美しすぎる従妹〈1〉 小さな手の思い出

私の手は、つなぎ合った彼女の小さな手のぬくもりを
記憶している。それから10年、高校生になった私は、
中学生になった従妹・ユリと、広島で再会した――
マリアたちへ 第18話
美しすぎる従妹〈1〉
【リンク・キーワード】 エッチ 官能小説 純愛 エロ
このシリーズは、筆者がこれまでに出会ってきた思い出の女性たちに捧げる「ありがとう」の短編集です。いま思えば、それぞれにマリアであった彼女たちに、心からの感謝を込めて――。
赤ん坊の頃の自分がどんなだったのか、私には、それを知る方法がない。
一枚の写真も残されてない。
何をして遊んでいたのか、何を食べていたのか、そういう記憶もほとんどない。
ほんとうに、自分がその家の子として生まれたのかどうかさえ、確かめる方法は何もない。
古いアルバムの最初の1ページに、どうやらこれが自分らしい――という男の子が写った、一枚の写真が貼ってある。
決して豊かとは言えなかった私の家には、まだ、カメラがなかった。小学校高学年になって、カメラ狂いの担任教諭がバシャバシャ写真を撮り始めるまで、私の少年時代を写した写真は、唯一、その一枚が残されているだけだった。
いつ、どういう状況で撮られたのか、私には記憶がない。
母の話によると、たぶん、小学校入学直後ぐらいに撮られたものだろうと言う。その母親と祖母に付き添われた男の子が、うつむき加減の顔で、まぶしそうにカメラを見上げている。
「あんたは、いっつも、こういうしかめ顔しとったんよ」
母親に言われて、やっと、それが自分であるとわかる、そんな一枚だった。
写真の男の子は、ひとりの女の子と手をつないでいた。
目がクリッとしたおかっぱ頭の女の子は、頭の右側に大きなリボンを着け、白いソックスに黒光りのする靴を履いて、その両足をまっすぐに揃えて立っている。
「ユリちゃん、かわいかったねェ、この頃から」
母親が、懐かしそうにその顔を指先でなぞってみせる。
たぶん、それは、母が私を連れて祖母の家に遊びに行ったときのものだ。ユリちゃんも母親に連れられて遊びに来ていて、その日は、みんなで遊園地に行ったのだ――と言う。
遊園地のことは、覚えてない。
しかし、ユリちゃんと手をつないだことだけは覚えている。
「ホラ、ユリちゃんと手をつないでやらんね」
祖母だったか、母親だったかに言われて、恐る恐る手をつないだことだけは、なぜか、ハッキリ覚えている。
小さな手が、どんなに力なく私の手をつかんでいたかも、しっかり記憶している。
そのとき、自分の心臓が、どんなに鼓動を速めていたかも、遠い記憶として、頭の片隅に残っている。
「ユリ」という名前が、私の頭の中で特別の地位を占めるようになったのも、たぶん、そのときだろう――と、私は思う。
一枚の写真も残されてない。
何をして遊んでいたのか、何を食べていたのか、そういう記憶もほとんどない。
ほんとうに、自分がその家の子として生まれたのかどうかさえ、確かめる方法は何もない。
古いアルバムの最初の1ページに、どうやらこれが自分らしい――という男の子が写った、一枚の写真が貼ってある。
決して豊かとは言えなかった私の家には、まだ、カメラがなかった。小学校高学年になって、カメラ狂いの担任教諭がバシャバシャ写真を撮り始めるまで、私の少年時代を写した写真は、唯一、その一枚が残されているだけだった。
いつ、どういう状況で撮られたのか、私には記憶がない。
母の話によると、たぶん、小学校入学直後ぐらいに撮られたものだろうと言う。その母親と祖母に付き添われた男の子が、うつむき加減の顔で、まぶしそうにカメラを見上げている。
「あんたは、いっつも、こういうしかめ顔しとったんよ」
母親に言われて、やっと、それが自分であるとわかる、そんな一枚だった。
写真の男の子は、ひとりの女の子と手をつないでいた。
目がクリッとしたおかっぱ頭の女の子は、頭の右側に大きなリボンを着け、白いソックスに黒光りのする靴を履いて、その両足をまっすぐに揃えて立っている。
「ユリちゃん、かわいかったねェ、この頃から」
母親が、懐かしそうにその顔を指先でなぞってみせる。
たぶん、それは、母が私を連れて祖母の家に遊びに行ったときのものだ。ユリちゃんも母親に連れられて遊びに来ていて、その日は、みんなで遊園地に行ったのだ――と言う。
遊園地のことは、覚えてない。
しかし、ユリちゃんと手をつないだことだけは覚えている。
「ホラ、ユリちゃんと手をつないでやらんね」
祖母だったか、母親だったかに言われて、恐る恐る手をつないだことだけは、なぜか、ハッキリ覚えている。
小さな手が、どんなに力なく私の手をつかんでいたかも、しっかり記憶している。
そのとき、自分の心臓が、どんなに鼓動を速めていたかも、遠い記憶として、頭の片隅に残っている。
「ユリ」という名前が、私の頭の中で特別の地位を占めるようになったのも、たぶん、そのときだろう――と、私は思う。

よし、自転車で帰るか――と決めたのは、夏休みに入って1週間が経った頃だった。
私は、その頃、親元を離れて、四国の高校に通っていた。
九州の実家に帰省するには、松山からフェリーで門司へ渡って、鹿児島本線に乗り換えるか、対岸の柳井か広島へ渡って、山陽本線→鹿児島本線と乗り継ぐしかない。
しかし、仕送りを使い果たしていた私には、切符代が足りなかった。いちばん金をかけずに帰省するには、海を最短コースで渡って、後は、自転車で陸路を走るしかない。
船代が安くてすむのは、松山⇔広島コースだった。
広島まで渡ってしまえば、福岡までは陸路で300キロ。時速15キロでこぎ続ければ、20時間強で到着できるはずだ。
帰省の荷物を段ボール箱にまとめ、それを自転車の荷台にくくりつけて、広島行きのフェリーに乗った。
1時間ほどで、広島・宇品の港に着いた。
そのまま、国道2号線に出て、山陽道を走り始めるつもりだった。
しかし、広島の市街地を走っているうちに、ふと、浮かんだ考えが、頭から離れなくなった。
ちょっと、寄って行こうか――。
広島には、叔父・叔母が、ユリちゃん、真人ちゃんと一緒に住んでいた。真人ちゃんは、もう高校生のはずだ。ユリちゃんは、中学2年か3年か、そのあたりだ。
「ちょっと寄って」という思いが湧いたのは、手をつなぎ合ったあの幼い日以来、顔を合わせてないユリちゃんが、どんな中学生になったか、その顔を見てみたい――という気持ちもあったからだ。
段ボール箱の帰省の荷物の中から住所録を探し出して、私は、6ケタの電話番号を回した。
「あら、アキちゃん? どうしたの?」
電話の向こうで、驚いたような叔母の声がした。

道順を聞いて、見知らぬ広島の市街地を走り、教えられた路地に入ると、「森高」という表札を掲げた二階家があった。
呼び鈴を鳴らすと、「ハーイ」という元気のいい声が聞こえ、廊下をパタパタと駆けてくる音がした。
カラカラ……と、ネジ式の引き戸のカギを回す音がする。
すりガラスの向こうに映る人は、白いシャツに短パンという姿。どう見ても、叔母の姿とは思えない。
もしかして……と思っていると、ガラガラと引き戸が開けられた。
「アキ兄ちゃん……?」
不思議そうな顔で、私を見る顔に、どこか面影があった。大きく見開かれた目が、何よりも、それがだれであるかを物語っていた。
「福岡のアキです。突然、ごめんね」
「懐かしい――! 何年ぶりやろ?」
「たぶん、10年ぶりぐらいやないやろか」
「エッ、自転車……?」
「ウン。自転車なんやけど、どこか停めるところ、あるやろか?」
ユリちゃんは、キョロキョロと辺りを見回して、それから、奥に声をかけた。
「お母さ~ん、アキ兄ちゃん、自転車で来とりんしゃるよ。どこに停めてもろたら、ええじゃろ?」
「エーッ!? 自転車?」
奥から、ドタドタという足音が響いて、叔母が玄関までやって来た。
「まぁ、アキちゃん、大きゅうなりんしゃって」
そう言って私の全身を眺め回した叔母が、私の背後の自転車に目を留めた。
「まさか、それで、九州まで帰りんさるの?」
「そのつもりですけど……」
「そのつもり……て、アキちゃん、それ、何日かかるん?」
「ほんの一昼夜ですよ」
「エーッ!? 一昼夜?」
母子がそろって声を挙げた。
私の訪問は、自転車で広島から福岡まで帰る男がいる――というニュースとして、森高家の日常を揺るがしたのだった。
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シリーズ「マリアたちへ」Vol.1
『チャボのラブレター』
2014年10月リリース
Kidle専用端末の他、アプリをダウンロードすれば、スマホでもPCでも、ご覧いただけます。
作品のダウンロードは、左の写真をクリックするか、下記から。
チャボのラブレター (マリアたちへ)
『チャボのラブレター』
2014年10月リリース
Kidle専用端末の他、アプリをダウンロードすれば、スマホでもPCでも、ご覧いただけます。

チャボのラブレター (マリアたちへ)

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