美しすぎる従妹〈4〉 ユリ弁

叔父と叔母、ユリちゃんに見送られて、私は森高家を後にした。
九州までの長い旅。岩国まで真人が一緒に走った。
錦帯橋で広げた弁当は、ユリちゃんのお手製だった――
マリアたちへ 第18話
美しすぎる従妹〈4〉
前回までのあらすじ その小さな手が、どんなに懸命に私の手を握り締めていたか? その感触を、私はいまでも覚えている。それから10年、高校生になった私は、自転車で郷里・福岡へ帰る旅の途中、広島に立ち寄った。従妹・ユリは、美しい中学生に育っていた。叔父に言われて、私にビールを注いでくれるユリ。そのムームーからのぞく胸元に、私は、ふくらみ始めた蕾を見た。私にビールをすすめながら、叔父は、政治や世界情勢について熱く語りかけてくる。ふたりの話が熱を帯びる様子を、ユリは、興味深そうに見ている。そこへ真人が帰って来た。ユリと真人は、性格が正反対の兄妹だった――
【リンク・キーワード】 エッチ 官能小説 純愛 エロ
このシリーズは、筆者がこれまでに出会ってきた思い出の女性たちに捧げる「ありがとう」の短編集です。いま思えば、それぞれにマリアであった彼女たちに、心からの感謝を込めて――。

前回分から読みたい方は、こちらからどうぞ。
真夏の太陽が、ジリジリと、頭を焼いてくる。
私は、短パンにTシャツという格好で、頭には麦わら帽子をかぶって、自転車を引っ張り出した。
真人ちゃんは、トレパンにポロシャツという姿だった。
「勇ましい格好じゃね」
私の格好を見て、叔母が言う。
「後で、お母さんに電話しとくけん、気をつけて行きんさいよ」
「電話、するんですか?」
「そらそうよ。何も言わんで送り出したんじゃ、私がお姉さんに叱られるけん」
いきなり自転車で帰って、驚かそう――という私の計画は、それで、ちょっとだけ狂った。
「それじゃ、行きますけん。どうも、お世話になりました」
そう言って、勢いよくサドルにまたがると、「あ、真人」と、叔母が真人ちゃんを呼び止めた。
「お弁当、作っといたけん、錦帯橋に着いたら、ふたりで食べりんさい」
風呂敷で包んだ2人分の弁当とお茶を、ナップザックに入れて、真人ちゃんに持たせた。
「おにぎりは、ユリが握ったけん、ちょっと不格好かしれんけど……」
「不格好」と言われて、ユリちゃんは、不満げに頬をふくらませた。
「ありがとう、ユリちゃん」
私が、麦わら帽子を取って頭を下げると、ユリちゃんは恥ずかしそうに頬を緩めて、ペコリと頭を下げた。
「じゃ、行こうか、真人ちゃん」
グイとペダルを踏み込んで、路地を走り始めると、後ろから「ムリせんで行きんさいよ」と叔父の声が飛んだ。
「いってらっしゃ~い!」
その横から、元気のいい、張りのある声が飛んできた。
路地から表通りに飛び出す角で、一度だけ、後ろを振り返った。
叔父と叔母が、並んで見送る横で、ユリちゃんがまっすぐ天に向かって伸ばした手を勢いよく振っていた。ピンク色のショートパンツに白いシャツ。その口が何かを叫んでいるように見えたが、何を言っているのかは、聞き取れなかった。
その姿に、手を挙げて応え、私は、グイとペダルを踏み込んだ。

国道2号線へ出ると、私と真人ちゃんは、左手に海を見ながら、岩国へ向かってスピードを上げた。
長距離トラックや乗用車がピュンピュン走り抜ける国道だ。
ふたりで並走するわけにはいかないので、私が先を走り、真人ちゃんが後をついてくるという形で、海岸沿いの国道を走った。
頭からは、真夏の太陽が容赦なく照りつけていたが、海からの風が心地いい。その風に乗って、山と積まれたカキの貝殻の匂いが漂ってきた。
スピードは大丈夫か?
真人ちゃんはついて来れてるか?
ときどき後ろを振り返って、確認した。真人ちゃんは、長い足を回転させて、ピッタリと私の後を走っていた。
岩国までは、平坦な道の連続だった。あっという間に宮島口を過ぎ、ふたりは2時間たらずで岩国に着いた。
そこから市街地を抜け、錦川に向かった。すぐに、太鼓橋が川をまたぐ錦帯橋が目に飛び込んできた。
私たちは、そこで自転車を停め、川原へ下りた。
川の水は、日照り続きで干上がりかけていた。
「まだ、早いけど……」と、真人ちゃんがナップザックを下ろして、中から風呂敷に包まれた弁当を取り出し、ひとつを「これ、アキちゃんの分」と手渡した。
どっちがどっちでもいいんじゃないの――と思ったが、違った。
杉の折箱に詰められた弁当には、「アキ兄ちゃん」「真人兄ちゃん」と書かれたポストイットがついていた。「アキ兄ちゃん」と書かれた弁当箱のフタを取ると、俵形に握られたおにぎりが6つ、きれいに並び、それに卵焼き、牛肉とゴボウのしぐれ煮、ミニトマトが、彩りよく添えられていた。
詰められたおかずは、ほとんど同じだったが、真人ちゃんの握りメシは、三角結びだった。それは、叔母が握ったのだという。
「アキちゃんの弁当のほうが、見た目、おしゃれじゃが。それ、ユリが詰めたんよ」
添えられた割り箸に、ウグイス色の紙が、蝶結びにして巻きつけてあった。
巻帯のつもりなんだろう。それを蝶結びにするなんてかわいい。
捨てようとして、「あれっ……?」と思った。何か書いてあるらしい。その文字が、裏から透けて見えていた。
広げてみると、ウグイス色の紙は、一筆箋を縦に3つ折りにしたものだった。そこに、ボールペンの文字が踊っていた。
《明彦兄さん。
九州まで、気をつけて走ってください。
ご無事の到着を祈ってます。
いつか、また、ユリの手を引いてくださいね。
ユリ》
あわてて、その紙をポケットにしまった。
その様子を真人ちゃんが、チラッ……と横目で見て、弁当に箸を伸ばした。

ユリちゃんが握ったという俵形のおにぎりは、少ししょっぱくて、やや握りが甘いのか、箸でつまむとメシの形が崩れた。
「食べにくいでしょ?」
横から真人ちゃんが「すまない」という顔で言う。
「でも、おいしいよ」
私は、ほんとうにうまそうに食べて、真人ちゃんを悔しがらせた。
昼飯をすませると、「さて……」と、短パンについた砂を払って、自転車のスタンドを上げた。
「そしたら、行くけん。真人ちゃんも、気をつけて戻りぃや」
「アキちゃんも、気ィつけて」
「叔父さんと叔母さんに、ありがとうございましたゆうといてや。あ……それと、ユリちゃんに、おにぎりおいしかったって」
ウンとだけうなずいて、真人ちゃんも、自分の自転車のハンドルに手をかけた。
さぁ、ここからが長い――。
広島に戻る真人ちゃんに手を振って、私は、2号線へ戻った。
しばらく走ると、2号線は上り勾配になる。途中で、叔父に教えられたバイパスへ抜けた。そのほうが、近道だと教えられたのだが、その道は、山道だった。
変速機のついてない自転車では、とても上りきれない急勾配もある。そういう急勾配は、自転車を押して歩くしかない。
結局、その山道を上りきるだけで、2時間はかかってしまった。
やっと上りきると、今度は、徳山の市街まで、下り坂が続く。
噴き出す汗をタオルで拭って、ペダルをグイと踏み込むと、自転車は気持ちいいくらい加速して、一気に坂を駆け下りていく。
スピードがどんどん増していく。山道は曲がりくねっている。そのままのスピードでは曲がりきれない。何度かブレーキをかけて、スピードを落とし、曲がりきると、また、スピードを上げる。
そうして、坂道を下っているとき、突然、後輪でパチンという音がした。
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『チャボのラブレター』
2014年10月リリース
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チャボのラブレター (マリアたちへ)
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