チュンリーの恋〈10〉 封印された水着写真

原田が開いて見せたカメラマン・荒川のサイトには、
作品集のページがあった。そこに春麗の水着写真があった。
乳首まで透けて見える水着。春麗が唇を震わせた――
マリアたちへ 第19話
チュンリーの恋〈10〉
前回までのあらすじ 粟野隆一のオフィス開設祝いに出席した末吉彰男は、粟野から「末吉さんの後輩ですよ」と、ひとりの女性を紹介された。名前を劉春麗。彰男の母校・Y大を留学生として卒業し、いまは、マスコミで仕事する機会を探しているという。「いろいろ教えてやってください」と粟野に頼まれて、「私でよければ」と名刺を渡すと、すぐに電話がかかってきた。春麗は、日本の雑誌や新聞で、日中の架け橋になるような仕事がしたいと言う。そのためには、完全な日本語表記能力が求められる。その話をすると、「ラブレターでも書いてみましょうか?」と春麗は言った。そのラブレターは、すぐ届いた、完璧な日本語で。これならいける。彰男は春麗を、月刊経済誌の編集をしている原田に紹介することにした。原田は、春麗の顔を見ると、「恋人はいるんですか?」と、いきなりセクハラな質問を浴びせた。「日本では、仕事をするのに、ああいうことを訊くんですか?」と、怒っている様子の春麗だったが、「験しに記事を一本、書いてみて」という原田の要求に、応えるつもりらしかった。その原稿の出来栄えに、原田は「いいね、彼女」と相好を崩した。その「いいね」には、別の「いいね」も含まれていた。「彼女、男をそそるんだよね」と言うのだ。その夜、春麗に電話をかけた彰男は、春麗の様子がおかしいことに気づいた。彼女のそばには、男がいる。彰男は確信したが、その男がどんな男なのか、想像がつかない。翌日、春麗から電話が入った。「きのうはごめんなさい。きょうは私にごちそうさせてほしい」と言うのだった。春麗が案内したのは、遠い親類がやっているという北京ダックの店だった。春麗の遠縁にあたるという店のオーナー・劉学慶に、「チュンリーをよろしく」と頭を下げられて店を出た彰男に、春麗は腕を絡めてきた。その腕を引っ張って、通りを右へ左へと急ぐ春麗。その口から意外な言葉が飛び出した。「私、見張られている」。翌週、粟野がひとりの男を連れて編集部に売り込みに来た。カメラマンの荒川タケル。初めて春麗をモデルとしてデビューさせた男だと言う。その写真は、男性誌のグラビア用の水着写真だった。数日後、春麗の初記事が『東亜タイムス』に掲載された。原田と彰男は春麗を誘って祝宴を挙げた。その席で、ふたりに料理を取り分けてくれる春麗の姿が、彰男と原田には新鮮に感じられた。「とても、あんな水着写真を撮らせていた女の子には見えない」。原田のひと言に、春麗の顔が固まった――
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このシリーズは、筆者がこれまでに出会ってきた思い出の女性たちに捧げる「ありがとう」の短編集です。いま思えば、それぞれにマリアであった彼女たちに、心からの感謝を込めて――。

書店で見かけたら、ぜひ、手に取ってご覧ください。
『すぐ感情的になる人から傷つけられない本』
発行・こう書房 定価・1400円+税


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春麗のモデル時代の水着写真など、彰男も見たことがなかった。
「おまえ、それをどこで知った?」
彰男が尋ねると、原田は「エッ!? 知らなかったの?」という顔をした。
「どこ……って、あれだよ、あれ。ネットだよ」
「ネット? どこのサイトですか?」
今度は、春麗が、声を挙げた。その声が、質問に立つ女性議員のように険しかった。
「あれ!? 春麗さんも見てないの?」
「私、そんなの、知りませんッ!」
「何だよ、しょうがないなぁ……」
言いながら、原田は、ノートPCを食卓の上に広げ、電源を立ち上げた。
「春麗さんのいる『オフィス TR』ってさ、WEBサイトを持ってるでしょ? 自分のオフィスのサイト、見たことないの? それ、ちょっと怠慢だなぁ」
「オフィスったって、彼女は、そこでバイトしてるだけだから……」
「それはわかってる。しかしさ……ホラ、出てきた。問題は、ここからさ。このホームページには、代表の粟野隆一、荒川タケル、ふたりのプロフィル・ページへのリンクが貼ってあるんだけどさ、この荒川タケルのプロフィル・ページへ飛ぶと、さらにそこから、荒川氏個人のサイトへのリンクが貼ってある。いいかい、これをクリックすると、ホラ、これ、これ!」
原田が開いて見せた画面を、彰男も春麗も食い入るようにのぞき込んだ。春麗がゴクリ……とツバを呑み込む音がした。
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