第2夜 結婚式はワイセツである
AKI 哲ジイの20世紀の彼女も、結婚したくなかったのかな?
哲雄 20世紀、20世紀って、いちいちうるさいなぁ。いいじゃないですか、21世紀になって、まだ、彼女、できてないんだから……。
AKI それで? その彼女ですよ。ほんとに結婚したくなかったの?
哲雄 所有されるのはイヤだって言ってた。
AKI ショ、ショユウ……?
哲雄 そう。結婚という制度は、相手を所有し合う制度だと、当時の先進的な若者たちは考えていた。そうしておたがいを所有関係でガンジガラメにしてしまうことによって、体制を維持しようとする悪しきシステムだとも考えていた。
AKI あ、わかった。それって、もしかしたら、『同棲時代』(注・1960年代の終わりから1970年代初めにかけてブレイクした『週刊漫画アクション』連載の人気コミック)なんかが流行ってた頃の話でしょ。



哲雄 ホォ、よく知ってるねェ。
AKI 話だけは聞いたことがある……って程度ですけどね。じゃ、そういうセンシン的?な若者にとっては、結婚するってことは、ある意味、堕落するってことでもあったわけ?
哲雄 ザッツ・ライト! 特に、あの結婚式とか披露宴ってやつが、どうにもガマンがならないほどに醜悪だと感じてた。
AKI 醜悪……ですか?
哲雄 だいたい、おかしいでしょ。あれって、ほんとなら、「○子さんと○男さんの結婚式」であるべきところを、「○○家と○○家の結婚式」になっちゃってるじゃない。どうするのさ、たとえば、神野さんと下野さんが結婚するなんてことになったら……。
AKI ハ、なんスか、それ?
哲雄 ただいまから、カミノケ・シモノケご両家の結婚披露宴を……なんてやるわけ?
AKI ハハ……笑える。司会者、困っちゃうよね。
哲雄 「家」をつけるから、そういうことになる。
AKI 屁理屈ですよ、そんなの。
哲雄 ま、それはジョーダンだけどね。ともかく、当時の既成のおとな社会の論理では、結婚は「家と家の縁組」だと考えられてて、ヨメは嫁ぎ先の「家に入る」という感覚で捉えられてた。
AKI いまでも、そういう考え方が残ってるところ、あるみたいですけどね。でもネ、哲ジイ、そういう古い考え方は考え方として、単純に、愛し合うふたりの門出を祝う儀式として式を挙げるっていうの、別にわるいことじゃないと思うけどなぁ。私なんて、出席するたびに感激して、涙、涙ですよ、ホント。
哲雄 あ~、不潔! キミは、あのワイセツ感によく耐えられますねェ。
AKI エーッ、結婚式がワイセツ?
哲雄 ワイセツですよ。今日から、この女はオレのもの、他のだれにも触らせない。今日から、私はあなたのもの、あなただけにこのボディを捧げます。そんなふうに宣言してる儀式みたいに見えるんだよね。おたがいの所有権を、天下万民に公示するための……。
AKI 別に、公示はしてないし、天下万民にでもないと思うけど……。
哲雄 それに何ですか、あの、「ふたりはこのあと、ホテル○○に宿泊して、熱い夜を過ごしたあと、××へハネムーンに旅立たれます」とか、「ハネムーンベビーの誕生を」とかっていう、祝福だか冷やかしだかわかんないようなコメントは?
AKI ウン、さすがに私も、あれは、品性に欠けるって気がしますが、全部が全部、そんな披露宴ばかりじゃないですよぉ……。
哲雄 ガマンがならないのは、あの、ケーキ入刀の儀式。しかもそれを「ふたりの初の共同作業です」とは何事ですか。ンなわけないだろ! ウソつくな!
AKI もう、コーフンしないでくださいよ。それ、単にひがんでるようにしか聞こえませんよ。
哲雄 これは義憤です! まったく牧師までグルになっちゃって。
AKI エ? 牧師が?
哲雄 汝、病めるときも健やかなるときも、死がふたりを分かつまで……っていう、あの誓いの言葉ですよ。
AKI 誓うでしょ、ふつう。
哲雄 どうせ、離婚するくせに?
AKI それは……たまたまそうなることもあるっていうだけの話で、だれも「いつか離婚してやる」なんて思いながら結婚するわけじゃないんだから。
哲雄 だったら、誓ったりしなきゃいい。聖書にも「誓うなかれ」と書いてあるんだし。
AKI そ、そうなんですか?
哲雄 これ、ホント。でも、この話をすると長くなっちゃうから。
AKI じゃ、その話はまたあした。
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