シランケンの不純愛講座

哲雄　そうですね。コーカソイド（白色人種）とモンゴロイド（黄色人種）では、もしかしたら、もともと「性欲の強さ」とか「性的能力」に差があるのかもしれない、と私は思うのですが、残念ながら、それについては客観的なデータは発見できませんでした。それよりは、むしろ、文化的差異のほうが大きいのかもしれませんね。

ＡＫＩ　文化的――ですか？　たとえば、エッチが好きとか、あまり好きじゃないとか？

哲雄　好きか嫌いかと言われれば、好きではあるみたいですよ。前出の調査には、こんな項目も出てくるんです。

　 これまでに、何人の相手と肉体関係を持ったか？
　　　世界平均――10.5人
　　　日本人―――12.7人＝世界第３位

ＡＫＩ　エッ、どういうこと？

哲雄　このデータと前のデータを組み合わせて導き出される結論は、ただひとつ。

　日本人は、いろんな異性とセックスをしたがるが、
　同じ相手とセックスを重ねる回数は、きわめて低い！

　ということです。残念ながら、これが、日本人のセックスに対する平均的な性質と言わざるを得ないようなんですよ、ＡＫＩクン。

ＡＫＩ　こうも言えませんか、哲ジイ？　日本人にとってＳＥＸは、ゲーム化しているんじゃないか――って？

哲雄　オーッ、ＡＫＩクン、それは、実にキョーミ深いご指摘ですなぁ。

ＡＫＩ　どうも……てか、私は、その理由が知りたいんですが……。

哲雄　ハイ、ハイ。先ほど申し上げた「文化的理由」のほうですね。私は、ひとつには、宗教的伝統の影響もあるのではないか――と思っているんですよ。

ＡＫＩ　宗教っていうと、「仏教」ですか？

哲雄　それもあるかもしれません。仏教では、「五戒」と言われる「戒め」の中に、「不邪淫戒」というのがあります。これは、「夫婦でない者の間で性交渉をしない」という戒で、特別の日には、この「不邪淫戒」は「梵行」に変わります。「梵行」とは、「性行為をしない」という戒ですが、これが求められるのは、月のうちの特別の日だけですから、それが理由で性交回数が減るとは、あまり考えられません。

ＡＫＩ　じゃ、もしかして「儒教」？

哲雄　そうなんですよ。どっちかと言うと、こちらのほうが大きいような気がします。

　男女七歳にして席を同じうせず。

　なんて言うくらいですからね。

ＡＫＩ　何ですか、それ？

哲雄　あら、知らなかった？　これは、中国の儒者たちの「礼儀」に関する諸説をまとめた『礼記』 の中に出てくる一節です。ここで言っている「席」というのは、「むしろ」とか「ござ」のことですね。このござ・むしろには、一度に４人まで座れて、夜にはこれが寝床としても使われたのですが、男と女は、７歳になったら、一緒の「席」に座ってはいけない――と、儒教では教えていたわけです。

ＡＫＩ　エッチしたりしたら困るから？

哲雄　ま、７歳でそれはないと思いますが、しかし、いけない遊びとかは覚えるかもしれませんよね。だから、男女の区別をわきまえさせ、みだりに親しくならないようにしようとしたわけです。

ＡＫＩ　ま、区別するだけなら問題ないような気もしますが……。

哲雄　区別するだけならね。でも、儒教的価値観の中では、この「区別」は「差別」を含んでいました。たとえば、儒教の中には、女性が守るべき道徳として「三従」というのがあります。

　幼いうちは父に従い、
　嫁いだら夫に従い、
　老いたら子に従え。

　です。女は、いつもだれかに従わなければならず、自由である期間がどこにもない。日本の男女関係も、基本的には、この儒教的価値観に則って考えられてきました。戦前まではね。

ＡＫＩ　ひど～い！　女は、まるで「使用人」のような扱いだったんですね。

哲雄　そうなんです。しかも、ここに「七法」というのが加わります。

ＡＫＩ　エーッ、それも聞いたことないです。

哲雄　こちらもひどいですよ。〈１〉やきもちを焼く女、〈２〉夫の親に従わない女、〈３〉子どもを産まない女、〈４〉淫乱な女、〈５〉たちの悪い病気を持つ女、〈６〉人の物を盗む女、〈７〉口が立ち、親類と仲のわるい女――こういう女は、夫からいつ離縁を言い渡されても文句が言えない、というんですね。

ＡＫＩ　「３年子なきは去れ！」とかいうのは、ここから来たんですね？

哲雄　そうです。そんな価値観で「妻」にされたんじゃたまりませんよね。しかし、いまだに日本の社会には、こういう男女観が根強く残っていて、「妻」となった女性を「ひとりの独立した人間」として尊重するという姿勢が、希薄なのかもしれません。

ＡＫＩ　だから、「妻」になってしまった女を「女」としては扱わなくなったりするんですね？　それが、セックス回数が少なくなる理由？

哲雄　それも、理由のひとつとしてはあるだろうな――と、私はニラんでいます。しかし、理由はそれだけじゃありません。もっと大きな理由が、実は、社会生活のあり方の中にひそんでいると、私は思っています。それを語り出すと、長くなりますので……。

ＡＫＩ　わかりました。それは、次回のお楽しみに……ていうか、あまり聞きたくない話かもしれないけど。

哲雄　いや、きっとキミは、聞きたくなるでありましょう。なぜならそれは、キミの仕事にも大いに関係することですから。

ＡＫＩ　エッ、エーッ!?　それ、聞きた～い！

哲雄　ではまた……。

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