美しすぎる従妹〈3〉 2人の「お兄ちゃん」

高校生の私にビールをすすめながら、政治や世界情勢の話を
熱く語りかけてくる叔父。ふたりの話が過熱していくのを、
ユリちゃんは、興味深そうに眺めていた――
マリアたちへ 第18話
美しすぎる従妹〈3〉
前回までのあらすじ その小さな手が、どんなに懸命に私の手を握り締めていたか? その感触を、私はいまでも覚えている。それから10年、高校生になった私は、自転車で郷里・福岡へ帰る旅の途中、広島に立ち寄った。従妹・ユリは、美しい中学生に育っていた。叔父に言われて、私にビールを注いでくれるユリ。そのムームーからのぞく胸元に、ふくらみ始めた蕾を見た私は――
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このシリーズは、筆者がこれまでに出会ってきた思い出の女性たちに捧げる「ありがとう」の短編集です。いま思えば、それぞれにマリアであった彼女たちに、心からの感謝を込めて――。

前回分から読みたい方は、こちらからどうぞ。
「アキちゃん、もう一杯ぐらい、いけるじゃろ?」
叔父は、空になった私のコップにビールを注ぎながら、次々に質問を投げかけてきた。
勉強はどうだ、得意な科目は何だ、志望校は決めたのか……。
最初は、ふつうのおとながふつうの高校生にぶつける、ありきたりの質問だった。しかし、その質問が、いつの間にか、ありきたりではなくなっていった。
「アキちゃんは、いまのソ連についてどう思う?」
「原爆投下について、アキちゃんたちはどう思ってる?」
「日本に軍隊は必要じゃろうかね? どう思う?」
叔父が問いかける質問に、まだ17歳だった私は、その年頃特有の生意気さをむき出しに、応じていたような気がする。
そのやりとりを見ていた叔母が、「高校生相手に、そがいにムキになって話さんでもええじゃろが」と、叔父をいさめにかかった。しかし、叔父は言うのだった。
「いや、この歳じゃから、こういう話をしとくんじゃ。真人にこういう話をしてもつまらんしのう」
横で、ユリちゃんがクスリ……と笑ったような気がした。

ユリと真人という兄妹は、私の母に言わせれば、まるで男と女を逆にしたような関係だ――という。
かわいいけれど、活発で行動力に富んだユリに対して、真人は引っ込み思案でおとなしく、胆力に欠ける。
買い物を頼んでも、真人は、通りに大きな犬がいるというだけで帰って来てしまったりする。そんな兄を、ユリは「弱虫!」となじり、「私が行く」と買い物かごを兄の手から奪って出かけていく。
「ほんとにあのふたりは、性格が逆だったらいいのに」と、いつも、叔母は母にグチって見せたという。
そのユリちゃんは、私と叔父が世界や戦争や日本の政治……について熱く語り合うのを、珍しいものでも見るように眺めていた。
自分の兄と父親の間では、決して見られない光景。活発な少女の目には、それは、ドラマの一場面のように映ったのかもしれない。
私にとっても、それは、初めての体験だった。
父親との間で、政治や世界の話をしたことなど、一度もなかった。それどころか、「おまえは何になりたい?」ということも、「どんな学校に進んで何を勉強したい?」ということも、訊かれたことがなかった。訊かれたのは、「何番になった?」という学年席次のことぐらい。そして、いつも言われたのは、「そんなことして何になる?」という決まり文句。それに、「そんな金はない」だった。
人生や世界や政治や……そういうことについて、まともに話をしたおとなは、叔父が最初だった。
そういう話をしていると、どんどん、声が大きくなっていく。
叔父の声にも、熱がこもっていくのがわかった。
そんな様子を、ユリちゃんは不思議そうに見つめ、叔母は、やれやれ……という顔で眺めていた。

「あ、お兄ちゃん、帰ってきた」
玄関の格子戸がガラガラと開けられたのに気がついて、ユリちゃんは、ムームーの裾を翻して玄関に向かった。
「お帰り、お兄ちゃん。アキ兄ちゃんが来てるよ」
「アキ兄ちゃん……?」
「ホラ、福岡のアキちゃん」
「ヘェ、そうなん……」
真人ちゃんの気のない返事が聞こえてきた。
廊下を歩いて入って来た真人の姿を見て、私は声を挙げそうになった。
背、高い!
学年は、1級下なのに、その身長は、私を頭ひとつ上回っているように見えた。
「いらっしゃい……」
声が頭の上から降ってくる。
「真人ちゃん。背、伸びたね? 何センチ?」
「175……」
前に会ったのは、彼がユリちゃんと一緒に祖母の家に遊びに来た10年前だ。それ以来、会ってないのだから、「伸びた」はおかしいかもしれない。
しかし、そのときの真人ちゃんは、自分より少し低かったはずだ。記憶されている「身長差」は、現実に目の前に示されている「身長差」に裏切られて、記憶の糸が混乱した。
「ヒョロヒョロと、背ばかり伸びてのぉ。もう少し、肉がついて、ガッチリしてくれるといいんじゃが……」
叔父の言葉に、真人ちゃんは、少し、ムッとしたように見えた。
真人ちゃんは、ものも言わずに、食卓に用意された夕食に手を伸ばし、それを胃袋に詰め込んでいった。この時間まで塾じゃ、ハラ減ってるだろうなぁ――と、私は思った。

叔父は「ヒョロヒョロ」と言ったが、真人ちゃんの脚には、ガッチリ、筋肉がついているように見えた。
「何か、スポーツやってるん?」
「ウン、バスケをやっとる」
「バスケかぁ。道理で……」
「何……?」
「脚の筋肉が、パンパンに張っとる。鍛えとる脚じゃが」
真人ちゃんは、ちょっとうれしそうな顔をした。叔父がまた、口を開いた。
「ああ、この子、脚だけは速いんじゃ。おお、そうじゃ」
いいことを思いついた――というふうに、叔父がひざを打った。
「明日、休みじゃろ。アキちゃん、自転車で九州まで帰るんじゃと。おまえも、途中まで、一緒にサイクリングしてきたらどうじゃ?」
「エーッ、サイクリング――て、どこまで?」
「宮島口じゃ、近すぎるしのぉ。そうじゃ、岩国あたりまで行ってみたらどうよ?」
「岩国まで、何キロあるん?」
「30キロぐらいのもんじゃろ。おまえ、まだ、錦帯橋見てないじゃろ?」
「錦帯橋、私も行ったことない」
横からユリちゃんが、うらやましそうに口を挟んだ。
しかし、自転車は、森高家には1台しかない。それに――と叔父が言った。
「アキちゃん、夜までには防府に着きたいそうじゃ。女の足じゃ、足手まといになる。どうじゃ、真人、おまえも、たまにそれくらい走ってみんかい?」
「30キロ……」
口の中でぼそぼそとつぶやく真人ちゃんの背中に、ユリちゃんの言葉が飛んだ。
「行ってきんさいよ、お兄ちゃん。お兄ちゃんが行けんゆうんじゃったら、私が行く」
その言葉に、真人ちゃんが意を決したようだった。
翌朝、8時30分。
私は森高家を出発することにした。
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シリーズ「マリアたちへ」Vol.1
『チャボのラブレター』
2014年10月リリース
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チャボのラブレター (マリアたちへ)
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