美しすぎる従妹〈5〉 危険な疾走

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山道を下り続けているうちに、後輪のブレーキが焼き切れた。
残る道を、前輪のブレーキだけで走らなくてはならない。
危険な走行だが、途中で止めるわけにはいかなかった―― 


 マリアたちへ   第18話 
美しすぎる従妹〈5〉

 前回までのあらすじ  その小さな手が、どんなに懸命に私の手を握り締めていたか? その感触を、私はいまでも覚えている。それから10年、高校生になった私は、自転車で郷里・福岡へ帰る旅の途中、広島に立ち寄った。従妹・ユリは、美しい中学生に育っていた。叔父に言われて、私にビールを注いでくれるユリ。そのムームーからのぞく胸元に、私は、ふくらみ始めた蕾を見た。私にビールをすすめながら、叔父は、政治や世界情勢について熱く語りかけてくる。ふたりの話が熱を帯びる様子を、ユリは、興味深そうに見ている。そこへ真人が帰って来た。快活で勝気なユリと、引っ込み思案な兄・真人。ふたりは、性格が正反対の兄妹だった。翌朝、私は九州へ向けて、広島を出発した。岩国の錦帯橋まで、叔父に言われた真人が伴走し、錦帯橋で弁当を広げた。私の弁当はユリのお手製だと言う。「いつかまた、私の手を引っ張ってください」。箸を巻いた紙に、そんなメモが添えてあった――

【リンク・キーワード】 エッチ 官能小説 純愛 エロ
このシリーズは、筆者がこれまでに出会ってきた思い出の女性たちに捧げる「ありがとう」の短編集です。いま思えば、それぞれにマリアであった彼女たちに、心からの感謝を込めて――。



この話は、連載5回目です。この小説を最初から読みたい方は、こちらから、
   前回分から読みたい方は、こちらからどうぞ。


 何が起こったのか、すぐにわかった。
 左ハンドルのブレーキ・レバーが、いくら握っても、スカスカという音しか返してこなくなった。
 後輪のバンド・ブレーキが、高熱のために焼き切れてしまったのだ。下り坂の連続で、ブレーキを使いすぎたのが原因だ――と思った。
 自転車は、50キロ近いスピードで山道を下っていた。
 スピードを落とさないと、次のカーブは曲がりきれない。
 残るは、前輪のリム・ブレーキしかない。しかし、スピードを上げた状態で前輪にブレーキをかけるのは、きわめて危険な行為だ。
 車輪が、少しでも左右どちらかに傾いた状態で前輪にブレーキをかけると、車体は前方につんのめり、転倒してしまう。少なくとも、カーブ走行中にはブレーキは使えない。直線をまっすぐに走っている状態で、右側のブレーキ・レバーを、何段階かに分けてそっと締めていき、スピード・ダウンさせるしかない。
 後方からは、ダンプカーやトレーラーなどの大型車両が追いかけてきて、車体スレスレを追い抜いていく。顔からは、冷や汗が噴き出した。
 どこかに、自転車屋はないか……?
 しかし、やっと見つけた自転車屋では、ひまを持てあましていたように見えるオヤジが、私の自転車をひと目見るなり、言うのだった。
 「こりゃぁ、バンドを交換するしかないがな。すぐにはでけんでェ。材料、取り寄せになるけん、ま、1週間はかかりよんな」
 仕方ない――と覚悟を決めた。
 危険ではあるが、後輪のブレーキが使えないままの片肺状態で、山陽路を走り抜け、関門トンネルをくぐり、福岡まで帰り着くしかない。
 自転車を鉄道小荷物扱いにして、徳山から山陽本線に乗る――という方法も考えた。
 しかし、止めた。
 自転車で九州に帰る。そう言って広島を後にした以上、それを途中で投げ出しては、格好がつかない。
 それに……と思った。
 「いってらっしゃ~い!」と手を振って送ってくれたユリちゃんの気持ちを、どこかで裏切るような気がした。

       

 慎重に、慎重に、前輪ブレーキを使いながらバイパスの山道を下り、徳山市街(現・周南市)の手前で国道2号と合流した。
 すでに夕闇が迫っていた。林立する精油所の銀色のプラントには灯が灯され、炉から出る排ガスが空に向けて紅蓮の炎を吹き上げていた。
 腹が減っていた。どこかで汗も流したい。
 しかし、あと20キロも走れば、防府市内だ。
 石油臭い徳山の街で腹ごしらえをするよりは、防府まで一気に走って夕飯をかき込み、どこか銭湯にでも飛び込んで汗を流そう――と思った。
 幸い、防府までは、平坦な道が続いた。
 市街地にたどり着いたのは、午後8時を回った頃だった。
 まず、銭湯を探して飛び込んだ。
 汗を流すと、食堂を探した。めしとみそ汁と焼き魚に、あれば野菜のおひたしか何か。そんな定食を食べさせてくれる店があればいい。
 一軒、のれんをしまいかけている店があった。
 「もう、おしまいですか?」と声をかけると、父親と大して変わらない年頃に見える大将が、「かまわんよ」と手招きしてくれた。
 店前に自転車を停めてもいいかと尋ねると、「もう、しまいやから、そこらに停めといたらええ」と言う。
 長距離を走ってきた私の自転車は、砂ボコリにまみれていた。それをチラと見て、大将が言った。
 「兄ちゃん、どこから走っておいでた?」
 「広島」と答えると、「エーッ、広島かいや!」と驚いたような声を出す。
 イサキの塩焼きにご飯の大盛り、みそ汁、ホウレンソウのおひたし。注文を終えて、コップで出された水を飲んでいると、大将がまた声をかけてきた。
 「ほんで、どこまでおいでじゃ?」
 「福岡です。九州の……」
 「き、九州? そりゃ、がいに遠いのぉ。このあと、また走るんかい?」
 「はぁ。どこかでちょっと仮眠とって、明日の昼までには……と思うとります」
 「明日の昼かい? そら、えらいことじゃが……」
 やがて、目の前に湯気の立つ焼き魚とご飯とみそ汁、それにおひたしが並べられた。箸をとって食べようとすると、そこに、トンと置かれたものがある。ひとつは、生卵を割り入れた小鉢、もうひとつは、スライスしたトマトを盛った小皿。
 エッ、頼んでないけど――と顔を上げると、大将がニコッと顔を崩した。
 「それ、サービス。九州まで走るゆう兄ちゃんに、それくらい食わせんかったら、天神さんに怒られるでよ……」
 そう言えば、防府には、天満宮があったんだ――と、私は思い出した。
 礼を言って、卵をご飯にかけ、イサキを食い、ホウレンソウを食い、キュンと冷えたトマトを頬張った。
 旅を完遂しなければならない理由が、またひとつ、増えた。

       

 腹がいっぱいになると、睡魔に襲われた。
 夜間の国道を、そのまま走るのは、少し危険だ。
 私は、自転車を防府駅の前に停め、駅の待合室をのぞいてみた。
 待合室は閑散としていた。夜行列車を待つ乗客たちが何人か、大きな荷物を脇に置いて腰を下していたが、ベンチのいくつかは、まるまる空いていた。
 私はそのひとつに腰を下し、横になった。
 目を閉じると、たちまち眠りに落ちた。
 どれくらい眠ったのか、わからない。
 だれかに肩をポンポンと叩かれたような気がして、うっすらと目を開けた。
 黒い制服が、目の前に立っていた。
 駅員が注意しに来たのか――と思ったが、違った。両手を背中で組み合わせ、屈み込むように私の顔をのぞき込んでいたのは、黒地に赤いラインの入ったセーラー服だった。そのおかっぱ頭に見覚えがあった。
 エッ、ユリちゃん……?
 慌てて起きようとする私の体を、細い手が押し返し、黒い制服が覆いかぶさってきた。
 制服の下から、何かやわらかいものが、私の胸に触れてくる。
 その弾力の正体を確かめようと思うのだが、私の両手は、金縛りに遭ったように動かない。
 「あと、何キロ……?」
 覆いかぶさった制服の口が、私の耳元でささやいた。
 「150キロぐらい……」
 「ガンバって。私、待ってますから……」
 それだけ言うと、制服の顔は、口を「す」の形にとがらせて、私の頬に唇をつけた。つけた――と思うと、パッと体を離して、出口に向けて滑るように後ずさっていく。
 「待ってる」って、何を?――。
 問いかける声は、彼女の耳には届いてないように見えた。
 「待ってよ、ユリちゃ~ん!」
 叫んだとたんに、目が覚めた。
 駅の外が白み始めていた。
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