が決まった。
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