荒野のバラと谷間のユリ〈4〉 黄色いケトルとマグカップ

バラの花束その夢には形があった。
その形は、日に日に夢を想像に変えた。


栞菜が「引っ越し祝いに」とくれた黄色いケトルと
マグカップは、ボクの部屋に、ひとつの夢の形を
作った。そんなある夜、小野田に誘われた栞菜が、
「松原クンも行く?」と声をかけてきた――。



 連載小説/荒野のバラと谷間のユリ ――― 第4章 
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この話は連載4回目です。最初から読みたい方は⇒こちらから、
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ここまでのあらすじ 大学を卒業して、できたばかりの出版社「済美社」に入社したボク(松原英雄)は、配属された女性雑誌『レディ友』の編集部で、同じく新卒の2人の女子編集部員、雨宮栞菜、戸村由美と出会う。感性の勝った栞菜と、理性の勝った由美は、何事につけ比較される2人だった。机を並べて仕事する由美は、気軽に昼メシを食べに行ける女だったが、栞菜は声をかけにくい相手だった。その栞菜を連れ回していたのは、年上のデスク・小野田宏だった。栞菜には、いつも行動を共にしている女がいた。右も左もわからずこの世界に飛びこんだ栞菜に、一から仕事を教え込んだ稲田敦子。そのふたりに、あるとき、「ヒマ?」と声をかけられた。ついていくと、そこは新宿の「鈴屋」。「これ、私たちから引っ越し祝い」と渡されたのは、黄色いホーローのケトルとマグカップだった――。




 細い注ぎ口が鶴の首のように美しいカーブを描いて伸びた、黄色いホーローのケトルと同じ色のマグカップ2客。
 それは、まるで、その部屋を見てコーディネートしたもののように、ボクの新居のブルーとグリーンのカーテンを背景に浮かび上がった。
 すると、そのケトルで湯を沸かし、コーヒーを淹れたくなる。コーヒーを淹れると、そのカップで飲みたくなる。
 マグカップが、2客。
 もう1客は、だれが使う?
 黄色いマグカップでコーヒーを飲む、ボクともうひとりのだれか。
 頭の中でその姿を想像し、そして、いつの間にか、ボクはその光景が実現できる日を夢想し始める。
 それが、雨宮栞菜の魔法の正体だったのかもしれない。

 その魔法にかかっていいのか?
 ボクは少し迷っていた。
 栞菜を追い回している――と感じられる男が、ボクの視界に入るだけでも、少なくとも2人はいた。
 ひとりは、学生時代から栞菜を追い回しているらしい河合金治。
 そして、もうひとりは、「カンナ、行くゾ!」と彼女を夜の街に連れ出す、小野田宏。
 まだいた。表紙のデザインを担当していて、何かと言っては栞菜を呼びつけるグラフィック・デザイナーの亀山一郎という男。
 そんな男たちと揉み合いを演じながら魔法に溺れていくのは、骨が折れるなぁ――という気分もあった。
 しかし、雨宮栞菜の魔法は、日に日に、効いてきた。ボディブローのように……。

        

 「松原さんも行かない?」
 小野田宏に「行くゾ!」と声をかけられた栞菜が、ボクに声をかけてきたのは、そろそろ、暮れのボーナス闘争が始まろうか――という時期だった。
 その前の週から、委員長の小野田、副委員長の相川、そして書記のボクは、3人で会社に突きつける要求案を煮詰め、ボクは組合大会にかける議案の作成に取り掛かっていた。
 「オゥ。そんなの、後でいいから、来いよ」
 「そんなの――って、これ、議案書ですよ」
 「適当でいいよ。適当で」
 それが、委員長の言葉かよ――とは思ったが、せっかく栞菜がかけてくれた声を無視するのもなんだかもったいないので、ボクは小野田たちの後に従うことにした。
 「じゃ、ボクも……」と、河合金治も腰を上げた。
 小野田と栞菜、河合にボク。4人でタクシーを拾って向かったのは、六本木にあるスナックともパブともつかない店だった。
 ベリー・ショートの髪をグリースで撫でつけ、マニッシュなスーツに身を包んだ、最初はマスターかと思った人物が、ママらしかった。
 「あら、きょうは大勢さんねェ」
 ドカドカと店に入って来たボクたちを見て、そのママらしい女性が、うれしそうに顔をほころばせた。
 「すいません、どやどやと……」
 ペコリと頭を下げると、
 「いいのよ。みなさんの顔が$マークに見えるわ」
 「$ですか?」
 「ああ、この人、アメリカ帰りだから」
 説明しながら、小野田は「適当に座ってくれ」と、狭い店内のソファをアゴでしゃくって見せた。
 見回すと、店内の壁には、アメリカの風景をバックに撮られたバイクの写真やどことも知れない田舎町の風景写真が飾ってある。それらの写真に混じって、テンガロンハットやバンダナなどが、さりげなくぶら下げてあった。
 「もしかして、イージー・ライダーだった……とか?」
 ボクが尋ねると、「似たようなものね」と、ぶっきらぼうな答えが返ってきた。
 「正真正銘のヒッピーだったんだよ、この子」
 小野田が、謎のベリー・ショートを「この子」扱いして言う。
 「もう、忘れたね。あまりに昔のことだから」
 ママらしき女は、ひじから先の腕を「過去」を放り捨てるように動かした。
 「ヒロシ、酒はいつものでいいかい?」
 「ああ、適当でいいよ」
 ここでも「適当なんだ」と思っていると、テーブルにドンと、バーボンのボトルと氷が出され、人数ぶんのタンブラーが運ばれた。
 「水も頼むよ」
 「あら、バーボンを水で割るの?」
 「酒に慣れてないのもいるからさ」
 どうやらボクのことを言っているらしい――と思って、「すみません」と頭を下げた。
 不承不承という感じでママがミネラルのボトルを2本、テーブルに持ってくると、栞菜がタンブラーに氷を入れ、バーボンを注いで、そのうちの2つに水を注いだ。
 なんだか手馴れている。その様子は、栞菜がその店の常連であることを示していた。

        

 世間的に言うと、その夜の酒のメンバーは、職場の仲間の集まり――ということになるのだろう。そういう場合、酒の話題は、たいていは、会社への不満になったり、同僚や上司のウワサ話になったりする。
 しかし、その夜のメンバーにとって、会社を批判するなんていうことは、もはや当たり前すぎて、酒の肴にもならなかった。
 「この会社を辞めたら、何をするか?」
 「そもそも、おまえは何をやりたかったのか?」
 話は、どうしても、そういう方向に進む。
 会社の中で出世しようという考えも、会社に骨を埋めようという考えも、4人のうちのだれひとり、持ってはいなかった。
 小野田さんは、どうするつもりなんだろう?
 そういう話を振り向けると、小野田は「さあな……」ととぼけた後で言うのだった。
 「だいたいよ、この国にいるかどうかもわかんねェよ。飽きたしな、このちんけな社会には……」
 すると、ママらしい女が口をはさんだ。
 「そのちんけな社会のちんけな会社ひとつ牛耳れないちんけな男が、何を言うんだかね、まったく」
 それを聞いて、小野田がやれやれ……という顔で頭をかいた。
 「じゃ、牛耳ってやればいいじゃないですか、小野田さん」
 ボクが応じると、小野田は首を振って言った。
 「それはよ、おまえらにまかせた。オレはそのうち降りる」
 「これだよ……」
 呆れたという顔で席を立ったママが、カウンターの奥に立てかけてあったガット・ギターを手にして、ボロン……とコードをストロークした。

 時には母のない子のように
 だまって海を見つめていたい
 時には母のない子のように
 ひとりで旅に出てみたい……



 カルメン・マキよりは少しハスキーな声が、レンガ造りの店の壁に染み込んでいく。
 手にしたグラスの中の氷をカラッ……と回して、小野田宏はバーボンをグビリとのどに流し込んだ。
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Re: こんにちは

syunさま

ごていねいにごあいさつ、ありがとうございます。
リンクもありがとうございます。

現在、連載中の小説は、
筆者の青春時代を基にしたフィクションです。
お楽しみいただければ幸いです。

こちらこそ、これからもよろしくお願いいたします。

哲雄

こんにちは

長住様

前日は当方の拙いBlogへご来訪とコメント、
ありがとうございました

当方もリンクを張らせていただきました

主人公が掛けられつつある魔法がこの後どうなるのか、
取り巻く人間模様含めて楽しみに読ませていただきたいと思います。

カノジョ共々、今後とも宜しくお願いします
ご訪問ありがとうございます
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長住哲雄…独自の人間関係論を元に、数々の著書を刊行してきたエッセイスト&編集者。得意ジャンルは、恋愛論やコミュニケーション論。

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