ローズマリーの詩〈31〉 彼女の「許しがたい罪」

コーヒーと女迷う私に、彼女が明かした秘密。
その秘密ゆえに、彼女はおじの元を離れたのだった。


妊娠の事実を聡史に告げるべきか? それとも…?
私の迷いを見抜いたのは、千里さんだった。
「変なこと考えてないでしょうね」――怖いほどの顔で
見つめた千里さんが、私に明かした秘密は……。



 小説/ローズマリーの詩 ――― 第31章 
【リンク・キーワード】 恋愛小説 結婚 一夫一妻 純愛 エロ 官能小説


この話は連載31回目です。最初から読みたい方は⇒こちらから、
   前回から読みたい方は、⇒こちらからどうぞ。

ここまでのあらすじ 離れのおじの部屋から聞こえてくる『スカボロー・フェア』という曲。その歌には、パセリとセージとローズマリーとタイム、4種のハーブが登場する。おじは、その歌を歌いながら、かつての恋人に想いを馳せているように見えた。私にもかつて、尊敬し、愛した男がいた。鳴尾聡史。アフリカで、飢えた子どもたちを救うボランティア活動に従事する男。しかし、私は、「一緒にアフリカに行かないか?」という彼の誘いに首を振った。勇気がなかったからだ。私は就職して、そこで巡り合った男がささやく「ふつうの幸せ」という言葉に揺らいだ。結婚の約束までしたが、その結婚をドタキャンした。そんな私とおじは、母には「我が家の厄介者」だった。その厄介者のおじを、ある日、尾崎さんという古い友人が訪ねてきて、「こないだ、彼女に会ったゾ」と口にした。おじのかつての彼女は、草野駅の前でハーブ・パンを焼いて売っているという。その人・真坂千里さんの店を、私はのぞきに行った。店名は「千の丘」。『七つの水仙』という曲からとったという。その歌をかつて彼女に歌って聞かせたのは、どうやら、おじらしかった。そんなある日、一通のエアメールが届いた。鳴尾聡史が内乱に巻き込まれて負傷し、帰国するという。5年ぶりに会った聡史は、精悍さを失ったように見えた。銃撃にすくんだ自分は、「もう、アフリカには戻れないかもしれない」と言う。沈み込む聡史に、私は「お帰りなさい」のキスをした。おじも、千里さんと再会したいと思うだろうか? 私は、おじに食べさせたパンが千里さんが焼いたパンであることを告白し、千里さんがいまもひとりでいることを伝えた。千里さんにも、「私は、牧原哲司の姪なんです」と告白した。私の告白に目を丸くした千里さんだったが、おじが後悔していることを告げると、「残念ながら、彼と別れた理由は、あなたのおじさんが想像しているようなものじゃない」と言った。そんなある日、私は千里さんから「家に来ない?」とお誘いを受けた。なぜ、ふたりは別れてしまったのか? 理由を問う私に、千里さんの重い口が開かれた。「あの人、子どもは嫌いだ――って言ったのよ」。そんな私の目に一体のオブジェが留まった。幼子イエスを抱く聖母子のオブジェ。そこに秘められた千里さんの想いを想像していると、聡史から電話が入った。通信社への就職が決まり、アフリカに派遣されることになった、というのだった。「ついて来てほしい」とは言われなかった。その代わり、「待っていてほしい」と言われた。おじによると、それは「立派にプロポーズだ」と言う。年が明けた日曜日、私はおじをちょっと遠い散歩に誘った。行先が千里さんの「千の丘」と知って、おじの足は止まったが、私はその背中を押した。40年ぶりに再会したふたりはワインで乾杯し、おたがいの現況を語り合った。温かい空気が、ふたりの間に生まれたような気がした。そんな中で迫る聡史のアフリカ行き。しかし、私には気になることがあった。生理が遅れていた。病院で診てもらうと、「妊娠」だった。聡史に告げようか、それとも……。「変なこと考えてないでしょうね」。私の心の迷いを見抜いた千里さんは、私を自分の部屋に誘った――。




 「ちょっと待ってて。あと30分で閉店だから。時間あるでしょ?」
 私がうなずくと、千里さんは席を立って厨房に行き、手際よく片づけを始めた。
 「お手伝いしましょうか?」と声をかけると、「じゃ、表の看板とワゴンをお願い」と言う。なんだか、千里さんに仲間と思われたようで、ちょっとうれしかったりする。
 「千の丘」の明かりを落とすと、千里さんは私の顔をのぞきながら、「エッ……と、やっぱり、上で話したほうがよさそうね」と言いながらエプロンを外した。
 私は、千里さんに従って店を出て、エレベーターの前に立った。
 「あの……」
 エレベーターが7Fから降りてくるのを待つ間に、声をかけた。ひとつだけ、確認しておきたいことがあったからだ。
 「おじも、もう……千里さんの部屋に……?」
 「ハァ……?」という顔で私を見た千里さんが、「プッ」と小さく吹き出した。
 「あのね、沙世さん。わたし、そんな淫らな女じゃないわよ」
 言いながら笑っているので、まるっきり失礼なことを訊いた――というわけでもなさそうだった。
 たぶん、おじがそれを強くは望まなかったのだろう。あの人、肝心なところで、妙に慎み深いから。
 ま、そんなことは、姪である私が心配すべきことではない。
 それより、問題は……。

        

 部屋に入ると、千里さんは私のために、また、ワインを一本、下ろしてくれた。
 その赤い液体を私のグラスに注ぎながら、千里さんが、静かに口を開いた。
 「沙世さんには、わたしと同じ過ちを犯してほしくないの」
 「エッ……?」と、私は、千里さんの顔を見た。
 その顔が、怖いくらいに真剣だった。
 何も返せず、じっと千里さんの目を見ていると、千里さんは、ゆっくりイスから立ち上がって、壁のチェストのほうへ向かった。
 そこに置いてあった、あの、聖母子像のオブジェ。
 大事なものを扱うように、愛しいものを抱きしめるように、そのオブジェを胸に抱えると、千里さんは、それを私の目の前に置いた。
 「だれにも言わないでおこうと思ったんだけど……」と、千里さんは静かに口を開いた。
 「この子、わたしと……あなたのおじさんの子どもなの……」
 聖母子の姿を私のほうへ向けながら語られた、千里さんの秘密。
 その秘密を明かす目は、うっすらと水の膜に覆われていた――。

        

 あまりに重大な秘密の告白だった。
 私は、言葉を失った。
 マリアに抱かれた幼子。それは、もしこの世に生を受けていたら、私の「いとこ」になるはずの存在だった。
 「おじは、そのことを……?」
 千里さんは、静かに首を振った。
 「どうして……?」
 それだけしか言えなかった。

 《おじと、もう一度、会ってみたい――と思うか?》

 自分が牧原哲司の姪であることを打ち明けたときに尋ねた言葉に、千里さんの返事は、「もし、許してくれるなら……」だった。
 「許してくれる」の意味が、初めてわかったような気がした。
 「いまのあなたと同じ……」と千里さんは言った。
 「言えなかったの。子どもは嫌いだ――って言うあの人の前で、あなたの子どもができたとは、どうしても……言えなかった」
 そう言ったきり、千里さんは首を振って口をつぐんだ。
 私も、何も言えなかった。
 しんと静まり返った部屋の中に、シュッ、シュッ……と、千里さんがティッシュを引き抜く音だけが響き渡った。そのティッシュは、千里さんの細い指につままれ、部屋の空気の中を羽衣のように飛翔して、目の縁に当てられた。

        

 「これが、わたしの罪……」
 やっと口を開いた千里さんが、言った。
 「わたしが、あなたのおじさんに対して犯した罪。そして、何より……この子に対して犯した罪。その罪の罰を、わたしはこの体に受けたわ」
 「エッ……ま、まさか……」
 「子どもが産めない体になってしまったの」
 「おじは、そのことを……まったく知らないんですか?」
 千里さんの首が、ゆっくり、タテに動いた。
 「だからね、沙世さん、このことだけは、おじさんには言わないでほしい。もしカレに知られたら、わたし……」
 「でも……」と、私は言った。
 「その罪は、おじも背負うべきだと思います」
 今度は、首を振った。
 「あの人には、それを知るべき権利があった……と思うわ。でも、わたしは、カレからその権利を奪ってしまった……」
 「でも、おじは、子どもは嫌いだ――って言ったんでしょ? おじは、それを知らせる意欲を千里さんから奪ってしまったんだわ。おじは、知るべき権利を、自ら放棄したんですよ。だからね、千里さん、いますぐとは言わないけど、いつか……話すべきときがきたら、どうか、そのことをおじに……。わたし、それまで、おじには何も言わないでおきますから」
 「そうね……」と、千里さんは、自分に言い聞かせるように言った。
 「そういうときが来たら……」
 来てほしい――と、私は思ったけど、それは、口にしないでおいた。
 ⇒続きを読む

 参考  この小説に出てくる楽曲と映画は、こちらから

本作品中に登場する曲「スカボロー・フェア」は、サイモンとガーファンクルの『パセリ・セージ・ローズマリー&タイム』に、「七つの水仙」はザ・ブラザーズ・フォーの『グレイティスト・ヒット』に収録。登場する映画『卒業』は、DVD版とBlue Ray版が販売されていて、いずれも、アマゾンより購入できます。興味のある方は、ぜひ、ご覧になってみてください。

      




管理人の本、スマホで好評配信中です。よろしければ、ぜひ!

モテ会話術25『男と女のモテ会話術』
2012年11月リリース
好評! App Storeで上位ランキング中!
iPhone、iPad、アンドロイド端末でダウンロードできます。
iPhone、iPadでご覧になりたい方は、こちら(iTuneダウンロードページ)から

13 あなたの感想をClick Please!(無制限、押し放題!)
管理人は、常に、下記3つの要素を満たすべく、知恵を絞って記事を書いています。
みなさんのポチ反応を見て、喜んだり、反省したり……の日々です。
今後の記事作成の参考としますので、正直な、しかし愛情ある感想ポチを、どうぞよろしくお願いいたします。


→この小説はテーマ・構成がいい(FC2 恋愛)
→この小説の描写・表現に感動する(にほんぶろぐ村 恋愛)
→この小説はストーリーが面白い(人気ブログランキング 恋愛)

 →この小説の目次に戻る       →トップメニューに戻る  

関連記事
拍手する

テーマ : 官能小説
ジャンル : アダルト

コメントの投稿

非公開コメント

ご訪問ありがとうございます
現在の閲覧者数:
Profile
プロフ画像《当ブログの管理人》
長住哲雄…独自の人間関係論を元に、数々の著書を刊行してきたエッセイスト&編集者。得意ジャンルは、恋愛論やコミュニケーション論。

    姉妹サイト    

《みなさんの投票で恋愛常識を作ります》
★投票!デート&Hの常識

《管理人の小説をこちで保管》
おとなの恋愛小説倶楽部

《シニア向けサイトも運営しています》
晩年clubロゴ

Since 2009.2.3

▼こちらの市民です。


アクセスランキング

管理人・長住哲雄の近著
  Kindle でお読みください〇〇

写真をクリックすると、詳細ページへ。

最新刊
長編小説

『妻は、おふたり様にひとりずつ』
2016年3月発売
虹BOOKS

3人に1人が結婚できなくなる
と言われる格差社会の片隅で、
2人の男と1人の女が出会い、
シェア生活を始めます。
愛を分かち合うその生活から
創り出される「地縁家族」とは?
定価:342円



シリーズ
マリアたちへ――Vol.2


『「聖少女」
6年2組の神隠し』

2015年7月発売
虹BOOKS

ビンタが支配する教室から
突然、姿を消した美少女。
40年後、その真実をボクは知る…。
定価:122円



シリーズ
マリアたちへ――Vol.1


『チャボの
ラブレター』

2014年10月発売
虹BOOKS

美しい養護教諭・チャボと、
中学生だった「ボク」の淡い恋物語です。
定価:122円

   全国有名書店で販売中〇〇〇

写真をクリックすると、詳細ページに。

新刊です!
『すぐ感情的に
なる人から
傷つけられない本』

2015年9月発売
こう書房
定価 1400円+税

あなたを取り巻く
「困った感情」の毒から
自分を守る知恵を網羅!



『これであなたも
「雑談」名人』


2014年4月発売
成美堂出版
定価 530円+税


あなたの「雑談」から
「5秒の沈黙」をなくす
雑談の秘訣を満載!



『モテる大人の
ほめルール』

2013年8月発売
こう書房
定価 1400円+税


人は、ホメてくれるあなたを
「好き」になる!
そんなホメ技術を満載!



男と女のモテ会話新1202000部増刷!
『男と女の
モテ会話術』

2012年7月発売
こう書房
定価 1400円+税

30秒で心を開かせ、
10分で好きにさせる心理マジック!

   スマホでも好評配信中!   
ダウンロード価格 100円
★iPhone、iPadでご覧になりたい方は、
⇒こちらのダウンロードページから



30秒でつかみ、
1分でウケる
『雑談の技術』


2007年6月 こう書房
定価 1300円+税


「あの人と話すと面白い」
と言われる
雑談のテクを網羅。

★オーディオブック(CD)も、
好評発売中です!




――など多数。
ランキング&検索サイト
    総合ランキング・検索     

FC2ブログ~恋愛(モテ)
にほんブログ村~恋愛観
にほんブログ村~恋愛小説(愛欲)
人気ブログランキング~恋愛



   ジャンル別ランキング&検索  

《Hな小説の検索サイトです》
正しいH小説の薦め正しいH小説の薦め


《Hな体験、画像などの検索サイト》
愛と官能の美学愛と官能の美学


《小説のジャンル別検索サイト》
オンライン小説ランキング★カテゴリー別
オンライン小説ranking


《あらゆる創作系サイトの検索に》
駄文同盟.com駄文同盟.com


《当ブログの成分・評価が確認できます》
blogram投票ボタン


おすすめ恋愛サイトです
いつも訪問している恋愛系ブログを、
独断でカテゴリーに分けてご紹介します。

悪魔
勉強になります
「愛」と「性」を
究めたいあなたに


《性を究める》
★カラダ開発研究ブログ
★性生活に必要なモノ
★男と女のエッチの秘密
★アラフォー女性のための夫婦性活なび
★セックスにまつわるエトセトラ
★飽きないセックスを極める
★真面目にワイ談~エロ親父の独り言
★彼女達との性ライフ
★恋する熟女



《性の不安に》
★自宅でチェック! 性病検査

《愛を究める》
★プライド
★セカンドバージン卒業まで

《男を磨く・女を磨く》
★かっこいい女への道
★予算15,000円でプレゼントする
本格ジュエリー「me.luxe」


女の子「男と女」はまるで劇場
いろいろな愛の形
その悦びと不安


《不倫》
★不倫ポータルネット
★幸せネル子の奔放自在な日々

《MとSの話》
★M顔で野生児だった私の半生

《国際結婚》
★アンビリーバブルなアメリカ人と日本人

《障害者とフーゾク》
★KAGEMUSYAの裏徒然日記

妻くすぐられます
カレと彼女の
ちょっとHな告白


★さくら夫婦のSEX記録
★嫁の体験リポート
★恵子&誠
★レス婚~なんだか寂しい結婚生活
★おしりちゃんの部屋
★木曜日のアモーレ New



女王写真&Hな告白
赤裸な姿を美しく
大胆に魅せてくれます


《美しい自分を見せて、読ませてくれます》
★Scandalous Lady
★みっち~の部屋

音楽女
ちょいエロなサイトです
他人の愛と性を
のぞき見


《Hな投稿集》
★人妻さとみの秘密の告白
★内緒の恋愛体験を告白


上記分類にご不満のブログ運営者さまは、管理人までご連絡ください。
創作系&日記系☆おすすめリンク
読むたびに笑ったり、感動したり、
勉強になったりするサイトです。

女の子ヘッドホン

読む悦び、見る愉しみを!
小説&エッセイ&写真

《官能小説》
萌木ケイの官能小説
ひとみの内緒話
riccia
★~艶月~
★妄想の座敷牢~紅殻格子の世界
★愛ラブYOU

《おとなのメルヘン&ラブストーリー》
★月夜の602号室
★小夜嵐
Precious Things

《ミステリー》
★コーヒーにスプーン一杯のミステリーを

《愛の詩・時代の詩》
★Poem Spice 久遠の詩
★罵詈雑言~本能ノ赴クママニ
★メランコリックノイローゼ

《書評・レヴュー・文芸批評》
★新人賞を取って作家になる
★頭おかしい認定ニャ
★読書と足跡
★緑に向かって New

《写真&詩、エッセイ、日記》
★中高年が止まらない New
★質素に生きる
★エッチなモノクローム
★JAPAN△TENT
★いろいろフォト

傘と女性ユーモアあふれるブログです
いつもクスリと
笑わせられます


《風刺効きまくりです》
★ねじを巻け、そして服を脱げ。
★ショートショート
 とりぶうの読むコント~宮古島

★The Door Into Summer

スクーター
社会派なあなたへ
政治のこと、社会のこと

《政治批評&社会批評》
★真実を探すブログ
★Everyone says I love you!



    素材をお借りしました     

★写真素材・足成
★無料画像素材のプロ・フォト
★カツのGIFアニメ
★無料イラスト配布サイトマンガトップ

上記分類にご不満のブログ運営者さまは、
管理人までご連絡ください。
にほんブログ村ランキング
にほんブログ村内の各種ランキング、 新着記事などを表示します。
アクセスランキング
リンク元別の1週間のアクセス・ランキング。

検索フォーム
QRコード
QR