第3章-京都に吹く風〈4〉 キスと法華の太鼓

後姿 父と母が愛し合った時代へ。感謝をこめて

「私のこと、好き?」
鴨川の河原で、いきなり、昌子が敏に訊いてきた。
「好きだよ」と答えると、昌子が頭を預けてきた。
磁石のように引きつけ合う2つの唇。
そこへ、法華の太鼓の一団が近づいてきた――。


 愛を駆ける急行   第3章 京都に吹く風 
〈4〉 キスと法華の太鼓

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この話は、「急行霧島」として執筆した作品のリメイク版、連載14回目です。最初から読みたい方は⇒こちらから、
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ここまでのあらすじ 父・秋吉敏が、母・昌子と出会ったのは、九州への急行「霧島」の車内だった。その年の暮れ、「霧島」は帰省客でごった返していた。やっと、ひとつ席を見つけた敏は、頭に赤鉢巻を巻いた季節労働者風の男と道連れになった。昌子が乗り込んできたのは、京都からだった。京都のミッション系の女子大に通う女子大生で、鹿児島まで帰省すると言う。博多までの道連れができたと喜ぶ敏。赤鉢巻は、四国に渡るために、岡山で列車を降りた。岡山を過ぎると、「霧島」は、漆黒の闇の中を走る。睡魔に落ちる昌子。その頭がいつの間にか、敏の肩の上で寝息を立てていた。やがて、「霧島」は関門海峡を渡る。昌子と敏は、春休みにまた「霧島」で会おうと約束して、握手を交わした。父によれば、その頃の若者は、「政治的」か「非政治的(ノンポリ)」かのどちらかだったと言う。父と母は、その中間にいて「良心的な声」を挙げようとするグループに属していた。共通するものは、聖書とコーラス。しかし、そんなふたりに、時代は次々と課題を投げかけてきた。次の年の春休み、一緒に帰ろうと「霧島」での再会を約束した敏と昌子。おたがいの髪は、少し伸びていた。リベラル派の教会の牧師とともに、大阪のドヤ街で奉仕活動を続ける昌子には、そんな活動は自己満足にすぎないと、政治思想を吹き込む男がいた。その年の夏休み、敏のY大グリークラブは、演奏旅行の最終日、京都で、昌子が所属するK女子大フローラル・コールとジョイントすることになった。京都で現地解散となる敏に、昌子は「京都で一泊しようよ」と提案した。コンサートの後、約束の三条大橋で待ち合わせた昌子が、「きょうの民宿のおじさん」と敏に紹介したのは、K大の学生寮に住む高城という男だった。敏を寮に案内した男は、「こんなの見たことあるか?」と、一冊の冊子を持ってきた。そこに書かれていた「火炎瓶の作り方」をめぐって、敏と高城は論争した。人民を解放するためには武装闘争も必要だと言う高城は、火炎瓶もその手段のひとつになると主張。敏は、手段を誤った闘争からは、真の解放は得られないと反論した。議論を重ねるうちに、酒が回ってきて酔いつぶれた敏を、翌朝、昌子が叩き起こしにきた。「思索の道」を散策しながら、昌子は敏に訊いた。「愛に思想は必要だと思うか?」。答えを探す敏の腕は、昌子のやわらかな胸の弾力に包まれていた――。




 結局、敏と昌子の京都見物は、《思索の道》を散策し、「ハラが減った」と、そこらのうどん屋に飛び込み、「氷」の看板を見ては、財布の残りを気にしながら氷をかき込み、京都の学生たちがよく利用するという古本屋をひやかし、西陣織や友禅の店頭を眺め……ということをしているうちに、何となく過ぎていった。
 「そろそろ、駅に行かなくちゃね」
 「そうね。あんまり、京都案内できなくて、ごめんなさい」
 「いや。ボクには、こういうのがいちばんいい。名所なんて行っても面白くないし」
 「ほんと?」
 「キミと京都の町を歩いた。ボクには、それがいちばんの京都見物だよ」
 ふたりは、歩き疲れて、鴨川の畔に腰を下ろしていた。
 西に傾き始めた太陽の金色の光は、対岸の寺院の伽藍や塔を影絵のように切り抜いて、ゆったり流れる水面に降り注ぎ、粉々に砕け散って反射し、昌子の横顔に黄金色のラメを振りかけていた。
 その顔を、敏は見つめていた。
 いつまでも眺めていたい――と思いながら見つめていた。
 「私たち、いつまでも、こうして会えるかなぁ」
 川面に散乱する光に、眩しそうに目を細めながら、昌子が言った。
 「思想が違っても、別々の川の流れに乗ってしまっても、こうして会えるかなぁ」
 「会いたいと思い続ける。いまのボクには、そうしか言えない」
 「ほんま? ほんまに会いたいと思い続けてくれる?」
 川面からの照り返しにキラキラと輝く顔を振り向けて、昌子はボクの顔をのぞき込んだ。
 「ボクたちが、いちばん大事な思想さえ持ち続けていれば、だれも、ボクたちの《会いたい》をジャマしたりできないよ」
 「そんなことじゃなくて……」
 昌子はまぶたを伏せて言葉を切り、再び、ゆっくりと目を開いた。
 その目の中で、金色の太陽が燃えていた。
 「私のこと……好き?」
 突然、訊かれて、心臓が音を立て始めた。
 返答を待つ昌子の目の色が、少し獰猛になったような気がした。
 「好きだよ」
 「ほんま?」
 「キミが、赤鉢巻のオヤジの手にそっと冷凍みかんを握らせたあのときから、ずっと……」
 昌子がクスッと笑ったような気がした。
 「赤鉢巻のおじさんに感謝しなくちゃね……私も、秋吉クンが好き」
 言いながら、昌子はボクの胸に頭を埋めてきた。

        

 昌子の髪から、夏の陽に焼けた髪の匂いと汗の匂いがした。その髪にそっと口をつけると、昌子はゆっくり顔を上げた。
 敏を見上げる目の縁の、上向きにカールのかかったまつ毛が、少し震えていた。
 見上げる目と見下ろす目が、ふたりの距離の真ん中でぶつかり合い、絡まり合った。ふたりの口から吐き出される息が、鼻柱と鼻柱の間で混じり合い、溶け合った。
 熱い息を吐き出す昌子の唇は、小さいけれども肉厚で、上唇の中央が富士山のような輪郭を描いて小高くめくれ上がっている。
 敏が口を近づけると、昌子の上唇はさらにめくれて、白い、小動物のような前歯がのぞいた。
 わずかに開かれたその隙間を目がけて、敏は自分の唇を近づけた。
 熱を帯びた唇と唇が、サワリと触れ合った瞬間、彼女は胸の中に残っていた空気を「ハーッ」と吐き出しながら、体を敏に預けてきた。
 磁石が吸い付き合うように、敏の唇と昌子の唇は、おたがいを求め合った。昌子の唇は、触れ合う面積が最大になる形に開かれ、開かれた歯と歯の間からもれてくる吐息が、その胸の温度を敏に伝えてきた。
 敏は、その息を胸いっぱいに吸い、粘膜同士を触れ合わせてその熱を交換した。
 触れ合った昌子の唇は、もはや思想を語ってはいなかった。語っているのは、体の奥に隠し持った、もっと激しいものだった。
 その激しいものは、獰猛な生きものの姿となって昌子の歯の間から現れ、敏の口の中に侵入してきた。その動きが伝えようとするものに、敏は少し驚き、しかし、すぐに敏の中からもそれに応じようとする何かが湧き起こった。
 昌子の舌は、敏の舌を絡め取り、歯茎をなぞり、口蓋をくすぐった。彼女の舌が上の歯茎をなぞるときには、敏は下の歯茎を、彼女の舌が口蓋をくすぐるときは、その舌の裏側を――そうして、おたがいの舌はいけない遊戯に耽り、ふたりは何ミリリットルもの唾液を交換し合った。

 ドンツク、ドンドン、ツクツク――。
 その遊戯に水をかけたのは、団扇太鼓の響きだった。
 団扇太鼓の列は、河川敷の遊歩道をボクたちのほうに近づいてくる。
 ドンツク、ドンドン、ツクツク――。
 その音が、「こんなところで何してる? さぁ、目を覚ませ!」と唱えているように聞こえ、隊列が目の前にさしかかる頃には、ふたりは、どちらからともなく体を離していた。
 「フフッ……」と、昌子が笑った。
 「ほんま、法華の太鼓はいけずやわ」
 また、京都言葉に戻っている。
 「でも、そろそろ行かなくちゃ」
 「そやね。太鼓が汽車の時間を教えてくれたんやわ」
 「荷物は?」
 「駅の一時預かりに預けてある」
 ふたりは、ためらう腰を上げ、服の汚れを払い、金色に輝く鴨川に別れを告げた。

        

 「霧島」は、定刻どおりに京都駅に入線してきた。
 ズ、ズ、ズ、ズ、ズシーン……。
 機関車が立てる地響きのような音が、敏と昌子の京都での時間の終わりを宣告した。
 郷里へと向かう「霧島」での、敏にとっては5回目の旅。そして、昌子とふたりでの3回目の旅。
 運よくボックス席に並んで座ることのできたふたりは、座るとすぐに睡魔に襲われた。
 昌子は、列車が動き出すと同時に、敏の肩に頭を預け、敏はその手を握り締めた。何度も途中で目を覚ましたが、目を覚ますたびに、敏は昌子の手を強く握り直し、昌子も夢の中でそれに応えた。
 ふたりのいちばん平和な時間が、山陽路を走った。
 ふたりは平和だった。その秋の10月8日、その出来事が、全国の大学生たちに衝撃を与え、混乱の渦の中に巻き込み始めるまでは――。
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