チュンリーの恋〈6〉 北京ダックをあなたに

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春麗の近くには、男がいる。それはだれだ?
彰男が妄想を膨らませいてると、春麗から電話が入った。
「きょうは私にごちそうさせてほしい」と言うのだった――  


 マリアたちへ   第19話 
チュンリーの恋〈6〉

 前回までのあらすじ  粟野隆一のオフィス開設祝いに出席した末吉彰男は、粟野から「末吉さんの後輩ですよ」と、ひとりの女性を紹介された。名前を劉春麗。彰男の母校・Y大を留学生として卒業し、いまは、マスコミで仕事する機会を探しているという。「いろいろ教えてやってください」と粟野に頼まれて、「私でよければ」と名刺を渡すと、すぐに電話がかかってきた。春麗は、日本の雑誌や新聞で、日中の架け橋になるような仕事がしたいと言う。そのためには、完全な日本語表記能力が求められる。その話をすると、「ラブレターでも書いてみましょうか?」と春麗は言った。そのラブレターは、すぐ届いた、完璧な日本語で。これならいける。彰男は春麗を、月刊経済誌の編集をしている原田に紹介することにした。原田は、春麗の顔を見ると、「恋人はいるんですか?」と、いきなりセクハラな質問を浴びせた。「日本では、仕事をするのに、ああいうことを訊くんですか?」と、怒っている様子の春麗だったが、「験しに記事を一本、書いてみて」という原田の要求に、応えるつもりらしかった。その原稿の出来栄えに、原田は「いいね、彼女」と相好を崩した。その「いいね」には、別の「いいね」も含まれていた。「彼女、男をそそるんだよね」と言うのだ。その夜、春麗に電話をかけた彰男は、春麗の様子がおかしいことに気づいた――

【リンク・キーワード】 エッチ 官能小説 純愛 エロ
このシリーズは、筆者がこれまでに出会ってきた思い出の女性たちに捧げる「ありがとう」の短編集です。いま思えば、それぞれにマリアであった彼女たちに、心からの感謝を込めて――。



この話は、連載6回目です。この小説を最初から読みたい方は、こちらから、
   前回分から読みたい方は、こちらからどうぞ。


 劉春麗には、男がいる。
 電話の様子から、彰男はそう確信した。
 「ボーイフレンドならいますよ」
 原田智治と面会したときに、そう言い放った春麗だったが、その「ボーイフレンド」は春麗のすぐ近くにいるのではないか。そして、その男は、春麗が電話に出ている間も、その体に手を伸ばしてくるような、そういうタイプの男なのではないか。
 頭の中に浮かんだその想像は、彰男の体を熱くした。
 しかし、男の顔が想像できない。
 そいつは、中国から春麗を追ってきた男なのか、それとも留学生仲間なのか?
 留学したY大で知り合った日本の男なのか、それともモデルのバイトで知り合った業界の男なのか――?
 悶々とする想いを抱えたまま、彰男は眠りに落ちた。

       

 「きのうはすみませんでした」
 春麗が電話をかけてきたのは、翌日の午後だった。
 「あ、いやいや、変な時間に電話をかけて、メイワクだったでしょう?」
 「こちらこそ、末吉さんに不愉快な想いをさせたじゃないか――って」
 「させたじゃないか」は、日本語としておかしい。さすがの春麗の日本語も、まだ完璧というわけではないようだ。
 「いや、きのう、東亜タイムスの原田と会って、あなたの話をしたものでね。そのことをあなたにお伝えしようと思って……」
 「あの……」と、春麗が彰男の言葉を遮った。
 「よかったら、その話、お会いして、直接、聞きたいです。夜、お時間ありませんか?」
 「7時以降なら空いてますよ」
 「よかった。では、今夜は私におごらせてください」
 前回の天ぷらのお礼もあるし、今回の「東亜タイムス」の件でお世話になったお礼もあるので、きょうは、自分の知人がやっている店で北京ダックをごちそうさせてほしい――と言うのだった。
 知人というのは、祖父の兄弟の孫に当たるという人物で、春麗から見ると6親等に当たる遠縁だ。親の代から日本にやって来て中国料理店を営み、いまでは「北京ダックのうまい店」として、グルメ雑誌にも取り上げられたりしているという。
 渋谷にあるその店は、従来の中国料理店というイメージを覆すモダンな造りで、店内は白一色でまとめられていた。
 春麗の案内で席に着くと、彰男と大して歳が違わないと思われる恰幅のいい男が、彰男たちの席にやって来た。
 「ども、ども。いつも、うちのチュンリーがお世話になっております。リウ・シュエチンと申します」
 コック帽をとりながら、人なつっこい笑みを見せ、胸元のネームプレートを指差して見せた。
 《支配人・劉学慶》と書いてある。やっぱり、劉一族なんだ……。
 「これは、これは。私は、末吉と申します。チュンリーさんには、お仕事を紹介させていただいております」
 「お話、聞いてます。チュンリー、とっても感謝してる。きょうは、私、ごちそうしますよ」
 それを聞いて、春麗が何か中国語でわめき出した。それに支配人がわめき返す。
 身内同士で、突然、ケンカを始めたのか――と思っていると、春麗が肩をすくめるようなしぐさを見せて、その肩を支配人がポンポンと叩いた。
 「私がごちそうすると言ってるのに、おじさん、自分がごちそうするって、聞かないの。ここは自分の顔を立てろ――って」
 春麗は、不服そうに頬をふくらませたが、たぶん、日本人同士でもそうなっただろう。

       

 劉学慶が用意してくれた北京ダックは、皮がカリッと焼けて、見るからにうまそうだった。丸焼きで出されたダックを見て、彰男は、「オーッ!」と声を挙げ、春麗はちょっと誇らしげに顔を輝かせた。
 そのダックを、皮を削ぐように、料理人がナイフで切り分けてくれる。少し厚めに――というのが、この店の流儀のようだった。
 これをカオヤ―ピンという薄餅状の皮で包んで食べる。まず、カオヤ―ピンを片手に広げ、そこに特製の甘味噌を塗って、切り分けられたダックの皮、細切りのキュウリとネギを載せ、皮の下端を折り返してから、左右の皮で巻き込むようにして包み込む。
 それを、先端からガブリと食べる。モチモチッとした皮の中で、こんがりと焼かれたダックの皮がパリッと崩れ、口の中に芳醇な香りと甘みが広がる。
 「うまい!」と声を挙げると、春麗がまたも得意そうな顔をした。
 ひとしきり、夢中になって北京ダックを腹に詰め込んだところで、春麗が改まった口調で切り出した。
 「今回は、末吉さんのおかげで、『月刊・東亜タイムス』の仕事をさせていただくことになりました。ありがとうございました」
 「いや、ボクは何も。あなたの才能が認められたんですよ。原田もホメてました」
 「エッ、何て……?」
 「しっかりした原稿を書ける。自分たちおっさんには書けない、フレッシュな筆だって」
 「それは、末吉さんがいろいろアドバイスしてくださったから……」
 「いや、それよりも、あなたのセンスでしょ」
 「そんなぁ……」と言いながら、春麗は顔をほころばせた。
 「これからも、継続的に仕事を依頼したいんだけれどいいか――っていうから、どうぞって答えておきましたよ。ボクは、それにいいともダメだとも言う立場にないから」
 「立ち場にない……?」
 「ボクはチュンリーのマネジャーじゃない――ってことです」
 「でも……」と言いながら、春麗は、目の色で彰男に救いを求めた。
 「アドバイスはしてくれるでしょう? その仕事は受けたほうがいいよとか、止めたほうがいいんじゃないかとか……」
 「キミがほんとうに迷ったときにはね」
 「よかった。私、これでも、迷いが多いんです。というか、迷ってばかり……」
 そう言いながら、春麗は、肩から胸にかかった自分の髪を手に取り、指先でくるくると丸めるしぐさを見せた。
 原田が「男をそそる」と評したのは、こういうところだろうな――と思ったが、彰男はそれは口にしないでおいた。

       

 劉学慶の北京ダックは、皮を食べて残った身を野菜などとピリ辛に炒め合わせて「ヤーツァイ」という炒め物に。最後に、ガラで取ったスープが出されて、それでコース終了となった。
 ふたりで食べるには、多すぎる量。春麗も彰男も、「もうお腹いっぱい。食べられない」と箸を置いた。
 「おいしかったです。ごちそうさまでした」と席を立ち、店を後にしようとすると、劉学慶が「スエヨシさん」と彰男を呼び止めた。
 「チュンリーのこと、よろしくお願いします。あの子、男を見る目がなくて、ワタシ、いつも心配ばかり。スエヨシさん、いてくれたら安心ですから」
 それ、どういう意味だろう――と思いながら、彰男は「私なんかでよければ」と頭を下げた。
 後で春麗に問い詰められた。
 「さっき、おじさんに何を言われてたんですか?」
 「チュンリーは男グセがわるいから、気をつけろ――ってさ」
 「ウソォーッ!」
 放っておくと、店まで引き返して行きかねない勢いだったので、彰男はあわてて言い直した。
 「ウソだよ。チュンリーをよろしくお願いします――ってさ」
 「それで……?」
 「ン……?」
 「末吉さんは、何と答えたんですか?」
 「私でよければ……と答えといたよ」
 「ありがとう……」
 言いながら、春麗は彰男の腕をつかんだ。
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