第39夜☆「イモムシ化」する!? 人間の触覚
第39夜
「愛とは何か?」をめぐって、管理人・哲雄がパートナー・AKIを相手に展開する、オヤジ・ギャグ風+ちょっぴりアカデミックおしゃべり。前回は、「扁桃体」が受け取る触覚情報が、脳の中でどのように処理されるかを通して、「キレる脳」の仕組みを解き明かしたところ。今回は、いよいよ、その触覚を識別するセンサーの話へと踏み込んでいきます――。
AKI ど、どうしたんですか?
哲雄 むずかしいこと考えすぎて、肩がコリコリ。
AKI 肩でもおもみしましょうか?――と言わせたいんでしょうが、その手にはのりませんよ。
哲雄 相変わらず、ドライアイスな女だ。そんなことまではお願いしませんよ。ちょ……ちょっと、そこの湿布を。
AKI 湿布を貼ってほしいわけですか?
哲雄 背中の肩甲骨のあたりに、ハの字貼りに。ああ、そうです。ありがとう。キミの友情に感謝する。
AKI 友情だなんて、大げさな……。
哲雄 フレンド湿布。
AKI 私、笑わなくちゃいけませんか?
哲雄 いや、そうじゃなくて、きょうは、そのフレンドシップ……じゃない、スキンシップの話をしようかと。
AKI ややこしい前フリだわ。
哲雄 触覚情報は、まず扁桃体が受け取って、この接触が危険かどうかを判断すると話したよね。
AKI ハイ。危険と感じたら、即刻、運動野に指令を出して、相手を突き返したり、「チッ!」と言わせたりする、というお話でした。
哲雄 では、その扁桃体は、触覚情報をどんな基準で、安全と危険に分けているか?
AKI 強い信号だと危険、弱い信号だと安全?
哲雄 どの程度の強さだと危険? どの程度の弱さだと安全?
AKI それは……経験で判断するしかないんじゃないですか?
哲雄 そうなんです。経験で判断するしかない。かつて、こういう強さでぶたれて痛い目に遭った。じゃ、この信号に対しては回避行動を取ろう、というふうに判断を下したりするんだね。「PTSD」って言葉、聞いたことある?
AKI なにげに……。
哲雄 日本語でいうと、「心的外傷後ストレス障害」。ひどい暴力とかを受けた後に残る精神的後遺症のようなものなんだけど、そんな後遺症が残るのは、扁桃体に、その暴力の記憶が刷り込まれるからだと言われてる。
AKI じゃ、扁桃体って、危険情報の記憶装置みたいなものなんですね。
哲雄 危険情報だけじゃないよ。気持ちいい情報も保管される。つまり、ここは「快」と「不快」に関する情報の記憶装置だと思えばいいわけです。
AKI フーン、気持ちいいもねェ……。
哲雄 何ですか? その……二度と取り戻せない日々に思いを馳せるような、遠い視線は?
AKI 二度と取り戻せない日々なんて、私にはありませんッ! 哲ジイとは違うんです。
哲雄 てことは、きのうのエッチを思い出すような視線か……。
AKI ポッ……
なんて、ウソです。ただね、ちょっと、マッサージのお客さんに言われたことを思い出して……。
哲雄 ホォ。それはぜひ、お聞きしたいもんです。
AKI 哲ジイよりちょっと若いくらいのお客さんなんだけど、その人ね、子どもの頃から、ほとんどスキンシップのないような育てられ方をしたんだって。母親のほっぺの感触も、手をつないでくれる父親の感触も、まったく記憶にない……って。でね、人の手でさわってもらうのが、こんなに気持ちいいことだと知らなかったって、マッサージ受けながら、涙ぐんでるの。
哲雄 いや、実はね、私も、あんまりその記憶がない。というか、すぐ下の子が生まれたってこともあって、もの心がついてからというもの、母親も父親も、あんまりスキンシップしてくれてないんじゃないか、と思うんだ。
AKI だから……?
哲雄 だから……って、それはあんまりじゃございませんか。
AKI そのうち、現れますって。哲ジイのチキン・スキンみたいになった肌を、やさしく解きほぐしてくれる女性が……。お墓に入るまでにはね。
哲雄 「お墓」だけ余計です。だいいち、買わないし。
AKI エーッと、扁桃体には、そういう気持ちいい情報も記憶される――という話ですよね。
哲雄 ところが、その情報が、最近、きわめて粗くなってるような気がするんです。たとえば、「快」から「不快」へ向けて、ほんとうだと10段階ぐらいのレベルに分けて記憶されるべきところが、どうもこの人、5段階ぐらいしかないんじゃないかとか、ヘタすると、「快」と「不快」の2段階しかないんじゃないか……と思うような人だっている。
AKI ちょっと肩が触れただけで、キレたりする人もいるものね。
哲雄 電車の中で、手がちょっと背中に触れただけで、「キッ」と振り向くような女性もいる。
AKI それは、別の問題でしょ! 私がよく感じるのは、握手のヘタな女の子。握手って、しっかり相手の手を握ることだと思うんだけど、その手が脅えてる。
哲雄 痛さの程度もよくわからないから、ケンカになっても、その限度がわからない。
AKI つまり、触覚のレベルを学習できてないってことですよね。
哲雄 ウン。でも、その学習には、幼いうちの経験がものすごく大事だよね。「手塩にかける」って言葉があるでしょ?
AKI 「手打ちにする」じゃなくて?
哲雄 それは、そばかうどんか、お殿様。こっちはおにぎり。
AKI エッ!? おにぎり?
哲雄 ほんとに知らないんだ。あのネ、おにぎりって、手に塩をまぶしてごはんをのっけて、にぎっていくんだけど、その力加減がものすごく微妙なの。ごはんをつぶさないように、でも、ばらけないように、ギュッギュツと愛情を込めて握るんだよね。
AKI ヘーッ。私、いつも型に押して作ってるから、知らなかった。
哲雄 ぜんぜん、手塩にかけてないわけね。で、この力加減や愛情の込め方を、子育てにたとえて、「手塩にかけて育てる」というふうに言ったりするんだ。
AKI そう言えば、そんな言い方してるの、聞いたことがある。
哲雄 ところが、こういう微妙な力加減が、だんだん世の中から消えつつある。
AKI 両極端になってるってこと?
哲雄 ベタベタ触るか、虐待するか――極端に言うと、その2パターンしかないんじゃないか、と思うことだってある。体罰も消えたし……。
AKI 体罰はいらないでしょ?
哲雄 私は、そうは思わない。「いいか、哲雄。おまえをぶっている先生の手が、いちばん痛いんだぞ」と言いながら、半分、泣きそうな顔でビンタをくれた先生の手の感触とか、絶対に忘れないし、なぜ、そのとき自分がぶたれたのかも、一生、忘れない。そういう体罰をくれる先生、いま、いないでしょ?
AKI いたら、問題になっちゃうし……。
哲雄 でも、私は、それで学んだんだ。単にハラを立てて殴ってくる手の痛さと、教育のために殴る手の痛さは違うんだっていうことをね。「気持ちいい」だって同じだと思うよ。この手は、ただ、自分をモノにしたいために触れてきている手なのか、ご機嫌をとっているだけの手なのか、深い愛情から触れてきている手なのか――それくらいを感じ分ける能力は、ちゃんと経験を積めば、身につくと思うんだよね。
AKI それは、触覚がデジタル化しているということですね、哲ジイ。
哲雄 オーッ! 言いたいことを先に言われてしまった。そう。デジタル化してるの。オンかオフかのどちらかだけ。中間のトーンがものすごくラフになってしまってる。これじゃ、まるでイモムシだ。
AKI エーッ、イモムシ?
哲雄 イモムシってさ、強くさわろうが弱くさわろうが、反応が同じじゃない。さわったというだけで、体が縮こまってしまうよね。
AKI 知りません。あんまり、イモムシとつき合いがないんで。
哲雄 ま、AKIちゃんは、イモムシじゃないと信じたいんだけどね、私は……。
AKI いまは、イモムシ中ですッ!!
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AKI ややこしい前フリだわ。
哲雄 触覚情報は、まず扁桃体が受け取って、この接触が危険かどうかを判断すると話したよね。
AKI ハイ。危険と感じたら、即刻、運動野に指令を出して、相手を突き返したり、「チッ!」と言わせたりする、というお話でした。
哲雄 では、その扁桃体は、触覚情報をどんな基準で、安全と危険に分けているか?
AKI 強い信号だと危険、弱い信号だと安全?
哲雄 どの程度の強さだと危険? どの程度の弱さだと安全?
AKI それは……経験で判断するしかないんじゃないですか?
哲雄 そうなんです。経験で判断するしかない。かつて、こういう強さでぶたれて痛い目に遭った。じゃ、この信号に対しては回避行動を取ろう、というふうに判断を下したりするんだね。「PTSD」って言葉、聞いたことある?
AKI なにげに……。
哲雄 日本語でいうと、「心的外傷後ストレス障害」。ひどい暴力とかを受けた後に残る精神的後遺症のようなものなんだけど、そんな後遺症が残るのは、扁桃体に、その暴力の記憶が刷り込まれるからだと言われてる。
AKI じゃ、扁桃体って、危険情報の記憶装置みたいなものなんですね。
哲雄 危険情報だけじゃないよ。気持ちいい情報も保管される。つまり、ここは「快」と「不快」に関する情報の記憶装置だと思えばいいわけです。
AKI フーン、気持ちいいもねェ……。
哲雄 何ですか? その……二度と取り戻せない日々に思いを馳せるような、遠い視線は?
AKI 二度と取り戻せない日々なんて、私にはありませんッ! 哲ジイとは違うんです。
哲雄 てことは、きのうのエッチを思い出すような視線か……。
AKI ポッ……

哲雄 ホォ。それはぜひ、お聞きしたいもんです。
AKI 哲ジイよりちょっと若いくらいのお客さんなんだけど、その人ね、子どもの頃から、ほとんどスキンシップのないような育てられ方をしたんだって。母親のほっぺの感触も、手をつないでくれる父親の感触も、まったく記憶にない……って。でね、人の手でさわってもらうのが、こんなに気持ちいいことだと知らなかったって、マッサージ受けながら、涙ぐんでるの。
哲雄 いや、実はね、私も、あんまりその記憶がない。というか、すぐ下の子が生まれたってこともあって、もの心がついてからというもの、母親も父親も、あんまりスキンシップしてくれてないんじゃないか、と思うんだ。
AKI だから……?
哲雄 だから……って、それはあんまりじゃございませんか。
AKI そのうち、現れますって。哲ジイのチキン・スキンみたいになった肌を、やさしく解きほぐしてくれる女性が……。お墓に入るまでにはね。
哲雄 「お墓」だけ余計です。だいいち、買わないし。
AKI エーッと、扁桃体には、そういう気持ちいい情報も記憶される――という話ですよね。
哲雄 ところが、その情報が、最近、きわめて粗くなってるような気がするんです。たとえば、「快」から「不快」へ向けて、ほんとうだと10段階ぐらいのレベルに分けて記憶されるべきところが、どうもこの人、5段階ぐらいしかないんじゃないかとか、ヘタすると、「快」と「不快」の2段階しかないんじゃないか……と思うような人だっている。
AKI ちょっと肩が触れただけで、キレたりする人もいるものね。
哲雄 電車の中で、手がちょっと背中に触れただけで、「キッ」と振り向くような女性もいる。
AKI それは、別の問題でしょ! 私がよく感じるのは、握手のヘタな女の子。握手って、しっかり相手の手を握ることだと思うんだけど、その手が脅えてる。
哲雄 痛さの程度もよくわからないから、ケンカになっても、その限度がわからない。
AKI つまり、触覚のレベルを学習できてないってことですよね。
哲雄 ウン。でも、その学習には、幼いうちの経験がものすごく大事だよね。「手塩にかける」って言葉があるでしょ?
AKI 「手打ちにする」じゃなくて?
哲雄 それは、そばかうどんか、お殿様。こっちはおにぎり。
AKI エッ!? おにぎり?
哲雄 ほんとに知らないんだ。あのネ、おにぎりって、手に塩をまぶしてごはんをのっけて、にぎっていくんだけど、その力加減がものすごく微妙なの。ごはんをつぶさないように、でも、ばらけないように、ギュッギュツと愛情を込めて握るんだよね。
AKI ヘーッ。私、いつも型に押して作ってるから、知らなかった。
哲雄 ぜんぜん、手塩にかけてないわけね。で、この力加減や愛情の込め方を、子育てにたとえて、「手塩にかけて育てる」というふうに言ったりするんだ。
AKI そう言えば、そんな言い方してるの、聞いたことがある。
哲雄 ところが、こういう微妙な力加減が、だんだん世の中から消えつつある。
AKI 両極端になってるってこと?
哲雄 ベタベタ触るか、虐待するか――極端に言うと、その2パターンしかないんじゃないか、と思うことだってある。体罰も消えたし……。
AKI 体罰はいらないでしょ?
哲雄 私は、そうは思わない。「いいか、哲雄。おまえをぶっている先生の手が、いちばん痛いんだぞ」と言いながら、半分、泣きそうな顔でビンタをくれた先生の手の感触とか、絶対に忘れないし、なぜ、そのとき自分がぶたれたのかも、一生、忘れない。そういう体罰をくれる先生、いま、いないでしょ?
AKI いたら、問題になっちゃうし……。
哲雄 でも、私は、それで学んだんだ。単にハラを立てて殴ってくる手の痛さと、教育のために殴る手の痛さは違うんだっていうことをね。「気持ちいい」だって同じだと思うよ。この手は、ただ、自分をモノにしたいために触れてきている手なのか、ご機嫌をとっているだけの手なのか、深い愛情から触れてきている手なのか――それくらいを感じ分ける能力は、ちゃんと経験を積めば、身につくと思うんだよね。
AKI それは、触覚がデジタル化しているということですね、哲ジイ。
哲雄 オーッ! 言いたいことを先に言われてしまった。そう。デジタル化してるの。オンかオフかのどちらかだけ。中間のトーンがものすごくラフになってしまってる。これじゃ、まるでイモムシだ。
AKI エーッ、イモムシ?
哲雄 イモムシってさ、強くさわろうが弱くさわろうが、反応が同じじゃない。さわったというだけで、体が縮こまってしまうよね。
AKI 知りません。あんまり、イモムシとつき合いがないんで。
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