美しすぎる従妹〈終章〉 この手は、いまも空いている

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ユリちゃんが結婚したのは、国際線のパイロットだった。
しかし、その男は異常に嫉妬深く、彼女の浮気を疑っては、
暴力を振るった。傷だらけのユリちゃんは、やがて――


 マリアたちへ   第18話 
美しすぎる従妹〈終章〉

 前回までのあらすじ  その小さな手が、どんなに懸命に私の手を握り締めていたか? その感触を、私はいまでも覚えている。それから10年、高校生になった私は、自転車で郷里・福岡へ帰る旅の途中、広島に立ち寄った。従妹・ユリは、美しい中学生に育っていた。叔父に言われて、私にビールを注いでくれるユリ。そのムームーからのぞく胸元に、私は、ふくらみ始めた蕾を見た。私にビールをすすめながら、叔父は、政治や世界情勢について熱く語りかけてくる。ふたりの話が熱を帯びる様子を、ユリは、興味深そうに見ている。そこへ真人が帰って来た。快活で勝気なユリと、引っ込み思案な兄・真人。ふたりは、性格が正反対の兄妹だった。翌朝、私は九州へ向けて、広島を出発した。岩国の錦帯橋まで、叔父に言われた真人が伴走し、錦帯橋で弁当を広げた。私の弁当はユリのお手製だと言う。「いつかまた、私の手を引っ張ってください」。箸を巻いた紙に、そんなメモが添えてあった。岩国を出ると、山道になる。そこで事故が起こった。後輪のブレーキが焼き切れてしまったのだ。前輪のブレーキだけで走る危険な走行。それでも防府に着き、私は駅の待合室で仮眠をとった。翌日、関門トンネルを抜けて国道3号へ。福岡の実家に着いたのは、広島を出発して28時間後の午後1時だった。私を迎えたのは、妹と母だったが、その奥から「お帰りなさい」と声がした。どうして? と驚く私に、ユリちゃんが言った。「父に様子を見て来いと言われたの」。ペロッと舌を出して、ユリちゃんは、私だけにわかる視線を送ってきた。翌日、私は、妹の加奈とユリちゃんを柳川見物に連れていくことになった。川舟に乗っての掘割めぐり。その舟への乗り降りで、私はユリちゃんの手を引いた。「ありがとう。ユリのお願いを聞いてくれて」と、ユリちゃんがうれしそうに顔を崩した。弁当に添えられた彼女の小さなメモのことを言っているのだった。そんなユリちゃんに、加奈が突然、訊いた。「ユリちゃん、好きな人、おると?」。「おらん」とユリちゃんが首を振ると、「おらんてよ、お兄ちゃん」と加奈が言う。「関係ないよ」と憮然と答えた私だったが、帰り路、私の左脚は、突然の痙攣に襲われた。ムリな自転車の旅で、大腿が筋肉炎を起こしていたのだった。ユリちゃんはそんな私に肩を差し出しながら言うのだった。「さっき、おらんゆうたんはウソ。ほんとはおるんよ。相手は、私の気持ち、知らんけど」と。翌日、森高ユリは広島に帰り、私は、夏休みが終わると、四国へ船で帰った。やがて、ユリちゃんは高校生になり、短大に進み、地元の何とかというミスに選ばれ、航空会社に就職した。その度に、母は私に、「ユリちゃん、どんどんきれいになっていく」と言っては、ため息をついた。その母から「ユリちゃん、結婚した」と聞かされたのは、20代もそろそろ終わり、という頃になってからだった。相手は、同じ航空会社のパイロットだと言う。そんなある日、オフィスに突然、ユリちゃんから電話がかかってきた。13年ぶりに会うユリちゃんはやつれたように見えた。そして、その腕に発見した赤紫色のあざ。「ユリちゃんの結婚はうまくいっないらしい」と母から聞かされたのは、その翌年だった――

【リンク・キーワード】 エッチ 官能小説 純愛 エロ
このシリーズは、筆者がこれまでに出会ってきた思い出の女性たちに捧げる「ありがとう」の短編集です。いま思えば、それぞれにマリアであった彼女たちに、心からの感謝を込めて――。



この話は、連載11回目です。この小説を最初から読みたい方は、こちらから、
   前回分から読みたい方は、こちらからどうぞ。


 森高ユリ。
 美しすぎる従妹を妻としたのは、同じ航空会社で国際線のパイロットとして勤務している男だった。
 結婚生活は、当初から、夫の「長い不在」との闘いだった。
 国際線の場合、1レグ(1回の離着陸)ごとに、インターパルを取る。アジアや太平洋便だと中1日、欧州便だと中2日。1回のフライトは、2泊3日または3泊4日の任務になる。
 新妻となったユリちゃんは、月の半分以上、家を空けている夫を、ただ待ち続けるだけの生活を強いられた。グランドスタッフだったユリちゃんとしては、結婚後も仕事を続ける希望を持っていたが、夫となった男はそれを許さなかった。
 男は、ユリちゃんに言ったそうだ。
 「うちのCAたちなんて、結婚するならパイロットがいちばん――と言ってるそうだ。なにしろ、亭主は、年中留守。浮気なんてし放題――ってさ。オレは、おまえには、絶対、そんなことをさせたくない」
 ならば――と、住まいの近くでパートにでも出ようと思うと言うと、男は、今度は怒り出した。
 「オレの給料じゃ足りないって言うのか? 女房がパートに出てるなんて、恥ずかしくて人に言えないよ」
 そうじゃない。仕事に出るのは、社会とつながっていたいからだ――と、いくらユリちゃんが言葉を尽くしても、男は聞く耳を持たなかった。
 「何が、社会だ! そこらのスーパーで働いて、社会だ――なんて、あんまり笑わせるなよ」
 働きたいと言う妻にそんな言葉しか返せない男を、どうしてユリちゃんが選んだのか、私には、見当がつかなかった。

 叔母たちに「真人とユリが、男女逆だったらよかったのに」と言わせた、ユリちゃんの男勝りで勝気な性格。ひとつだけ言えることがあれば、その勝気さが「裏目」に出た、ということだろう。
 《いつかまた、私の手を引いてください》
 高校生の頃、ユリちゃんが弁当に添えて私に宛てたメッセージの一節が、いまも、頭の片隅に残っている。
 快活で男勝りな美少女・ユリは、ほんとうは、「自分を力強く引っ張ってくれる男」を、どこかで求めていたのかもしれない。夫として選んだ男の「わがままなだけ」としか思えない強引さが、ユリちゃんには、「力強い男らしさ」と映ったのかもしれないなぁ――と、私は思った。

       

 男の強引さの奥には、異常とも思える嫉妬深さがひそんでいた。
 4日間の海外フライトを終えて帰国すると、男は真っ先にユリちゃんの体を点検した。どこかに自分以外の男の痕跡が残ってないか――と、全身の肌をくまなくチェックし、脚を開かせてそこの臭いを嗅いだ。
 最後には、開かせたままのユリちゃんのそこに、猛り狂ったペニスを突き立てて、勝ち誇ったように腰を動かす。ユリちゃんが「イャッ!」「止めて!」などと反応すると、「イヤだと? 他に好きな男でもいるのか?」「だれかにここをブチ抜かれたのか?」と問い詰め、問い詰めながら体を殴った。
 頬を殴り、胸を殴り、尻を殴り……しながら、抗うユリちゃんのヴァギナに、二度も三度も、精液を放出した。
 もちろん、携帯の着信記録、発信記録、メールのやりとりも、すべてチェックする。そこに自分の知らない男の名前を発見すると、「こいつはだれだ?」と問い詰める。「会社にいた頃の仕事仲間」などと答えた程度では納得せず、「そいつと何を話した?」「ほんとはどこかで会ったんだろう?」などと責め続ける。少しでも返答を拒むと、素裸にしたユリちゃんをロープで縛ってテーブルの脚にくくりつけ、そこへベルトを振り下ろした。
 「痛い!」「もう許して!」と懇願するユリちゃんの体を、髪の毛をつかんで引き起こし、そこへまた、怒張を突き立てる。
 帰国する度に繰り返される、地獄絵図のような夜。そんな夜が、新婚半年を過ぎる頃から始まった。
 オフィスに電話をかけてきたときには、すでにユリちゃんは、そんな地獄絵の最中にいたのだ。彼女の腕の付け根に、赤紫のあざを発見したとき、私はそのことに気づくべきだったのかもしれない。

       

 母からユリちゃんの結婚生活の荒れた様子を聞かされた半年後、ユリちゃんは妊娠した。
 望まない相手との間にできた子どもだった。
 すでに、愛など感じられなくなっていた男に、強引に植え付けられた子ども。しかし、ユリちゃんは、産むことを決意して、広島に帰って来た。
 そして、そのまま、広島を出ることがなかった。
 ユリちゃんの決意は、「産んでシングル・マザーになる」だった。
 男は、離婚請求は一方的であると主張して、莫大な慰謝料を請求してきたが、最終的には、「DV」が認められ、離婚が成立。子どもの親権も、ユリちゃんの手元に残った。
 ユリちゃんは、広島の実家で子どもを育てながら、自立の道を探った。幸い、地元に新しくできたショッピングセンターに求人があって、ユリちゃんは持ち前の美貌と航空会社勤務の職歴が評価され、広報担当として就職することができた。

 「子どもがおらんかったらねェ……」と、母が独り言のようにつぶやいたことがある。
 「おらんかったら、何ね?」と訊き返すと、「いや、なんでんなか」と口をつぐんだ。
 「子どもおってもよかよ」と言うべきところだったかもしれない。ほんとうなら、言いたかった。しかし、私も口をつぐんだ。
 その2年後、ユリちゃんが再婚した――と、妹の加奈から聞かされた。
 「すごいお金持ちで、やさしい人らしか。よかったね、お兄ちゃん」
 何が「よかった」なのか、さっぱりわからなかった。
 翌年、広島の叔母が急死し、その翌日、私の父がこの世を去った。
 両家の不幸が重なったため、おたがいに相手の家を弔問することができなかった。
 叔母が亡くなると、叔父も生きる気力を失ったのか、その2年後、後を追うようにこの世を去った。
 届いたのは、「親族だけで葬儀をすませました」というお知らせだった。
 差出人は、森高真人となっていた。
 その悲しい知らせを最後に、広島の森高家とのやりとりは絶えた。
 ユリちゃんが、いま、どこで、どうやって暮らしているのか、私は知らない。
 つなぐはずだった手は、いまでも、空いたままだ。

 第18話「美しすぎる従妹」は、これにて《完》です。
  最後までお読みいただき、ありがとうございました。



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