第5夜~「思いやる」だけならサルでもできる
AKI 「銀座の女を一列に並ばせていたしたい」と豪語する、超バラ撒き体質の哲ジイが、それでも「浮気はしないだろう」とおっしゃる。きょうはぜひ、その理由をお聞きしたいもんです。
哲雄 とても体力がもたないから……じゃなくて、あれはジョーダンだと申し上げたでしょ。
AKI でも、バラ撒きは、男の本能的性質である?
哲雄 本能的にはそうだけど、私の優秀な前頭葉が「それはダメだ」と言うのです。
AKI ゼ・ン・ト・ウ・ヨ・ウ……? 漢方薬かなんかスか?
哲雄 大脳のパーツです。おでこ側にあって、人が物事を深く思考したり、何かを創造しようとしたり、推理を働かせようとしたりするときに活動する部分で、サルと人間の脳の違いは、この前頭葉の発達程度にある、と言われてる場所。人間を人間たらしめているパーツと言ってもいいんじゃないかな。
AKI 「やりたい」とかも、そこで考えるわけ?
哲雄 ノン。「やりたい」「食べたい」「怖い、逃げろ!」なんていうのは、大脳辺縁系といって、大脳の中でも、もっとも古くに発達した部分がつかさどってる。そういう本能的な欲求や情動をコントロールするのは、原始的な大脳の仕事なんだよね。
AKI じゃ、哲ジイの前頭葉は、なぜ、それを「ダメだ」と言うの?
哲雄 そこじゃよ、AKIちゃん。
AKI な、なんですか? 突然、フレンドリーになって……。
哲雄 なぜだろう? と、自分でも考えてみたんだが、ひとつは、相手を悲しませたくない、という気持ちが、強く働くからだろうと思う。
AKI ヘーッ、意外と、いいとこあるじゃん。
哲雄 でしょ、でしょ?
AKI 調子こくでねェ。つまり、こういうことでしょ、哲ちゃん。その「相手を悲しませたくない」という気持ちこそが、愛である。んでねが?
哲雄 うんにゃ。まんだ、そごまではいがね。
AKI 標準モードに戻します。
哲雄 「相手を悲しませたくない」という気持ちが芽生えるためには、3つの要素が必要になる。ひとつは、相手が「悲しんでいる」ということを読み取る能力。これは、サルでも、いや、イルカやゾウでさえも、ある程度はできる。連中も、怒り、喜び、悲しみ……などの身体表現ができるし、そのサインを理解することぐらい、できるからね。
AKI 敵もサルもの。で、もうひとつは?
哲雄 もうひとつは、悲しんだり、苦しんだりしている相手を「かわいそう」と感じる能力、つまり、「思いやり」だけど、『利己的なサル 他人を思いやるサル』を書いたフランス・ドゥ・ヴァールという動物学者によると、これも、同一の種、同じ群れに属する個体同士の間では、しばしば見受けられる、という。
AKI エーッ、それってすごくない?
哲雄 たとえば、イルカは、群れの1頭が方向感覚を失って、浅瀬に迷い込んだりすると、その体の下に潜り込んで、何とか体を持ち上げ、沖合いに連れ戻そうとする。ゾウは、群れの1頭が倒れると、キバでその体を助け起こそうとして、ときにはキバを折ったりもする。それでも助からず、死んでしまうと、周りの木の枝を長い鼻でもぎとって、その体を覆ってやるんだって。
AKI それ、埋葬じゃないですか? すご~い。
哲雄 サルになると、もっとすごいことをやる。群れの中に障害を持った子どもがいたりすると、その子を他のグループの攻撃からかばったり、ときには、エサを分け与えたりする。チンパンジーなんかの類人猿になると、人間顔負け。ケンカに負けて落ち込んでるオスをメスが慰めてやったり、ケンカになりそうなオス同士を、たとえばグループのボスが仲裁したり……なんてことまでやるんだ。
AKI 愛だねぇ~。
哲雄 「愛」と呼ぶのは、どうだかね。女の子は、すぐ、動物を擬人化したがるけど、それはちょっと危険かもしれない。ここらへんの動物の利他行動については、学者の間でも意見が分かれてるんだ。
AKI 素直じゃないからね、学者ってやつは。
哲雄 オイオイ、そういう問題じゃないだろう。動物が他の個体に感情移入できるかどうか? 相手の気持ちを思いやることができるかどうか? これはけっこう重大なテーマで、いまでも、生物学者、生物社会学者、遺伝子学者、心理学者なんかが入り乱れて、カンカンガクガクの議論を闘わせてるんだから。で、「思いやりなんかじゃない」と主張してる側の根拠として有力なのは……。
AKI もしかして、進化論?
哲雄 ドキッ! おヌシ、いいとこ突くねェ。
AKI 当たらずといえども、遠からず?
哲雄 ウン。要するに、群れを作る動物にとっては、集団そのものを維持することが、生存のための最大条件だから、そのためには、群れの中で自ら犠牲を買って出る個体もいるだろうし、傷ついた仲間に利他的な行動をとることもあるだろう。しかし、それは、集団全体の利益につながることだから、決して「思いやり」なんかではない、というわけだ。ま、ここらへんは、まだ結論の出てないところだから、なんとも言えない。
AKI 私は信じたいけどね、動物にも思いやりの感情があるって。で、3つめの条件は?
哲雄 これが、動物にはむずかしい。いちばん人間に近いチンパンジーだって、たぶん、ムリ。それは、「こういうことをすると、相手が悲しむだろう」と、前もって想像する能力。
AKI そりゃ、ムリだよ、哲ジイ。人間だって、できないヤツが多いんだから。
哲雄 でも、それができなきゃ、「相手を悲しませないようにしよう」とは思えないでしょ。そして、それができるためには、前頭葉の働きがどうしても必要なんだ。
AKI またも出ました。前頭葉!
哲雄 そして、「愛の発明」のためには、この働きが絶対に欠かせない!
AKI エッ!? 愛って、発明されたの?
哲雄 発明されたようなものだね。次回は、いよいよ、AKIちゃんと、じっくり「愛」について語り明かそうじゃありませんか。
AKI 明かしはしませんよ、言っときますけど……。
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