ローズマリーの詩〈22〉 迸る精液はアフリカの匂い

コーヒーと女彼が迸らせるアフリカの匂いがする精液を
体の奥深くに受け留める。私にはそれしかできなかった。


いまも耳に残る、キャタピラが骨を踏み砕く音。
その残響を振り払うように、聡史は私の体を求めた。
もしも、私が妊娠したら……? その質問に、
聡史からの答えは、返ってこなかった――。



 小説/ローズマリーの詩 ――― 第22章 
【リンク・キーワード】 恋愛小説 結婚 一夫一妻 純愛 エロ 官能小説


この話は連載22回目です。最初から読みたい方は⇒こちらから、
   前回から読みたい方は、⇒こちらからどうぞ。

ここまでのあらすじ 離れのおじの部屋から聞こえてくる『スカボロー・フェア』という曲。その歌には、パセリとセージとローズマリーとタイム、4種のハーブが登場する。おじは、その歌を歌いながら、かつての恋人に想いを馳せているように見えた。私にもかつて、尊敬し、愛した男がいた。鳴尾聡史。アフリカで、飢えた子どもたちを救うボランティア活動に従事する男。しかし、私は、「一緒にアフリカに行かないか?」という彼の誘いに首を振った。勇気がなかったからだ。私は就職して、そこで巡り合った男がささやく「ふつうの幸せ」という言葉に揺らいだ。結婚の約束までしたが、しかし、彼が押し付けてくる「ふつうの幸せ」という形に耐えられなくなって、その結婚をドタキャンした。そんな私とおじは、母には「我が家の厄介者」だった。その厄介者のおじを、ある日、尾崎さんという古い友人が訪ねてきて、「オウ、こないだ、彼女に会ったゾ」と口にした。おじのかつての彼女は、草野駅の前でハーブ・パンを焼いて売っているという。興味を覚えた私は、ある日、草野駅まで行ってみた。その人・真坂千里さんの店は、「千の丘」といった。その店名は、『七つの水仙』という曲からとったという。そして、その歌をかつて彼女に歌って聞かせたのは、どうやら、おじらしかった。そんなある日、一通のエアメールが届いた。鳴尾聡史が内乱に巻き込まれて負傷し、帰国するという。会うべきか、会わざるべきか? 迷っている私をおじのひと言が後押しした。「命短し、恋せよ乙女かぁ。後悔するなよ、沙世ちゃん」。千里さんは、こう言った。「会って後悔するかもしれない。会わないと、もっと後悔するかもしれない。私だったら、会って後悔するほうを選ぶ」。私は聡史との再会を決意した。5年ぶりに会った聡史は、精悍さを失ったように見えた。銃撃にすくんだ自分は、「もう、アフリカには戻れないかもしれない」と言う。沈み込む聡史に、私は「お帰りなさい」のキスをした。「もし、千里さんが会いたいって言ったら、おじさんも会う?」。私の質問に、おじは「エッ、どうしてキミが…?」という顔をする。私は、おじに食べさせたパンが千里さんが焼いたパンであることを告白し、千里さんがいまもひとりでいることを伝えた。千里さんにも告白した。「私は、牧原哲司の姪なんです」。私の告白に目を丸くした千里さんだったが、おじが後悔していることを告げると、「残念ながら、彼と別れた理由は、あなたのおじさんが想像しているようなものじゃない」と言った。家に帰ると、おじがうれしそうな顔で言う。「パセリとセージとローズマリーとタイムは、昔は、避妊薬として使われていたらしい」という話だった。歌の意味が、少し変わったように感じられた――。




 鳴尾聡史は、会えば、貪るように私の体を求めた。
 キャタピラに踏み砕かれる骨の音を振り払うように、断続的に脚を襲う銃痕の疼きと闘うように、私の乳房に痛いくらいにしがみつき、「オーッ、オーッ!」と叫びながら、腰を打ち振った。
 その体から迸り出る、少し、アフリカの匂いがする精液を、私は、私の中の体の奥深くに受け止めた。
 少し、不安はあった――。
 その不安を、さりげなく、聡史にぶつけたことがある。
 「ね、もし……私が妊娠したら、どうする?」
 聡史は、私の目を驚いたように見つめて、それから、恐る恐る口を開いた。
 「もしかして……で・き・た……?」
 数えきれないくらいの男たちが口にしてきたその質問を私にぶつけるときだけ、鳴尾聡史は、ふつうの男になった。
 「たぶん……だいじょうぶ……でも、もしそうなったら……」
 私が期待している言葉は返ってこなかった。
 その代わりに、聡史は、アフリカを語った。
 「コンドームも持っていったんだよね、たくさん」
 「エッ、たくさん……?」
 ちょっとだけ誤解した。でも、その「たくさん」は、自分のためではなかった。
 「エイズの蔓延を防ぐためにも、コンドームを使いましょう――ってさ。そういう啓蒙活動をするのも、オレたちの任務のひとつだったから。でも、使ってくれないんだよね」
 「使ってくれない? 避妊するっていう考え方が、ないのかしら……?」
 「たぶん……ね。大地を裸足で走り回ってた人たちだもん。そこへ、オレたちがいきなり、奇妙な文明を持ちこんで、これ使え――なんて言ってもね。子どもができたら、何人でも産んで、大地の子として育てていく。もしかしたら、そっちのほうが人間として自然なのであって、おかしいのは、自分たちのほうじゃないか――ってさ。あそこにいると、そんな気がしてくるんだよな」
 「それで、先輩も避妊しないことに決めた……?」
 「いや、そういうわけじゃない。でも、なんか……オレも、あの文明の利器が、ちょっと苦手……だったりして。ごめん」
 結局、私の最初の質問への答えは返って来なかった。
 これから、聡史と会うときには、私も、パセリとセージとローズマリーとタイムのお湯に、お尻を浸して来なくちゃ――と、そのとき思った。

        

 聡史は、いくつか、通信社の採用試験にもエントリーしていた。
 将来にわたって、自分の理想を追求し、アフリカとも関わり続けたい。しかし、どこかで、生活の安定も求めたい。そんな意思が選ばせた選択だったが、いまのところ、収穫はないようだった。
 このまま、NPO組織のスタッフとして留まるという選択も、もちろんある。しかし、将来の生活を――と考えたとき、経済的には、やや不安が残る。
 理想を追求するということと食べていくということは、いつも両立するとは限らない。
 その間で、聡史の気持ちは揺れているように見えた。
 自分が発した「もし、わたしが妊娠したら……?」という問いが、聡史を焦らせたのかもしれない――と思うと、ちょっと、胸が苦しかった。
 でも、大丈夫よ。
 あなたは、あなたの理想を追求して。
 わたしは、そんなあなたのそばに寄り添って、あなたが進みたい道をサポートしてあげるから。
 口には出さずに、私は、そう決意を固めた。

        

 翌週、「千の丘」に行った。
 8時を回ろうとする時間だった。
 草野駅は、すでに帰宅のピークを過ぎて、電車を降りて改札に向かう人も、ぱらっとしかいない。ロータリー前の商店も、飲食店を除いては、ほとんどシャッターを下ろしていた。
 「千の丘」は、店の明かりこそ点いていたが、路上に出した看板は店内に引っ込められ、店頭のワゴンも片付けられて、千里さんは、床にモップをかけているところだった。
 お言葉に甘えて来ちゃったけど、よかったのかな――。
 恐る恐る店の中に足を踏み入れ、「こんばんは」と声をかけると、千里さんは、手にしたモップの柄をつっかい棒代わりにして腰を伸ばし、「あら、よかったわ」と声を挙げた。
 何が「よかったわ」なんだろう――と思っていると、千里さんは、棚に2本だけ残っていたバケットを指差した。
 「ちょうど2本だけ残ってたの。きょうは、他のパンも早めに売り切れてしまって、もう、それしか残ってないの」
 「あ、でも……」
 「いいの。それ、あげちゃう。もう、レジ閉めちゃったし……。でも、私、いま、手が汚れてるから、それ、そこにある袋に自分で詰めてね」
 もう千里さんは、私を「お客さん」とは思ってないらしい。
 それが、ちょっぴりうれしかった。
 「すぐ終わらせるから」と言って、千里さんは店の床にモップをかけ、棚に並んだ空のトレーを奥の厨房に運び、その電源を落とし、頭巾を外し、エプロンを解きながら、厨房から出てきた。
 「フゥ。終わったわ」
 腰に手を当て大きく息を吐くと、頭をプルンと振って、もつれた髪をほどいた。
 少し白いものが混じったショートヘアが、千里さんの顔の周りで揺れた。
 おじと同じ歳のはずだが、千里さんの姿とひとつひとつのしぐさは、女学生か――と思うほどシャープで、かわいかった。
 「沙世さん、おなかすいたでしょ? 何かおいしいものでもって言いたいところなんだけど、ここらへんだと、焼き肉とかファミレスぐらいしかないの。よかったら、私の部屋にいらっしゃらない? きょうはね、いい肉があるのよ」
 エッ……と思った。
 いきなり、お宅に招待してくれるの?
 私がドギマギしていると、千里さんがクスッと笑った。
 「と言っても、この上なんだけどね」
 ⇒続きを読む

 参考  この小説に出てくる楽曲と映画は、こちらから

本作品中に登場する曲「スカボロー・フェア」は、サイモンとガーファンクルの『パセリ・セージ・ローズマリー&タイム』に、「七つの水仙」はザ・ブラザーズ・フォーの『グレイティスト・ヒット』に収録。登場する映画『卒業』は、DVD版とBlue Ray版が販売されていて、いずれも、アマゾンより購入できます。興味のある方は、ぜひ、ご覧になってみてください。

      




管理人の本、スマホで好評配信中です。よろしければ、ぜひ!

モテ会話術25『男と女のモテ会話術』
2012年11月リリース
好評! App Storeで上位ランキング中!
iPhone、iPad、アンドロイド端末でダウンロードできます。
iPhone、iPadでご覧になりたい方は、こちら(iTuneダウンロードページ)から

13 あなたの感想をClick Please!(無制限、押し放題!)
管理人は、常に、下記3つの要素を満たすべく、知恵を絞って記事を書いています。
みなさんのポチ反応を見て、喜んだり、反省したり……の日々です。
今後の記事作成の参考としますので、正直な、しかし愛情ある感想ポチを、どうぞよろしくお願いいたします。


→この小説はテーマ・構成がいい(FC2 恋愛)
→この小説の描写・表現に感動する(にほんぶろぐ村 恋愛)
→この小説はストーリーが面白い(人気ブログランキング 恋愛)

 →この小説の目次に戻る       →トップメニューに戻る  

関連記事
拍手する

テーマ : 官能小説
ジャンル : アダルト

コメントの投稿

非公開コメント

ご訪問ありがとうございます
現在の閲覧者数:
Profile
プロフ画像《当ブログの管理人》
長住哲雄…独自の人間関係論を元に、数々の著書を刊行してきたエッセイスト&編集者。得意ジャンルは、恋愛論やコミュニケーション論。

    姉妹サイト    

《みなさんの投票で恋愛常識を作ります》
★投票!デート&Hの常識

《管理人の小説をこちで保管》
おとなの恋愛小説倶楽部

《シニア向けサイトも運営しています》
晩年clubロゴ

Since 2009.2.3

▼こちらの市民です。


アクセスランキング

管理人・長住哲雄の近著
  Kindle でお読みください〇〇

写真をクリックすると、詳細ページへ。

最新刊
長編小説

『妻は、おふたり様にひとりずつ』
2016年3月発売
虹BOOKS

3人に1人が結婚できなくなる
と言われる格差社会の片隅で、
2人の男と1人の女が出会い、
シェア生活を始めます。
愛を分かち合うその生活から
創り出される「地縁家族」とは?
定価:342円



シリーズ
マリアたちへ――Vol.2


『「聖少女」
6年2組の神隠し』

2015年7月発売
虹BOOKS

ビンタが支配する教室から
突然、姿を消した美少女。
40年後、その真実をボクは知る…。
定価:122円



シリーズ
マリアたちへ――Vol.1


『チャボの
ラブレター』

2014年10月発売
虹BOOKS

美しい養護教諭・チャボと、
中学生だった「ボク」の淡い恋物語です。
定価:122円

   全国有名書店で販売中〇〇〇

写真をクリックすると、詳細ページに。

新刊です!
『すぐ感情的に
なる人から
傷つけられない本』

2015年9月発売
こう書房
定価 1400円+税

あなたを取り巻く
「困った感情」の毒から
自分を守る知恵を網羅!



『これであなたも
「雑談」名人』


2014年4月発売
成美堂出版
定価 530円+税


あなたの「雑談」から
「5秒の沈黙」をなくす
雑談の秘訣を満載!



『モテる大人の
ほめルール』

2013年8月発売
こう書房
定価 1400円+税


人は、ホメてくれるあなたを
「好き」になる!
そんなホメ技術を満載!



男と女のモテ会話新1202000部増刷!
『男と女の
モテ会話術』

2012年7月発売
こう書房
定価 1400円+税

30秒で心を開かせ、
10分で好きにさせる心理マジック!

   スマホでも好評配信中!   
ダウンロード価格 100円
★iPhone、iPadでご覧になりたい方は、
⇒こちらのダウンロードページから



30秒でつかみ、
1分でウケる
『雑談の技術』


2007年6月 こう書房
定価 1300円+税


「あの人と話すと面白い」
と言われる
雑談のテクを網羅。

★オーディオブック(CD)も、
好評発売中です!




――など多数。
ランキング&検索サイト
    総合ランキング・検索     

FC2ブログ~恋愛(モテ)
にほんブログ村~恋愛観
にほんブログ村~恋愛小説(愛欲)
人気ブログランキング~恋愛



   ジャンル別ランキング&検索  

《Hな小説の検索サイトです》
正しいH小説の薦め正しいH小説の薦め


《Hな体験、画像などの検索サイト》
愛と官能の美学愛と官能の美学


《小説のジャンル別検索サイト》
オンライン小説ランキング★カテゴリー別
オンライン小説ranking


《あらゆる創作系サイトの検索に》
駄文同盟.com駄文同盟.com


《当ブログの成分・評価が確認できます》
blogram投票ボタン


おすすめ恋愛サイトです
いつも訪問している恋愛系ブログを、
独断でカテゴリーに分けてご紹介します。

悪魔
勉強になります
「愛」と「性」を
究めたいあなたに


《性を究める》
★カラダ開発研究ブログ
★性生活に必要なモノ
★男と女のエッチの秘密
★アラフォー女性のための夫婦性活なび
★セックスにまつわるエトセトラ
★飽きないセックスを極める
★真面目にワイ談~エロ親父の独り言
★彼女達との性ライフ
★恋する熟女



《性の不安に》
★自宅でチェック! 性病検査

《愛を究める》
★プライド
★セカンドバージン卒業まで

《男を磨く・女を磨く》
★かっこいい女への道
★予算15,000円でプレゼントする
本格ジュエリー「me.luxe」


女の子「男と女」はまるで劇場
いろいろな愛の形
その悦びと不安


《不倫》
★不倫ポータルネット
★幸せネル子の奔放自在な日々

《MとSの話》
★M顔で野生児だった私の半生

《国際結婚》
★アンビリーバブルなアメリカ人と日本人

《障害者とフーゾク》
★KAGEMUSYAの裏徒然日記

妻くすぐられます
カレと彼女の
ちょっとHな告白


★さくら夫婦のSEX記録
★嫁の体験リポート
★恵子&誠
★レス婚~なんだか寂しい結婚生活
★おしりちゃんの部屋
★木曜日のアモーレ New



女王写真&Hな告白
赤裸な姿を美しく
大胆に魅せてくれます


《美しい自分を見せて、読ませてくれます》
★Scandalous Lady
★みっち~の部屋

音楽女
ちょいエロなサイトです
他人の愛と性を
のぞき見


《Hな投稿集》
★人妻さとみの秘密の告白
★内緒の恋愛体験を告白


上記分類にご不満のブログ運営者さまは、管理人までご連絡ください。
創作系&日記系☆おすすめリンク
読むたびに笑ったり、感動したり、
勉強になったりするサイトです。

女の子ヘッドホン

読む悦び、見る愉しみを!
小説&エッセイ&写真

《官能小説》
萌木ケイの官能小説
ひとみの内緒話
riccia
★~艶月~
★妄想の座敷牢~紅殻格子の世界
★愛ラブYOU

《おとなのメルヘン&ラブストーリー》
★月夜の602号室
★小夜嵐
Precious Things

《ミステリー》
★コーヒーにスプーン一杯のミステリーを

《愛の詩・時代の詩》
★Poem Spice 久遠の詩
★罵詈雑言~本能ノ赴クママニ
★メランコリックノイローゼ

《書評・レヴュー・文芸批評》
★新人賞を取って作家になる
★頭おかしい認定ニャ
★読書と足跡
★緑に向かって New

《写真&詩、エッセイ、日記》
★中高年が止まらない New
★質素に生きる
★エッチなモノクローム
★JAPAN△TENT
★いろいろフォト

傘と女性ユーモアあふれるブログです
いつもクスリと
笑わせられます


《風刺効きまくりです》
★ねじを巻け、そして服を脱げ。
★ショートショート
 とりぶうの読むコント~宮古島

★The Door Into Summer

スクーター
社会派なあなたへ
政治のこと、社会のこと

《政治批評&社会批評》
★真実を探すブログ
★Everyone says I love you!



    素材をお借りしました     

★写真素材・足成
★無料画像素材のプロ・フォト
★カツのGIFアニメ
★無料イラスト配布サイトマンガトップ

上記分類にご不満のブログ運営者さまは、
管理人までご連絡ください。
にほんブログ村ランキング
にほんブログ村内の各種ランキング、 新着記事などを表示します。
アクセスランキング
リンク元別の1週間のアクセス・ランキング。

検索フォーム
QRコード
QR