ローズマリーの詩〈17〉 「路チュー」は、アフリカの砂の味

コーヒーと女「お帰りなさい」のキスは、
ちょっぴり、アフリカの砂の味がした。


5年ぶりに再会した聡史は、自信を失くしていた。
銃撃を受けて、恐怖に足がすくんだ自分を
責める彼に、私は、おじの言葉を受け売りした。
「プロでなくてもいいんじゃない」――と。



 小説/ローズマリーの詩 ――― 第17章 
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この話は連載17回目です。最初から読みたい方は⇒こちらから、
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ここまでのあらすじ 雨が降ると、離れのおじの部屋から聞こえてくる『スカボロー・フェア』という曲。その歌には、パセリとセージとローズマリーとタイム、4種のハーブが登場する。その日、おじが作った夕食には、その4種のハーブが使われていた。食事が終わると、おじは私に1枚のDVDを渡した。『卒業』という名の映画のDVDだった。そこに登場するベンジャミンとエレーンを、おじはもしかして、おじとおじのかつての恋人にダブらせているのだろうか? 私にもかつて、尊敬し、愛した男がいた。鳴尾聡史。アフリカで、飢えた子どもたちを救うボランティア活動に従事する男。しかし、私は、「一緒にアフリカに行かないか?」という彼の誘いに首を振った。勇気がなかったからだ。私は就職して、そこで巡り合った男がささやく「ふつうの幸せ」という言葉に揺らいだ。結婚の約束までしたが、しかし、彼が押し付けてくる「ふつうの幸せ」という形に耐えられなくなって、その結婚をドタキャンした。母に言わせれば、そんな私とおじは、「我が家の厄介者」だった。その厄介者のおじのところに、来客があった。「オウ、こないだ、彼女に会ったゾ」。その客が口にした言葉に、私は耳をそばだてた。おじたちに言わせると、私の鳴尾聡史は「青銅の騎士」なのだった。しかし、「騎士」としてその理想を追求する方法は、プロとして活動するばかりではない。プロにならなかった自分を責める必要はない、とおじたちは言った。おじの友人・尾崎さんの話だと、おじのかつての彼女は、草野駅の前でハーブ・パンを焼いて売っているという。私は、草野駅まで行ってみた。その人・真坂千里さんの店は「千の丘」といった。その店名は、『七つの水仙』という曲からとったという。そして、その歌をかつて彼女に歌って聞かせたのは、どうやら、おじらしかった。そんなある日、一通のエアメールが届いた。アフリカからだった。鳴尾聡史が内乱に巻き込まれて負傷し、帰国するという。会うべきか、会わざるべきか? 迷っている私をおじのひと言が後押しした。「命短し、恋せよ乙女かぁ。後悔するなよ、沙世ちゃん」。千里さんは、こう言った。「会って後悔するかもしれない。会わないと、もっと後悔するかもしれない。私だったら、会って後悔するほうを選ぶ」。では、もし、千里さんの昔の恋人が「会いたい」と言ってきたら? 千里さんの返事は、「もし許しくくれるなら…」だけだった。次の日、私は聡史に、「お会いしたい」とメールを打った。待ち合わせは新宿の書店。5年ぶりに会う聡史は、ひげだらけの顔で、いきなり私を抱きしめ、「王ろじ」のとんかつが食べたい、と言い出した――。




 「懐かしいなぁ、この味」
 ひげにソースをたらしながらとんかつをパクつく聡史の姿を、私は、ちょっとだけ、異邦人を見るような目で眺めていた。
 5年間の海外生活。飢えに苦しむ子どもたちを救うために、アフリカの大地を駆け回った日々が、聡史の風貌にコスモポリタンな魅力を付け加えているようにも見える。
 しかし、その目の光は、少しだけ弱々しくなったようにも見えた。
 たぶん、それは、聡史の脚を貫通した銃弾のせいだ――。
 目の前のとんかつを、次々に胃袋に放り込み、とん汁を最後の一滴まで飲み干して、「フゥ」と箸を置いた青銅の騎士は、壁に貼られたメニューの文字を虚ろな視線で追って、もう一度、「フゥ……」と、深い息を吐いた。
 「なぁ、沙世クン……」
 右手の甲を口元に当てて、聡史は、力のない声を出した。
 「オレ、もう……アフリカには、戻れないかもしれない」
 どう答えていいのかわからなかった。
 「ウン……」とだけ答えて、私は目を落とした。
 青銅の騎士は、もう騎士を止めようとしているのかもしれない――と思った。しかし、それを私の口からは言い出せなかった。
 「キミを誘っておきながら、情けないんだけどさぁ……」
 聡史は、慎重に言葉を選んでいるように見えた。
 「ちょっと……ビビってんだ、いま……」
 「先輩……」と、私は、思いきって口を開いた。
 「私、情けないなんて、全然、思ってないですよ」
 口ヒゲが、ちょっとだけ、ユルッ……と動いた。
 「なぐさめてくれなくていいんだよ」
 「なぐさめるなんてつもりは、全然、ないです。5年間も、ガンバってきた――というだけで、私にはマネのできないすごいことだって思ってますから……」
 「それでもなぁ……」
 騎士は、両手で頭を抱えるようにして、視線を宙に漂わせた。
 「銃弾が飛び交い始めた途端に、足が震えた。情けないくらい、震えた。そこに留まって、子どもたちを守らなくちゃ――って思いも、一瞬でどっかへ吹っ飛んで、無我夢中で駆け出してた。ああ~、これがオレの限界か……ってね。なんか、自分の底を見せられたような気がしてさ……」
 たぶん、自分でも同じ状態になっただろう。
 そもそも、アフリカに行くという決断さえできなかった自分なんだから、もっとひどいパニックに陥っていたかもしれない。
 そのときだった。不意に、おじたちの発した言葉が、頭の隅に浮かんだ。

 参考  この小説に出てくる楽曲と映画は、こちらから

本作品中に登場する曲「スカボロー・フェア」は、サイモンとガーファンクルの『パセリ・セージ・ローズマリー&タイム』に、「七つの水仙」はザ・ブラザーズ・フォーの『グレイティスト・ヒット』に収録。登場する映画『卒業』は、DVD版とBlue Ray版が販売されていて、いずれも、アマゾンより購入できます。興味のある方は、ぜひ、ご覧になってみてください。

      



        

 「あのね……」
 私は、きっと、どこかのカウンセラーのような口調になっていたのだと思う。
 聡史が、「何だよ?」という顔を私に向けた。
 「プロでなくてもいいんじゃないか――って」
 「エッ……?」
 「私のおじが言ってた……」
 「おじさん? キミの……?」
 「ウン。先輩のことを、『青銅の騎士』って言ったのよ、そのおじさん」
 「青銅……? 何だい、それ?」
 「おじたちが言ってたんだけど、たいていの若者には、思想とか理想とかが熱く語られる『青銅の時代』があるんだって。キミの先輩は、その『青銅の騎士』だったんだね――って言ってた」
 「そんな立派なもんじゃないと思うけどね。いまじゃもう、緑青だらけのただの銅クズ」
 「じゃないって言ってた。騎士は、プロとは限らない――って」
 聡史は、緑青だらけのあごヒゲを撫でながら、「フーン……」とうなった。
 「私が先輩の誘いに応えられなかった自分を責めるようなことを言ったときに、おじが言ってくれたんだけど、プロとしてその活動に従事することだけが、思想や理想に準じる方法じゃない。アマとして、ふつうに暮らしながら、それを持続し続けることのほうが大事――っていうこともあるんだよって」
 「それ、おじさんが言ってくれたの?」
 「ウン……。それを言われて、私は少し、気持ちがラクになった。先輩がいま抱えている問題とは、レベルが違うかもしれないけど……」
 「いや、そんなことはない。オレも、少し、気持ちがラクになった」
 言いながら、聡史は、グラスに残ったワインをグイと飲み干した。

        

 鳴尾聡史は、しばらく、国内での支援活動に専念すると言う。
 少なくとも、ケガが回復し、体にエネルギーがみなぎってくるまでは、海外に出てフィールド・ワークしようというパトスは、生まれて来ないだろう――と言う。
 どこかにそんな自分を責める気持ちがあったが、その気持ちが、「プロじゃなくてもいいではないか」という、おじ直伝の私のひと言で「救われた」と、聡史は言った。
 まんざら、私も捨てたものじゃない――と、私は思った。
 店を出ると、「久しぶりだ」という新宿の雑踏を、ふたりして歩いた。不自由な聡史の足のために、私の肩を貸して。
 街は、気の早いクリスマスの電飾で彩られ、そこここから、クリスマスのメロディが流れていた。
 「沙世クン、ひとつだけ訊いていいかい?」
 歩きながら、聡史が恐る恐るというふうに訊いてきた。
 「こうしてオレと会うことを、隠さなくてはいけない人が、いまのキミには……」
 「いないよ」
 「いいんだよ。5年も経ってるんだから、そういう人が現れたとしても、不思議じゃないし……」
 「現れたは現れたけど、別れたの」
 その人は、駅にたむろするホームレスを見て、「チッ」と舌を鳴らすような人だった。その瞬間に、「この人は違う」と思った。そのときに思い出したのは、子どもたちのためにアフリカの大地を駆け回る鳴尾聡史の姿だった。
 その話をすると、聡史は、「オレも買いかぶられたもんだ」と照れ笑いを浮かべた。
 駅まで着くと、「きょうはありがとう」と、青銅の騎士が手を差し伸べてきた。
 その手を握り返しながら、私は、その人の目を見つめた。
 その人も、私の目を見つめ返した。
 「お帰りなさいのあいさつ、まだだったね」
 私が、口を近づけると、異邦人のような聡史の顔が近づいてきた。
 口と口が触れ合った。
 ほんのちょっぴり、アフリカの砂の味がするようなキスだった。
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