美しすぎる従妹〈7〉 好きな人、おると?

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妹の加奈とユリちゃんを連れて、柳川に行くことになった。
掘割めぐりの川舟に乗るとき、私はユリちゃんの手を引いた。
その手は、一瞬、私の手を握り返し、そしてスルリと離れた――


 マリアたちへ   第18話 
美しすぎる従妹〈7〉

 前回までのあらすじ  その小さな手が、どんなに懸命に私の手を握り締めていたか? その感触を、私はいまでも覚えている。それから10年、高校生になった私は、自転車で郷里・福岡へ帰る旅の途中、広島に立ち寄った。従妹・ユリは、美しい中学生に育っていた。叔父に言われて、私にビールを注いでくれるユリ。そのムームーからのぞく胸元に、私は、ふくらみ始めた蕾を見た。私にビールをすすめながら、叔父は、政治や世界情勢について熱く語りかけてくる。ふたりの話が熱を帯びる様子を、ユリは、興味深そうに見ている。そこへ真人が帰って来た。快活で勝気なユリと、引っ込み思案な兄・真人。ふたりは、性格が正反対の兄妹だった。翌朝、私は九州へ向けて、広島を出発した。岩国の錦帯橋まで、叔父に言われた真人が伴走し、錦帯橋で弁当を広げた。私の弁当はユリのお手製だと言う。「いつかまた、私の手を引っ張ってください」。箸を巻いた紙に、そんなメモが添えてあった。岩国を出ると、山道になる。そこで事故が起こった。後輪のブレーキが焼き切れてしまったのだ。前輪のブレーキだけで走る危険な走行。それでも防府に着き、私は駅の待合室で仮眠をとった。翌日、関門トンネルを抜けて国道3号へ。福岡の実家に着いたのは、広島を出発して28時間後の午後1時だった。私を迎えたのは、妹と母だったが、その奥から「お帰りなさい」と声がした。どうして? と驚く私に、ユリちゃんが言った。「父に様子を見て来いと言われたの」。ペロッと舌を出して、ユリちゃんは、私だけにわかる視線を送ってきた――

【リンク・キーワード】 エッチ 官能小説 純愛 エロ
このシリーズは、筆者がこれまでに出会ってきた思い出の女性たちに捧げる「ありがとう」の短編集です。いま思えば、それぞれにマリアであった彼女たちに、心からの感謝を込めて――。



この話は、連載7回目です。この小説を最初から読みたい方は、こちらから、
   前回分から読みたい方は、こちらからどうぞ。


 北原白秋の故郷として知られる、旧柳川藩の城下町・柳川は、女の子たちには人気の観光スポットだった。
 そこへ加奈とユリちゃんを案内する――というのが、帰郷したばかりの私の任務になった。
 妹の加奈と従妹のユリちゃんは、同い歳ということもあって、よく手紙のやりとりをしていた。しかし、その性格は、水と油ほど違うように、私には思えた。
 加奈は、合理的な精神の持ち主だった。利に敏い女とも言える。何かと言うと、「そんなことして何になると?」という言葉が飛び出す。得にならないことは見向きもしないし、そんなことに夢中になる人間を、どこか見下しているようなところもある。自転車で広島から福岡まで帰ってきた私にも、「まったくお兄ちゃんは、バカなことばっかしやるっちゃけん」と、心底、あきれたような顔をしてみせた。そういう性質を、加奈は父親から受け継いだのに違いない。
 ユリちゃんには、どこか無鉄砲なところがあった。こうと決めたら、後先考えずに突っ走るようなところがある。臆病で慎重な彼女の兄の真人とは、男と女を逆にしたような性質の違いを見せていた。自転車で福岡まで帰るという私の無謀な計画にも、どこかで拍手しているようなところがあった。
 そんな正反対の性質を持つふたりなのに、なぜか、加奈とユリちゃんは、気が合っているように見える。それが私には、不思議でもあった。
 柳川を見たいと言い出したのは、どちらかと言うと、ユリちゃんのほうらしかった。

       

 翌日、私たちは、西鉄の大牟田線で柳川へ向かうことにした。
 ジリジリと真夏の太陽が照りつけ、朝からワシワシ(クマゼミの九州地方での呼び名)がけたたましい鳴き声を挙げていた。
 加奈は、水色のスカートに上はポロシャツという格好。ユリちゃんは、ベージュのキュロット・パンツに、上は白地にロゴ入りのタンクトップ、頭には野球帽。見ようによっては男の子と見えなくもない。
 そんな勇ましい格好だったが、外を歩き始めると、ユリちゃんは「暑い、暑い」と言い出し、むき出しの腕は、たちまち汗で光り始めた。噴き出す汗は、そのうち、彼女のタンクトップも濡らし、張りついたタンクトップの生地を通して、肌の色を浮き上がらせていた。
 その肌色の中に、ブラジャーのストラップがレリーフのように浮かび上がって見えた。その瞬間、頭の中に、広島の叔父・叔母の家でムームーの胸元からのぞいて見えた、ユリちゃんの乳首の硬く尖った姿がよみがえって、私は、ちょっと、ドキッとなった。

 50分ほどで柳川に着いた。
 駅を出ると、すぐに乗船場があった。絵ハガキなどにもよく出てくる水郷・柳川の掘割を巡る川舟の乗り場だ。
 「乗ろう、乗ろう」と言い出したのは、ユリちゃんだった。
 7-8人乗りぐらいの小さな川舟。私は、先に乗り込んで、ふたりの荷物を受け取り、乗ってくるふたりの手をつかんで、グラつく体を支えた。加奈の手はすぐに離した。ユリちゃんの手は、それよりちょっとだけ長くつかんだ。
 汗でしっとりと濡れたユリちゃんの手は、私の手の中で、小さな反応を見せた。握った私の手の指を、ほんの一瞬だけ、ギュッと握り返してきた。その手をしっかり握り返そうとした瞬間、手はスルリと、私の手から離れていった。

       

 赤レンガが清流に映える並倉、ナマコ壁の殿の倉……と、水辺の風景を楽しんで、川舟は、柳川藩主・立花氏の別邸跡「御花」前の船着き場に着く。
 下船するときも、私は先に加奈の手を引いて下ろし、次にユリちゃんの手を引いた。
 今度は、舟を下りて、岸壁の石段を登りきる間、手をつなぎっぱなしにした。
 その手は、前よりも力強く、私の手を握ってきた。
 石段を上りきったところで、ユリちゃんが、小さな声で言った。
 「ありがとう、お兄ちゃん。私のお願い、聞いてくれて……」
 エッ……!?
 振り返ると、目の縁がキラッと輝いていた。
 それで思い出した。
 弁当の箸の巻紙に書かれた、小さなメッセージ。

 《いつか、また、ユリの手を引いてください》

 端正な字で書かれたその小さなメッセージが頭によみがえって、少し、顔が火照った。
 できることなら、そのまま、手をつないでいたい――と思ったが、そんなふたりの様子を、すでに石段を上り終えた加奈が、ニラみつけていた。
 その目線に気づいて、ユリちゃんがあわてて手を引っ込めた。

       

 白秋の生家を見て、「御花」の見物を終えると、ユリちゃんが「おなか、空いたね」と言い出した。
 「そしたら……」と、私はユリちゃんに訊いた。
 「オヤジにおみやを頼まれとるけん、うなぎ食べに行かんね。柳川ちゅうたら、うなぎて言うくらい、ここのうなぎ、うまかっちゃん」
 「エッ、うなぎ!」とユリちゃんは目を輝かせた。
 「わたし、大好物!」
 うなぎなんて、高校生の身では、とても手が出せないところだが、前夜、「あした、柳川に行く」という話をしていると、父親が言い出したのだった。
 「柳川に行くんやったら、若松屋ちゅう店があるけん、そこでうなぎのせいろ蒸し、買うてきてくれや。おまえたちは、店で食べてきてもよかぞ」
 おかげで、小遣いをせしめることができた。
 柳川のうなぎは、せいろ蒸しにするところに特徴がある。蒲焼きにしたうなぎをタレをまぶしたご飯の上に載せて、せいろで蒸し上げる。うなぎは、箸をつけただけで身が崩れるほど、ふんわりとやわらかく、ご飯にはうなぎとタレの味が染み込んで、ほくほくに仕上がっている。
 ユリちゃんは、ひと口頬張るなり、「おいしいッ!」と歓声を挙げた。
 「おいしい」「おいしい」と言いながら、次々に口にうなぎとご飯を運ぶ様子を見ていると、なんだか自分までうれしくなってくる。
 ユリちゃんのご飯の食べ方は、チビチビというのでもなければ、ガツガツというのでもない。パクパクと、ほどよい速度で、ほんとうにうまそうに、食物を口に運ぶ。そのテンポが見ていて心地いい。
 重箱に残ったご飯の最後のひと粒まで、ていねいに食べ終えると、「ごちそうさまでした」と、あごの前で両手を合わせて、頭をヒョコリと下げた。
 「おいしかったね」とうなずき合った加奈が、ひと口、お茶をすすった後で、「ユリちゃんって……」と口を開いた。
 「だれか好きな人とか、おると?」
 ユリちゃんが「エッ!」という顔をして、一瞬、私の目を見た。
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