荒野のバラと谷間のユリ〈17〉 ふたりだけのクリスマス

バラの花束彼女はパンとワインを持って、ボクの部屋に
やって来た。イヴの夜を一緒に過ごすために。


主のいなくなった小野田のデスクに座って、
栞菜は「いなくなっちゃったね」と寂しそうに言う。
「ね…」とその口が開いた。「パンとワインがあるの。
ふたりだけでクリスマスしない?」。それは――。



 連載小説/荒野のバラと谷間のユリ ――― 第17章 
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ここまでのあらすじ 大学を卒業して、できたばかりの出版社「済美社」に入社したボク(松原英雄)は、配属された女性雑誌『レディ友』の編集部で、同じく新卒の2人の女子編集部員、雨宮栞菜、戸村由美と出会う。感性の勝った栞菜と、理性の勝った由美は、何事につけ比較される2人だった。机を並べて仕事する由美は、気軽に昼メシを食べに行ける女だったが、栞菜は声をかけにくい相手だった。その栞菜を連れ回していたのは、年上のデスク・小野田宏だった。栞菜には、いつも行動を共にしている女がいた。右も左もわからずこの世界に飛びこんだ栞菜に、一から仕事を教え込んだ稲田敦子。そのふたりに、あるとき、「ヒマ?」と声をかけられた。ついていくと、そこは新宿の「鈴屋」。「これ、私たちから引っ越し祝い」と渡されたのは、黄色いホーローのケトルとマグカップだった。その黄色は、ボクの部屋に夢の形を作り出す。そんなある夜、小野田に飲みに誘われた栞菜が、「松原クンも行かない?」と声をかけてきた。元ヒッピーだと言うママが経営するスナックで、ボクは小野田が、かつては辺境を漂白するバガボンドだったことを知らされる。その帰り、バガボンド小野田は、「一杯飲ませろ」と、ボクの部屋にやって来た。小野田は、黄色いマグカップでバーボンを飲みながら、自分の過去を語った。漂流時代にアマゾンを探検中、後輩を水難事故で死なせてしまったというのだった。やがて、年末闘争の季節がやって来た。組合の委員長・小野田は、「スト」を主張。書記のボクと副委員長の相川は、それをセーブにかかった。しかし、会社の回答は、ボクたちの予想をはるかに下回った。その回答を拒否することが決まった翌日、栞菜は部長たちと夜の銀座へ出かけ、由美はボクを夜食に誘って、「ストはやらないんでしょ?」とささやいた。女たちは、ほんとは、「スト」なんか望んではいないのだ。そんな中で開かれた第二次団交は、何とか妥結にいたり、栞菜の発案で、彼女と由美、ボクと河合の若者4人組で、祝杯を挙げることになった。その夜、珍しく酔った栞菜の体がボクの肩の上に落ちた。飲み会がお開きになると、稲田敦子と栞菜がボクの部屋を「見たい」とやって来た。「眠くなった」と稲田が奥の部屋に消えたあと、「飼いネコになりなよ」と発したボクの言葉に、栞菜は頭をすりつけ、唇と唇が、磁石のように吸い寄せられた。その翌々週、ボクたちは忘年会シーズンに突入した。珍しく酔った由美を送っていくことになったボクに、由美は、「介抱してくれないの?」とからんできた。一瞬、心が揺らいだが、酔った由美を籠絡する気にはなれなかった。その翌日、編集部に顔を出すと、小野田がひとりで荷物をまとめていた。「もう、この会社は辞める」と言うのだった。「荷物運ぶの手伝ってくれ」と言われて、蘭子ママの店に寄ると、小野田が言い出した。「おまえ、何で由美をやっちまわなかった?」。それは、小野田が自分に言っている言葉でもあった――




 合併号の入稿を終えた編集部は、ガランとしていた。
 その閑散とした空気を一段と寂しく感じさせたのは、小野田宏のデスクだった。いつもはうず高く資料などが積み上げられていた小野田宏のデスクが、きれいさっぱりと片づけられている。そこに座って、いつもむずかしい顔で何かを読んだり、腕組みをして考えごとをしたり、原稿用紙にサラサラと鉛筆を走らせていた小太りの姿も、もうない。
 編集部全体の質量が、いくぶん、軽くなったようにも感じられた。
 そのデスクに雨宮栞菜が座っていた。
 ボクの顔を見ると、栞菜は主のいないデスクの上をスーッと手でなぞった。なぞった腕を「く」の字に曲げてデスクの上に伸ばし、その上に頭を載せて言う。
 「いなくなっちゃったね……」
 その目は、ボクを見ているようでもあり、どこか遠くを見ているようでもある。
 「飼い主が?」
 少しいじわるく訊いてみた。
 「飼い主……じゃなかったわ」と、少し寂しそうに首を振る。
 「よく、エサをくれてたみたいだけどね」
 「見たこともないエサだったから、ごちそうになったけど、でも……」
 「でも……何?」
 「タイプじゃなかった……」
 小野田宏が力なく口にした言葉と、どこかがつながるような気がした。
 「ね……」
 だれたネコのように、頭を腕に載せて突っ伏していた栞菜が、ガバと上体を起こした。
 「フランスパンとチーズとワインがあるの。ふたりだけでクリスマスしない?」
 それは、「あなたの部屋に行ってもいいか?」という、栞菜流の言い方だった。
 申し訳ないけど、小野田さん――と、口の中でつぶやいた。
 ボクは、こっちにしときます。
 そして、栞菜の言葉に「いいね」と目を輝かせた。

        

 栞菜をボクの部屋に連れて来るのは、稲田敦子と栞菜がふたりでやって来て以来、2度目だった。
 自分たちが贈った黄色いケトルとマグカップが、どんなふうに、グリーンとマリンブルーのカーテンの部屋に収まっているか、ふたりはそれを見に来たのだったが、やがて、敦子は寝入ってしまい、その間に、ボクと栞菜は、「飼いネコと飼い主」の関係になる意思を確認し、そして、唇を重ね合った。
 それから2週間あまりが経っていた。
 「ちょっと、キッチン借りてもいい?」
 部屋に入ると、栞菜はまな板と包丁を取り出して、パンを切り始める。
 「ドンクのバゲットなのよ。私、好きなんだ。でも、この包丁、切りにくい……」
 学生時代に、横浜の近所の雑貨屋で買った万能包丁だったが、買って以来、一度も研いだことがない。
 「わかった。そろそろ買い替えなくちゃ……と思ってたところだから、今度の日曜日にでも、買い物に行くよ」
 「だったら、日曜日に中野まで行かない? 駅ひとつでしょ? あそこだったら、ブロードウエイもあるし、マルイもあるし。あ、そのワイン、コルク抜いといてくれる?」
 なんだか、いきなり、会話が日常っぽくなった。
 そのことに、ボクは少し戸惑った。戸惑ったけれど、それが少し、新鮮でもあった。
 問題がいくつかあった。
 せっかくコルクを抜いたのに、そのワインを注ぐワイングラスがボクの部屋にはなかった。
 栞菜が切り分けたバゲットとチーズを載せるべき大皿もなかった。
 仕方ないので、ワインは黄色いホーローのマグカップに注ぎ、バゲットとチーズは、フライパンに載せたまま、テーブルに置いて、そこから直接つまんだ。
 貧しい食卓だったが、栞菜は「野性的だね」と、むしろそれを楽しんでいるようにも見えた。
 もちろん、それで満足というわけではない。日曜日の買い物では、包丁だけでなく、大皿とワイングラスも買うことを約束させられた。まるで、これから同棲生活を始めるカップルのようだ――と思ったが、栞菜には帰るべき家もあり、帰りを待つ親もいた。

        

 翌日はクリスマス・イヴという夜だった。
 外は深々と冷えている。
 しかし、ボクの体は、ワインの酔いと石油ストーブの熱で火照っていた。
 栞菜も「暑くなってきたわ。ちょっと外の空気、入れない?」と窓辺に寄って、窓を半開きにした。その瞬間、身を切るような冷気が部屋の中に流れ込んできた。
 「ウワッ、寒ッ!」
 しばらく、外の風に頬をなぶらせた栞菜は、窓を閉め、カーテンを引いて、ブルッと体を震わせた。
 その目が、「温めてほしい」と訴えているように見えた。
 肩に手を置いてそっと引き寄せると、栞菜の全身はフニャと力をなくして、ボクの両腕の中に崩れ落ちてきた。頭をボクの胸に埋めて、それをスリスリとボクの胸板にこすりつけてくる。
 そのあごを片手で支えて上向かせると、栞菜はワインの香りを吐息に乗せながら、唇を半開きにした。その口を吸った。
 小さな舌が前歯の間から、差し込まれてきた。よく動く栞菜の舌先は、ボクの舌先を捕えると、じゃれ合うようにそれを絡め合った。
 舌と舌でダンスを踊る長いキス。唇を彼女の口から離すと、ボクは唇をその額に当て、まぶたに当て、鼻の頭に当て、そして、耳たぶに当て、首筋に這わせた。
 やっぱり、あの香りだ……。
 彼女の首筋からは、いま、お風呂から上がったばかり……というような、石けんの香りが立ち上っていた。
 その香りの湧いて出る場所を探して、唇を首筋から鎖骨へ――と這わせていく。
 栞菜の口からもれるワインの香りが強くなる。
 パープル色のモヘアのセーターの下で、胸が大きく盛り上がっては沈み、そのテンポが速く、荒くなっていく。
 そのふくらみの頂点に、そっと手を這わせて、ゴムまりのような弾力に圧力を加える。
 ボクの手の中で、彼女のふくらみは、ウレタンのように崩れ、元の形を取り戻そうと反発してくる。その反発の頂点で、アーモンド大の突起が硬度を増している。
 その突起を目で確かめたい、触れたい――と思った。
 ボクは、栞菜のモヘアのセーターの中に手をもぐらせ、その手を彼女のふくらみへと向けて、匍匐させた。
 栞菜は、ボクの目を見ていた。
 「何するの?」という目だった。
 咎めているのではなく、「どうする気?」と問いかけるような目だった。
 ボクの手が、彼女のふくらみの下辺にたどり着いたとき、栞菜はゆっくり首を振った。
 「ダメなの?」と目で問いかけると、彼女の口が小さく開いた。
 「脱ぐわ……」
 それから彼女は、ボクの首に回していた手を下ろしてセーターの裾をつかみ、ゆっくりと、それをたぐり上げていった。
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