缶ビールに塩マメの「チョー地味婚」
不純愛トーク 第342夜
前々回から取り上げている「地味婚」の話ですが、今回は、その極め付きをお届けします。管理人・哲雄が、まだ学生であった時代の話。バリスト中の学園で結ばれた委員長とその恋人との「結婚式」は、缶ビールと半紙の上に広げた乾きものだけで挙げた祝宴でした。その席に姿を見せた新婦の両親は――。
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AKI 哲ジイの青春時代には、缶ビールで乾杯するだけの「地味婚」もあった。そんな話を、前回はお聞きしました。
哲雄 1969~1970年頃の話ですね。
AKI オーッ、半世紀も前!
哲雄 もう、そんなになりますか? つい、昨日のことのように思っておりましたが……。
AKI ハイ、ハイ。いまは2015年ですからね。あれから45年も経ったんですよ、おじいちゃん。それで? その地味婚というのは、いつ、どこで挙行されたのでございましょう?
哲雄 まず、みなさまに申し上げておかなければならないことがあります。その時代の先進的な若者たちの中には、「結婚式」という儀式はおろか、「結婚」という社会的行為すら、旧い体制におもねる行為として拒否しようとする人たちが、少なからず存在しました。
AKI 結婚を拒否する――ってことは、エッ!? 生涯未婚……とか?
哲雄 あ、念のために言っておきますが、「結婚を拒否する」ということは、「生涯ひとり」ということではありませんよ。愛する人がいたら、「四畳半ひと間に布団ひと組」でもいいから、一緒に暮らそうとしました。
AKI それ、もしかしたら「同棲」って言うんですよね。
哲雄 そうです。そういう青春を描いた『同棲時代』というマンガが、大ヒットしたりもしました。
【参考】
『同棲時代』
『週刊漫画アクション』(現在は、月2回刊の『漫画アクション』として発行)に連載(1972~1973年)された上村一夫氏原作のマンガ。
AKI それって、もしかしたら『神田川』とかがヒットしてた時代ですか?
哲雄 南こうせつ率いる「かぐや姫」というグループがヒットさせた曲ですね。ちょっと聴いてみます?
かぐや姫『神田川』――You Tubeより
AKI ワッ、南こうせつ、若ッ!
哲雄 若いですねェ。でも、「かぐや姫」たちが出てきて、いわゆる「四畳半フォーク」と呼ばれた曲を次々にヒットさせたのは、全共闘運動などの学生運動が政治的に敗北して、若者が政治離れし始めた時代。私が、きょうお話しようと思っているのは、その2~3年前。まだ、全国の若者たちが「反体制」に燃えていた時代の話です。
AKI そんな政治の嵐の中で挙行されたんですね、その「チョー地味婚」は?
哲雄 そうです。「同棲」も流行ってたけど、「学生結婚」も流行ってた。その男は、私のいた経済学部闘争委員会のリーダーだったんだけど、バリケード封鎖したキャンパスの中で恋の花を咲かせたんですね。それで、「よし、結婚するゾ!」ってなった。
AKI 戦場に咲く恋――みたいな話ですわねェ。
哲雄 そんなロマンチックな話じゃありません。結婚……たって、まだ、おたがい学生同士。おまけに、学園をバリケード封鎖している学生運動の闘士。そんな結婚を親が認めるわけない。もちろん、学生同士じゃ金もない。でも、みんなの前で自分たちの結婚を披露し、決意を表明し、祝福してもらいたい。じゃ――というので、みんなで相談し、金を出し合って、公民館の集会室を借り、缶ビールで乾杯しようってことになった。
AKI ヘェ、公民館ですか? 料理とかは?
哲雄 そんな贅沢はできません。裂きイカだの、かきピーだの、塩マメだの、みんなからかき集めた金で買えるだけのつまみを買って、それを半紙の上に広げて、銘々の席の前に並べました。
AKI 地味っちゃあ、これ以上の地味はないだろう――ってほどの地味婚ですね。双方の親族も来なかったのですね?
哲雄 どっちの親も、結婚を認めてませんでしたからね。でもね、宴が進むうちに、だれかが気づいたんです。年配の男性と女性が、部屋の扉の外で中の様子を窺うようにしている。もしかしたら……ってね。
AKI エッ!? それって、どちらかの親だったの……?
哲雄 新婦のご両親でした。気づいた仲間が、「どうぞ、中へ」と勧めるんだけど、「いや、私たちはここで」と動こうとしない。でもね、それから30分ほど経ったでしょうか。そっと入り口の扉から、お母さんのほうが顔を出して、「あの……」と言うんだよね。
AKI 何、ナニ……?
哲雄 「これを、みなさんでどうぞ」って差し出したのは、なんと、40~50個はあろうかというお稲荷さん。あまりに粗末なボクたちの宴の食卓を見て、どこかで仕入れてきてくれたんだね。まだ、コンビニもない時代だから、たぶん、近くの食堂か寿司屋に頼み込んで。オヤ……どうしました?
AKI 何か……私、ダメなんですよ、そういう話。ウルッ……ってきちゃった。
哲雄 そこで、新郎と新婦がそのご両親の前でひざまずいて、そして新郎が言ったんだよね。

それに続けて、そこにいたみんなが、「どうぞ、どうぞ」と声を合わせ、その声に誘われるように、お父さんとお母さんが靴を脱いで、座敷に上がって来られた。その瞬間、会議室からは「ウォーッ」という歓声と拍手。ご両親は、私たちひとりひとりに頭を下げながら、紙コップに注がれたビールを飲み干していきました。これまで数えきれないほどの結婚式や披露宴に出席している私ですが、これほど鮮やかに覚えている結婚祝いの宴は、他にありません。
AKI 新郎のご両親は、最後までいらっしゃらなかったのですか?
哲雄 結婚の話以前に、新郎とその父母とは絶縁状態にありましたからね。最後まで姿は見せませんでした。でも、ま……それは仕方ない。そもそも、新郎とその両親とは、まるっきり、思想が違いましたから、新郎が学生運動にのめり込んだ時点で、親子の縁は切れたようなものでした。しかし、新婦の両親は、もう少し、話のわかる人たちでした。
AKI よかったですね、新婦側の両親とだけでも和解ができて……。
哲雄 後がたいへんでしたけどね……。
AKI 何かあったんですか?
哲雄 ていうか、その新婦のお父さんが酔っ払ったらしくて、祝宴がお開きになった後も、「キミたち、これじゃ、飲み足りないだろう。私におごらせてくれ」と、私たちを居酒屋に誘って、ま、飲むわ、飲むわ。
AKI たぶん、お父さん、うれしかったんじゃないですか?
哲雄 でしょうね。ま、かくの如くですね、結婚式や披露宴は、チョー地味であっても、自分たちが「こう生きていく」という思想がしっかりかみ合ってさえいれば、ふたりは末永く幸せにすごせることでありましょう――と、そういう話をさせていただいたわけです。御清聴、ありがとうございました。
AKI じゃなくてですね、それでも、哲ジイが結婚できなかった――というのはどういうわけか? それを聞かせていただけるんじゃありませんでしたか?
哲雄 忘れました。
AKI あら、ちょっと……逃げるんですか、委員長?
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『チャボのラブレター』
2014年10月リリース
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