ペダルを漕ぐ、その小さな足に祝福あれ!
小さな愛の「いい話」〈10〉

寒風吹きすさぶ師走の街。明日は、クリスマス・イヴ。
自転車で家路を急ぐ私の目の前を、
1台の自転車が走っていました。
ペダルを漕いでいるのは、制服姿の、
おそらくは女子高生と思われる女の子。
その自転車を抜き去ろうとした瞬間、私は、
その女の子から、小さな「メリー・クリスマス」をもらいました。
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みなさん、メリー・クリスマス!
きょうは、
この小さな者にしたことは、
すなわち、私にしたことである。
私にしたことは、
私をこの世に遣わした父のためにしたことである。
と、「愛の思想」を説いた、イエスの誕生を祝うクリスマス・イヴです。
街は、青や白のLEDの電飾で彩られ、駅頭のショップでは、チキンやホールケーキを売りさばこうとする店員たちが、声を振り絞っています。
そういう商魂には、まったく興味が持てないので、私は、駅前の駐輪場に停めてあった自転車を引っ張り出し、北風の中、家路を急ぐことにしました。
繁華街を抜け、裏道に出ると、私の前を1台の自転車が走っていました。
やや上り勾配の、片道1車線の道。
小さな体を揺らしながら、懸命にペダルを漕いでいるのは、恐らくは高校生。風に翻るチェック柄のスカートに見覚えがありました。
何かスポーツでもやっているのか、背中に、リュック型のスポーツバッグを担いでいます。
懸命に漕いでいるのはわかるのですが、小柄な体ゆえか、いかんせん、スピードが遅い。
よし、追い抜くか。
少し急いでいた私は、後ろからやってくるクルマをやり過ごした後、ペダルを踏み込んでスピードを上げました。
一気に、その小さな先行者を追い抜いて、彼女の前に出る予定でした。
ところが、そこで、先行するチェック柄スカートの疾走者は、思いもかけない行動に出たのです。

きょうは、
この小さな者にしたことは、
すなわち、私にしたことである。
私にしたことは、
私をこの世に遣わした父のためにしたことである。

と、「愛の思想」を説いた、イエスの誕生を祝うクリスマス・イヴです。
街は、青や白のLEDの電飾で彩られ、駅頭のショップでは、チキンやホールケーキを売りさばこうとする店員たちが、声を振り絞っています。
そういう商魂には、まったく興味が持てないので、私は、駅前の駐輪場に停めてあった自転車を引っ張り出し、北風の中、家路を急ぐことにしました。
繁華街を抜け、裏道に出ると、私の前を1台の自転車が走っていました。
やや上り勾配の、片道1車線の道。
小さな体を揺らしながら、懸命にペダルを漕いでいるのは、恐らくは高校生。風に翻るチェック柄のスカートに見覚えがありました。
何かスポーツでもやっているのか、背中に、リュック型のスポーツバッグを担いでいます。
懸命に漕いでいるのはわかるのですが、小柄な体ゆえか、いかんせん、スピードが遅い。
よし、追い抜くか。
少し急いでいた私は、後ろからやってくるクルマをやり過ごした後、ペダルを踏み込んでスピードを上げました。
一気に、その小さな先行者を追い抜いて、彼女の前に出る予定でした。
ところが、そこで、先行するチェック柄スカートの疾走者は、思いもかけない行動に出たのです。

追えば逃げる彼女の自転車
後ろから近づく私の自転車の気配に気づいた彼女は、なんと、さらにペダルを踏む足に力を込め、ほとんど立ちこぎ状態になって、スピードを上げるではありませんか。
なにしろ、専用レーンもない、片道1車線の細い道です。抜け道にもなっているので、クルマの往来はけっこう多く、大きく車道側にはみ出して追い越しにかかるわけにもいきません。
こうなったら、彼女の背後に迫って、クルマが走って来ないスキに、さっと追い抜いてしまうしかない。
そう思ってスピードを上げると、その女の子はチラと後ろを気にする素振りを見せ、またもスピードを上げようとします。
エッ、この子、何か、カン違いしてる……?
もしかして、見知らぬおじさんに後を追われている――とでも思ったか……?

しょうがないので、私は、その道で追い抜くのをあきらめました。
やがて、道は、交差する道を横切って、川沿いのやや広めの通りに出ます。
その通りに出ると、1車線ながらも道幅はやや広くなり、通過していくクルマの量も少なくなります。
よし、ここなら、ムリなく抜ける。
私は、再びスピードを上げ、前を行く彼女の車体に追いつき、並びかけ、そして一気に追い抜きました。
その瞬間でした。

わけもわからず「急ぐ心」の醜さ

あずき色の彼女の自転車を抜き去ろうとしたそのとき、思いもかけない声がしました。
声の主は、さっきまで、私に抜かせまいとして、意地になってスピードを上げているように見えた、その自転車の女の子でした。
振り向くと、メガネをかけた丸顔の女の子が、ペコリと頭を下げています。
何を謝っているのか――と、私がキョトンとしていると、女の子が言うのです。

ガーン――と、頭を打たれたような気がしました。
逃げていたのではなく、彼女は、小さな体を懸命に動かして、急いでいるらしい私の邪魔にならないように、何とかスピードを上げようとしていたのでした。
大した用事もないのに、わずか数分ばかりを節約しようと、彼女の自転車を追い抜きにかかった自分の浅はかさを、私は、ちょっと後悔しました。
相手のために、道を急いであげようという気持ちと、その気持ちを追い越して先を急ごうとした私の気持ち。
どちらが美しいか?
答えは言うまでもありません。

名もない町の片隅で示された「彼女の愛」
「体が小さいので、あんまり速くこげないんです」と、なおも申し訳なさそうに言う彼女に、私は言いました。
「こちらこそ、あせらせてごめんなさい。理由もなく急いでただけだから」
その言葉に、彼女はホッ……という顔を見せました。
「もう、ゆっくり走っていいんだよ。気をつけて帰ってね」
そう言って走り去ろうとした背中に、彼女の声が飛んできました。
「ありがとうございます」
片手を挙げて、バイバイと手を振りながら、私は、胸の中でつぶやきました。

ただ、それだけの話です。
イヴの夜の、小さな郊外の町の、名前もない裏通りでの、とるに足りない話です。
しかし、たったそれだけで、クリスマスの夜がちょっぴり温かくなりました。

ヘイトが渦巻く世の中で、「小さな愛」を叫ぶ
この世には、何かと言うと、他者を非難し、攻撃しようとする「ヘイト(憎悪)」が渦巻いています。近年、その量が、増大しているようにも見えます。
「ヘイト」を前面に押し立てて、政治的な活動を続けているグループもいます。そういう気持ちを煽り立てようとするメディアや政治家もいます。
筆者は、そういう動きを見るにつけ、耳にするにつけ、胸を痛めてしまいます。
しかし、その一方で、名もない「小さな愛」が、小さな町の片隅で、静かに息づいてもいます。
その「小さな愛」は、自らを「愛」と名乗ることもなく、他者にそれを押しつけることもなく、ただ淡々と、「人のためによかれ」と思うその気持ちだけを、育んでいます。
そういう人たちの心に宿るその「小さな気持ち」を、筆者は心から祝福したいと思います。
そして、この小さな世界が、そういう気持ちで満たされることを、心から願いたいと思います。
どうぞ、みなさまの小さな世界が、
そんな愛で満たされますように。
2014年のクリスマスを、そんな「祈り」とともに迎えたいと思います。
毎年のことではありますが、筆者からのささやかなプレゼント!
今年は、山下達郎の「Have Yourself a Merry Little Christmas」をお届けします。
Have Yourself A Merry Little Christmas by Tatsuro Yamashita(山下達郎アルバム「Season’s Greetings」に収録)~You Tubeより
どうぞ、みなさま、よいクリスマスを!
管理人の本、Kindle で販売を開始しました。よろしければ、ぜひ!

シリーズ「マリアたちへ」Vol.1
『チャボのラブレター』
2014年10月リリース
Kidle専用端末の他、アプリをダウンロードすれば、スマホでもPCでも、ご覧いただけます。
作品のダウンロードは、左の写真をクリックするか、下記から。
チャボのラブレター (マリアたちへ)
『チャボのラブレター』
2014年10月リリース
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チャボのラブレター (マリアたちへ)

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