荒野のバラと谷間のユリ〈11〉 揺れる体の落ちる先

バラの花束酔った体が落ちる先に、ボクがいた。
それをニラむ2つの目があった。


年末闘争が妥結した祝いに、ボクと栞菜と由美、
それに河合の若者4人組で飲みに出かけた。
珍しく酔った栞菜の体が揺れ始めた。その揺れる
体が落ちた先は、ボクの肩だった――。



 連載小説/荒野のバラと谷間のユリ ――― 第11章 
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この話は連載11回目です。最初から読みたい方は⇒こちらから、
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ここまでのあらすじ 大学を卒業して、できたばかりの出版社「済美社」に入社したボク(松原英雄)は、配属された女性雑誌『レディ友』の編集部で、同じく新卒の2人の女子編集部員、雨宮栞菜、戸村由美と出会う。感性の勝った栞菜と、理性の勝った由美は、何事につけ比較される2人だった。机を並べて仕事する由美は、気軽に昼メシを食べに行ける女だったが、栞菜は声をかけにくい相手だった。その栞菜を連れ回していたのは、年上のデスク・小野田宏だった。栞菜には、いつも行動を共にしている女がいた。右も左もわからずこの世界に飛びこんだ栞菜に、一から仕事を教え込んだ稲田敦子。そのふたりに、あるとき、「ヒマ?」と声をかけられた。ついていくと、そこは新宿の「鈴屋」。「これ、私たちから引っ越し祝い」と渡されたのは、黄色いホーローのケトルとマグカップだった。その黄色は、ボクの部屋に夢の形を作り出す。そんなある夜、小野田に飲みに誘われた栞菜が、「松原クンも行かない?」と声をかけてきた。元ヒッピーだと言うママが経営するスナックで、ボクは小野田が、かつては辺境を漂白するバガボンドだったことを知らされる。その帰り、バガボンド小野田は、「一杯飲ませろ」と、ボクの部屋にやって来た。小野田は、黄色いマグカップでバーボンを飲みながら、自分の過去を語った。漂流時代にアマゾンを探検中、後輩を水難事故で死なせてしまったというのだった。やがて、年末闘争の季節がやって来た。組合の委員長・小野田は、「スト」を主張。書記のボクと副委員長の相川は、それをセーブにかかった。しかし、会社の回答は、ボクたちの予想をはるかに下回った。その回答を拒否することが決まった翌日、栞菜は部長たちと夜の銀座へ出かけ、由美はボクを夜食に誘って、「ストはやらないんでしょ?」とささやいた。女たちは、ほんとは、「スト」なんか望んではいないのだ。そんな中で開かれた第二次団交は、何とか妥結にいたり、女たちは安堵の表情を浮かべた。「お疲れ様。飲みに行こう」と言い出したのは、栞菜だった――




 「花の宿」には、入り口にメッセージボードが掲げてある。
 《消えた花なら、ここにある。
 平和を祈って、ここに咲く》
 反戦フォークとしてヒットした『花はどこへ行った』への返歌とも思えるメッセージだ。週末になると、シャンソンのライブをやったり、詩の朗読会をやったりするその店は、リベラルな若者たちが集まる店としても知られていた。
 雨宮栞菜がやって来るまでの間、ボクと戸村由美と河合金治は、栞菜がキープしてあるというカティサークを水割りにして、「とりあえず、お疲れ様でした」と乾杯した。
 「松原クンがうまくまとめてくれたんだって?」と由美が訊くので、ボクは頭を掻いた。
 「小野田さんには、ワル知恵って言われちゃったけどね」
 「ワル知恵……?」
 「せこい知恵を出した――ってことだよ」
 そんな話をしていると、河合が、床に足を投げ出し、大きく伸びをしながら「あ~あ」と声を挙げた。
 「スト、やりたかったけどねェ……」
 その顔をチラと見やって、由美が言った。
 「私は、やらないですむならやらないでほしい、と思ってたわ」
 「やらないでほしい? ストって、だれかにやってもらうものじゃないからね」
 やれやれ……と、ボクは思った。運動の自発性や自主性を重視するアナルコ・サンディカリズムあたりの考え方を主張したいのだろう。しかし、それを由美たちに求めてもムリだよ、と思った。
 「そんなアナーキーなことを言っても、現実社会じゃ通用しないよ」
 「ボクは、大衆の自発性を……」
 言いかけて、河合は口をつぐんだ。
 ボクは、ちょっとだけ、河合金治の将来が心配になった。学生時代そのままの、まるで青銅のような理想論を、何の加工も加えずに振りかざしていたのでは、この現実世界と折り合いをつけることができないのではないか。現実的になれよ、河合!――と思ったが、それを説くのは、ボクの任務ではなかった。

        

 店の中には、ボクたちの他に、思いもしない珍客がいた。
 それに最初に気づいたのは、由美だった。
 「あの人、稲田さんじゃない? ホラ、壁際に座って、男の人と親しそうに話している人」
 時折見せる横顔が、稲田敦子にそっくりだった。栞菜が指定した店だから、いつも行動を共にしている稲田がそこに居合わせても、不思議でも何でもない。しかし、どこか様子が、秘密めいている。
 相手の男は、40代後半か50代前半というところだろうか。もしかして、彼女のウワサの不倫相手か?――とも思ったので、声をかけようとする由美を手で制した。
 そこへ、栞菜が入り口のドアのカウベルを鳴らして入って来た。
 「ゴメン。遅くなって」
 その声に、稲田敦子が振り向いて、「あら……!?」と声を挙げた。
 「来てたの?」
 「そっちは?」
 「会社の若者組。顔はみんなわかるでしょ? きょうは、年末一時金の妥結祝いで集まったの。あら、森野さんも一緒?」
 「森野さん」と呼ばれた男は、「どうも……」と立ち上がって、ボクたちの席を見回した。
 「じゃ、みなさん、済美社の方たちですか?」
 「あ、紹介しておきますね。みんな『レディ友』の編集部員で……」
 栞菜がひとりひとり名前を読み上げるのに合わせて、ボクたちはあわてて名刺を取り出した。
 「こちらは森野さん。S社グループのレップをやってる、闘う広告マンなのよ」
 「レップ」というのは、出版社側の広告営業を代行する業者のことを言う。広告主側の業務を請け負う「広告代理店」に対して、「レップ」は入広業務を請け負う。「S社グループの」ということは、そのうち、『レディ友』の入広営業も引き受けることになるのだろう。
 そう言えば、第二次団交の前日、S社の広告部長が済美社に来て、うちの営業部長と何やら相談していた。レップであれば、『レディ友』の広告収入を増やそうという話に、おそらく、この男も一枚、噛んでいるのだろう。
 「そのうち、うちの広告営業でもお世話になることになるんでしょうね」
 「いや、もう、おたくの営業部長からも発破をかけられてます」
 「そうだったんですか。それで、闘う広告マンですか?」
 「違うのよ」と、栞菜が口を挟んだ。
 「森野さん、ちょっと組合で暴れすぎちゃったのよ。そうですよね?」
 「あ、いや……その話は……」と照れる森野氏に代わって、栞菜が事情を説明してくれた。
 森野氏は、元は、S社の週刊誌の編集部にいたが、組合活動での過激な言動が仇となって、広告部に配転され、さらに「水道橋メディアレップ」というS社の関連会社に出向を命じられた。実は、稲田敦子をスタッフとして『レディ友』に紹介したのも、森野氏だったと言う。
 「なんだ、そうだったんだ」
 「もしかして、怪しい関係と思った?」
 「ちょっぴりね」
 「残念でした。私には、そんな男はいませんの」
 横から、稲田魔女が口を出し、そして、ボクにだけわかるように付け足した。
 「いても、こういう場所には連れて来ないわ」

        

 よかったら一緒に飲まないか――という話になって、稲田敦子と闘う広告マンも、ボクたちの席に加わった。
 森野某は、よく飲む男で、栞菜のボトルはたちまち、空になった。「じゃ、ニューボトルは私が……」と、森野氏がターキーを注文した。「お近づきのしるしに」ということなので、ボクたちは、遠慮なくちょうだいすることにした。
 交渉妥結の安心感も手伝って、その夜の酒は、よく進んだ。
 「ところで、松原さん、妥結額はいくらになったんです?」と、森野氏が訊いてきた。
 「4カ月プラス一律10万円です」
 「じゃ、うちもそれくらいは行くかなぁ……」
 「交渉は、これからなんですか?」
 「そうなんですよ。でも、ガンバりましたね、委員長。S社グループの中では、わるくない数字だと思いますよ」
 「いや、ボクは委員長じゃなくて、書記ですから。ガンバったのは……」
 委員長が強気で――と言いかけたところへ、横から栞菜が割り込んだ。
 「最後の一律10万円は、彼のひと押しらったんれすって。ね……」
 栞菜は、少し呂律がおかしくなっていた。
 「ね……」と言ってボクの背中を叩くと、そのまま、体が揺れた。
 「珍しい。酔ってますね、雨宮さん」
 「珍しいんですか?」
 「少なくとも、クライアントを交えて飲むような席では、決してこんな姿は見せないですね」
 それはそうだろうな――と思っていると、「ホラ、カンナ!」と、稲田敦子が自分のショールを栞菜のひざに投げて寄越した。
 体が揺れ始めた栞菜のミニスカートは、ももの付け根近くまでめくれ上がっていた。
 栞菜は、敦子が投げたショールをももからひざの上にかけると、そのまま背中を壁に預けた。
 頭が、ゆっくりとボクのほうに傾いてくる。
 立ち上がって席をずらそうとするのを、敦子が首を振って制した。
 「そのままにさせておいて」と言っているように見えた。
 その様子を河合がニラみつけていた。
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